急性リンパ芽球性白血病に対するGRAALL-2005療法の実際と注意点(前半)

2020-06-09

GRAALL-2005R 急性リンパ芽球性白血病 寛解導入療法1

 

急性リンパ芽球性白血病(ALL)・リンパ芽球性リンパ腫(LBL)の診断が確定したら治療を行います。フィラデルフィア染色体異常が陰性の症例で、若年者の場合は小児で行うような治療(小児レジメン)を用います。

どこからが若年者で小児レジメンの適応になるかは、各治療方法によって異なります。

たとえばCALGB 10403では40歳未満です。JALSG ALL202-Uでは25歳未満です。

GRAALL-2005/Rでは55歳未満となります。若年者という言葉は曖昧なところがあります。

フィラデルフィア染色体異常が陰性の急性リンパ芽球性白血病に対してどのような治療が医学的根拠があるのかについては「フィラデルフィア染色体陰性の急性リンパ芽球性白血病の初回化学療法」をご覧ください。

 

本項では成人に使用する小児レジメンの一つであるGRAALL-2005/Rの実際の投与と注意点について記載します。GRAALLは「グラール」と読みます。

この小児レジメンの特徴の一つは、低リスクで奏効が良い症例では同種造血幹細胞移植を行う必要がない可能性がでることです。

小児レジメンの中でCALGB 10403などは日本で使用できない薬剤が含まれています。

またリツキシマブの併用を検討した小児レジメンはGRAALL-2005/Rくらいです。

一般に小児レジメンはHyper-CVAD療法などの成人の治療よりもさらに強い治療です。複雑でもあります。

本項では、比較的高齢でも使用可能で、リツキシマブを併用できる小児レジメンである、GRAALL-2005/Rの解説をいろいろな文献を参照にしつつ順を追って行います。

 

GRAALL-2005/Rで治療を開始する前に行うこと

急性リンパ芽球性白血病・リンパ芽球性リンパ腫の治療を開始する前に診断が濃厚な時点で治療前検査などを行います。

GRAALL-2005/Rに準じて治療を行う場合はアントラサイクリン系薬剤が含まれます。

アントラサイクリン系薬剤は心臓に毒性があるため、使用前に心機能を心臓超音波検査で確認します。

心不全が重度だとアントラサイクリン系薬剤を使用することはできません。

 

また急性リンパ芽球性白血病の治療中にはリツキシマブを使用してもしなくても、B型肝炎ウイルスが再活性化することがあります。

再活性化するのは以前にB型肝炎にかかったことがある人だけですが、B型肝炎は感染しても無症状のことがしばしばあり、自分では感染していたことに気が付かないことがあります。

採血検査でB型肝炎の感染状態を確認することができます。急性リンパ芽球性白血病の場合は、鑑別診断の時点でHIVやHTLV-1などのウイルスの感染状態も確認します。

 

GRAALL-2005での治療は副腎皮質ステロイドの総量がかなり多くなります。

若年といえでも長期の治療になるため骨粗鬆症をおこしてしまうことがあります。治療開始前に骨密度を確認します。

50歳くらいだとこの時点で骨密度が低い場合があり、骨粗鬆症の薬剤を使用することがあります。

 

GRAALL-2005で治療を行う場合はほとんどの症例で生殖可能な年齢となります。

GRAALL-2005による強力抗がん剤化学療法や同種造血幹細胞移植を行うと妊孕性が失われる可能性がかなり高くなります。

男性も不妊症になり得ます。男性の場合は精子凍結保存を行う時間的余裕があることが多いので精子凍結保存をすすめます。緊急を要する状態の場合は下記の副腎皮質ステロイド投与時期に全身状態が落ち着いたところで凍結保存となります。

女性の場合は選択肢としては、適切なパートナーがいる場合には受精卵凍結保存、パートナーがいなければ研究段階ですが卵子凍結保存、卵巣凍結保存などがありますが、治療開始までの時間を考慮するとこれらを行う余裕がないことが多いです。

 

