急性前骨髄球性白血病(APL) 寛解導入療法の実際と治療効果判定

2019-09-11

 

トレチノインカプセル

 

急性前骨髄球性白血病と診断されたら寛解導入療法を行います。

本項では実際の寛解導入療法の投与とそのときの注意点について解説します。どのような寛解導入療法がよいのかについては、「急性前骨髄球性白血病(APL)の寛解導入療法」で解説していますのでご覧ください。

寛解導入療法により90%以上の症例で完全寛解に到達します。寛解導入療法の目標はこの完全寛解とよばれる状態です。

急性前骨髄球性白血病で最も生命に関わる時期でもあり、白血病の治療薬だけでなくほかにもいろいろな医療が行われますが、これらもまた生存率を上昇させる重要な治療といます。

本項では完全寛解と判定するための国際基準と必要な検査についても解説します。

合併症を極力起こさず、全身状態を維持したまま完全寛解を目指しましょう。

急性前骨髄球性白血病の寛解導入療法 投与開始から2週間

遺伝子検査の結果がでて、急性前骨髄球性白血病の確定診断となったら、その日の夕方もしくは翌日には結果説明が行われます。

トレチノイン(商品名:ベサノイド)の内服を開始している時点でおおよそのことはすでに聞いているかもしれません。

そして結果説明の翌日には寛解導入療法が開始となるでしょう。

目標は完全寛解到達です。

入院から完全寛解までの間は、寛解導入療法だけでなく全身状態管理もまた、生存率や合併症に影響します。

寛解導入療法中の全身管理についての推奨が世界中の急性前骨髄球性白血病に詳しい医師のコンセンサスとして発表されています(Blood. 2009 Feb 26;113(9):1875-91.  Blood. 2019 Apr 11;133(15):1630-1643.)。本項ではこれにそって解説していきます。

Management of APL ELN

 

まずは感染症です。寛解導入療法中はほぼ全例でどこかのタイミングで感染症をおこします。

場合によっては寛解導入療法開始前にすでに発熱しているかもしれません。

診断時には正常な白血球はほとんど存在せず、感染症に非常に弱い状態です。この状態での感染は生命に大きくかかわります。

発熱している場合は点滴抗生剤を、発熱していなくても抗生剤を感染症の予防として内服します。個室からでないように言われるかもしれません。

 

輸血はほぼ全症例で必要です。入院の時点で必要な場合が多いです。

特に血小板の輸血は、通常の輸血基準よりも高めに維持します。血小板は30000/μLを維持しましょう。

赤血球輸血も必要になります。新鮮凍結血漿といって、血液中の凝固成分の輸血を行うこともあります。

急性前骨髄球性白血病発症時は非常に出血しやすいため、首や胸などからの中心静脈カテーテルの留置は強く推奨されません腕に点滴用のカテーテルを留置します。2本以上留置することもあります。

出血と感染症が急性前骨髄球性白血病の生命に関わる合併症として多いです。最初のうちは採血はほぼ毎日です。安定してきたら頻度は徐々に下がります。

 

 

「トレチノインと三酸化二ヒ素」で治療をする場合は、完全寛解に到達するまで毎日両薬剤を投与します。

トレチノインは朝夕の2回内服三酸化二ヒ素(商品名:トリセノックス)1日1回点滴です。

トレチノイン内服により頭痛、皮膚の発赤、唇があれることがよくあります。あまりに頭痛がひどい場合は一時休薬となります。

三酸化二ヒ素では副作用を自覚することは少ないですが、心電図でQT延長という異常がみられることがあるため、心電図検査を少なくとも週1回行います。QT延長がおこるとまれに致死的な不整脈につながるためです。

血中の電解質が乱れているとQT延長がおこりやすくなるため、頻回のチェックと必要に応じて内服・点滴で補正を行います。カリウムは4 mEq/L, マグネシウムは1.8 mg/dLを維持します。

QT延長を起こしやすくなる薬剤が多く存在するため、そのような影響のある薬剤はできる限り中止します。

非常にまれですが、三酸化二ヒ素により脳症をおこすことがあります。チアミンというビタミンが不足していることが関連する場合がありますので、栄養状態とチアミン不足には注意が必要になります。

トレチノインと三酸化二ヒ素は、肝障害を起こすことがあります。採血で肝障害が強く起こった場合は一時休薬です。

トレチノインは脂質異常を悪化させるときがあります。もともとそのような疾患がある場合は、コレステロールなどの確認を行います。

 

トレチノインや三酸化二ヒ素が効いてくると急性前骨髄球性白血病の細胞が成熟白血球に似た細胞に変化し血液中に増加します。

下図は「トレチノインと三酸化二ヒ素」で治療を開始した時の例です。

トレチノインと三酸化二ヒ素で治療を開始した時の例

増えてきている成熟白血球に似たものは、腫瘍細胞であり、正常な白血球ではありませんので、感染症に対する働きにはあまり期待はできません

白血球数が増えすぎる場合は、ヒドロキシカルバミド(ヒドロキシウレア)を内服し白血球数を下げることがあります。

また、この過程で「分化症候群」というものが4人に1人くらいにおこります。「分化症候群」では投与開始して7日~12日くらいで発熱・体重増加・呼吸困難感などが見られます。ステロイド投与によりほとんどの場合、数日以内に改善します。

