再発・難治性急性リンパ芽球性白血病 TKIとCAR-T細胞療法

2020-06-27

CAR-T細胞療法 サイトカイン放出症候群への対応

 

再発・難治性急性リンパ芽球性白血病(ALL)フィラデルフィア染色体陽性の症例では、ダサチニブポナチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が治療の選択肢に入ります。

特定の再発・難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病の症例では、CAR-T細胞療法であるチサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア)が治療の選択肢となります。

 

本項では、これらの治療の実際の投与と注意点について記載しています。

再発・難治性急性リンパ芽球性白血病に対する治療とその医学的根拠については「急性リンパ芽球性白血病(ALL)の再発・難治性症例の予後と新規治療」をご覧ください。

ベスポンサビーリンサイトを用いた治療の実際の投与と注意点については「再発・難治性急性リンパ芽球性白血病(ALL) 新規抗体薬治療の実際の投与と注意点」をご覧ください。

 

CAR-T細胞療法サイトカイン放出症候群神経毒性など様々な有害事象が発生します。そのような有害事象に対する治療についても記載しています。CAR-T細胞療法中の管理については各国際学会から推奨された治療方法があります。

今後も急性リンパ芽球性白血病については毎年のように新しい治療や発見が予想されます。

 

再発・難治性急性リンパ芽球性白血病に対するダサチニブ内服

フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ芽球性白血病で、イマチニブ使用後の場合は、同じチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるダサチニブ(商品名:スプリセル)が治療の選択肢に入ります(Blood. 2007 Oct 1;110(7):2309-15)。

T315I変異がある場合はポナチニブ(商品名:アイクルシグ)を使用します。T315I変異がない症例ではポナチニブよりもダサチニブのほうが有害事象は少ないのでポナチニブでなくともよいでしょう。

 

同種造血幹細胞移植を予定していなければ、ダサチニブを開始したら有害事象や再発がない限り継続します。長期の内服になる場合もあります。

血球数が少ないため感染症に注意が必要です。好中球数が少ない状態での発熱を「発熱性好中球減少症」といい、直ちに点滴抗生剤の投与が必要です。およそ10%で起こります。

ダサチニブを使用中は下痢吐き気が比較的起こりやすいですが、重症化するのは約10%です。

 

ダサチニブは、胃薬と同時に内服しないように注意が必要です。胃薬が必要な場合は時間を空けて内服して下さい。

グレープフルーツ・グレープフルーツジュースも相性が悪いため摂取はできません。その他ポサコナゾールという抗真菌薬やセイヨウオトギリソウというサプリメントに含まれる成分も相性が悪いため摂取はできません。

 

ダサチニブの内服は1日1回でも1日2回でもよいのですが、飲みやすさから1日1回の内服がよいでしょう。有害事象は1日1回の方がやや少ないです(Am J Hematol. 2010 Mar;85(3):164-70)。

 

急性リンパ芽球性白血病に対してダサチニブを用いる場合は、最初の2か月間は血液検査を少なくとも毎週行います。効果や血球数の推移を確認します。

ダサチニブの使用中は、むくみやすくなります。咳や息苦しさなどが生じたらレントゲンで肺に胸水がたまっていないかどうか確認します。胸水は20~30%の症例で発生します。ダサチニブでは比較的頻度の高い副作用です。

ダサチニブにより皮疹が発生するときもありますが、重症化することはまれです。多くの場合はダサチニブ継続可能です。

血圧上昇や心電図異常などもありますので、定期的な確認が必要です。

まれに腫瘍崩壊症候群がおこることがあります。血液中の急性リンパ芽球性白血病細胞数が多い場合は大量輸液などが必要になります。

 

ダサチニブによる治療中でも急性リンパ芽球性白血病が悪化することがありえますので、奏効を慎重に確認しつつ継続していきます

一般に奏効期間はあまり長くはなく、無増悪生存期間の中央値は、およそ3~4か月程度です(下図 Am J Hematol. 2010 Mar;85(3):164-70)。

急性リンパ芽球性白血病 再発 ダサチニブ 無増悪生存期間

同種造血幹細胞移植などを予定している場合は、ダサチニブ開始時点で準備を進めていき、準備が出来次第治療を変更します。

 