セカンドオピニオンを希望する場合もこのタイミングになります。あまり日数に余裕はないかもしれませんので、希望される場合は早めにお伝えください。

GRAALL-2005での治療はヨーロッパで広く行われています。アメリカでは40歳未満にはCALGB10403、BFM、DFCIを用いることが多いです。

日本では25歳未満まではJALSG ALL 202-Uを用いることが多いでしょう。40歳未満でもCALGB10403には日本未承認薬が含まれるため使用はまずできません。

GRAALL-2005は日本でも可能です。55歳までGRAALL-2005が可能ですが、日本ではJALSG ALL 202-Oを行う施設も多いかもしれません。可能な症例には小児レジメンをすすめます。

各施設・各医師が急性リンパ芽球性白血病に対してどのような治療を行っているかという公開された情報は乏しく、GRAALLなどのJALSGではない治療をおこなっているかどうかなどは、まずわかりません。

これは急性リンパ芽球性白血病だけでなく他の血液疾患でも同様のことが言えます。実際に受診するまでどのような治療を行っているかわからないと考えてください。

 

実際に治療を開始するにあたって、フィラデルフィア染色体t(9;22)異常が陰性で、特定の染色体転座が見つからない症例では、この時点で測定可能残存病変(微小残存病変 MRD)の測定のための準備が必要です。

今後、測定可能残存病変の有無により治療方針が変わる可能性があるためです。

腫瘍細胞を含む検体(血液または骨髄液)を採取し、腫瘍細胞の遺伝子再構成配列を特定し今後PCRで測定できるようにしておきます。

 

GRAALL-2005/R 副腎皮質ステロイドのよるプレフェイズ

GRAALL-2005/Rを開始するときは、最初に1週間の副腎皮質ステロイドによるプレフェイズがあります(N Engl J Med. 2016 Sep 15;375(11):1044-53, J Clin Oncol. 2018 Aug 20;36(24):2514-2523)。

プレドニゾンという副腎皮質ステロイドを1週間内服します。およそ100 mgという多めの量の内服になります。

日本ではプレドニゾンは承認されていませんので代謝産物であるプレドニゾロンで代用します。どちらもほとんど変わりありません。

また最初の4日間のうちのどこかでメソトレキセートの髄腔内投与を行います。メソトレキセートは葉酸代謝拮抗薬です。髄腔内投与によく用います。

 

髄腔内投与というのは、腰椎穿刺という背骨である腰椎と腰椎の間を細い針で刺して、その中を流れる脳脊髄液へ投与することです。この際に脳脊髄液を採取し、中枢神経系に急性リンパ芽球性白血病細胞が浸潤しているかどうかを確認します。

確認には「細胞診」という脳脊髄液を顕微鏡で見る検査と、「フローサイトメトリ」という細胞に発現している蛋白を見る検査を少なくとも行います。

この時点で急性リンパ芽球性白血病細胞が検出されたら、今後の髄腔内投与の回数がかわります。

腰椎穿刺・髄腔内投与では痛みはそれほどでもありませんが時間がかかります。検査後によく頭痛が起こります。

どのようにして行うのかについては、こちらも映像を見たほうがわかりやすいです。下のYoutube動画をご確認ください(この動画では脳脊髄液採取までで終了しています)。

 

このプレフェイズは弱い治療ですがかなり重要な治療です。

この副腎皮質ステロイドだけでも急性リンパ芽球性白血病細胞が大きく減少することがよくあります

悪性細胞の崩壊がすさまじく悪性細胞内の物質が血中に大量に放出される「腫瘍崩壊症候群」を起こすことがしばしばあります。

腫瘍崩壊症候群を起こしてしまうと腎不全、けいれん、不整脈などの重篤な有害事象が発生し生命に関わります。

このプレフェイズの段階で腫瘍崩壊症候群予防は必要です

 

