急性骨髄性白血病(AML)の染色体異常と予後

MRC NCRI, 染色体別 全生存

急性骨髄性白血病(AML)の診断時には染色体異常の有無について検査を行います。

急性骨髄性白血病細胞の染色体異常には様々な種類がありますが、この結果によって治療方法や予後が異なってきます。染色体検査は急性骨髄性白血病ではとても重要な検査です。

本項では急性骨髄性白血病の染色体異常と予後の関連について解説します。

t(15;17)をもつ急性前骨髄球性白血病やt(8;21)、inv(16)/t(16;16)をもつ急性骨髄性白血病は、他の急性骨髄性白血病と比べて予後は良いとされています。

一方で複雑核型, -7, -5, del(5q)などの染色体異常を持つタイプは予後が悪いとされます。

本項でも医学文献を参照に解説していきます。

急性骨髄性白血病の診断については「急性骨髄性白血病(AML)の診断 診断基準と鑑別診断」をご覧ください。

急性骨髄性白血病の病型分類については「急性骨髄性白血病(AML)の2016年改訂WHO分類にもとづく病型分類」をご覧ください。

 

急性骨髄性白血病の染色体異常と予後分類

急性骨髄性白血病(AML)の症例では、染色体異常のタイプによって予後が異なることが昔から指摘されていました(Leukemia. 1988 Jul;2(7):403-12).

 

染色体というのは細胞の中にある遺伝情報を持った構造体です。遺伝子はこの中に含まれています。

染色体異常の検査では分裂している細胞の染色体を確認します。G分染法とも呼ばれます。

染色体は細胞分裂するときに顕微鏡で観察しやすいため、比較的分裂の早い急性骨髄性白血病では異常を検出しやすくなります。

正常な染色体(正常核型)は、女性の場合46, XX、男性の場合46, XYです。

急性骨髄性白血病細胞などの腫瘍細胞は正常の細胞と異なり、染色体構造に異常があることがよくあります。

 

 

大規模な臨床試験に参加した症例を対象に染色体異常のタイプ別の予後を解析した結果が1998年に出版されました(MRC AML 10試験, Blood. 1998 Oct 1;92(7):2322-33).

0~55歳の症例の解析結果です。

染色体異常がない症例は42%でした。残りの58%には何らかの染色体異常が確認されましたが、最も多いのはt(15;17)で、+8, t(8;21)がつづきました。

正常核型(染色体異常がない)の症例と比べて、全生存率が統計学的にも明らかに良好であったのは、t(15;17), t(8;21), inv(16)の3つの染色体のいずれかがある症例でした。

これらがある症例は当時の治療で5年生存率が60%を超えていました。

一方で、5つ以上の染色体異常(t(15;17), t(8;21), inv(16)を除く)、-7, -5, del(5q), 3qの異常のいずれかがある症例は全生存率が統計学的にも明らかに不良で、当時の治療では5年生存率が21%以下でした。

t(15;17), t(8;21), inv(16)を予後良好群とし、t(15;17), t(8;21), inv(16)を除く5つ以上の染色体異常、-7, -5, del(5q), 3q異常を予後不良群、それ以外を予後中間群と提唱されました。

この基準だと予後良好群は全体の23%で5年生存率は65%、予後中間群は全体の67%で5年生存率は41%, 予後不良群は全体の10%で5年生存率は14%でした(下図).

MRC AML 10, 染色体別 CR OS

MRC AML 10, 染色体別 全生存

なお、予後良好群といっても急性骨髄性白血病症例の中で比較的良好というだけで、実際に予後が良いとは必ずしも言えません。

 

同様の解析結果は別の臨床試験でも確認されています(Blood. 2000 Dec 15;96(13):4075-83)。

t(15;17), t(8;21), inv(16)の症例は比較的予後良好で、-7, -5, del(5q), 3q異常染色体異常が多い症例は予後不良でした.

上記のMRC AML 10試験の基準とはやや異なる染色体異常の基準でしたが、予後は予後良好群、中間群、不良群で全く異なりました(下図).

