びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後と細胞起源 GCBとABC

2020-08-11

Hansアルゴリズム GCB non-GCB

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の予後が遺伝子発現パターンや由来細胞によって異なる可能性が様々な研究で指摘されました。

遺伝子発現パターンからグループ分けを行い、「胚中心B細胞型(GCB)」「活性B細胞型(ABC)」による予後の違いの検討が2000年ごろから研究されています。

しかしながら、結果に一貫性がなく必ずしも生存率と関連しているとは言えません。

本項ではびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の細胞起源と予後について医学文献を参照にしつつ解説していきます。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後指標については「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の予後、予後指標」をご覧ください。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後 遺伝子発現とHansアルゴリズム

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫であっても、症例によってその性格は様々です。増殖のはやいタイプや化学療法が効きにくいタイプもあります。

これらのタイプによる違いは発現している遺伝子の違いからきているのではないかと予想されました。

 

2002年に報告された後ろ向き研究で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞に発現している遺伝子を多数しらべました(N Engl J Med. 2002 Jun 20;346(25):1937-47)。

リンパ腫細胞に発現している遺伝子の種類によって「胚中心B細胞型(GCB)」「活性B細胞型(ABC)」「タイプ3」の3つに分けられました(下図).

GEP 胚中心B細胞、活性B細胞

この図では、赤いほど遺伝子発現していることを示しています。「胚中心B細胞型」と「活性B細胞型」で明らかに発現している遺伝子が異なります。

全生存率は「胚中心B細胞型」、「活性B細胞型」、「タイプ3」で明らかな差がみられました(下図, p<0.001)。

GEP 胚中心B細胞、活性B細胞 全生存率

「胚中心B細胞型」は「活性B細胞型」や「タイプ3」よりも予後が良好でした

 

しかしながら、多数の遺伝子発現を調べるのはかなりの費用がかかるだけでなく、そもそも一部の施設でしか検査できませんでした。

2004年に免疫染色を用いて「胚中心B細胞型(GCB)」かそうでない「非胚中心B細胞型(non-GCB)」か区別する方法が後ろ向き研究をもとに提唱されました。Hansアルゴリズムとよばれます(下図 Blood. 2004 Jan 1;103(1):275-82)。

Hansアルゴリズム GCB non-GCB

CD10染色、BLC-6染色、MUM1染色で分類します。

30%以上のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞が染色されれば陽性と判断します。病理診断と同時に簡単にできるためよく行われます。下図はその例です。

Hansアルゴリズム CD10 BCL6 MUM1

この後ろ向き研究では、「胚中心B細胞型(GCB)」のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫のほうが「非胚中心B細胞型(non-GCB)」より全生存率が統計学的にも明らかに良好でした(下図, p<0.001, Blood. 2004 Jan 1;103(1):275-82)。

Hans GCB vs non-GCB, 全生存

遺伝子発現検査とHansアルゴリズムの一致率は、「胚中心B細胞型(GCB)」で71%, 「非胚中心B細胞型(non-GCB)」で88%でした。

これ以降Hansアルゴリズムが遺伝子発現検査の代用として広く用いられるようになりました。免疫染色だけなので手軽にできるためです。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後 新規アルゴリズムの登場

遺伝子発現検査の代用として、免疫染色によるさらに正確な分類アルゴリズムが研究されつづけました。

2009年に後ろ向き研究にもとづいて新しい免疫染色によるアルゴリズムが提唱されました(Clin Cancer Res. 2009 Sep 1;15(17):5494-502)。

Choiアルゴリズムと呼ばれます。下図のように「胚中心B細胞型(GCB)」と「活性B細胞型(ABC)」に分類していきます。

Choiアルゴリズム GCB ABC

Hansアルゴリズムと異なりGCET1とFOXP1による免疫染色を用います。以下は染色の例です。

Choiアルゴリズム GCET1 MUM1 CD10 BCL6 FOXP1

ChoiアルゴリズムはHansアルゴリズムと比べて、遺伝子発現検査との一致率が高い結果でした。Hansアルゴリズムと遺伝子発現検査の一致率は86%であったのに対して、Choiアルゴリズムでは93%でした(下図)。