寛解導入療法中は約1ヶ月間完全寛解に到達するまで投薬し続けますが、一時休薬することはあっても、永久に内服中止になることはまれです。

 

 

アントラサイクリン系とシタラビンを使用する場合は分化症候群は起こりにくくなります

抗がん剤投与により、急速に白血病細胞が壊れていき、増えてくる成熟白血球に似た細胞も少なくなります。

下図は「トレチノインとアントラサイクリン系とシタラビン」で治療した時の例です。

トレチノインとアントラサイクリン系とシタラビンで治療した時の例

あまりにも急速に白血病細胞が壊れるため「腫瘍崩壊症候群」という現象が起こります。

白血病細胞崩壊により、白血病細胞の中の物質が一気に血液中に混ざり、カリウムやリン、尿酸の血中濃度が急激に上昇します。そのままだと致死的な不整脈や腎不全になってしまいます。

腫瘍崩壊症候群を予防するために、大量の点滴(1日約4から5リットル)を投与し、白血病細胞崩壊によって生じる物質を希釈および尿として排泄させます。

数日間は夜間も含めて1日に何度もトイレに行くことになります。

尿酸上昇を防ぐ薬も使用します。

アントラサイクリン系は「ダウノルビシン」が最も有効性の報告が多く、通常3~4日投与します。赤い点滴です。シタラビンは24時間×7日の持続点滴注射です。

 

寛解導入療法を開始して2週間くらいすると、全身状態はかなり安定してきます。

ここまでが最も大変な時期です。ただし2週間たっても正常な血球はまだ回復してきません

 

急性前骨髄球性白血病の寛解導入療法 開始2週間後から寛解まで

アントラサイクリン系とシタラビンを使用している場合は、このあたりで脱毛しはじめます。

ばっさり抜けますので、心の準備をしておいてください。

三酸化二ヒ素+トレチノインの場合は通常は脱毛しません。

 

正常な血球はまだ回復していませんので、このあたりでよく別の感染症が起こります。

再度発熱がみられ、抗生剤の追加が行われます。真菌やその他の一般細菌による感染であることが多いです。

個室からはまだ出られません。

 

寛解導入療法開始から4週間くらいで白血球・血小板が戻り始めてきます。白血球が戻り始めてくるときにも、発熱する場合があります。このときは感染症はかぎりません。正常な血球が回復するときにおこる反応である可能性があります。

 

血球数が戻り始めた段階ではまだ治療効果判定の検査は行いません。白血球の中の好中球が1000/μL、かつ血小板が100000/μLくらいになるまで待ってください。

早すぎる段階で検査しても、完全寛解とは言えません。

十分に回復するのに寛解導入療法開始から平均でおよそ5週間かかります。

 

急性前骨髄球性白血病の初回効果判定 完全寛解の国際基準

Diagnosis and management of AML in adults

寛解導入療法の効果判定は白血球の中の好中球が1000/μL、かつ血小板が100000/μLくらいで行います。

完全寛解の基準は国際基準を用います。2020年12月時点で最新のものは2017年ELN基準です(Blood. 2017 Jan 26;129(4):424-447).

 

完全寛解の基準は以下のすべてを満たすことです。

・好中球が1000/μL以上

・血小板が100000/μL以上

・骨髄液の塗抹標本で骨髄芽球とよばれる幼若な細胞が5%未満

・採血検査で血液中に白血病細胞(アウエル小体を持つ細胞)がない

・採血検査で血液中に骨髄芽球がない

・骨髄以外にも白血病細胞の腫瘤がない

完全寛解を確認するためには骨髄検査をまた行う必要があります。

この時点ではPML-RARAという急性前骨髄球性白血病の遺伝子異常は消えている必要はありません

遺伝子異常は極微小な白血病細胞があれば検出されますが、寛解後療法でこの極微小な白血病細胞もなくしていきます。

 

骨髄検査の結果が出るのに1~2週間かかります。結果を待っている間は一時退院できます。急性前骨髄球性白血病の場合は、上記の治療によりここまでたどり着いたのであればほぼ全例で完全寛解に到達しています

およそ10~14日後には再入院して、寛解後療法に進んでいきます。

寛解後療法については次項以降で解説します。

 

まとめ 急性前骨髄球性白血病の寛解導入療法の実際と治療効果判定

● 寛解導入療法中は感染症、出血、分化症候群、腫瘍崩壊症候群などに対して十分な管理が必要です

● 寛解導入療法中は何度も発熱します。感染症も繰り返し起こります。

● 完全寛解の基準は国際基準であるELN基準を用います。骨髄検査が再度必要です。

参考文献

Sanz MA, Grimwade D, Tallman MS, et al.
Management of acute promyelocytic leukemia: recommendations from an expert panel on behalf of the European LeukemiaNet. Blood. 2009 Feb 26;113(9):1875-91.

Sanz MA, Fenaux P, Tallman MS, et al.
Management of acute promyelocytic leukemia: updated recommendations from an expert panel of the European LeukemiaNet. Blood. 2019 Apr 11;133(15):1630-1643.

Döhner H, Estey E, Grimwade D, et al.
Diagnosis and management of AML in adults: 2017 ELN recommendations from an international expert panel.
Blood. 2017 Jan 26;129(4):424-447.

 

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