骨髄検査(骨髄穿刺吸引・骨髄生検)の手技の実際 痛みや安全性は?

2020-12-25

骨髄穿刺吸引

 

「骨髄検査」は血液疾患が疑われたら、避けることのできない検査です。

診断だけでなく治療効果判定など、複数回行わなければならないこともしばしばあります。

骨髄検査は痛いものだという印象をもっていることが多いと思いますが、実際には一瞬ですがやや強い痛みがあります。

本項では、骨髄検査の手技の実際、痛いポイント、そして安全性について解説します。

骨髄検査は「骨髄穿刺吸引」「骨髄生検」の2つからなりますが、この違いについても解説します。

以下、医学文献などを参照しながら解説していきます。

 

骨髄検査とは 骨髄穿刺吸引と骨髄生検 マルクって?

「骨髄検査」とは、血液疾患の診断や腫瘍浸潤の有無の確認、そして治療効果判定などにも用いられる非常に重要な検査です。

骨髄というのは、骨の内部の血液を造っている部位になります。

骨盤を形成する骨の一つである「腸骨」で検査を行うことが一般的です(下図 Br Med J. 1980 Jul 19;281(6234):204-5)。

腸骨

骨髄検査では通常、骨髄穿刺吸引骨髄生検の2つを行います。

骨髄穿刺吸引は、骨に針を刺して内部の骨髄液を吸引する検査です。

骨髄生検は、骨に針を刺して骨髄組織の一部を削り取る検査です。

 

急性骨髄性白血病などは骨髄穿刺吸引だけで診断が可能な場合もありますが、悪性リンパ腫や骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患、再生不良性貧血など多くの疾患で骨髄生検も必要になります。

 

検査自体は骨髄穿刺吸引と骨髄生検の両方を合わせても10~15分くらいで終わります。

検査による合併症もまれです。

 

骨髄検査は、日本の医療現場の俗語として「マルク」と呼ばれることがあります。ドイツ語に由来します。

「マルク」は正式な医学用語ではありませんので、診療録などに記載することは推奨されません。

 

腸骨のかわりに、胸の骨の「胸骨」から検査を行うことまれにありますが、特段の理由がない限り胸骨からの骨髄検査は極力推奨しません

「胸骨」での検査は重大な事故がおこる可能性が腸骨よりも高く、死亡事故が複数発生しています(以下リンク)。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200605/500395.html

https://www.m3.com/open/clinical/news/article/348495/

 

胸骨は薄い骨です。検査の際に心臓や大血管を損傷してしまうリスクがあります。命に係わる合併症になりえます。

日本血液学会からも腸骨での検査を第一選択とし、「胸骨からの骨髄検査に関しては, その適応や術者の選択などについて慎重に検討する必要があると考えられます」としています。

http://www.jshem.or.jp/uploads/files/former/20150821.pdf

 

多発性骨髄腫の症例では骨がもろいため胸骨での検査は特に避ける必要があります。危険です。

また診断上の問題として、胸骨では骨髄生検ができません。骨髄穿刺吸引のみ可能です。

胸骨では検査の診断価値も腸骨より低いと考えられます。

胸骨からの骨髄検査は推奨しません。骨髄検査は腸骨から行うことを推奨します。

 

骨髄検査の手技の実際 吸引時には痛みがあります

骨髄検査の手技は第二次世界大戦終了数年後から広く普及し始めます(JAMA 1958;166:1464–1466)。

この時点で現在に近い比較的簡易な方法が提唱されていました。

そして、50年くらい前には現在とほぼ同じような手技になっています(J Clin Lab Anal. 2004;18(2):70-90).

 

骨髄検査を行う部位は「腸骨」という骨盤を構成する骨の一つが第一選択となります。

通常はうつ伏せもしくは横向きになって、後ろから腸骨に検査をします。

穿刺する部位は「上後腸骨棘」とよばれる場所です。体の表面から触れやすいため検査部位としてわかりやすいです(下図 J Clin Lab Anal. 2004;18(2):70-90).