Choiアルゴリズム GEPとの一致率

Choiアルゴリズムでも、全生存率は「胚中心B細胞型(GCB)」のほうが「活性B細胞型(ABC)」よりも良好でした(下図, p<0.001)。

Choiアルゴリズム 全生存率 GCB vs ABC

ChoiアルゴリズムのほうがHansアルゴリズムよりも遺伝子発現検査結果に近いとされました。

 

さらに2011年に新たなアルゴリズムが提唱されました(J Clin Oncol. 2011 Jan 10;29(2):200-7)。

この後ろ向き研究では以下のように「胚中心B細胞型(GCB)」と「活性B細胞型(ABC)」に分類しました。Tallyアルゴリズムと呼ばれます。

Tallyアルゴリズム GCB ABC

LMO2染色を用いることが今までとの違いになります。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の由来細胞を推定していることから、胚中心B細胞(GCB)あるいは活性B細胞をびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の細胞起源と考えられるようになりました。

このTallyアルゴリズムは、HanやChoiなどよりも遺伝子発現検査との一致率が高い結果でした。Hansでは86%, Choiでは87%でしたが、Tallyアルゴリズムでは93%と高い一致率でした。

Tallyアルゴリズムでも全生存率は「胚中心B細胞型(GCB)」のほうが「活性B細胞型(ABC)」よりも良好でした(下図, p=0.0019)。

Tallyアルゴリズム 全生存率 GCB vs ABC

TallyアルゴリズムがHansやChoiのアルゴリズムよりも良いとされました。

 

 

複数のアルゴリズムが出現したたため、遺伝子発現検査との予後比較が行われました。2011年に後ろ向き研究の結果が出版されています(Blood. 2011 May 5;117(18):4836-43)。

遺伝子発現検査による「胚中心B細胞型(GCB)」と「活性B細胞型(ABC)」では、予後に明らかな違いがみられました(下図 p=0.03)。

アルゴリズム vs GEP, GEP 全生存率

ところが、HansやChoiやTallyなどのアルゴリズムでは「胚中心B細胞型(GCB)」と「非胚中心B細胞型(non-GCB)」の生存率に差がみられませんでした(下図 左からHans, Choi, Tallyアルゴリズム)。

アルゴリズム vs GEP, アルゴリズム 全生存率

遺伝子発現検査の代用として免疫染色によるアルゴリズムが開発されてきましたが、必ずしも予後を予測できているわけでない可能性が考えられるようになります。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の細胞起源と予後は必ずしも関連しない

2012年にMDアンダーソンがんセンターから遺伝子発現検査とアルゴリズムについての後ろ向き研究を行った結果が報告されました(Leukemia. 2012 Sep;26(9):2103-13)。

遺伝子発現検査では「胚中心B細胞型(GCB)」と「活性B細胞型(ABC)」で全生存率が異なりました(下図).

Visco GEP GCB vs ABC 全生存率

HansとChoiでは「胚中心B細胞型(GCB)」と「非胚中心B細胞型(non-GCB)」に差がみられました。遺伝子発現検査との一致率はHansで87.3%, Choiで90.1%でした。

この研究で提唱されたアルゴリズムは以下のようになります。Visco-Youngアルゴリズムと呼ばれます。

Visco-Youngアルゴリズム

4種類の免疫染色、もしくは3種類の免疫染色を用います。遺伝子発現検査との一致率は92.8%でした。

Visco-Youngアルゴリズムでも「胚中心B細胞型(GCB)」と「非胚中心B細胞型(non-GCB)」では生存率に有意な差がみられます(下図, p=0.003)。

Visco アルゴリズム GCB vs non-GCB 全生存率

Visco-Youngアルゴリズムは遺伝子発現検査との一致率も高く、他のアルゴリズムよりもよく、遺伝子発現検査と比較しても予後予測の代替も可能とされました。

 

しかしながら、いままでのアルゴリズムの経緯があります。本当によいアルゴリズムはどれなのでしょうか?

