びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の中枢神経系浸潤リスク評価とCNS-IPI

2020-08-22

CNS-IPI

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は中枢神経系に入り込む(浸潤する)ことがあります。あまり多くはありませんが、浸潤しやすいタイプも存在します。

中枢神経系浸潤の可能性は様々なリスク因子で予測することが可能です。

本項では、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の中枢神経系浸潤のリスク因子とその評価指標である「CNS-IPI」などについて解説します。

高リスクと判断される症例では、中枢神経系浸潤予防のための投薬が必要になります。投薬については「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の中枢神経系再発予防」をご覧ください。

本項でも医学文献やガイドラインを参照にしつつ記載しています。

 

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の中枢神経系浸潤のリスク因子 LDH, 節外病変など

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫はまれに脳などの中枢神経系にも入り込む(浸潤する)ことがあります。

R-CHOP療法などの通常の治療では脳などの中枢神経病変への治療効果が乏しいため、たとえ診断時に中枢神経系に浸潤していなくても、浸潤リスクが高い症例には中枢神経に対する予防的抗腫瘍薬投与を行います。

どのような症例が中枢神経系浸潤リスクが高いのかについて臨床研究が昔から行われてきました。

 

2002年に2500症例を超える大規模前向き臨床研究の結果が出版されています(Ann Oncol. 2002 Jul;13(7):1099-107)。

全症例で診断時には中枢神経系の浸潤はなかった症例で解析しました。

その後、中枢神経系に病変が発生した症例は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの悪性度の高いリンパ腫では5年で5.2%でした。

この数字は急性リンパ芽球性白血病などの中枢神経系に浸潤しやすい疾患の約1/5です。

しかしながら、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの悪性度の高いリンパ腫であったとしても、診断時に以下のリスク因子が4つ以上あると、5年で25%もの症例で中枢神経系にその後病変が発生しました。

・乳酸脱水素酵素(LDH)が正常上限を超えている

・アルブミンが3.5 g/dL未満

・61歳以上

・後腹膜リンパ節に病変がある

・リンパ節ではない組織に浸潤が2つ以上ある

特に「リンパ節ではない組織に浸潤が2つ以上ある」と中枢神経系浸潤リスクは3倍になりました。

上記リスク因子が3つだと中枢神経系浸潤リスクは5年で6.2%でした。2つまでだと3%未満でした(下図).

高悪性度リンパ腫 中枢神経系浸潤リスク

 

2007年に1500症例を超える大規模研究の結果が出版されています(Ann Oncol. 2007 Jan;18(1):149-57)。

この研究でも多数の因子を解析し、多変量解析を行いました。その結果、中枢神経系浸潤リスクが高いとされたのは以下の項目でした。

 

・乳酸脱水素酵素(LDH)が正常上限をこえる

・リンパ節ではない組織に浸潤が2つ以上ある

LDHが高いと中枢神経系浸潤リスクが3.7倍になりました。リンパ節ではない組織に浸潤が2つ以上あるとリスクは1.5倍でした。いずれも統計学的に有意な上昇です。

この研究では、年齢によるリスク上昇は有意ではありませんでした。

上記リスク因子が2つともあると、中枢神経系浸潤が約10%に発生していました(下図)。

アグレッシブリンパ腫 DSHNHL 中枢神経系浸潤リスク

 

中枢神経系への再発は、通常の再発よりも明らかに予後が悪くなります。

アグレッシブリンパ腫に対する前向き臨床試験(SWOG 8516試験)の20年にも及ぶ長期追跡の結果が2009年に出版されました(J Clin Oncol. 2009 Jan 1;27(1):114-9)。

中枢神経系に再発した症例は、中枢神経系ではない再発症例と比較して再発後の生存率は有意に低く、2年生存率は中枢神経系に再発した症例では0%でした(下図).