上後腸骨棘

うつ伏せでの検査のほうが体動が少なく検査しやすいと個人的には思いますが、検査の姿勢は検査する医師の好みによります。

もしもうつ伏せや横向きになれない場合は、腸骨棘から検査を行いますが、そのような状況はあまり多いわけではありません。

 

うつ伏せ(もしくは横向き)になって検査部位を決定したら、十分に消毒します。

その後、清潔な布がかぶさり、局所麻酔の注射を行います。

局所麻酔も少し痛いですが、刺入部周囲の骨膜に十分な局所麻酔の注射を行っておくと、その後の痛みは少なくなります。

 

スカルペルという小さな刃物を用いて皮膚に数ミリの切開を入れます。麻酔が効いていますので痛みはありません。

この切開を入れておくと、傷がきれいに治るだけでなく、骨髄生検のときに採取した組織がひっかかることも防ぐことができます。

 

骨髄穿刺吸引骨髄穿刺針を刺していきます。局所麻酔が十分に効いていれば針が骨髄に到達するまで痛みはほとんどありません。

痛いのはその後です。骨髄液を吸引する一瞬は痛みがあります麻酔はこの痛みにはあまり有効ではありません。吸引するときには合図がありますので心の準備をしてください。

1回の吸引で0.5 mlほど吸引します。1回につきこれ以上多く吸引すると血液が混入したり凝固したりするため、骨髄穿刺吸引検体の質が低下します。

通常は複数回の吸引が必要になりますのでそのたびに痛みがあります(下図, N Engl J Med. 2009 Oct 8;361(15):e28)。

骨髄穿刺吸引

十分に骨髄液を吸引できれば、骨髄穿刺吸引は終了です。

 

骨髄生検は、ジャムシディ骨髄生検針というものを用います。骨髄穿刺針よりも一回り大きく、そして長いです(下の動画)。

骨髄生検針は骨髄穿刺針よりも深くまで挿入しますが、骨髄生検では吸引時のような痛みはありません。

骨髄生検針は骨に接したら、腸骨棘に向けて進めます(下図)。

骨髄生検針 進行方向

 

もし垂直に進めると深くなったところで痛みが生じます。さらに深く勧めてしまうと出血などの有害事象の原因にもなります(下図)。

骨髄生検針 方向比較

 

骨髄生検針は抜き始める前にぐるぐる回して、さらに少し進めて、それから回しながら抜いていきます。うつ伏せになっていても、何かぐりぐりされているのがわかるでしょう。

最初に皮膚の切開を数ミリ入れておけば、抜いた時に取れた組織が引っかかる可能性はかなり低くなります。

そのまま十分な量の骨髄組織が採取できていれば検査は終了です。

 

一般に骨髄生検では6mm以上の組織が採取できて入れば診断価値は十分とされます。

たとえば、悪性リンパ腫で骨髄浸潤の有無を確認する目的で骨髄生検を行ったときは、6mm以上でも25mm以上でも骨髄浸潤の割合に違いがあるとは言えません(下図, Am J Clin Pathol. 2018 Oct 1;150(5):393-405).

骨髄生検の長さと診断

5mm以下だと一般に採取量不足と考えられます。その場合はもう一度骨髄生検を行い、合わせて6mm以上を目指します。

ただし症例によっては何度行ってもほとんど採取できない場合もあります。

 

骨髄穿刺吸引と骨髄生検はどちらから先に行っても通常は大きな問題はありません。

穿刺を先に行うと生検で細胞密度が低下することがあるとされますが、距離が近すぎなければ問題はありません。

 

検査終了後は針を抜いてガーゼで圧迫して止血します。

1分程度しっかり圧迫します。大抵はそれで出血はほとんどありません。

その後は仰向けになって10分以上ご自身の体重で圧迫します。

 

腸骨からの骨髄検査の安全性 検査による有害事象の発生率は?

