急性リンパ芽球性白血病(ALL)の染色体異常、予後、リスク分類

2020-05-22

成人急性リンパ芽球性白血病 染色体異常 頻度

 

急性リンパ芽球性白血病(ALL)(あるいはリンパ芽球性リンパ腫(LBL)の診断と同時に、染色体・遺伝子異常など今後の治療に影響を与える異常も確認が必要になります。

本項では予後に影響する染色体・遺伝子異常やその他の予後因子について解説します。またそれにもとづくリスク分類についても記載します。

これらの異常は、予後だけでなく治療方法決定にも重要になります。どうして高リスクの治療を行うのかということの根拠にもなります。

本項では臨床試験の予後解析結果を中心に参照しつつ解説しています。

 

急性リンパ芽球性白血病の染色体異常

急性リンパ芽球性白血病(ALL)の細胞は悪性腫瘍として発生する過程で、染色体・遺伝子異常を獲得する場合がしばしばあります。

これらの異常は正常な細胞では通常みられることはありません。

染色体異常を検出する検査はG-分染法という分裂する細胞の染色体を確認する方法を用います。骨髄液で通常は行いますが、分裂する腫瘍細胞が多く含まれていれば、血液でも生検組織でも可能です。

比較的よくみられる異常を検出するにはFISHPCRをもちいます。これらの検査では細胞が分裂している必要はありませんが、腫瘍細胞が多く含まれているほうが検出感度は高いです。

 

急性リンパ芽球性白血病では獲得する染色体・遺伝子異常はB細胞性とT細胞性で大きく異なりますが、急性リンパ芽球性白血病全体としての頻度は以下のようになります(Blood. 2014 Jul 10;124(2):251-8)。

成人急性リンパ芽球性白血病 染色体異常 頻度

染色体転座t(9;22)フィラデルフィア染色体と呼ばれる異常で、急性リンパ芽球性白血病では最も多くみられる異常で、およそ15~30%にみられ、B細胞性の急性リンパ芽球性白血病にみられます。

T細胞性ではまずみられません(Blood. 2010 Jan 14;115(2):206-14)。

PCR検査ではこの染色体転座t(9;22)には2種類存在することがわかっています(p190p210)。転座している場所がわずかに異なるためです。p190が80%, p210が20%くらいの割合ですが、まれに両方とも検出されることがあります(Blood. 2002 Mar 1;99(5):1536-43)。

染色体転座t(9;22)は高齢の症例ほど頻度が高くなります(Br J Haematol. 2012 May;157(4):463-71)。

 

11番染色体転座は、およそ6%にみられる異常です。この異常があると予後が悪いとされます。B細胞性の急性リンパ芽球性白血病にみられ、T細胞性ではまずみられません。

T細胞性では11番染色体の一部の欠失が約10%でみられます(Am J Clin Pathol. 1999 Apr;111(4):467-76)。

 

4つ以上の異常がみられる場合を「複雑核型」と言いますが、この異常は約10%にみられます。

B細胞性およびT細胞性急性リンパ芽球性白血病のおよそ20%ではG-分染法、FISHなどでも異常がみられません(Blood. 2014 Jul 10;124(2):251-8)。

 

染色体転座t(9;22)や11番染色体転座などがあると、予後や治療方法が変わる可能性があるので、必ず検査します。

 

急性リンパ芽球性白血病の予後因子

B細胞性T細胞性の急性リンパ芽球性白血病の予後はT細胞性のほうがわずかに良い傾向がありますが、長期的にはどちらもあまり大きく変わりません(Blood. 2009 Dec 10;114(25):5136-45)。

大規模な前向き臨床試験で、B細胞性とT細胞性の急性リンパ芽球性白血病の全生存期間を比較したところ、10年生存率はB細胞性で37%, T細胞性で43%であり、統計学的に有意な差はありませんでした(下図, p=0.07).

急性リンパ芽球性白血病 B vs T, OS

 

以前はフィラデルフィア染色体(BCR-ABL)の有無は明らかに予後に影響していました(Blood. 2002 Mar 1;99(5):1536-43, Blood. 2005 Dec 1;106(12):3760-7)。

大規模な前向きの臨床試験の参加者でBCR-ABL陽性例陰性例を比較したところ、完全寛解到達率は陰性例では84.6%であったのに対して、陽性例では68.5%と統計学的にも明らかに低い結果でした(p=0.01)。

3年での全生存率は陰性例では47%であったのに対して、陽性例では15%統計学的にも明らかにフィラデルフィア染色体陽性症例では低い結果でした(下図 p=0.0001)。

フィラデルフィア染色体 有無別全生存

この結果は別の大規模な前向きの臨床試験でも同様でした(Blood. 2005 Dec 1;106(12):3760-7)。5年での全生存率はフィラデルフィア染色体陰性例では41%であったのに対して、陽性例では25%でした(下図).