SWOG 8516 中枢神経系再発 vs no CNS再発, OS

当時と今とでは中枢神経系への治療が異なるためここまで生存率は悪くはありませんが、それでも通常の再発よりも予後が悪いことに変わりはありません。

中枢神経系浸潤リスクが高い症例に対しては、中枢神経系に発症する前に予防投薬することが重要と言えます。

 

乳酸脱水素酵素(LDH)が正常上限をこえるリンパ節ではない組織に浸潤が2つ以上ある症例では中枢神経系浸潤リスクが明らかに高いです。

そして中枢神経系予防投薬の指標となる、「CNS-IPI」が提唱されることになります。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 CNS-IPIによるリスク評価

「CNS-IPI」は中枢神経系の国際予後指標にあたります。

国際予後指標(IPI)と同じような解析を行い、中枢神経系浸潤のリスク因子をみつけていきました。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などのアグレッシブB細胞リンパ腫で前向き臨床試験に参加した症例2000例以上を対象に解析が行われ、結果が2016年に出版されています(J Clin Oncol. 2016 Sep 10;34(26):3150-6)。

すべてR-CHOP療法で治療した症例です。これらの症例からリスク因子を発見し、多変量解析を行いました。

その結果以下の因子が有意なリスク因子となりました。

・腎臓(及び副腎)に浸潤している

・61歳以上

・乳酸脱水素酵素(LDH)が正常上限をこえる

・全身状態が悪く軽い作業も困難である(PS >1)

・ステージが3か4である

この研究では、「リンパ節ではない組織に浸潤が2つ以上ある」というのはリスク因子ではありませんでした(下図)。

CNS-IPI

過去の研究では「リンパ節ではない組織に浸潤が2つ以上ある」は重要なリスク因子であったことから、CNS-IPIに組み込まれることになりました。

最終的にCNS-IPIは以下の項目になります

・腎臓(及び副腎)に浸潤している

・61歳以上

・乳酸脱水素酵素(LDH)が正常上限をこえる

・全身状態が悪く軽い作業も困難である(PS >1)

・ステージが3か4である

・リンパ節ではない組織に浸潤が2つ以上ある

これらの因子が3つまでであれば、2年中枢神経系浸潤リスクは5%未満ですが、5つで15%, 6で32.5%にもなります(下図)。

CNS-IPI, CNS relapse rate

 

別の前向き臨床試験の症例で上記のCNS-IPIの検証も行われています。

R-CHOP療法で治療したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の症例の中枢神経系再発についての事後解析になります(Ann Oncol. 2017 Oct 1;28(10):2511-2516)。

結果、CNS-IPIが4つ以上あてはまる症例では明らかに3つ以下の症例よりも中枢神経系再発リスクが高く、2年中枢神経系再発率は5.2%でした(下図, p<0.001)。

CNS-IPI UK NCRI, CNS relapse rate

さらに別の前向き臨床試験(GOYA試験)でもCNS-IPIの事後検証が行われ、2019年に結果が出版されました(Blood. 2019 Feb 28;133(9):919-926)。

CNS-IPIが4つ以上あてはまる症例では明らかに3つ以下の症例よりも中枢神経系再発リスクが高く、2年中枢神経系再発率は8.9%でした(下図)。

CNS-IPI GOYA, CNS relapse rate

CNS-IPIはかなり再現性の高い指標と言えます。

CNS-IPIのリスク因子のうち4つ以上あてはまる症例では、中枢神経系浸潤予防の投薬を行うことを推奨します。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 Double expression, 臓器浸潤の中枢神経系浸潤リスク

上記のCNS-IPIの構成要素の他に中枢神経系浸潤を起こしやすい病態がわかってきています。

 

MYCBCL2の両方を発現しているびまん性大細胞型B細胞リンパ腫は「Double expression」と呼ばれます。

このタイプは中枢神経系浸潤しやすいことがわかっています。

2016年に報告された事後解析の結果です(Blood. 2016 May 5;127(18):2182-8)。

MYCとBCL2の両方を発現している症例は、そうでない症例と比べて中枢神経系浸潤を起こす確率が明らかに高く、2年中枢神経系浸潤発生率は9.7%にもなりました(下図, p=0.001)。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫, R-CHOP, double expression, 中枢神経系再発率