腫瘍崩壊症候群は「大量輸液」「尿酸を低下させる薬剤」を用いて予防します。適切に予防することで腫瘍崩壊症候群による重篤な症状が発生する可能性はほぼゼロになります。

「大量輸液」は1日におよそ4.5Lです(3 L/m²)。大量輸液は腫瘍崩壊症候群の予防に最も有効な手段です。

投与量が少ないと腫瘍崩壊症候群を起こしてしまいますので、適切な量を投与する必要があります。副腎皮質ステロイド内服開始数時間前から開始しておきます。

大量輸液により腫瘍崩壊で生じた物質を希釈・排泄させます。

腫瘍崩壊により「尿酸」が上昇します。尿酸が急激に増えると臓器障害を起こしますので、尿酸に対する薬剤を使用します。

アロプリノールの内服で尿酸が増えないようにしますが、急性リンパ芽球性白血病の場合は、ラスブリカーゼ(商品名:ラスリテック)を点滴投与して尿酸を低下させることが多いです。アロプリノールとの併用です。

アロプリノールのかわりにフェブキソスタット(商品名:フェブリク)を内服することもあります。

腫瘍崩壊症候群の可能性があるうちは連日の採血が必要です。腫瘍細胞が十分に減少するまでは「大量輸液」と毎日の採血は続きます。

 

GRAALL-2005では血糖値の上昇がよくあります。感染症を起こしやすくなります(Cancer. 2004 Mar 15;100(6):1179-85)。

血糖コントロールが必要な時は2型糖尿病と同じように内服薬から開始します。それでもコントロール不良であればインスリン投与を検討します。

ただしインスリンを投与して厳密な血糖コントロールを行っても、予後は改善しないどころか逆に悪化する可能性がありますのでインスリンを使用するときはよほどの場合です(Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2012 Oct;12(5):355-62)。

 

副腎皮質ステロイドのため胃炎を起こしやすくなります。予防のためにプロトンポンプ阻害薬をあらかじめ併用することが多いです。

 

多くの場合はプレフェイズ開始前から、正常な白血球少なく感染症を起こしやすい、あるいはすでに起こしています。

一般細菌による感染だけでなく、真菌(カビ)やヘルペスウイルスによる感染症も起こります。これらの感染症は生命に関わる可能性もあるため、予防内服をおこないます。

抗菌薬としてはシプロフロキサシンもしくはレボフロキサシンを用います。

抗真菌薬はフルコナゾールなどを用います。

抗ウイルス薬はアシクロビルもしくはバラシクロビルを用います。

 

このプレフェイズが終了する段階で、血中の急性リンパ芽球性白血病細胞の数が1000 /μLを超えているとそれだけで、GRAALL-2005では高リスクと判定されます。

通常の症例では副腎皮質ステロイドによるプレフェイズだけで1000/μL未満になるまで奏効します。

1週間のプレフェイズが終了したら、そのまま寛解導入療法にうつります。

 

GRAALL-2005/R 寛解導入療法

GRAALL-2005/Rの寛解導入療法は以下のようなスケジュールで行います(下図).

GRAALL-2005R 急性リンパ芽球性白血病 寛解導入療法1

寛解導入療法は約1か月かかります。

プレドニゾンは同じ量のままさらに2週間継続します。プレフェイズと含めて3週間連続の内服になります。3週間内服したらそのまま終了します。漸減は不要です。

ビンクリスチンは毎週投与し計4回です。

ダウノルビシンという、アントラサイクリン系薬剤が最初の3日間および15日目と16日目に入ります。

シクロホスファミドは初日と15日目に投与します。Hyper-Cの場合は15日目から3日間の投与ですが、GRAALLの場合はStandard-Cの投与方法でよいです。

L-アスパラギナーゼは8, 10, 12, 20, 22, 24, 26, 28日目に投与します。最初の3回は中枢神経系に浸潤がある場合は投与なしとなります。GRAALLでは静脈内投与となりますが、筋肉注射で投与することもあります。

リツキシマブを用いる場合は初日と7日目に投与します。急性リンパ芽球性白血病細胞の20%以上CD20が陽性の症例に用います。

GRAALL-2005の髄腔内投与メソトレキセート・シタラビン・メチルプレドニゾロンの3剤同時投与です。中枢神経系に浸潤がない場合は予防投与として、初日と8日目に行います。

もし中枢神経系に浸潤がある場合は、18日目までに7回の髄腔内投与を行います。

 