再発・難治性急性リンパ芽球性白血病に対するポナチニブ内服

フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ芽球性白血病で、ダサチニブなどにも抵抗性、あるいはT315I変異がある場合などは、同じチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるポナチニブ(商品名:アイクルシグ)を使用します(N Engl J Med. 2013 Nov 7;369(19):1783-96)。

 

同種造血幹細胞移植を予定していなければ、ポナチニブも有害事象や再発がない限り継続します。長期の内服になる場合もあります。

急性リンパ芽球性白血病で使用するときは血球数が少ないため、感染症、発熱性好中球減少症に注意が必要です。発熱性好中球減少症はおよそ6%で起こります

 

ポナチニブは1日1回の内服です。肝機能障害がある場合は減量します。

ポナチニブの使用中にも肝機能障害が発生することがありますので、休薬や減量が場合によっては必要です。あまりにひどいと使用中止になります。

 

一般にポナチニブはイマチニブやダサチニブよりも有害事象が多く発生します

心筋梗塞脳梗塞を起こしたら即刻使用中止です。消化管穿孔を起こしても即刻使用中止です。

心不全がおきれば症状が落ち着くまでは休薬となります。

膵炎を起こしたら休薬もしくは中止となります。

これらの有害事象はまれですが、起きた場合生命に関わりますので要注意です。

 

急性リンパ芽球性白血病に対してポナチニブを用いる場合は、最初の3か月間は血液検査を少なくとも隔週で行います。効果や血球数の推移を確認します。心電図や血圧も定期的に確認します。

まれに腫瘍崩壊症候群がおこることがあります。血液中の急性リンパ芽球性白血病細胞数が多い場合は大量輸液などが必要になります。

ポナチニブの使用中は傷の治りが悪くなります。もし手術などが必要になった場合は、あらかじめ休薬し術後2週間以上してからの再開となります。

 

ポナチニブによる治療中でも急性リンパ芽球性白血病が悪化することがありえます。奏効を慎重に確認しつつ継続していきます

ポナチニブを使うような急性リンパ芽球性白血病は比較的治療抵抗性といえます。奏効期間もそれほど長くはありません(下図 全生存)。

急性リンパ芽球性白血病 再発 ポナチニブ 全生存期間

同種造血幹細胞移植などを予定している場合は、ポナチニブ開始時点で準備を進めていき、準備が出来次第治療を変更します。

 

再発・難治性急性リンパ芽球性白血病に対するチサゲンレクルユーセル

25歳以下の再発あるいは難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病で、2つ以上の治療方法を行っても不応・再発の症例では、CAR-T細胞療法であるチサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア)が治療の選択肢に入ります(N Engl J Med. 2018 Feb 1;378(5):439-448)。

チサゲンレクルユーセルによる治療が可能な施設は限られています製薬会社(ノバルティスファーマ)のウェブサイトをご確認ください。

提供体制にも限りがありますので、チサゲンレクルユーセルによる治療を検討している場合は、初回再発の時点で対応可能な施設に転院したほうがよいでしょう。2回目の再発や治療抵抗性となってからでは、おそらく時間が足りません。

 

チサゲンレクルユーセルの投与を行うには、まず「リンパ球採取」を行う必要があります。

リンパ球採取には数時間かかります。両腕の静脈に針を刺して、リンパ球を必要量採取します。1日で終了します。

リンパ球採取自体にはあまり有害事象は発生しません。

両腕でなく、中心静脈カテーテルを挿入して採取することは推奨しません。類似の処置に自家末梢血幹細胞採取という処置がありますが、中心静脈カテーテル挿入下での採取では死亡事故が日本国内でも複数発生しています。

極力、腕の静脈から採取することを推奨します。

 

採取したリンパ球は製薬会社の施設に搬送され、そこでCAR-T細胞に改変されます。およそ1か月でCAR-T細胞が戻ってきますが、その間に病勢が悪化しそうな場合は化学療法を行いつつ待ちます

CAR-T細胞が戻ってきたら、「リンパ球除去化学療法」を行います。

このリンパ球除去化学療法により、制御性T細胞を含むリンパ球を減少させ、投与後のCAR-T細胞の体内での増殖を促進するとされます。

リンパ球除去化学療法は、通常はシクロホスファミドフルダラビンにより行います。急性リンパ芽球性白血の場合はシクロホスファミドを2日間、フルダラビンを4日間投与します。

