急性前骨髄球性白血病 (APL) 維持療法と定期通院

2019-09-19

APL MPO 1000

 

寛解後療法を無事に全部完了できた急性前骨髄球性白血病のほぼ全例で、「測定可能残存病変(微小残存病変)陰性の完全寛解」CRMRD-に到達します。以降は定期的に通院を行います。

維持療法と言って、トレチノインなどの内服をしばらく継続することもあります。

本項では医学的に推奨できる急性前骨髄球性白血病の維持療法と外来通院について解説します。

適切な維持療法は何か、維持療法の効果はどのくらいあるのか、通院した時はどんな検査を行うのかについて、国内外の大規模ランダム化臨床試験やガイドラインを参照にしつつ説明していきます。

 

急性前骨髄球性白血病の維持療法 トレチノイン・タミバロテン

2002年にトレチノインによる維持療法について大規模ランダム化臨床試験の結果が出版されました。

この臨床試験では地固め療法が終了した急性前骨髄球性白血病の症例を対象に経過観察のみの群トレチノインを1年間内服する群を比較しました(Blood. 2002 Dec 15;100(13):4298-302)。

結果、再発なく生存している割合は、5年時点で経過観察群で36%, トレチノイン群で61%と、統計学的にも明らかにトレチノイン群のほうが良好でした(下図, p<0.0001).

急性前骨髄球性白血病 ATRA維持 vs 経過観察, DFS

ただしこの臨床試験での全生存期間について報告はありません。

 

2010年に長期結果が報告された大規模ランダム化臨床試験では、維持療法を4群にランダム化しました(Blood. 2010 Mar 4;115(9):1690-6). 経過観察群と、トレチノインを3か月に15日内服する群抗がん剤化学療法群トレチノインと抗がん剤化学療法群の4群です。維持療法は2年間行われました。

10年の長期追跡の結果、10年再発率は経過観察群で43.2%, トレチノイン群で33.0%, 抗がん剤群で23.4%, トレチノイン+抗がん剤群で13.4%でした(p<0.001).

10年全生存率は、経過観察群で74.4%, トレチノイン群で88.0%, 抗がん剤群で93.4%, トレチノイン+抗がん剤群で94.4%でした(下図, p<0.001).

急性前骨髄球性白血病 ATRA、抗がん剤 維持療法, OS

トレチノインと抗がん剤化学療法の併用がもっとも長期生存は良好でした。

 

しかし、アントラサイクリンなどの抗がん剤による維持療法は、何もせず経過観察しているよりもかえって長期生存率を下げてしまうことが指摘されていました。

2007年に出版された日本発のランダム化臨床試験では、地固め療法終了後に抗がん剤化学療法経過観察でランダム化して比較しました(Blood. 2007 Jul 1;110(1):59-66)。

結果、再発なく生存している割合は、6年時点では抗がん剤化学療法群で63.1%, 経過観察群で79.8%でした。統計学的な有意な差はありませんでした(下図、p=0.20)。

急性前骨髄球性白血病 抗がん剤 vs 経過観察, DFS

全生存率も6年時点では抗がん剤化学療法群で86.2%, 経過観察群で98.8%であり、統計学的にも明らかに経過観察群のほうが良好でした(下図, p=0.014).

急性前骨髄球性白血病 抗がん剤 vs 経過観察, OS

アントラサイクリンなどの抗がん剤による維持療法を行うことにより、何もしないよりも生存率を10%以上も下げてしましました

抗がん剤維持療法では再発と関係なく生存率が低下しているため、有害事象による影響が考えられますが詳細まで報告はされていません。

 

2011年にも、維持療法についての大規模ランダム化臨床試験の結果が出版されました(Blood. 2011 May 5;117(18):4716-25)。

この臨床試験では、抗がん剤群、トレチノイン群、トレチノインと抗がん剤群、経過観察群の4群で当初はランダム化して比較しました。

結果、抗がん剤の有無では再発なく生存している割合に差はほとんどなかった(下図A)一方、トレチノインの有無では再発なく生存している割合に早期に差がみられました(下図B)。

APL 維持療法 抗がん剤有無 トレチノイン有無 DFS

その後変更が加わり、トレチノイン群トレチノイン+抗がん剤群の2群のみで比較しました。

結果は10年時点での再発なく生存している割合は両群とも約73%で、ほとんど差はありませんでした(下図, p=0.5345).

