びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL) ダブルヒット、高齢者、心不全症例の初回治療

2020-08-21

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 病理

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫は予後が特に悪い可能性があり、治療をより強力にしたほうが良いのではないかという考えがあります。では、実際にはどうなのでしょうか?

高齢者のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しては、化学療法を減量して治療したほうが良いのではないかという考えがあります。実際にはどうなのでしょうか?

心機能が低下している症例ではアントラサイクリン系薬剤の使用に問題があります。そのような症例に良い治療は何か?

本項では上記のような特殊なびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療について解説します。

特殊な症例なので研究も少なく, あまりよくわかっていないのが現状です。ダブルヒットの治療については研究によって結果は全く異なります。高齢者への化学療法は減量しないほうがおそらくよいでしょう。

心不全にはR-GCVP療法がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して前向き臨床試験の結果があり、他はほとんどありません。

本項では、あまり質の高い医学的根拠とは言えませんが、その中では規模のある研究を参照に解説しています。

通常のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の初回治療については「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療 限局期の場合」と「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療 進行期の場合」をご覧ください。

 

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療 R-CHOP療法 vs 強力化学療法

「ダブルヒット」(Double hit)MYC領域の染色体転座(8q24転座)BCL2領域の染色体転座(18q21転座)の両方ともみられるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫のことを言います。

通常のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と比べて、「ダブルヒット」があると予後が悪いことがわかっています。

この「ダブルヒット」びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対してR-CHOP療法よりも良い治療があるのでしょうか?

2020年12月時点でランダム化臨床試験はありません。後ろ向き研究の結果のみとなります。

 

2014年にMDアンダーソンがんセンターから、ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の後ろ向き研究の結果が報告されました(Br J Haematol. 2014 Sep;166(6):891-901).

R-CHOP療法だけでなく、R-EPOCH療法R-Hyper-CVAD療法が選択された症例もありました。

結果、R-CHOP療法とR-Hyper-CVAD療法の生存率はおなじくらいでしたが、R-EPOCH療法はR-CHOP療法よりも良い傾向にありました(下図)。

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 MD Anderson OS

ただし統計学的に有意な差ではありませんでした(COX multivariate analysis HR 0.47, 95%CI 0.19-1.14, p=0.096)。

抗がん剤化学療法で完全奏効に到達した症例に対して自家造血幹細胞移植を行ったとしても、生存率が改善するとは言えませんでした(下図).

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 MD Anderson SCT OS

 

同時期である2014年に多施設でのダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の後ろ向き研究の結果が報告されました(Blood. 2014 Oct 9;124(15):2354-61.)。

R-CHOP療法もしくはもっと強い化学療法(R-Hyper-CVAD療法など)を行った症例の解析です。

結果は、完全奏効率はR-CHOP療法で約50%、R-Hyper-CVAD療法で約55%, DA-EPOCH-R療法で約65%, R-CODOX-M/IVAC療法で約40%でした。DA-EPOCH-R療法が最も完全奏効率が高い治療でした(下図)。

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 RR

無増悪生存率は強い化学療法のほうが良好で、その中でもR-Hyper-CVAD療法が最もよく、R-CODOX-M/IVAC療法、DA-EPOCH-R療法と続きました(下図 p=0.0016)。

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 PFS

しかし全生存率については、R-Hyper-CVAD療法、R-CODOX-M/IVAC療法、DA-EPOCH-R療法のいずれもR-CHOP療法とあまりかわりませんでした(下図 p=0.119)。

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 OS

 

2017年に抗がん剤化学療法で完全奏効に到達したダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の症例に対して自家造血幹細胞移植を行った多施設での後ろ向き研究の結果が報告されました(J Clin Oncol. 2017 Jul 10;35(20):2260-2267)。

一般的に自家造血幹細胞移植を行う症例は行わない症例よりも全身状態が良好です。

しかしながら、自家造血幹細胞移植を行っても無再発生存率・全生存率のいずれも有意に改善するとは言えませんでした(下図 左 無再発生存, 右 全生存)。

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 AutoSCT

 

2018年にもダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の後ろ向き研究の結果が報告されました(Haematologica. 2018 Nov;103(11):1899-1907)。

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫でも症例によって病理所見は異なります(下図 どちらもダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 HE400倍)。

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 病理

この研究での全生存率は、R-CODOX-M/IVAC療法がR-Hyper-CVAD療法、DA-EPOCH-R療法、R-CHOP療法よりも良好でした(下図).

ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 Mayo OS

ただし統計学的に有意な差ではありませんでした。R-Hyper-CVAD療法とDA-EPOCH-R療法とR-CHOP療法の生存率はほとんど変わりありませんでした。

 

2021年にもフランスから後ろ向き研究の結果がでています(Am J Hematol. 2021 Mar 1;96(3):302-311)。

R-CHOP(あるいはR-CHOP類似の治療)より強力な化学療法で治療した結果を比較しました。

結果、4年無増悪生存率はR-CHOP(とその類似)では28%であったのに対して、強力化学療法では52%と良好な傾向にありました。しかしながら、統計学的に有意な差にはなりませんでした(下図, p=0.063).

double hit, triple hit, R-CHOP like vs Intensive chemotherapy, PFS

全生存率についてはどちらの治療でもあまり変わりはありませんでした(下図, p=0.273).

double hit, triple hit, R-CHOP like vs Intensive chemotherapy, OS

有害事象は明らかに強力化学療法のほうがR-CHOP(とその類似)よりも多くみられました。血球減少や発熱性好中球減少症が特に顕著でした。

 

上記結果よりダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の場合は、R-CHOP療法よりもDA-EPOCH-R療法、R-Hyper-CVAD療法、R-CODOX-M/IVAC療法といった強い化学療法を検討する場合があります。

しかしながら、後ろ向き研究にもとづくためバイアスが強いといえます。2020年12月時点ではR-CHOP療法ともっと強力な化学療法のどちらがよいのかはっきりしてはいません

また、初回治療で完全奏効に到達した後に追加で自家造血幹細胞移植を行う意味はないでしょう。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の初回治療 高齢者への化学療法 減量は必要か?

高齢だけを理由に化学療法の投与量を減量しないほうがよいことが、以前からわかっています。

1990年にスタンフォード大学の研究結果が報告されています(J Clin Oncol. 1990 Jun;8(6):963-77)。

びまん性大細胞型リンパ腫に対して、抗がん剤化学療法の重要な薬剤であるアントラサイクリン系薬剤の減量と全生存率の関係を調べました。

アントラサイクリンの減量が25%以上の症例は明らかに全生存率が低下しました(下図, p=0.001).

びまん性リンパ腫 アントラサイクリン系減量 OS

後ろ向き研究の結果ですが減量による治療効果低下のためかえって予後が悪くなる可能性があり、高齢というだけで減量することは推奨しません。

臓器障害など化学療法の減量基準に当てはまる場合のみ減量することを推奨します。

 

2011年に80歳以上の症例に対するR-miniCHOP療法の前向き臨床試験の結果が出版されています(Lancet Oncol. 2011 May;12(5):460-8)。

R-miniCHOP療法とは、CHOPの量を約半分にしたR-CHOP療法です。

比較試験ではありません。完全奏効率(CR/CRu)は62%, 生存期間中央値は29か月でした。

比較試験ではないのではっきりするわけではありませんが、これは高齢者を対象としたR-CHOP療法の臨床試験の成績よりも大きく劣っています。

治療毒性よりも効果が乏しいことが予後に影響する可能性があります。

特に減量基準にあてはまらない症例では初回から減量することは推奨しません

ただし強い血球減少などにより減量基準に当てはまった場合は2サイクル目以降減量になります。

 

2018年に70歳以上の高齢者に対してBR療法を行った前向き臨床試験の結果が出版されています(Haematologica. 2018 Aug;103(8):1345-1350)。

BR療法は濾胞性リンパ腫の治療に用いる化学療法です。R-CHOP療法よりも毒性が低いのですが、濾胞性リンパ腫には奏効もよいことからしばしば用いられます。

毒性が低いため高齢者のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫にも検討されました。

結果、完全奏効率は53%, 無増悪生存期間の中央値は10か月と上記結果よりも大きく劣るものでした。

比較試験ではないのでBR療法が本当にR-CHOP療法よりもびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して効果が乏しいかどうかははっきりしませんが、BR療法の効果はあまり期待はできなさそうです。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して抗がん剤化学療法を高齢だけを理由に医学的根拠なく減量することは推奨しません。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の初回治療 心機能が低下している場合

