急性前骨髄球性白血病(APL)の寛解導入療法

2019-09-10

急性前骨髄球性白血病 塗抹標本 弱拡大

 

急性前骨髄球性白血病と確定診断されたら本格的な治療を開始します。

最初の治療は正常な血球の回復と骨髄検査で形態を見る限り白血病細胞が見当たらない状態(完全寛解)を目標とします。この最初の治療を寛解導入療法といいます。

 

寛解導入療法は急性前骨髄球性白血病の治療で最も重要なものです。本項では寛解導入療法がどのような治療なのか、最もよい寛解導入療法は何かについて解説します。

 

血液疾患の治療は年々より良い治療が開発されており、10年前・20年前の治療とは効き目が全く違います改善が進む最新の治療について、最新の文献やガイドラインを用いて解説します。

急性前骨髄球性白血病の寛解導入療法ついて理解してもらい、治療の際の参考にしていただければと思います。

急性前骨髄球性白血病の寛解導入療法 トレチノインと抗がん剤治療

確定診断の時点でほとんどの場合、トレチノイン (商品名 ベサノイド) の内服をすでに始めているでしょう。

この特効薬とされるトレチノインの効果を証明した大規模ランダム化臨床試験の結果が1997年に発表されています(N Engl J Med. 1997 Oct 9;337(15):1021-8)。

この臨床試験では通常の急性骨髄性白血病の寛解導入療法(抗がん剤治療)もしくはトレチノインでランダムに振り分け治療効果を比較しました。

完全寛解に到達した症例は両群とも約70%で統計学的な差はありませんでした(p=0.56)。

しかしながら、完全寛解に到達後に再発なく生存している期間は、トレチノイン群のほうが統計学的にも明らかに良好でした(下図)。

急性前骨髄球性白血病 CT vs ATRA DFS

最も重要な全生存率も改善させました

3年全生存率は通常抗がん剤治療で50%、トレチノインで67%でした。この全生存期間の改善は統計学的にも明らかなものでした(下図 p=0.003).

急性前骨髄球性白血病 トレチノイン OS

トレチノインの登場により急性前骨髄球性白血病の治療成績は、他の通常の急性骨髄性白血病よりもよくなりました。

トレチノインはビタミンAの誘導体ですが、急性前骨髄球性白血病の細胞を成熟白血球に近づけていく作用があります。通常の抗がん剤とは全く異なる作用です。

 

トレチノインの内服を抗がん剤治療と同時に行うべきか、それともずらして行うべきかについて、大規模ランダム化臨床試験が行われました。1999年に結果が報告されました(Blood. 1999 Aug 15;94(4):1192-200).

この臨床試験では、トレチノイン内服し完全寛解に到達してから抗がん剤化学療法を行う群トレチノインと抗がん剤化学療法を併用する群で比較しました。

完全寛解に到達した割合は両群とも90%以上でした。

完全寛解に到達し再発なく生存している割合は10年の長期報告の結果、トレチノイン→化学療法群で64.4%、トレチノイン+化学療法群で76.3%と、統計学的にも明らかにトレチノイン+化学療法群のほうが良好でした(下図、p=0.019, Blood. 2010 Mar 4;115(9):1690-6).

急性前骨髄球性白血病 ATRA→CT vs ATRA+CT, EFS

全生存期間は10年時点でどちらも80%以上でした。有意な差はみられていません(下図)。

急性前骨髄球性白血病 ATRA→CT vs ATRA+CT, OS

通常抗がん剤+トレチノインによる治療は良好な成績であると言えます。

トレチノインを通常抗がん剤に追加すると治療効果が大きく改善したため、通常の抗がん剤を減量する方法が模索されました。

通常の抗がん剤治療は急性骨髄性白血病と同様に、「アントラサイクリン系」「シタラビン」の2種類です。

ヨーロッパで行われた大規模ランダム化臨床試験の結果が2006年に報告されました (J Clin Oncol. 2006 Dec 20;24(36):5703-10).

この臨床試験では「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」「トレチノイン+アントラサイクリン」を比較しました。

その結果、シタラビンをなくしてしまうと、生存率は大きく悪化しました。

完全寛解に到達し再発なく生存している割合は2年の時点で「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」で93.3%、「トレチノイン+アントラサイクリン」で77.2%となり、統計学的にも明らかな悪化でした(下図、p=0.0021).

急性前骨髄球性白血病 AraC vs no AraC, EFS

2年の全生存率は「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」で97.9%、「トレチノイン+アントラサイクリン」で89.6%となり、生存も統計学的に明らかな悪化でした(下図、p=0.0066).

急性前骨髄球性白血病 AraC vs no AraC, OS

 

トレチノインと、抗がん剤を併用する場合は、「アントラサイクリン系」「シタラビン」の2種類で行ったほうが治療効果は高いと考えられます。

「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」による治療で完全寛解率は約90%です。

2012年くらいまではこれが最も良い寛解導入療法でした。

 

急性前骨髄球性白血病のリスク分類とトレチノインと三酸化二ヒ素による治療

急性前骨髄球性白血病 リスク分類

上の図は急性前骨髄球性白血病のある臨床試験(Blood. 2000 Aug 15;96(4):1247-53)の結果です。

同じ疾患でも診断時の白血球が高いほど再発しやすいことを示しています。診断時の白血球の違いだけで再発率は4倍くらい違います。

この結果は2000年に出版され、これ以降は診断時の白血球数でリスク分類をしてから臨床試験を行うようになりました。

急性前骨髄球性白血病の約75%は白血球10000以下低リスクとされます。白血球が10000をこえる高リスクとされ、比較的高めの再発率が予想されます。

 