フィラデルフィア染色体 有無別全生存 MRC

染色体転座部位のわずかな違い(p190p210)による生存期間への影響については統計学的な有意差はありませんでした(下図 p=0.07).

フィラデルフィア染色体 p190 vs p210 全生存

ただし現在はチロシンキナーゼ阻害薬が登場したことにより、フィラデルフィア染色体を伴う急性リンパ芽球性白血病でも予後は改善しています

 

発症時の年齢は明らかな予後因子です。大規模な前向きの臨床試験の解析では30代、40代、50代と発症年齢が上昇するほど、全生存率は低下しました(下図 Blood. 2005 Dec 1;106(12):3760-7)。

急性リンパ芽球性白血病 年齢別 OS

若年と高齢では急性リンパ芽球性白血病の種類が変わってくると考えられます。55歳以上での発症は全生存率が大きく低下します(下図 Br J Haematol. 2012 May;157(4):463-71).

急性リンパ芽球性白血病 55歳 年齢別 OS

 

染色体転座t(4;11)があるとフィラデルフィア染色体陽性症例よりも予後が悪いことが指摘されています(下図 Cancer. 2009 May 15;115(10):2147-54)。

急性リンパ芽球性白血病 染色体別OS

 

診断時の白血球数(急性リンパ芽球性白血病細胞含む)が予後に影響することも大規模前向き臨床試験で指摘されています(Blood. 2005 Dec 1;106(12):3760-7, Blood. 2009 Dec 10;114(25):5136-45)。

B細胞性の場合は30000/μL, T細胞性の場合は100000/μLをこえていると全生存率に影響します。この白血球数だけで高リスクとされる場合があります。

 

急性リンパ芽球性白血病のリスク分類

上記の診断時の検査結果から高リスク・低リスクに分類し、その後の治療もリスクに応じて変わる可能性があります。

以下のいずれかに該当すると、診断時の時点で高リスクとして治療を行うことが多いです。

● フィラデルフィア染色体(BCR-ABL)陽性

● 染色体転座t(4;11)がある

● 診断時の白血球数が高い(B細胞性の場合は30000/μL, T細胞性の場合は100000/μL)

その他にも年齢、11番染色体転座、染色体転座t(1;19), CD20陰性、CD10陰性、中枢神経系浸潤、低倍数体、複雑核型、3倍数体なども治療方法によってはふくまれることがあります。

 

上記に加えて、実際の治療効果によって高リスク・低リスクをさらに追加することもあります。

例えば初回抗がん剤化学療法後に完全寛解に到達しなかった場合は予後不良です。

大規模前向きの臨床試験でフィラデルフィア染色体陰性症例を解析した結果、初回抗がん剤化学療法で完全寛解に到達した症例は、到達しなかった症例よりも圧倒的に予後が良好でした(下図 Blood. 2005 Dec 1;106(12):3760-7)

急性リンパ芽球性白血病の全生存 奏効別

初回化学療法1サイクルで完全寛解に到達せず、完全寛解に到達に2サイクル以上必要となる症例は臨床試験では高リスクとして治療することが多いです。

 

さらには、たとえ完全寛解に到達してもわずかな残存病変が検出されていると、無再発生存期間も全生存期間も残存病変が検出されない症例よりも悪化します。

前向きの臨床試験でフィラデルフィア染色体陰性の症例を対象にPCRを用いてわずかな残存病変(測定可能残存病変、微小残存病変, MRD)を確認したところ、PCRで検出された症例の予後は検出されない症例よりもはるかに悪い結果でした(下図 全生存 p<0.0001, Blood. 2012 Aug 30;120(9):1868-76)。

急性リンパ芽球性白血病 全生存 MRD別

この結果から、化学療法数サイクル終了時点で測定可能残存病変がある場合も高リスクに準じて治療することも検討が必要と言えます。

急性リンパ芽球性白血病の高リスク症例とされる場合は、同種造血幹細胞移植による治療を特に強く検討することになります。

 

次項では急性リンパ芽球性白血病の初回化学療法について解説します。

B-ALL Smear, Giemsa x400 2
フィラデルフィア染色体陰性の急性リンパ芽球性白血病の初回化学療法

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ALL Giemsa x400 2
フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ芽球性白血病の初回化学療法

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まとめ 急性リンパ芽球性白血病の染色体異常、予後、リスク分類

● 急性リンパ芽球性白血病ではフィラデルフィア染色体とも呼ばれる染色体転座t(9;22)が比較的多くみられます。11番染色体転座、複雑核型などもみられます。

● フィラデルフィア染色体(BCR-ABL)や染色体転座t(4;11)は明らかな予後不良因子となります。また診断時の年齢や白血球数も予後に影響します。

● これらの予後因子や実際の治療効果などから高リスク・低リスクに分類し、同種造血幹細胞移植など今後の治療を検討します。

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