びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の予後 BCL2とMYC

2020-08-11

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫 BLC2 MYC染色

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)症例の中には、様々な蛋白の発現や遺伝子異常がみられます。これらの発現や異常は症例それぞれです。

蛋白の種類や遺伝子異常の種類によっては、予後に影響するタイプがあることがわかってきています。BCL2, BCL6, MYCはその中でも特に研究がすすんでいます。

本項では、BCL2, BCL6, MYCと予後の関係について解説します。特にMYCは予後に悪影響を及ぼすことがわかってきています。本項でも医学文献を参照に解説します。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後指標については「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の予後、予後指標」をご覧ください。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後 BCL2とBCL6

BCL2蛋白というのはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫で発現することがある蛋白です。BCL2発現に関与するBCL2遺伝子(18q21)の転座が関与することがあります。

BCL2遺伝子の転座はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例の15~30%程度にみられます。

BCL2蛋白は細胞の寿命を延長させることが知られています。

 

BCL6蛋白はリンパ濾胞形成に関与する蛋白です。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫でも発現していることがあります。

BCL6発現に関与するBCL6遺伝子(3q27)の転座が関与することがあります。

BCL6遺伝子の転座はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例の20~40%程度にみられます。

BCL6遺伝子やBCL6蛋白はリンパ濾胞形成になどに関与しているとされ、この異常がリンパ腫の発生に影響する可能性が指摘されています。

 

BCL2もBCL6も蛋白の発現と遺伝子転座の間にはあまり関連があるとは言えません。遺伝子転座がなくても発現していることはよくあります。BCL2とBCL6の発現は免疫染色で簡単にわかります。

BCL2とBCL6の蛋白発現と遺伝子転座はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後に影響を与えるのでしょうか?

 

 

19998年に報告された研究では、BCL2やBCL6の遺伝子転座による生存率への影響はみられませんでした(Blood. 1998 Nov 1;92(9):3152-62)。

しかしBCL2蛋白の高い発現がみられる症例は統計学的にも明らかに予後不良でした(下図).

BCL2発現 全生存率

 

2010年の報告でもBCL2とBCL6の遺伝子転座と予後について後ろ向きに調査しましたが、やはり生存率に有意な差はみられませんでした(Haematologica. 2010 Jan;95(1):96-101)。

 

2011年の後ろ向き研究ではBCL2蛋白の発現と予後を調べました。BCL2の発現は腫瘍細胞の50%以上にみられたら陽性という基準を用いました。

やはり結果は、BCL2が50%以上陽性となっている症例は統計学的も明らかに予後不良でした(下図, p=0.009)。

BCL2発現50% 全生存率

BCL2については遺伝子転座よりもBCL2蛋白そのものの発現率のほうが予後に影響していると考えられます。

 

 

大規模な前向き臨床試験でもBCL2BCL6について検証されました(Blood. 2013 Mar 21;121(12):2253-63)。

BCL2やBCL6の遺伝子転座は、やはり予後にはあまり関係ありません(下図 左 BCL2転座, 右 BCL6転座).

BCL2転座 BCL6転座 全生存率

しかしBCL2やBCL6の蛋白の発現は予後に影響していました(下図).

BCL2発現 BCL6発現 全生存率

この研究でのBCL2の基準は1%です。少しでも発現していれば、予後に悪く影響していることがわかりました。BCL6に関しては26%以上発現していると、予後は25%以下の症例よりも良好でした。

 

別の前向き臨床試験でもBCL2発現と予後について研究した結果が2017年に出版されました(Ann Oncol. 2017 May 1;28(5):1042-1049).

BCL2の発現が50%以上の症例は予後不良です。基準を70%にしても同様でした(下図 左 50%, 右 70%)。

BCL2発現50% 70% 全生存率

BCL2の発現は多いほど予後に悪影響を及ぼしていると考えられます。

一方でBCL2の転座は予後に影響しているとは言えませんBCL6の転座も同様です。

BCL6の発現が25%を超える場合は、予後が良くなる可能性があります

 

BCL2とBCL6はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫では診断時にしばしば免疫染色を行います。発現が陽性か陰性かの基準はまだ定まっているとはいえません。

陽性か陰性かということよりもこれらの蛋白の発現は何%なのかを確認することが重要です。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後とMYC

MYC遺伝子の転座はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例の15~30%程度にみられます。

MYC蛋白の発現にMYC遺伝子(8q24)の転座が関与することがあります。MYC蛋白は細胞の増殖などに関わるとされます。

MYCの遺伝子転座や蛋白の発現がある場合は、生存率に悪い影響があるとされます。

 

2008年にMYC遺伝子転座と予後の関連について、前向き臨床試験の症例で検討されました(Leukemia. 2008 Dec;22(12):2226-9)。

MYC遺伝子転座があった症例は転座がなかった症例よりも予後は悪い結果でした(下図 p=0.047)。

myc break vs no myc break, OS

さらに別の大規模ランダム化臨床試験の症例でも、MYCの遺伝子転座と蛋白発現と予後について検証されました(Blood. 2013 Mar 21;121(12):2253-63)。

MYC遺伝子転座があると予後が悪い傾向にありましたが、統計学的に有意ではありませんでした(下図, p=0.072)。

myc break vs no myc break, OS 2

この研究ではMYC蛋白の発現は40%を基準にして検討されました。MYC発現が40%をこえる症例はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例のおよそ30%でした。