「Double expression」にも中枢神経系予防投薬を行ってもよいでしょう。同様に「Double hit」の症例にも行うことを検討します。

 

その他、精巣浸潤、副鼻腔浸潤、乳腺浸潤、骨髄浸潤、卵巣浸潤、硬膜外浸潤、皮膚浸潤なども中枢神経系浸潤をしやすいことが後ろ向き研究の結果を中心に報告されています(J Clin Oncol. 2011 Jul 10;29(20):2766-72, Leuk Lymphoma. 2005 Dec;46(12):1721-7, Br J Haematol. 2014 May;165(3):358-63, J Clin Oncol. 2011 Apr 10;29(11):1452-7)。

これらの症例に対しても中枢神経系に対する予防投薬を検討してもよいでしょう。

 

たとえばカナダのブリティッシュコロンビアからの後ろ向き研究では、LDHやステージ3か4の他にも、精巣浸潤、腎臓浸潤、骨髄浸潤があった症例は統計学的にも明らかに中枢神経系再発率が高い結果でした(Ann Oncol. 2010 May;21(5):1046-52)。

 

中枢神経系に再発すると予後が明らかに悪くなることから、中枢神経系の検査・予防投薬については注意深く評価することが大切です。

以上から、CNS-IPIが4以上の症例LDHが高くて節外病変が2つ以上ある症例Double expressionの症例に対しては、診断時に頭部MRI検査腰椎穿刺・脳脊髄液検査を行い中枢神経系浸潤がないことを確認し、中枢神経系浸潤がなければ中枢神経系浸潤予防の投薬を行うことを推奨します。

腎臓浸潤、精巣浸潤、副鼻腔浸潤、乳腺浸潤、骨髄浸潤、卵巣浸潤、硬膜外浸潤、皮膚浸潤のいずれかがみられる症例でも検査と予防投薬を検討します。

 

2020年7月時点でのアメリカのNCCNガイドライン(NCCN Guidelines)では、CNS-IPIが4以上の症例、腎臓・副腎浸潤がある症例、精巣浸潤がある症例、ダブルヒットの症例、皮膚・乳腺の症例に中枢神経系予防投薬を推奨しています。

 

日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、精巣原発の症例に中枢神経系予防投薬を推奨しています。「進行期,骨髄浸潤陽性,節外病変を多数有するIPI高リスク例,副鼻腔原発のDLBCL例では,髄注を併用することで中枢神経系再発の頻度が下がる可能性があるが,有用性が確立しているわけではない」としています。

 

高リスクと判断される症例では、中枢神経系浸潤予防のための投薬が必要になります。投薬については「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の中枢神経系再発予防」をご覧ください。

 

まとめ びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の中枢神経系浸潤リスク評価とCNS-IPI

● 中枢神経系への再発は通常の再発よりも明らかに予後が悪くなりますので、中枢神経系に発症する前に予防投薬することが重要です。乳酸脱水素酵素(LDH)が正常上限をこえるリンパ節ではない組織に浸潤が2つ以上ある症例では中枢神経系浸潤リスクが明らかに高いです。

CNS-IPIのリスク因子のうち4つ以上あてはまる症例では、中枢神経系浸潤を起こす可能性が高いため、中枢神経系浸潤予防の投薬を行うことを推奨します。

● 「Double expression」「Double hit」タイプのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫は中枢神経系浸潤しやすい可能性があります。精巣浸潤、副鼻腔浸潤、乳腺浸潤、骨髄浸潤、卵巣浸潤、硬膜外浸潤、皮膚浸潤があるタイプも中枢神経系浸潤しやすい可能性があります。これらの症例にも中枢神経系浸潤予防の投薬を検討します。

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造血器腫瘍診療ガイドライン

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