急性前骨髄球性白血病の寛解後療法と治療効果判定

2019-09-14

急性前骨髄球性白血病 塗抹

 

無事に完全寛解に到達したら次は寛解後療法です。地固め療法とも言います。

寛解後療法を行わなければ、結局しばらくして再発してしまいます

本項では医学的に最も良いと考えられる急性前骨髄球性白血病の寛解後療法について解説します。

目標はPML-RARAという遺伝子異常が陰性化するくらいの深い完全寛解です。

 

急性前骨髄球性白血病の寛解後療法は、寛解導入療法で使用した薬剤を再び使用します。

どんな治療をどのようなスケジュールで行うのか、また寛解後療法の最終効果判定についても解説します。

ガイドラインや国際基準、大規模ランダム化臨床試験の結果に沿って解説していきます。

 

急性前骨髄球性白血病の寛解後療法 トレチノイン+三酸化二ヒ素

診断時の白血球が10000/μLまでの急性前骨髄球性白血病に対して、「トレチノイン+三酸化二ヒ素」を用いて寛解導入療法を行った場合、ほぼ100%で完全寛解に到達します。2013年以降、最も良い寛解導入療法です。

それ以前の治療であった「トレチノイン+アントラサイクリン」による治療よりも、明らかに有効でした(N Engl J Med. 2013 Jul 11;369(2):111-21. J Clin Oncol. 2017 Feb 20;35(6):605-612).

「トレチノイン+三酸化二ヒ素」と「トレチノイン+アントラサイクリン」を比較した大規模ランダム化臨床試験では、寛解後療法も「トレチノイン+三酸化二ヒ素」もしくは「トレチノイン+アントラサイクリン」でした。

「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で寛解導入療法を行った群では、その後も「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で寛解後療法を行っていました。

その結果、50か月の完全寛解を維持して生存している割合は「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で97.3%, 「トレチノイン+アントラサイクリン」で80%となり、統計学的に明らかな改善でした(下図、p<0.001).

急性前骨髄球性白血病 ATRA+ATO vs ATRA+Chemotherapy, EFS

もっと重要である全生存率についても、50か月の全生存率は「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で99.2%, 「トレチノイン+アントラサイクリン」で92.6%となり、統計学的に明らかな改善でした(下図、p=0.0073).

急性前骨髄球性白血病 ATRA+ATO vs ATRA+CHT, OS

以上の結果から、「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で完全寛解に到達したら、そのまま「トレチノイン+三酸化二ヒ素」による寛解後療法を臨床試験の投与方法通りに行うことを推奨します

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCN Guidelinesでは、低リスク急性前骨髄球性白血病に対しては、「トレチノイン+三酸化二ヒ素」による寛解導入療法+寛解後療法を強く(カテゴリー1)推奨しています。

日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、低リスクでも高リスクでも急性前骨髄球性白血病の寛解後療法には「3サイクルのアントラサイクリン系薬剤とシタラビン併用の地固め療法」を強く(カテゴリー1)推奨しています。トレチノインや三酸化二ヒ素をもちいることについては、非常に弱い(カテゴリー2B)推奨となっています。

 

寛解後療法として「トレチノイン+三酸化二ヒ素」を用いる場合は、寛解導入療法の時と投与の仕方が変わります

トレチノインは「15日間内服し13日間休薬する」7回繰り返し、三酸化二ヒ素は「週5日連続投与を4週間行い、4週間休薬する」4回繰り返します。下図のようになります(N Engl J Med. 2013 Jul 11;369(2):111-21)。

ATO+ATRAで地固め

ほとんど副作用なく投与できますが、三酸化二ヒ素は原則入での投与となります。4週間の投与期間は入院し、4週間の休薬期間は退院している状態となります。

かなり安定している状態での治療になりますので、退屈が最大の問題になるでしょう。

心電図検査や採血が入院期間中は頻回にあります。カリウムやマグネシウムといった電解質の補充内服も行う場合がよくあります。

寛解後療法だけで、治療期間は28週間です。長い治療になります。根気強く行きましょう

 

急性前骨髄球性白血病の寛解後療法 高リスク症例

寛解導入療法で「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」の3剤で治療している場合は、診断時の白血球が10000/μLをこえている高リスク症例であることが多いでしょう。

高リスク症例では入院や寛解導入療法の開始から2週間以内の重篤な合併症が多いため、その分完全寛解に到達する割合が減ります。

その後も低リスクの急性前骨髄球性白血病と比較して、再発率が高いこともわかっています。再発率は低リスク症例と比べて4倍くらい違います。

 

2010年に発表された大規模ランダム化臨床試験(C9710試験)では、寛解後療法としての「トレチノイン+アントラサイクリン」に「三酸化二ヒ素」を追加する群と追加しない群で比較しました(Blood. 2010 Nov 11;116(19):3751-7)。

この試験での寛解導入療法は全例「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」です。

急性前骨髄球性白血病 地固め療法 with or without ATO

結果、完全寛解に到達してから再発なく生存する割合は3年推定で三酸化二ヒ素なしで63%、三酸化二ヒ素ありで86%「三酸化二ヒ素」を追加した群のほうが明らかに良好であることが示されました(下図, p<0.0001). 

急性前骨髄球性白血病 EFS 地固め療法 with or without ATO

また急性前骨髄球性白血病が増悪することなく生存している割合は、3年推定で「三酸化二ヒ素」を追加した群で90%,「三酸化二ヒ素」を追加しない群で70%でした(下図 p<0.0001).

