びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の中枢神経系再発予防

2020-08-24

中枢神経系びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 HE 100倍

中枢神経系浸潤リスクの高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の症例に対しては、中枢神経系再発予防のための投薬を行います。

どのような症例が高リスクであるかについては「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の中枢神経系浸潤リスク評価とCNS-IPI」をご覧ください。

本項では中枢神経系再発予防のための投薬の方法と効果について記載しています。

前向きの比較試験が乏しいことから、中枢神経系再発予防の投薬は何がよいのかはっきりしていませんが、大量メソトレキセート(3.5 g/m²)点滴投与(およびメソトレキセート髄腔内投与)がおそらくよいと考えられます。

以下、医学文献を参照にしつつ解説していきます。

 

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の中枢神経系再発予防 メソトレキセートの投与の報告

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の中枢神経系浸潤リスクが高い症例に対して、中枢神経系再発予防のための投薬を行います。

予防の投薬とは何をおこなうのでしょうか?

 

2002年に日本から後ろ向き研究の結果が報告されています(Cancer. 2002 Aug 1;95(3):576-80)。

中枢神経系への浸潤を予防するための抗腫瘍薬投与として、抗がん剤であるメソトレキセートを腰椎穿刺により脳脊髄液中に投与(髄腔内投与)を行った後ろ向き研究です。

完全奏効に到達した悪性リンパ腫を対象にメソトレキセート髄腔内投与を計4回行った症例と中枢神経予防投与を行わなかった症例で比較しました。

結果、中枢神経への予防投与を行った症例では中枢神経再発は0%でした。中枢神経予防投与を行わなかった症例では中枢神経再発が15%にみられました。

全生存率も予防投薬群のほうが良好でした。5年生存率は予防投薬群で80%, 投薬しない群で58%でした(下図).

非ホジキンリンパ腫 予防メソトレキセート髄注 あり vs なし, OS

後ろ向き研究の結果ですが、メソトレキセートの髄腔内投与が中枢神経系再発を減少させる可能性があると考えられました。

 

中枢神経系浸潤リスクが高いと判断されたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して、メソトレキセートを髄腔内投与した症例の後ろ向き研究の結果がイギリスからも報告されています(Ann Oncol. 2007 Mar;18(3):541-5)。

メソトレキセート髄腔内投与により中枢神経系再発は高リスク症例でも1名(2%)だけでした。

これらの後ろ向き研究の結果から、メソトレキセートの髄腔内投与が中枢神経系再発を減少させる可能性があると考えられました。

 

2010年には大量メソトレキセート点滴投与の有用性を示唆する後ろ向き研究の結果が報告されました(Cancer. 2010 Sep 15;116(18):4283-90.)。

この後ろ向き研究では、中枢神経系再発リスクの高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を対象として、R-CHOP療法の約2週間後(14日目)に、大量メソトレキセート(3.5 g/m²)を投与しています。

大量メソトレキセート療法は、中枢神経系などR-CHOP療法では届かない部位にも薬剤が到達します。

結果、大量メソトレキセート療法による予防で、高リスク症例にもかかわらず中枢神経系再発が3%と低い数字でした。

後ろ向き研究の結果ですが、大量メソトレキセート療法でも中枢神経系再発を減少させる可能性があると考えられました。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の中枢神経系再発予防 前向き臨床試験

中枢神経系再発予防(メソトレキセート髄腔内投与など)と全生存率に関する大規模調査の結果が2012年に報告されました(Cancer. 2012 Jun 1;118(11):2944-51)。

高リスク症例でより多くの割合で中枢神経系再発予防を行っていました。

結果は、中枢神経系再発予防をしてもしなくても全生存率はあまりかわりなく、逆に有意とはいえませんが中枢神経系再発予防をしていないほうが良い傾向にありました(下図)。 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 中枢神経系再発予防 あり vs なし OS

メソトレキセートの髄腔内投与は本当に予後を改善しているのかどうか疑問がでてきます。

 