GRAALL-2005は55歳以上の症例では致命的な有害事象を起こす可能性が高くなりますので推奨されません。50歳くらいまでなら、致命的な有害事象を起こす可能性はそれより若い症例と比較してもあまり変わりありません。

 

ダウノルビシンはアントラサイクリン系薬剤の一種で心臓に毒性があります。治療開始前の時点で心機能が著しく低下している場合はダウノルビシンを使用することはできません。

腎機能が低下しているときはダウノルビシンの投与量を減量します。

肝機能が低下しているときはダウノルビシン、ビンクリスチンを減量し、L-アスパラギナーゼは使用しません。肝機能が著しく低下しているときはダウノルビシンの使用はできません。

 

上記の薬剤に加えて有害事象を軽減させるための「支持療法」が加わります。

寛解導入療法でも胃炎を起こしやすくなります。予防のためにプロトンポンプ阻害薬をあらかじめ併用することが多いです。

ダウノルビシンとシクロホスファミドは悪心や嘔吐を起こしやすい薬剤ですので制吐剤を予防投薬します。パロノセトロン(商品名:アロキシ)などの予防用の制吐剤を使用します。

 

プレフェイズ終了時点で急性リンパ芽球性白血病細胞が末梢血に多く残っている場合は、寛解導入療法でも腫瘍崩壊症候群予防の「大量輸液」や「尿酸を低下させる薬剤」が必要です。

副腎皮質ステロイドに不応の急性リンパ芽球性白血病細胞がこの寛解導入療法で著しく減少します。

腫瘍崩壊症候群の可能性があれば連日の採血と大量輸液が再び必要です。

 

GRAALL-2005の寛解導入療法は強力抗がん剤化学療法です。もともと正常な血球が少ない状態で開始しますが、わずかな正常血球はさらに減少します

G-CSF製剤という正常な白血球を上昇させる薬剤があります。GRAALL-2005では18日目からG-CSF製剤の投与を開始します。

G-CSF製剤は複数ありますが、持続効果のあるペグフィルグラチスム(商品名:ジーラスタ)はGRAALL-2005の寛解導入療法では用いません。持続効果期間がその後の治療開始に重なってしまいます。アントラサイクリン系薬剤などとG-CSF製剤との効果が重なるのは避けます。

持続型でないG-CSF製剤を用います。GRAALL-2005ではレノグラスチム(商品名:ノイトロジン)の263μgを投与します。日本ではノイトロジン250μgを連日投与します。フィルグラスチム 300μgでもよいでしょう。

好中球数が十分に上昇するまで連日の皮下注射を行うことになります。

 

感染症はさらに起こしやすくなります。感染症の予防内服を継続します。

特に真菌(カビ)は予防していないと寛解導入療法中だけでも7%くらいに発生します。感染すると致命的になる可能性が20%くらいあります(Leuk Lymphoma. 2017 Mar;58(3):586-593)。

カンジダアスペルギルスが真菌感染症の原因として最も多い真菌です。

フルコナゾールで予防している場合は、アスペルギルス抗原の採血を定期的に行い、陽性化したら早めにアスペルギルスの治療を行います(先制治療)。

 

予防していても発熱する場合があります。正常な白血球(特に好中球)が少ないときの発熱は「発熱性好中球減少症」といい、直ちに点滴の抗生剤投与の適応となります。できれば発熱して30分以内、遅くても60分以内の点滴抗生剤開始です。

発熱したらすぐに伝えてください

正常な白血球が少ない上に、副腎皮質ステロイドなどを使用しているため、点滴抗生剤開始が遅れるとあっという間に重症化・重篤化します。寛解導入療法では感染症が最も生命に影響します。

もし不必要な中心静脈カテーテルが入っていれば早めに抜去してください。発熱する前に抜去することがそもそも望ましいです。

 

赤血球や血小板もさらに減少します。輸血は必須です。

血糖値の上昇には引き続き注意が必要です。採血の時に血糖値も確認します。

 

CD20陽性症例ではリツキシマブを用いますが、初回のリツキシマブの投与はよく「輸注反応」を起こします。悪寒や発熱などが半数くらいにみられます。重症な輸注反応はまれで、ほとんどは一時的な中断の後に問題なく再開できます。