三酸化二ヒ素は毒物であるヒ素の酸化物です。

この三酸化二ヒ素が急性前骨髄球性白血病に有効であるという研究が進んでいました。三酸化二ヒ素はトレチノインとは少し違う機序で急性前骨髄球性白血病の細胞を成熟白血球に近づけていきます。

商品名はトリセノックスです。

 

低リスク(白血球10000未満)の急性前骨髄球性白血病症例を対象とした大規模ランダム化臨床試験の結果が2013年に報告されました(N Engl J Med. 2013 Jul 11;369(2):111-21)。その長期報告が2017年に報告されました(J Clin Oncol. 2017 Feb 20;35(6):605-612)。

「トレチノイン+アントラサイクリン」「トレチノイン+三酸化二ヒ素」を比較した臨床試験です。

完全奏効に到達した割合は「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で100%, 「トレチノイン+アントラサイクリン」で97%でした。統計学的な差はありません(p=0.12).

しかしながら、「トレチノイン+三酸化二ヒ素」の生存率が「トレチノイン+アントラサイクリン」の生存率を大きく上回りました

50か月の完全寛解を維持して生存している割合は「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で97.3%, 「トレチノイン+アントラサイクリン」で80%となり、統計学的に明らかな改善でした(p<0.001).

50か月の全生存率は「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で99.2%, 「トレチノイン+アントラサイクリン」で92.6%となり、統計学的に明らかな改善でした(下図 p=0.0073).

急性前骨髄球性白血病 ATRA+ATO vs ATRA+CHT, OS

「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」との比較はありませんが、「トレチノイン+三酸化二ヒ素」は同等もしくはそれ以上の奏効と考えられます。

診断時の白血球が10000未満低リスク急性前骨髄球性白血病に対する寛解導入療法は、トレチノイン+三酸化二ヒ素」が最も良いと考えられます。

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCN Guidelinesでは、低リスク急性前骨髄球性白血病に対しては、「トレチノイン+三酸化二ヒ素」による治療を強く(カテゴリー1)推奨しています。

2020年12月時点での日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、「トレチノイン+三酸化二ヒ素」もしくは「トレチノイン+抗がん剤化学療法」を強く(カテゴリー1)推奨しています。

 

急性前骨髄球性白血病の寛解導入療法 高リスク症例の場合

高リスク(白血球10000をこえる)急性前骨髄球性白血病ではどうでしょうか?

高リスクも対象とした「トレチノイン+アントラサイクリン」「トレチノイン+三酸化二ヒ素」を比較した大規模ランダム化臨床試験の結果が2015年に報告されています(Lancet Oncol. 2015 Oct;16(13):1295-305). 長期追跡の報告もでています(Blood. 2018 Sep 27;132(13):1452-1454)。

この臨床試験では高リスク症例が約25%含まれていましたが、その全症例で「ゲムツズマブ オゾガマイシン」という急性骨髄性白血病の新薬も併用していました。

完全奏効に到達し再発なく生存している割合は統計学的も明らかに「トレチノイン+三酸化二ヒ素」群のほうが「トレチノイン+アントラサイクリン」群より良好でした(下図)。高リスク群でも同様でした。

AML17 ATRA+ATO vs AIDA, EFS

4年全生存率はどちらも約90%で、統計学的な差はありませんでした(下図)。

AML17 ATRA+ATO vs AIDA, OS

またこの試験はどちらの治療が「生活の質」を保つことができるかということを主要評価項目にしていましたが、「生活の質」はどちらの治療も大差はありませんでした。

 

高リスク症例でも「トレチノイン+三酸化二ヒ素」については「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」との比較はありません。

ゲムツズマブ オゾガマイシン」もそもそも急性前骨髄球性白血病の初回寛解導入療法で本当に有益かどうか不明です。

診断時の白血球が10000以上の高リスク急性前骨髄球性白血病に対する寛解導入療法は、「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」もしくは「トレチノイン+三酸化二ヒ素」を推奨します。

ただし「トレチノイン+三酸化二ヒ素」の医学的根拠は現時点ではやや弱いです。

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCN Guidelinesでは、高リスクの急性前骨髄球性白血病に対する寛解導入療法は、「トレチノイン+三酸化二ヒ素+ゲムツズマブ オゾガマイシン」もしくは「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」を推奨しています。

日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは「トレチノイン+三酸化二ヒ素」もしくは「トレチノイン+抗がん剤化学療法」を強く(カテゴリー1)推奨しています。

 

次項では寛解導入療法の実際の投与とその注意点について解説します。

まとめ 急性前骨髄球性白血病(APL)の寛解導入療法

トレチノインを急性骨髄性白血病治療の抗がん剤であるアントラサイクリン系とシタラビンに追加することにより、急性前骨髄球性白血病の治療成績は大きく改善します

● 診断時の白血球が10000未満の低リスク急性前骨髄球性白血病に対する寛解導入療法は、「トレチノイン+三酸化二ヒ素」が良好な成績です

● 診断時の白血球が10000以上の高リスク急性前骨髄球性白血病に対する寛解導入療法は、「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」もしくは「トレチノイン+三酸化二ヒ素」がよいと考えられます

参考文献

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Russell N, Burnett A, Hills R, et al.
Attenuated arsenic trioxide plus ATRA therapy for newly diagnosed and relapsed APL: long-term follow-up of the AML17 trial.
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