それぞれ投与量はそれほど多くはありません。リンパ球数を減少させることが目的の化学療法です。

通常はリンパ球除去化学療法を行いますが、開始前に白血球数が回復する見込みがない場合(1000/μL以上にならないとき)は、リンパ球除去化学療法は行わずにCAR-T細胞を投与します。

 

リンパ球除去化学療法から2日~14日後にチサゲンレクルユーセルを投与します。長く待つ理由は特にありませんので、リンパ球除去化学療法終了数日後に投与するのがよいでしょう。

チサゲンレクルユーセルは凍結された状態で搬送されてきます。

チサゲンレクルユーセル投与前にアセトアミノフェンや抗ヒスタミン薬を内服し、投与直前にチサゲンレクルユーセル解凍して投与します。

投与そのものは30分以内に終了します。投与量も多くないので通常は10分もかかりません。投与中に有害事象が発生することもまれです。

この際に特に注意することは、投与前に副腎皮質ステロイドを使用しないことです。副腎皮質ステロイドを用いるとCAR-T細胞が増殖できないおそれがあります。

腫瘍崩壊症候群がまれにおこります。投与時の腫瘍量が多い場合は輸液尿酸を低下させる薬剤を用います。

 

ここまでは急性リンパ芽球性白血病の状態が悪くない限りあまり大きな有害事象は発生しないでしょう。

チサゲンレクルユーセルを投与すると、CAR-T細胞が体内で増殖しますインターロイキンインターフェロンといった物質(サイトカイン)が体内で増え、それにともないCAR-T細胞も増殖していきます。

この際に高熱がでます。血圧が低下したり呼吸器症状がでたりするときもあります。これらは「サイトカイン放出症候群」と呼ばれます。

高熱は早ければ投与日の夜間から出始めます。およそ8割の症例でサイトカイン放出症候群がおこります。重症化する場合もあります。

血球数はあまり高くない状態で発熱しますので、「発熱性好中球減少症」として点滴抗生剤の投与も行われますが、多くの場合は「サイトカイン放出症候群」によるものです。

抗生剤だけでなく、アセトアミノフェン投与や輸液も行い、慎重に経過を観察します。このまま高熱だけがつづき、血圧や酸素投与を必要としない場合はそのまま72時間経過を見ていきます。

72時間以上たっても高熱が続く場合は、トシリズマブ(商品名:アクテムラ)を投与します(Haematologica. 2020 Jan 31;105(2):297-316)。

トシリズマブはサイトカインのひとつであるインターロイキン-6を阻害する薬剤です。関節リウマチなどの治療薬として使われています。炎症反応を抑制しますので、感染症のリスクがあがります。

 

高熱だけでなく、明らかな血圧低下酸素投与が必要な状態となれば、トシリズマブの投与を行います。

しばらくして症状が落ち着いてくればそのまま経過観察ですが、8時間たっても症状があまり変わらなければ追加のトシリズマブを投与します。

初回トシリズマブ投与後でも症状が悪化し血圧を上昇させる薬剤高用量酸素投与が必要になればデキサメタゾンという副腎皮質ステロイドも用います。集中治療室(ICU)に移動します。

注意することは、副腎皮質ステロイドの投与によりCAR-T細胞が減少してしまう可能性が十分にあることです。生命に影響する状態でない限りは副腎皮質ステロイドの投与は行ってはいけません(禁忌)

CAR-T細胞療法 サイトカイン放出症候群への対応

臨床試験では約半数の症例でICUに移動しました。ICUの滞在期間の中央値は7日でした。

 

サイトカイン放出症候群の定義や治療方法は臨床試験のたびに少しずつ改訂されています。

2020年に欧州骨髄移植学会(EBMT)などからCAR-T細胞療法の有害事象に対する治療方法についての推奨が出版されています(Haematologica. 2020 Jan 31;105(2):297-316)。

医学的根拠はまだ少ないため、今後もCAR-T細胞療法の有害事象の対策については改訂が続くでしょう。

 

CAR-T細胞療法に比較的起こりやすい有害事象として「神経毒性」があります。およそ4割で発生します(N Engl J Med. 2018 Feb 1;378(5):439-448)。

軽度であれば頭部MRIや脳波検査を行い、特に異常がなければ慎重に経過観察となります(下図 Haematologica. 2020 Jan 31;105(2):297-316)。