2013年に今までのアルゴリズムを検証した後ろ向き研究の結果が出版されました(Clin Cancer Res. 2013 Dec 15;19(24):6686-95)。

いずれのアルゴリズムも遺伝子発現検査と一致するようにつくられたものですが、すべてのアルゴリズムで「胚中心B細胞型(GCB)」と一致したのは4%でした。「非胚中心B細胞型(non-GCB)」と一致したのは21%でした。

アルゴリズムどうしの一致率は低すぎると言わざるを得ません。

さらには、いずれのアルゴリズムも「胚中心B細胞型(GCB)」と「非胚中心B細胞型(non-GCB)」で生存率に有意な差がみられませんでした(下図)。

アルゴリズム比較 OS EFS

免疫染色によるアルゴリズムで「胚中心B細胞型(GCB)」と「非胚中心B細胞型(non-GCB)」にわけることは予後を予測できていない可能性があります。

複数のアルゴリズムを用いることにも意味はないでしょう。

 

 

Lymph2Cxという遺伝子発現検査が登場します。いままでの遺伝子発現検査と異なりホルマリン固定・パラフィン包埋した検体(病理検体)であっても遺伝子発現を調べることができます。

2014年にLymph2Cxを用いた研究の結果が出版されました(Blood. 2014 Feb 20;123(8):1214-7)。

結果は下図のようになり、「胚中心B細胞型(GCB)」と「活性B細胞型(ABC)」と「その他」に分けられます.

Lymph2Cx 結果

Lymph2Cxでも「胚中心B細胞型(GCB)」と「活性B細胞型(ABC)」で明らかな生存率の差がみられました(下図).

Lymph2Cx GCB vs ABC, 全生存

この研究ではHans, Choi, Tallyのアルゴリズムも検証しましたが、いずれも「胚中心B細胞型(GCB)」と「非胚中心B細胞型(non-GCB)」で生存率に有意な差がみられませんでした。

 

前向きの臨床試験でLymph2Cxが検証されました(J Clin Oncol. 2017 Aug 1;35(22):2515-2526)。RICOVER-60試験とR-MegaCHOEP試験という2つの大規模試験で使用されました。

「胚中心B細胞型(GCB)」と「活性B細胞型(ABC)」で全生存率を比較したところ、どちらの試験でも予後に有意な差はみられませんでした(下図)。

Lymph2Cx RICOVER60 R-MEGACHOEP, 全生存率 GCB vs ABC

上図のどちらの臨床試験でも2群間でほとんど差がありません。Lymph2Cxによる遺伝子発現検査でも予後を分けることができなかったのです。

この結果から、遺伝子発現に基づいて予後を分けることは医学的にあまり意味があるとは言えなくなります。

 

2018年に報告された大規模後ろ向き研究でも、Hansアルゴリズムによる「胚中心B細胞型(GCB)」と「非胚中心B細胞型(non-GCB)」で生存率に有意な差がみられませんでした (下図 Br J Haematol. 2018 Aug;182(4):534-541)。

GELTAMO-IPI Hans GCB vs non-GCB 全生存率

遺伝子発現も免疫染色アルゴリズムも生存率に有意な差がみられるとはかぎらず、細胞起源に基づいて予後を分けることは医学的に意味があるとは必ずしも言えません

そもそも多くの研究は後ろ向き研究のためバイアスが大きく入ります。前向き臨床試験で用いた場合は予後をわけることができていません。

 

それでも免疫染色アルゴリズムを用いるのであれば、少なくともそれぞれの免疫染色で何%に陽性なのかということが重要です。免疫染色による判定は病理医の間でも違いが大きいという問題もあります。