APL 維持療法 抗がん剤有無+トレチノイン DFS

抗がん剤を用いた維持療法については、結果がばらばらでかえって生存を低下させる可能性があるため、推奨はしません。

トレチノインによる維持療法は再発なく生存している期間を延長させると考えられます。全生存期間の延長もあり得ますが根拠は弱めです。

 

2019年に維持療法として、トレチノインタミバロテンを比較した日本発の大規模ランダム化臨床試験の長期報告の結果が出版されました(Leukemia. 2019 Feb;33(2):358-370.)。

タミバロテン(商品名:アムノレイク)はトレチノインと似た薬ですが、トレチノインより安定性が高く、高い効果が期待されていました。この臨床試験ではどちらの薬剤も、2週間内服し2か月半休薬することを繰り返し8サイクル行いました。

結果はタミバロテンのほうがトレチノインよりも、無再発生存率は統計学的に明らかに良好でした(下図)

APL ATRA vs Tamibarotene

全生存率については有意な差はありませんでした。7年生存率は両群とも95%以上です。

 

トレチノインタミバロテンによる維持療法により急性前骨髄球性白血病の無増悪生存期間は延長がみられます。

ただし上記の臨床試験では寛解導入療法や寛解後療法に三酸化二ヒ素を使用していません

 

急性前骨髄球性白血病の維持療法 三酸化二ヒ素を使用していた場合

2013年ごろより、急性前骨髄球性白血病に対して、初回寛解導入・寛解後療法で三酸化二ヒ素(商品名:トリセノックス)を使用する場合が多くなっています。

診断時白血球数が10000/μL以下の低リスクの急性前骨髄球性白血病の場合は、ベサノイドと三酸化二ヒ素による寛解導入療法と寛解後療法により、50か月全生存率がおよそ99%と極めて良好でした (J Clin Oncol. 2017 Feb 20;35(6):605-612.)。

トレチノイン+三酸化二ヒ素

臨床試験の段階でベサノイドと三酸化二ヒ素を使用した群は維持療法なしでこのような治療成績でした。

低リスクの急性前骨髄球性白血病でベサノイドと三酸化二ヒ素による寛解導入療法と寛解後療法を行った場合は、維持療法を必要としないと考えられます。

ただし低リスクの急性前骨髄球性白血病でも、三酸化二ヒ素を使用していない場合は再発率が上がるためトレチノインやタミバロテンによる維持療法を行うことを推奨します。

 

高リスク症例ではどうでしょうか?

寛解後療法に三酸化二ヒ素も使用している場合で、臨床試験の時はトレチノイン維持療法を行っていました。しかしながら維持療法を行っても高リスクでは10%~20%の症例で再発しています (Blood. 2010 Nov 11;116(19):3751-7.)。

高リスクの急性前骨髄球性白血病では、トレチノインもしくはタミバロテンによる維持療法を行ったほうがよいと考えられます。

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCN Guidelinesでは、低リスクでも高リスクでも維持療法について、治療の試験プロトコル通りに行うことを推奨しています。

日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、高リスク群ではトレチノインまたはタミバロテン内服を中心とした維持療法を考慮するとして弱い推奨(カテゴリー2B)ですが、それ以外では最適な維持療法は今後の課題であるとして特に推奨はありません。

タミバロテンについては、大規模臨床試験は日本だけで行われているため、アメリカやヨーロッパでは推奨されていませんし承認もされていません。

 

急性前骨髄球性白血病治療後の定期通院と検査

寛解後療法終了後は定期的に通院することになります。

急性前骨髄球性白血病の再発率は低いとはいえ、再発した場合はやはり命にかかわる疾患であることに変わりはありません。再発しないように願いつつも、定期的な確認は必要です。