前向き臨床試験では中枢神経系再発予防を行うことにより、中枢神経系再発率が減少する可能性が指摘されています。

2013年に大量メソトレキセート・大量シタラビンによる中枢神経系再発予防を行った高リスク症例156例の前向き臨床試験結果が出版されました(Ann Oncol. 2013 May;24(5):1385-92)。

比較試験ではありません。中枢神経系再発予防を行い中枢神経系再発率は4.9%でした。

 

2016年に高リスク症例に対してシタラビンのリポソーム製剤の髄腔内投与の小規模前向き臨床試験の結果が出版されました(Ann Hematol. 2016 May;95(6):893-9)。

こちらも比較試験ではありません。中枢神経系再発予防を行い中枢神経系再発率は0%でした。

 

大量メソトレキセートや大量シタラビンの点滴投与もしくはメソトレキセートやシタラビンの髄腔内投与は中枢神経系再発率を低下させると考えられます。

しかしながら、生存率については後ろ向き研究の結果しかなく、あまりはっきりしているとは言えません

 

では、中枢神経系再発予防は大量点滴投与と髄腔内投与のどちらを選択するとよいのでしょうか? それとも何もしなくてもよいのでしょうか?

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の中枢神経系再発予防 薬剤投与方法の比較

2014年に中枢神経系再発予防の方法再発率についての後ろ向き研究の結果が出版されました(Br J Cancer. 2014 Sep 9;111(6):1072-9)。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で中枢神経系浸潤リスクが高い症例に対して、メソトレキセート髄腔内投与のみメソトレキセート髄腔内投与+大量メソトレキセート点滴投与シタラビン・メソトレキセートの髄腔内投与・大量点滴投与の三群で比較しています。

結果中枢神経系再発率は、3年の時点でメソトレキセート髄腔内投与群では18.4%、メソトレキセート髄腔内投与+大量メソトレキセート点滴投与群で6.9%, シタラビン・メソトレキセートの髄腔内投与・大量点滴投与群で2.3%と、統計学的にも明らかに大量点滴投与を伴う方法が良好でした(下図)。

中枢神経系再発率 予防投薬別

3年無増悪生存率はメソトレキセート髄腔内投与群では65.5%、メソトレキセート髄腔内投与+大量メソトレキセート点滴投与群で82.9%, シタラビン・メソトレキセートの髄腔内投与・大量点滴投与群で70.6%と、メソトレキセート髄腔内投与+大量メソトレキセート点滴投与群が良好でした(下図, p=0.051)。

無増悪生存率 予防投薬別

髄腔内投与単独よりも大量投与併用のほうが中枢神経系再発率・無増悪生存率ともによさそうです。

 

メソトレキセートは血中への大量投与のほうが髄腔内投与を行うよりも脳実質への効果が高いため、髄腔内投与のみでは効果が不十分であるという指摘がなされています(Curr Treat Options Oncol. 2018 Sep 10;19(11):52)。

 

2020年にメソトレキセートの髄腔内投与と点滴大量投与を行った症例と行わなかった症例を比較した後ろ向き研究の結果が出版されました(Ann Hematol. 2020 Aug;99(8):1823-1831)。

両群とも中枢神経系浸潤リスクは高い症例でした。

中枢神経系再発率は5年時点で、メソトレキセート髄腔内投与と点滴大量投与を行った症例では5%でしたが、予防投薬を行わなかった症例では26%でした(下図)。

中枢神経系再発率 HDMTX+ITMTX vs No

無増悪生存率や全生存率についての結果は報告されていません。

 

以上より後ろ向き研究が多いですが、中枢神経系浸潤リスクの高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しては、なんらかの予防的抗腫瘍薬投与を行ったほうがよいと考えられます。

投与薬剤や投与方法についての比較は後ろ向き研究の結果ばかりで、明らかにはなっていません。

それらの結果からは、中枢神経再発リスクの高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しては、中枢神経に対する予防的抗腫瘍薬投与として、大量メソトレキセート(3.5 g/m²)点滴投与(およびメソトレキセート髄腔内投与)を行うほうがおそらくよいと考えられます。