SWOG, 染色体別 全生存

 

急性骨髄性白血病では染色体異常によって予後が全く異なると言えます。

染色体異常のタイプは必須の検査です。別の項でも記載しますが、染色体異常のタイプによって治療方法も変わってきます。

 

急性骨髄性白血病の染色体異常と予後 改訂MRC予後分類

上記のMRC AML 10試験の染色体異常の基準を44歳以上の症例を対象とした臨床試験にあてはめた場合の予後について解析結果が2001年に出版されています(MRC AML 11試験, Blood. 2001 Sep 1;98(5):1312-20)

44~91歳の解析結果です。

染色体異常がない症例は48%でした。染色体異常で最も多いのはt(15;17), t(8;21), inv(16)を除く5つ以上の染色体異常でした。次に+8, -7, del(5q)が続きました。若年者とは異なります。

 

t(15;17), t(8;21), inv(16)のいずれかがある予後良好群は全体のわずか7%で5年生存率は34%でした。

予後中間群は全体の73%で5年生存率は13%, 予後不良群は全体の20%で5年生存率は2%でした(下図).

MRC AML 11, 染色体別 全生存

若年者とは予後良好・中間・不良の染色体異常の割合が異なり、またたとえ予後良好群でも若年者とは全く予後が異なります。良好とは言い難いです。

 

 

臨床試験の解析結果によって予後良好群、中間群、不良群の基準が異なります。

正常核型と比較して予後が異なる染色体異常を統計学的にみつけていくのですが、臨床試験ごとに少し違う結果がでていました。

たとえば2002年に臨床試験の染色体異常と予後に関する解析結果が出版されています(CALGB 8461試験, Blood. 2002 Dec 15;100(13):4325-36).

15~86歳の症例の解析結果です(t(15;17)の症例は除外されています).

正常核型と比べ生存率が統計学的にも明らかに良好であったのは、t(8;21), inv(16)/t(16;16), del (9q)のいずれかがある症例でした。

同様に生存率が不良であったのは、3つ以上の染色体異常, inv(3)/t(3;3), t(6;9), t(6;11), -7, +8, t(11;19)でした。MRC AML 10の結果とは異なります

CALGBの基準での予後も予後良好群、中間群、不良群で全く異なりました(下図).

CALGB 8461, 染色体別 全生存

 

そこで染色体異常について症例数を多くして解析が行われました。

2010年に複数の大規模臨床試験に参加した症例を対象に染色体異常と予後について解析を行った研究結果が出版されました(Blood. 2010 Jul 22;116(3):354-65)。

16歳から59歳までおよそ6000症例を対象としたかなりの規模の研究でした。

正常核型(染色体異常なし)の症例は41%でした。

染色体異常で最も多いのはt(15;17)でした(13%)。+8などがそれに続きます。

この研究でも正常核型と各染色体異常の症例の予後を多変量解析しています。正常核型の症例は初回寛解導入療法での完全寛解率は90%10年生存率は38%でした。

正常核型と比較して生存率が有意に良好であったのは、t(15;17), t(8;21), inv(16)/t(16;16)で、予後良好群とされました。

正常核型と比較して生存率が有意に不良であったのは、t(15;17), t(8;21), inv(16)を除く4つ以上の染色体異常、-7, -5, del(5q), 3q異常のほかにもinv(3)/t(3;3), t(6;11)など数は大きく増え、予後不良群とされました(下図)。

MRC NCRI, 染色体別 全生存

それ以外を予後中間群とし、これらの染色体異常による予後良好群、中間群、不良群への分類は「改訂MRC予後分類」とされました(下図).

Revised MRC prognostic classification

MRCとは、イギリスのMedical Research Councilの略です。医学研究を支援する公共組織です。

当時の治療での10年生存率は予後良好群では69%, 予後中間群では33%, 予後不良群では12%でした。

 

染色体異常による全生存率の解析は、「改訂MRC予後分類」が現在までほぼ完成形のようになっています。

すでにこの当時には染色体異常だけでなく、正常核型であっても遺伝子異常により予後が大きく異なることがわかってきていたためです。

 

急性骨髄性白血病 モノソミーと予後

染色体異常については、「モノソミー」にも注意が必要です。明らかに予後に影響するためです。

「モノソミー」とは-7や-5といった、本来2 本のペアである常染色体のうち1本が欠失していることです。

7番染色体2本のうち1本が欠失しているとモノソミー7 (-7)となります。

急性骨髄性白血病細胞の染色体異常でよくみられるモノソミーは-7ですが、複数のモノソミーがみられることもあります。複数のモノソミーがある場合は特に予後が悪いです。

 

2008年に急性骨髄性白血病のモノソミーと予後について臨床試験参加症例の解析をした研究の結果が出版されています(J Clin Oncol. 2008 Oct 10;26(29):4791-7).