実際の臨床で遺伝子発現や免疫染色アルゴリズムで治療を変更するべきかどうかについては、医学的根拠が乏しいのが現状です。

 

まとめ びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後と細胞起源

遺伝子発現検査による分類で「胚中心B細胞型」「活性B細胞型」よりも予後が良好でした。免疫染色を用いて「胚中心B細胞型(GCB)」か「非胚中心B細胞型(non-GCB)」か区別するHansアルゴリズムが遺伝子発現検査の代用として広く用いられるようになりました。

● Choiアルゴリズム、Tallyアルゴリズムなどがその後登場しました。胚中心B細胞(GCB)あるいは活性B細胞をびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の細胞起源と考えられるようになりました。

● 複数のアルゴリズムが登場しましたが、その後の研究で一致率は低いことや必ずしも「胚中心B細胞型(GCB)」と「非胚中心B細胞型(non-GCB)」で生存率に有意な差がみられないことがわかりました。遺伝子発現検査でも予後を分けることができず、細胞起源に基づいて予後を分けることは医学的にあまり意味があるとは言えなくなりました

参考文献

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The use of molecular profiling to predict survival after chemotherapy for diffuse large-B-cell lymphoma
N Engl J Med. 2002 Jun 20;346(25):1937-47.

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Blood. 2004 Jan 1;103(1):275-82.

William W L Choi, Dennis D Weisenburger, Timothy C Greiner, et al.
A New Immunostain Algorithm Classifies Diffuse Large B-cell Lymphoma Into Molecular Subtypes With High Accuracy
Clin Cancer Res. 2009 Sep 1;15(17):5494-502.

Paul N Meyer, Kai Fu, Timothy C Greiner, et al.
Immunohistochemical Methods for Predicting Cell of Origin and Survival in Patients With Diffuse Large B-cell Lymphoma Treated With Rituximab
J Clin Oncol. 2011 Jan 10;29(2):200-7.

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Gene-expression profiling and not immunophenotypic algorithms predicts prognosis in patients with diffuse large B-cell lymphoma treated with immunochemotherapy.
Blood. 2011 May 5;117(18):4836-43.

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Comprehensive Gene Expression Profiling and Immunohistochemical Studies Support Application of Immunophenotypic Algorithm for Molecular Subtype Classification in Diffuse Large B-cell Lymphoma: A Report From the International DLBCL Rituximab-CHOP Consortium Program Study
Leukemia. 2012 Sep;26(9):2103-13.

Rita Coutinho, Andrew James Clear, Andrew Owen, et al.
Poor Concordance Among Nine Immunohistochemistry Classifiers of Cell-Of-Origin for Diffuse Large B-cell Lymphoma: Implications for Therapeutic Strategies
Clin Cancer Res. 2013 Dec 15;19(24):6686-95.

David W Scott, George W Wright, P Mickey Williams, et al.
Determining Cell-Of-Origin Subtypes of Diffuse Large B-cell Lymphoma Using Gene Expression in Formalin-Fixed Paraffin-Embedded Tissue
Blood. 2014 Feb 20;123(8):1214-7.

Annette M Staiger, Marita Ziepert, Heike Horn, et al.
Clinical Impact of the Cell-of-Origin Classification and the MYC/ BCL2 Dual Expresser Status in Diffuse Large B-Cell Lymphoma Treated Within Prospective Clinical Trials of the German High-Grade Non-Hodgkin's Lymphoma Study Group
J Clin Oncol. 2017 Aug 1;35(22):2515-2526.

Carlos Montalbán, Antonio Díaz-López, Alejandro Martín, et al.
Differential prognostic impact of GELTAMO-IPI in cell of origin subtypes of Diffuse Large B Cell Lymphoma as defined by the Hans algorithm.
Br J Haematol. 2018 Aug;182(4):534-541.

 


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