骨髄検査は腸骨から行っていれば、検査による有害事象の発生は極めてまれです。

 

イギリスの全国調査の結果が2005年に出版されています(J Clin Pathol. 2005 Apr;58(4):406-8)。

2003年の1年間で行われた約20000件の検査について調査しています。

有害事象が発生したのは16件(0.08%)でした。

16件のうち11件は出血でした。感染症は2件、痛みが続くのも2件ありました。

骨髄検査が原因で死亡したのは1件で、後腹膜出血によるものでした。

 

骨髄検査は比較的安全な検査と言えます。

正しい手技の経験が十分にある医師が行えば、有害事象が発生する可能性はほぼゼロであると言ってよいでしょう。

 

一連の骨髄検査の流れは動画のほうがわかりやすいでしょう。

下の動画では局所麻酔を行い、骨髄穿刺吸引、骨髄生検を行っています。およそ10分で終了しています。

 

注意点として、悪性リンパ腫のステージ決定目的の骨髄検査では骨髄生検も必ず行いますが、PET-CTよりも先に行ってはいけません

偽陽性(病変が本当はないのにPET-CTで集積を認めてしまう)になってしまうためです(下図, Br J Haematol. 2013 Jun;161(6):753)。

骨髄検査後PET-CT偽陽性

悪性リンパ腫の骨髄検査は、PET-CTが終わってから検討します。

 

骨髄検査の簡単な説明については、市販の書籍にも記載されています。

たとえば、看護師や医学生向けの書籍「病気がみえる」の一部にも記載があり、Amazonなどでもその一部が無料で閲覧することが可能です。リンパ腫のステージングでは骨髄生検が必須であることや腸骨からの骨髄検査が第一選択であることなど重要な指摘も記載されています。

「病気がみえる vol.5: 血液 第2版」(Amazonアソシエイトリンク)は医学生、看護学生、看護師、初期研修医などが対象の書籍ですが、大抵は病院や学校の図書館にありますので、購入しなくても全部見ることは可能です。買うと3500円くらいします。

買うのはどうしても書籍が手元に欲しい場合でよいでしょう。血液内科の看護・実習には十分な内容です。

 

まとめ 骨髄検査(骨髄穿刺吸引・骨髄生検)の手技の実際 痛みや安全性は?

骨髄検査では通常、骨髄穿刺吸引骨髄生検の2つを行います。胸骨からの骨髄検査は推奨しません。

● 骨髄検査を行う部位は「腸骨」という骨盤を構成する骨の一つが第一選択となります。骨髄液を吸引する一瞬は痛みがあります。

● 骨髄検査は腸骨から行っていれば、検査による有害事象の発生は極めてまれです。

参考文献

S Knowles, A V Hoffbrand.
Bone-marrow aspiration and trephine biopsy (1)
Br Med J. 1980 Jul 19;281(6234):204-5.

McFarland W, Dameshek W.
Biopsy of bone marrow with the Vim-Silverman needle.
JAMA 1958;166:1464–1466.

Roger S Riley, Thomas F Hogan, Dawn R Pavot, et al.
A pathologist's perspective on bone marrow aspiration and biopsy: I. Performing a bone marrow examination.
J Clin Lab Anal. 2004;18(2):70-90.

Suman Malempati, Sarita Joshi, Susanna Lai, et al.
Videos in clinical medicine. Bone marrow aspiration and biopsy
N Engl J Med. 2009 Oct 8;361(15):e28.

Mihai Merzianu, Adrienne Groman, Alan Hutson, et al.
Trends in Bone Marrow Sampling and Core Biopsy Specimen Adequacy in the United States and Canada: A Multicenter Study
Am J Clin Pathol. 2018 Oct 1;150(5):393-405.

Barbara J Bain.
Bone marrow biopsy morbidity: review of 2003
J Clin Pathol. 2005 Apr;58(4):406-8.

Monique C Minnema, Bart de Keizer.
False-positive PET scan after bone marrow biopsy
Br J Haematol. 2013 Jun;161(6):753.

 

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