心臓超音波検査左室駆出率(EF)50%未満まで心機能が低下しているとドキソルビシンなどのアントラサイクリン系の薬剤は一般的に使いにくい状況と言えます。

左室駆出率(EF)とは、心臓の主な収縮能力をみています。50%未満は低下していると判断します。たとえ心不全症状がなくてもです。

左室駆出率(EF)が40%未満まで低下していると、アントラサイクリン系薬剤の使用はできません。

 

ドキソルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤をびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療に用いると、心機能が低下していない症例であったとしても、65歳以上ではその後に心不全になる可能性がおよそ30%増加します(J Clin Oncol. 2008 Jul 1;26(19):3159-65)。

6サイクル以上行った場合はおよそ50%増加します.

 

ドキソルビシンが使えない症例では、R-CHOP療法やR-ACVBP療法を行うことができなくなります。

心機能が低下している症例にドキソルビシンを使用するとかえって予後を悪化させてしまう可能性が十分に考えられます。

では、心不全や左室駆出率(EF)が低下している症例に対する治療は何を用いればよいのでしょうか?

 

少数の前向き臨床試験があります。ランダム化臨床試験はありません。

1990年にCEPP療法の結果が出ています。シクロホスファミド・エトポシド・プレドニゾン・プロカルバジンによる化学療法です(Blood. 1990 Oct 1;76(7):1293-8)。

完全奏効率は40%でした。

これ以降ほとんどCEPP療法の研究は続かず、リツキシマブが登場してからもR-CEPP療法の研究が行われたわけでもありません。わずかな報告がある程度です。

 

2014年に心臓の合併症があるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を対象としたR-GCVP療法前向き臨床試験の結果が報告されました(J Clin Oncol. 2014 Feb 1;32(4):282-7)。

R-GCVP療法はR-CHOP療法のドキソルビシンをゲムシタビンに置き換えた化学療法です。

ゲムシタビンはDNA合成の阻害薬です。ピリミジン代謝拮抗薬に分類されます。

 

R-GCVP療法の結果、完全奏効率(CR/CRu)は38.7%でした。2年無増悪生存率は49.8%、2年全生存率は55.8%でした。

この数字はR-CHOP療法の臨床試験の結果と比べると低いのですが、心臓に問題のある症例のみの結果なのでおおよそ想定される範囲の数字でしょう。

 

それ以外の治療として、R-CEOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、エトポシド、ビンクリスチン、プレドニゾン)やドキソルビシンのリポソーム製剤などの報告がありますが、前向き臨床試験の文献となっているわけではありません。

同様にドキソルビシンを減量投与もしくは長時間持続投与を行った報告がありますが、前向き臨床試験の文献となっているわけではありません。

今後R-GCVP療法の他の治療との比較試験が登場するまであまりはっきりしたことはわからないでしょう。ただし他の治療は医学的根拠がさらに乏しい状況です。

 

2020年7月時点では、心機能低下によりドキソルビシンを使用できないびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の症例には、R-GCVP療法を推奨します。CEPPCEOPなどはGCVPができない症例のみで検討がよいでしょう。

 

アメリカのNCCNガイドライン(NCCN Guidelines)では、DA-EPOCH-R療法、R-CDOP療法、R-CEPP療法、R-CEOP療法、R-GCVP療法が挙げられています。どれかを特に推奨しているわけではありません。

日本の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、「ドキソルビシンの投与量低減あるいは中止,持続投与への変更を考慮する。ドキソルビシンを他の薬剤へ変更した治療法は代替治療となる可能性があるが,有用性は証明されていない」としています。

 

まとめ びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 ダブルヒット、高齢者、心不全症例の初回治療

 ダブルヒットびまん性大細胞型B細胞リンパ腫にR-CHOP療法よりも強い化学療法を検討する場合がありますが、R-CHOP療法ともっと強力な化学療法のどちらがよいのかはっきりしてはいません。追加で自家造血幹細胞移植を行う意味はないでしょう。

● びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する抗がん剤化学療法を高齢だけを理由に医学的根拠なく減量することは推奨しません

● 心機能低下によりドキソルビシンを使用できないびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の症例には、医学的根拠が強いわけではありませんがR-GCVP療法がCEPPやCEOPなどよりもよいでしょう。

参考文献

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Br J Haematol. 2014 Sep;166(6):891-901.

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2018年造血器腫瘍診療ガイドライン

NCCN Guidelines


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