2回目の投与からは輸注反応はあまり起こりません。

 

GRAALL-2005の治療では寛解導入療法開始8日目に骨髄検査を再度行います。骨髄穿刺吸引骨髄生検の両方です。

この時点で急性リンパ芽球性白血病細胞が5%より多ければ、その時点で抗がん剤にやや強いと判断し高リスク症例となります。

 

そして8日目からL-アスパラギナーゼ(商品名:ロイナーゼ)の投与が始まります。アスパラギナーゼは重症な有害事象を起こしやすく投与時は注意深い観察が必要です。

アスパラギナーゼはよくアレルギー反応を起こします。重症なアレルギー反応を起こすこともありますので投与の際には十分に注意してください。

アナフィラキシーショックを起こすこともあります。重篤なアレルギー反応を起こしたらアスパラギナーゼは投与終了です。

リツキシマブを併用しているとアスパラギナーゼによるアレルギー反応はかなり少なくなり、重症なアレルギー反応はほとんど起こりません。

 

アスパラギナーゼはよく急性膵炎を起こすことがあります。その名の通り膵臓の急な炎症です。

急性膵炎は比較的重症化しやすい疾患なので注意が必要なのですが、そもそも小児では頻度は約1.5%程度のところ、成人も含めると1歳~45歳では約7%となります(Br J Haematol. 2013 Sep;162(5):710-3, J Clin Oncol. 2020 Jan 10;38(2):145-154)。

急激な腹痛を特徴とします。急性膵炎ではほぼ全例で腹痛を生じます。1/4の症例で背中まで痛くなります。嘔吐は2/3くらいの症例で起こります。

あまりにも急性膵炎がひどいと昇圧剤が必要なくらいの血圧低下人工呼吸器装着が必要になります。

急性膵炎を起こしたらアスパラギナーゼは投与終了です。再投与をしてしまうと半分くらいの症例でまた急性膵炎になっていまいます。

なおアスパラギナーゼがなぜ急性膵炎をおこすのかについてはほとんどわかっていません。

 

アスパラギナーゼはよく血栓症を起こします(Br J Haematol. 2011 Feb;152(4):452-9)。

GRAALL-2005の臨床試験では静脈血栓症が16%に発生しました。

よく血栓症予防にアンチトロンビン製剤を用いることがありますが、血栓症を予防できるわけではありません。またヘパリンという血液を固まりにくくする薬剤も同様に血栓症を予防できるわけではありません。

静脈に血栓ができると肺動脈に飛んでしまうことがあります(肺血栓塞栓症)。重症化することがありますので注意が必要です(Haematologica. 2008 Oct;93(10):1488-94)。

脳などの中枢神経系にも血栓症を起こす場合がGRAALL-2005では約3%あります(Am J Hematol. 2015 Nov;90(11):986-91)。

中心静脈カテーテル刺入部付近にもよく血栓症ができますので、もし挿入しているのであればアスパラギナーゼを開始する前には抜去しておくことを推奨します。

成人へのアスパラギナーゼの投与は血栓症に注意してください。血栓症になれば血栓を溶かす薬剤の使用を検討する必要があります。

アンチトロンビン製剤やヘパリンの予防投与は予防できないだけでなく、あらたな有害事象を誘発する可能性がありますので推奨はしません。

 

寛解導入療法を開始して2週間くらいで脱毛が起こります。ばっさりと抜けます。

 

寛解導入療法を開始して29日目ごろには血球は回復してきます。

GRAALL-2005ではこのころに寛解導入療法の効果判定として骨髄検査を再び行います。骨髄穿刺吸引と骨髄生検の両方です。

このときは測定可能残存病変(Measurable residual disease, MRD)の検査も行います。微小残存病変とも呼ばれる時がありますが、近年は測定可能残存病変のほうが意味が正確であるとして、微小残存病変という呼び名はあまり用いられなくなってきています。

診断時に骨髄の他にも病変があった場合は、それが消えている必要があります。腫瘤を形成していた場合はCTで消失を確認します。

 

およそ90%で完全寛解(CR/CRi)に到達します。到達していれば高リスク症例では同種造血幹細胞移植の準備を整えつつ「地固め療法」に移行します。

到達していなければ、高リスク症例となります。下記の再寛解導入療法をまずは行います。ただしこの再寛解導入療法が必要になる症例はまれ(5%未満)です。

 

GRAALL-2005/R 再寛解導入療法

GRAALL-2005/Rの寛解導入療法は以下のようなスケジュールで行います(下図).