MYC蛋白の発現が40%以下のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞で陽性だった場合は、40%を超える症例よりも生存率が良好でした(下図)。

myc 発現40%, OS

MYC蛋白の発現については、別の大規模臨床試験でも検証されています(Am J Surg Pathol. 2014 Apr;38(4):494-501)。

この試験ではMYC発現が40%をこえる症例はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例のおよそ14%でした。

やはりMYC蛋白の発現が40%以下のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞で陽性だった場合は40%を超える症例よりも生存率が良好でした(下図).

myc 発現40%, OS2 SWOG

MYC転座がある症例やMYC蛋白発現が40%をこえる症例では予後が悪くなると考えられます。

ただしMYC蛋白発現の基準である40%には問題があります。

 

別の大規模臨床試験ではMYC発現が40%を超えても予後に影響はみられませんでした(下図 Ann Oncol. 2017 May 1;28(5):1042-1049)。

myc 発現40%, OS3 LNH

MYC発現が40%あってもなくても予後はほとんど変わりありません。

 

2019年にMYC発現の一致率について後ろ向き研究が行われました(Hum Pathol. 2019 Jan;83:124-132)。

診断時の解釈と研究時の再検討などを比較しました。全体の一致率は80%でしたが、30~50%の発現では一致率は半分程度になりました。

 

血液専門病理医でない場合の一致率はさらに低下すると考えられます。

免疫染色によるMYC発現を行う場合は、何%に陽性か確認することと40%付近では解釈が困難な可能性を考慮することが重要です。そもそも予後とあまり関係ない可能性もあります。

 

MYC遺伝子転座については前向き臨床試験でも予後が悪い傾向にあります。

2019年末に報告された大規模な後ろ向き研究では、2000例以上のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例でMYC遺伝子転座を検討しましたが、やはり転座があると予後は悪い結果でした(J Clin Oncol. 2019 Dec 10;37(35):3359-3368)。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後とダブルヒット

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫 BLC2 MYC染色

MYC蛋白とBCL2蛋白の両方を発現していると生存が悪化する可能性があります(上の図はMYC 15%, BCL2 85%).

 

2012年にMYCとBCL2の発現について後ろ向き研究の結果が報告されました(J Clin Oncol. 2012 Oct 1;30(28):3452-9)。

免疫染色でMYCが40%以上発現しているのと同時にBCL2も50%以上発現している場合、長期生存率がおよそ半分くらいに低下していました(下図)。

Double expressor, 全生存率

どちらも発現している症例は21%でした。

 

前向き臨床試験でもMYC蛋白とBCL2蛋白の両方の発現と予後について検証されています(Ann Oncol. 2017 May 1;28(5):1042-1049)。

免疫染色でMYCが40%以上発現しているのと同時にBCL2も70%以上発現している症例の予後は、そうではない症例とほとんど変わりありませんでした(下図)。

Double expressor, LNH 全生存率

免疫染色でMYCとBCL2の両方を発現しているびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の場合を「Double expression」もしくは「Double expressor」とよばれます。

ただし免疫染色での発現率の解釈は一致率が高いとは言えないので、少なくともMYCとBCL2は何%に陽性か必ず確認することが大切です。そもそも予後にあまり関係していない可能性もあります。

 

 

MYC領域の染色体転座(8q24転座)と同時にBCL2領域の染色体転座(18q21転座)がある場合は、きわめて予後不良であるという後ろ向き研究の結果が2012年に出版されました(J Clin Oncol. 2012 Oct 1;30(28):3460-7)。

MYCとBCL2の両方に遺伝子転座があると長期生存はかなり低下します(下図)。

Double hit, 全生存率

 

2019年末に報告された2000例以上の大規模な後ろ向き研究では、MYCとBCL2の両方に遺伝子転座があるとMYC遺伝子転座単独よりもさらに予後は悪いという結果でした(下図 J Clin Oncol. 2019 Dec 10;37(35):3359-3368)。

Double hit, MYC only, MYC negative 全生存率

 

MYCやBCL2の領域の転座はFISH検査という遺伝子検査で確認します。

両方とも転座がみられるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫は「Double hit」と呼ばれ、全生存率が特に低い可能性が指摘されています。

「Double hit」はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の約5%にみられます。

通常のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療ではない方法を選択する必要が検討されています。診断時のFISH検査の結果を確認することがとても大切です。

 

まとめ びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後 BCL2とMYC

BCL2の発現は多いほど予後に悪影響を及ぼしていると考えられます。BCL6の発現が25%を超える場合は予後が良くなる可能性があります。BCL2やBCL6の転座は予後に影響しているとは言えません。

MYC遺伝子転座があると予後に悪影響を及ぼすと考えられます。MYC発現が40%を超えると予後が悪くなる可能性がありますが、解釈が困難なためか一貫した結果ではありません。

● MYCとBCL2の両方を発現しているびまん性大細胞型B細胞リンパ腫は予後が悪い可能性がありますが、解釈が困難なためか一貫した結果ではありません。MYCとBCL2の両方とも転座がみられるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫は「Double hit」と呼ばれ全生存率が特に低い可能性が指摘されています。「Double hit」はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の約5%にみられます。

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