急性前骨髄球性白血病 DFS 地固め療法 with or without ATO

この差は高リスク症例で特に大きく、「三酸化二ヒ素」なしでは3年間で半数以上が再発してしまいましたが、「三酸化二ヒ素」ありで3年間で約90%の症例で再発なく生存できていました(下図)。

急性前骨髄球性白血病 DFS リスク別 地固め療法 with or without ATO

最も重要な全生存期間については、3年推定で三酸化二ヒ素なしで81%、三酸化二ヒ素ありで86%でした。三酸化二ヒ素群のほうが良好ですが、統計学的な差はまだはっきりしていません(下図, p=0.059).

急性前骨髄球性白血病 OS 地固め療法 with or without ATO

 

以上の結果から、寛解導入療法で「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」の3剤で治療し完全寛解に到達した症例では、「トレチノイン+アントラサイクリン」だけでなく「三酸化二ヒ素」も用いて寛解後療法を行うことを推奨します

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCN Guidelinesでは、寛解導入療法で「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」の3剤を用いた場合は、「トレチノイン+アントラサイクリン」と「三酸化二ヒ素」を用いた寛解後療法を推奨しています。

日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、高リスクでも急性前骨髄球性白血病の寛解後療法には「3サイクルのアントラサイクリン系薬剤とシタラビン併用の地固め療法」を強く(カテゴリー1)推奨しています。トレチノインや三酸化二ヒ素をもちいることについては、非常に弱い(カテゴリー2B)推奨となっています。

 

「トレチノイン+アントラサイクリン」と「三酸化二ヒ素」での寛解後療法の投与方法は、三酸化二ヒ素単独投与をまず先に「週5日連続投与を5週間行い、2週間休薬する」を2回繰り返します。注意点は上記と同様です。

その後トレチノインを「7日間内服し休薬する」と同時にアントラサイクリン系としてダウノルビシンを投与します。ダウノルビシンは3日間投与です

白血球と血小板が投与開始2週間前後で最も下がります。4~5週間後くらいに白血球・血小板が十分に回復します。回復後2週間くらいで再度ダウノルビシンとトレチノインを開始します(2サイクル目)。

寛解後療法だけで、治療期間は約28週間です。この治療でも根気強く行きましょう

 

急性前骨髄球性白血病 寛解後療法の治療効果判定

約28週間の寛解後療法が終了したら、最終効果判定になります。

再度骨髄検査です。目標はPML-RARAという遺伝子異常が骨髄検査で検出されないことです。

微小残存病変陰性の完全寛解」といいCRMRD-と表記しますが、最近は「測定可能残存病変」という言葉のほうが意味が正確であるとして徐々に置き換わってきています。

2020年12月時点での効果判定の国際基準は2017年ELN基準です (下図, Blood. 2017 Jan 26;129(4):424-447)。

Response criteria, ENL 2017

 

CRMRD-の基準は以下のすべてを満たすことです。

● 完全寛解である(以下のすべて)

 ・好中球が1000/μL以上

 ・血小板が100000/μL以上

 ・骨髄中に骨髄芽球とよばれる幼若な細胞が5%未満である

 ・採血検査で血液中に白血病細胞(アウエル小体を持つ細胞)がない

 ・採血検査で血液中に骨髄芽球がない

 ・骨髄以外にも白血病細胞の腫瘤がない

● 骨髄検査でPML-RARAが陰性である

 

CRMRD-に到達するには、時間がかかります。場合によってはこの時点ではまだ陽性にであることがありますが、その場合は3~4週間後くらいに再検します。そのときには陰性化しているかもしれません。

寛解後療法をすべて終えることができた症例では、ほぼ全例(95%以上)でCRMRD-に到達します。

CRMRD-に到達したら、以降は維持療法もしくは無治療で経過観察となります。

 

維持療法や経過観察については次項で解説します。

まとめ

●「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で完全寛解に到達したら、「トレチノイン+三酸化二ヒ素」で寛解後療法を行います。約28週間かかります。

●「トレチノイン+アントラサイクリン+シタラビン」で完全寛解に到達したら、「トレチノイン+アントラサイクリン」だけでなく「三酸化二ヒ素」も用いて寛解後療法を行ったほうが無再発生存が良好です。約28週間かかります。

● 寛解後療法が終了したら、再度骨髄検査を行いPML-RARA遺伝子異常が陰性化していることを確認します。「微小残存病変(測定可能残存病変)陰性の完全寛解」が寛解後療法の治療目標です。

参考文献

Lo-Coco F, Avvisati G, Vignetti M, et al.
Retinoic acid and arsenic trioxide for acute promyelocytic leukemia.
N Engl J Med. 2013 Jul 11;369(2):111-21.

Platzbecker U, Avvisati G, Cicconi L, et al.
Improved Outcomes With Retinoic Acid and Arsenic Trioxide Compared With Retinoic Acid and Chemotherapy in Non-High-Risk Acute Promyelocytic Leukemia: Final Results of the Randomized Italian-German APL0406 Trial.
J Clin Oncol. 2017 Feb 20;35(6):605-612.

Powell BL, Moser B, Stock W, et al.
Arsenic trioxide improves event-free and overall survival for adults with acute promyelocytic leukemia: North American Leukemia Intergroup Study C9710.
Blood. 2010 Nov 11;116(19):3751-7.

Döhner H, Estey E, Grimwade D, et al.
Diagnosis and management of AML in adults: 2017 ELN recommendations from an international expert panel.
Blood. 2017 Jan 26;129(4):424-447.

NCCN Guidelines

2018年造血器腫瘍診療ガイドライン

 

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