GRAALL-2005R 急性リンパ芽球性白血病 再寛解導入療法

1サイクルはおよそ1か月です。

イダルビシンアントラサイクリン系薬剤の一種です。ダウノルビシンと同系統です。最初の3日間投与します。

シタラビンは1日2回をおよそ12時間おきに、4日間投与します。計4回です。用量が計16 g/m2と「大量」です。

リツキシマブを併用している場合は、初日と7日目に投与します。

予防としての髄腔内投与はありません。中枢神経系浸潤が最初からあった症例では12日目に投与します。

 

腎機能が低下しているときはイダルビシンとシタラビンの投与量を減量します。腎機能低下が著しいとシタラビンは使用できません。

肝機能が低下しているときは、イダルビシンを減量します。肝機能低下が著しいとイダルビシンは使用できません。

 

再寛解導入療法でも有害事象を軽減させるための「支持療法」が加わります。

大量シタラビンにより、結膜炎を起こすことがありますので、シタラビン投与開始から終了後数日間は点眼を継続します。点眼液を十分に使用し洗い流していくようにします。

大量シタラビンはそれだけでよく発熱皮疹を生じやすいです。4日間の投与中は発熱しやすいです。

大量シタラビン療法ではまれに中枢神経系の障害がおこることがあります。手のひらを裏表と回転させる「回内回外運動」がやりにくくなるようなら投与は中止です。

下の動画のような検査です。開始30秒くらいから始まります。

 

胃炎予防のためにプロトンポンプ阻害薬、悪心・嘔吐予防の制吐剤、感染症予防内服は、寛解導入療法の時と同様です。

腫瘍崩壊症候群予防は必要ないでしょう。

 

再寛解導入療法も強力抗がん剤化学療法です。血球低下をおこします。再寛解導入療法では9日目からG-CSF製剤の投与を開始します。

「発熱性好中球減少症」への注意は引き続き必要です。好中球が低下してからの発熱は、直ちに点滴の抗生剤投与の適応となります。発熱したらすぐに伝えてください。

 

寛解導入療法を開始して28日目ごろから血球は回復してきます。

血球が十分に上昇したら、再度効果判定のための骨髄検査などを行います。

再寛解導入療法を終えても、急性リンパ芽球性白血病細胞が5%以上残存する症例はかなりまれ(2%)です。

 

次項ではGRAALL-2005/Rの「地固め療法」から解説していきます。

GRAALL-2005R Consolidation Block 1
急性リンパ芽球性白血病に対するGRAALL-2005療法の実際と注意点(後半)

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まとめ 急性リンパ芽球性白血病に対するGRAALL-2005療法の実際と注意点(前半)

急性リンパ芽球性白血病・リンパ芽球性リンパ腫の治療を開始する前に診断が濃厚な時点で治療前検査などを行います。測定可能残存病変をPCRで検査可能にするための準備も行います。

● GRAALL-2005/Rを開始するときは、最初に1週間の副腎皮質ステロイドによるプレフェイズがあります。メソトレキセートの髄腔内投与も行います。プレフェイズが終了する段階で、血中の急性リンパ芽球性白血病細胞の数が1000 /μLを超えていると高リスクと判定されます。

● GRAALL-2005/Rの寛解導入療法では、寛解導入療法開始8日目に骨髄検査を再度行います。急性リンパ芽球性白血病細胞が5%より多ければ高リスク症例となります。

● 血球が十分に回復したら寛解導入療法の効果判定として骨髄検査を再び行います。測定可能残存病変の検査も行います。およそ90%で完全寛解に到達します

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