 

たとえば、R-CHOP療法に組み合わせる場合は、1サイクル目は有害事象が発生しやすいため避けます。遅くする必要もないので、2サイクル目の14-15日目ごろに行います。3サイクル目を遅らせる必要はありません。そのまま4サイクル目と6サイクル目にも行います(計3回)。

 

2020年7月時点でのアメリカのNCCNガイドライン(NCCN Guidelines)では、大量メソトレキセート療法を2~4サイクル、またはメソトレキセート髄腔内投与を4~8回のいずれかを推奨しています。

 

日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、中枢神経系再発予防を行う場合の投薬についてはメソトレキセート髄腔内投与を推奨しています。メソトレキセート大量療法を髄注に置き換えることが可能であるかどうかについても定まった見解はない、としています。

 

 

まとめ びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の中枢神経系再発予防

メソトレキセートの髄腔内投与もしくは大量メソトレキセート療法は中枢神経系再発を減少させる可能性があると考えられます。

●  メソトレキセートは髄腔内投与単独よりも大量点滴投与併用のほうが中枢神経系再発率・無増悪生存率ともによいと考えられます。

● 中枢神経再発リスクの高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しては、中枢神経に対する予防的抗腫瘍薬投与として、大量メソトレキセート(3.5 g/m²)点滴投与(およびメソトレキセート髄腔内投与)を行うほうがおそらくよいと考えられます。

参考文献

Naoto Tomita, Fumio Kodama, Heiwa Kanamori, et al.
Prophylactic intrathecal methotrexate and hydrocortisone reduces central nervous system recurrence and improves survival in aggressive non-hodgkin lymphoma.
Cancer. 2002 Aug 1;95(3):576-80.

H-T Arkenau, G Chong, D Cunningham, et al.
The role of intrathecal chemotherapy prophylaxis in patients with diffuse large B-cell lymphoma
Ann Oncol. 2007 Mar;18(3):541-5.

Jeremy S Abramson, Matthew Hellmann, Jeffrey A Barnes, et al.
Intravenous methotrexate as central nervous system (CNS) prophylaxis is associated with a low risk of CNS recurrence in high-risk patients with diffuse large B-cell lymphoma.
Cancer. 2010 Sep 15;116(18):4283-90.

Anita Kumar, Ann Vanderplas, Ann S LaCasce, et al.
Lack of benefit of central nervous system prophylaxis for diffuse large B-cell lymphoma in the rituximab era: findings from a large national database
Cancer. 2012 Jun 1;118(11):2944-51.

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Dose-densified Chemoimmunotherapy Followed by Systemic Central Nervous System Prophylaxis for Younger High-Risk Diffuse Large B-cell/follicular Grade 3 Lymphoma Patients: Results of a Phase II Nordic Lymphoma Group Study
Ann Oncol. 2013 May;24(5):1385-92.

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Central nervous system prophylaxis with intrathecal liposomal cytarabine in a subset of high-risk patients with diffuse large B-cell lymphoma receiving first line systemic therapy in a prospective trial
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C Y Cheah, K E Herbert, K O'Rourke, et al.
A Multicentre Retrospective Comparison of Central Nervous System Prophylaxis Strategies Among Patients With High-Risk Diffuse Large B-cell Lymphoma
Br J Cancer. 2014 Sep 9;111(6):1072-9.

Roopesh Kansara
Central Nervous System Prophylaxis Strategies in Diffuse Large B Cell Lymphoma
Curr Treat Options Oncol. 2018 Sep 10;19(11):52.

Hanne Kuitunen, Elina Kaprio, Peeter Karihtala, et al.
Impact of central nervous system (CNS) prophylaxis on the incidence of CNS relapse in patients with high-risk diffuse large B cell/follicular grade 3B lymphoma
Ann Hematol. 2020 Aug;99(8):1823-1831.

造血器腫瘍診療ガイドライン

NCCN Guidelines


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