CAR-T細胞療法 神経毒性への対応

今いる場所が病院であることや、現在の年・月がわからなくなるようなら注意です。

サイトカイン放出症候群による高熱などがあれば、そのような症状の原因にもなりますので、トシリズマブを投与します。

解熱しても症状が続く場合は神経毒性です。デキサメタゾンという副腎皮質ステロイドの投与を開始します。3日間の投与です。途中けいれんを起こす可能性もあります。

簡単な物(時計・枕・机など)の名前が言えなくなるほどの重症な神経毒性は約10%に発生します。

昏睡などの重篤な神経毒性が発生するのはまれです。臨床試験では0%でした。

神経毒性の回復には少し時間がかかり、およそ1~3週間の経過です。臨床試験では回復までの中央値は10日でした。

 

そのほか、CAR-T細胞療法後4週間たっても血球数が低めのままであることが約3~4割でみられます。徐々に回復してくるのですが、G-CSF製剤の投与や輸血を行うことがあります。

CAR-T細胞療法後8週間以降はCAR-T細胞療法による有害事象はかなり少なくなります。

チサゲンレクルユーセル投与3か月時点で完全寛解到達率は81%と比較的高めですが、それでも急性リンパ芽球性白血病の再発はありえますので、奏効は注意深く確認していく必要があります

チサゲンレクルユーセルによるCAR-T細胞療法は、長期的な効果や有害事象についてはまだあまりはっきりしていません。さらなる臨床試験の結果が明らかになるまでは慎重に経過を見るために比較的頻度の高い通院になります。

 

まとめ 再発・難治性急性リンパ芽球性白血病 TKIとCAR-T細胞療法

● フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ芽球性白血病で、イマチニブ使用後の場合は、ダサチニブが治療の選択肢に入ります。感染症、発熱性好中球減少症、むくみ、胸水などに注意しつつ、奏効を確認ながら継続します。

● フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ芽球性白血病で、ダサチニブなどにも抵抗性、あるいはT315I変異がある場合などはポナチニブを使用します。ポナチニブはイマチニブやダサチニブよりも有害事象が多く発生します。感染症、発熱性好中球減少症、肝機能障害や心筋梗塞、脳梗塞、消化管穿孔、心不全、膵炎などに注意しつつ、奏効を確認ながら継続します。

● 25歳以下の再発あるいは難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病で、2つ以上の治療方法を行っても不応・再発の症例では、CAR-T細胞療法であるチサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア)が治療の選択肢に入ります。

● チサゲンレクルユーセルは投与前にリンパ球採取リンパ球除去化学療法を行います。投与後はサイトカイン放出症候群神経毒性などに注意して経過をみます。トシリズマブ副腎皮質ステロイドの投与が必要になる場合もあります。

参考文献

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Dasatinib induces rapid hematologic and cytogenetic responses in adult patients with Philadelphia chromosome positive acute lymphoblastic leukemia with resistance or intolerance to imatinib: interim results of a phase 2 study.
Blood. 2007 Oct 1;110(7):2309-15.

Lilly MB, Ottmann OG, Shah NP, et al.
Dasatinib 140 mg once daily versus 70 mg twice daily in patients with Ph-positive acute lymphoblastic leukemia who failed imatinib: Results from a phase 3 study.
Am J Hematol. 2010 Mar;85(3):164-70.

J E Cortes, D-W Kim, J Pinilla-Ibarz, et al.
A Phase 2 Trial of Ponatinib in Philadelphia Chromosome-Positive Leukemias
N Engl J Med. 2013 Nov 7;369(19):1783-96.

Shannon L Maude, Theodore W Laetsch, Jochen Buechner, et al.
Tisagenlecleucel in Children and Young Adults With B-Cell Lymphoblastic Leukemia
N Engl J Med. 2018 Feb 1;378(5):439-448.

Ibrahim Yakoub-Agha, Christian Chabannon, Peter Bader, et al.
Management of Adults and Children Undergoing Chimeric Antigen Receptor T-cell Therapy: Best Practice Recommendations of the European Society for Blood and Marrow Transplantation (EBMT) and the Joint Accreditation Committee of ISCT and EBMT (JACIE)
Haematologica. 2020 Jan 31;105(2):297-316.

 

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