 

数か月に1回は、血液中のPML-RARAという遺伝子異常の有無を確認します。この確認は採血検査であり、骨髄検査ではありません。数年間はこの検査を続けます(Blood. 2019 Apr 11;133(15):1630-1643)。

しかしながら血液中のPML-RARAが検出されるようになってしまった場合は、骨髄検査が必要です。再発が強く疑われるためです。この時点では再発の自覚症状は何もないと思われます。

2015年以降の再発症例は、三酸化二ヒ素を使用していない場合や診断時白血球数10000/μLをこえる高リスク急性前骨髄球性白血病の場合がほとんどと考えられます。

 

まとめ 急性前骨髄球性白血病の維持療法と定期通院

● トレチノインやタミバロテンによる維持療法は急性前骨髄球性白血病の無増悪生存期間を延長させますが、抗がん剤化学療法による維持療法は無増悪生存期間を延長させるとは言えません。

● 低リスクの急性前骨髄球性白血病でベサノイドと三酸化二ヒ素による寛解導入療法と寛解後療法を行った場合は、再発率が極めて低いため維持療法を必要としないと考えられます。

● それ以外の症例(高リスクの急性前骨髄球性白血病)ではトレチノインもしくはタミバロテンによる維持療法を行うことを推奨します。

● 維持療法中あるいは定期通院中は、数か月に1回血液中のPML-RARAという遺伝子異常の有無を確認します。

参考文献

Tallman MS, Andersen JW, Schiffer CA, et al.
All-trans retinoic acid in acute promyelocytic leukemia: long-term outcome and prognostic factor analysis from the North American Intergroup protocol.
Blood. 2002 Dec 15;100(13):4298-302.

Adès L, Guerci A, Raffoux E, et al.
Very long-term outcome of acute promyelocytic leukemia after treatment with all-trans retinoic acid and chemotherapy: the European APL Group experience.
Blood. 2010 Mar 4;115(9):1690-6.

Asou N, Kishimoto Y, Kiyoi H, et al.
A randomized study with or without intensified maintenance chemotherapy in patients with acute promyelocytic leukemia who have become negative for PML-RARalpha transcript after consolidation therapy: the Japan Adult Leukemia Study Group (JALSG) APL97 study.
Blood. 2007 Jul 1;110(1):59-66.

Avvisati G, Lo-Coco F, Paoloni FP, et al.
AIDA 0493 protocol for newly diagnosed acute promyelocytic leukemia: very long-term results and role of maintenance.
Blood. 2011 May 5;117(18):4716-25.

Takeshita A, Asou N, Atsuta Y, et al.
Tamibarotene maintenance improved relapse-free survival of acute promyelocytic leukemia: a final result of prospective, randomized, JALSG-APL204 study.
Leukemia. 2019 Feb;33(2):358-370.

Lo-Coco F, Avvisati G, Vignetti M, et al.
Retinoic acid and arsenic trioxide for acute promyelocytic leukemia.
N Engl J Med. 2013 Jul 11;369(2):111-21.

Platzbecker U, Avvisati G, Cicconi L, et al.
Improved Outcomes With Retinoic Acid and Arsenic Trioxide Compared With Retinoic Acid and Chemotherapy in Non-High-Risk Acute Promyelocytic Leukemia: Final Results of the Randomized Italian-German APL0406 Trial.
J Clin Oncol. 2017 Feb 20;35(6):605-612.

Arsenic trioxide improves event-free and overall survival for adults with acute promyelocytic leukemia: North American Leukemia Intergroup Study C9710.
Blood. 2010 Nov 11;116(19):3751-7.

Sanz MA, Fenaux P, Tallman MS, et al.
Management of acute promyelocytic leukemia: updated recommendations from an expert panel of the European LeukemiaNet.
Blood. 2019 Apr 11;133(15):1630-1643.

NCCN Guidelines

2018年造血器腫瘍診療ガイドライン

 

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