この研究では15~60歳の急性骨髄性白血病症例を対象にしました。

正常核型の症例の4年生存率が41%であったのに対して、モノソミーが1つみられた症例では4年生存率は12%となり、2つ以上みられた症例では4年生存率は3%となりました(下図)。

AML モノソミー 全生存率

モノソミーがあると予後は統計学的にも明らかに低下しています。複数では予後は特に悪い結果です。

 

別の臨床試験でも同様にモノソミーが増えると予後が悪い結果であることが報告されています(下図, Blood. 2010 Sep 30;116(13):2224-8).

AML SWOG モノソミー 全生存率

モノソミーが複数ある症例のほとんどは染色体異常の予後不良群に分類されますが、この研究ではモノソミーの症例が予後不良群の中でも特に悪いことが指摘されました。

急性骨髄性白血病の染色体異常では、モノソミーとその数についても確認することが予後には重要と言えます。

 

以上より急性骨髄性白血病では、白血病細胞の染色体異常が予後に大きく影響するため、染色体異常の検査は必須項目となっています。

そして現在は染色体異常だけでなく遺伝子変異も含めたリスク層別化が行われており、治療方法もリスクによって異なります。

 

次項では急性骨髄性白血病の遺伝子変異と予後について解説します。

 

まとめ 急性骨髄性白血病の染色体異常と予後

急性骨髄性白血病では染色体異常のタイプによって予後が全く異なります。年齢によって予後良好・中間・不良の染色体異常の割合も予後も異なります。

「改訂MRC予後分類」ではt(15;17), t(8;21), inv(16)/t(16;16)を予後良好群とし、t(15;17), t(8;21), inv(16)を除く4つ以上の染色体異常、-7, -5, del(5q), 3q異常のほかにもinv(3)/t(3;3), t(6;11)などを予後不良群としています。

「モノソミー」も予後に影響します。複数のモノソミーがある場合は特に予後が悪いです。さらにモノソミーの症例が予後不良群の中でも特に悪いことが指摘されています。

参考文献

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Leukemia. 1988 Jul;2(7):403-12.

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Karyotypic analysis predicts outcome of preremission and postremission therapy in adult acute myeloid leukemia: a Southwest Oncology Group/Eastern Cooperative Oncology Group Study
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D Grimwade, H Walker, G Harrison, et al.
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Blood. 2001 Sep 1;98(5):1312-20.

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Pretreatment cytogenetic abnormalities are predictive of induction success, cumulative incidence of relapse, and overall survival in adult patients with de novo acute myeloid leukemia: results from Cancer and Leukemia Group B (CALGB 8461).
Blood. 2002 Dec 15;100(13):4325-36.

David Grimwade, Robert K Hills, Anthony V Moorman, et al.
Refinement of cytogenetic classification in acute myeloid leukemia: determination of prognostic significance of rare recurring chromosomal abnormalities among 5876 younger adult patients treated in the United Kingdom Medical Research Council trials
Blood. 2010 Jul 22;116(3):354-65.

Dimitri A Breems, Wim L J Van Putten, Georgine E De Greef, et al.
Monosomal karyotype in acute myeloid leukemia: a better indicator of poor prognosis than a complex karyotype
J Clin Oncol. 2008 Oct 10;26(29):4791-7.

Bruno C Medeiros, Megan Othus, Min Fang, et al.
Prognostic impact of monosomal karyotype in young adult and elderly acute myeloid leukemia: the Southwest Oncology Group (SWOG) experience
Blood. 2010 Sep 30;116(13):2224-8.

 

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