急性リンパ芽球性白血病に対するGRAAPH-2005療法の実際と注意点(前半)

2020-06-12

 

急性リンパ芽球性白血病(ALL)・リンパ芽球性リンパ腫(LBL)の診断が確定したら治療を行います。フィラデルフィア染色体異常が陽性の症例では、イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬化学療法を併用します。

フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ芽球性白血病に対しては、併用する化学療法は強力抗がん剤化学療法よりも減弱化学療法のほうが毒性が少なく奏効率が高いため、減弱化学療法を推奨します。

フィラデルフィア染色体異常が陽性の急性リンパ芽球性白血病に対してどのような治療が医学的によいのかについては「フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ芽球性白血病の初回化学療法」をご覧ください。

 

本項ではイマチニブ減弱化学療法を併用した治療であるGRAAPH-2005について解説します。

GRAAPH-2005の減弱化学療法は強力抗がん剤化学療法であるHyper-CVAD療法よりも初回治療を弱くすることにより、毒性を減らし奏効率を上昇させた治療方法です。

GRAAPH-2005の実際の投与スケジュールとその注意点について順番に解説していきます。

 

GRAAPH-2005での治療を開始する前に行うこと

急性リンパ芽球性白血病・リンパ芽球性リンパ腫の治療を開始する前に診断が濃厚な時点で治療前検査などを行います。

フィラデルフィア染色体異常をともなう急性リンパ芽球性白血病・リンパ芽球性リンパ腫に対しては、減弱化学療法を初回化学療法として行いますが、同種造血幹細胞移植の適応についても同時に確認していきます。

 

減弱化学療法を行う場合はアントラサイクリン系薬剤が含まれませんので、アントラサイクリン系薬剤による心毒性は考える必要はありません。

しかしながら、大量輸液などは必要になりますので、治療開始前に心機能心臓超音波検査で確認します。

 

急性リンパ芽球性白血病の治療中にはB型肝炎ウイルスが再活性化することがあります。

再活性化するのは以前にB型肝炎にかかったことがある人だけですが、B型肝炎は感染しても無症状のことがしばしばあり、自分では感染していたことに気が付かないことがあります。

採血検査でB型肝炎の感染状態を確認することができます。

急性リンパ芽球性白血病の場合は、鑑別診断の時点でHIVやHTLV-1などのウイルスの感染状態も確認します。

 

急性リンパ芽球性白血病の治療では減弱化学療法でも副腎皮質ステロイドを高用量で使用します。

長期の治療になるため骨粗鬆症をおこしてしまうことがあります。治療開始前に骨密度を確認します。

この時点で骨密度が低い場合は全身状態が落ち着いたところで骨粗鬆症の薬剤を使用することがあります。

 

急性リンパ芽球性白血病・リンパ芽球性リンパ腫は生殖可能な年齢でも発生します。強力抗がん剤化学療法や同種造血幹細胞移植を行うと妊孕性が失われる可能性が高いです。

男性も不妊症になり得ます。男性の場合は精子凍結保存を行う時間的余裕がありますので、生殖可能年齢であれば精子凍結保存をすすめます。

女性の場合は選択肢としては、パートナーがいる場合に受精卵凍結保存、パートナーがいなければ研究段階ですが卵子凍結保存、卵巣凍結保存などがあります。治療開始までの時間を考慮すると、これらを行う余裕がないことが多いです。

 

セカンドオピニオンを希望する場合もこのタイミングになります。あまり日数に余裕はないかもしれませんので、希望される場合は早めにお伝えください。

フィラデルフィア染色体異常のある急性リンパ芽球性白血病に対しては、ほとんどの施設でチロシンキナーゼ阻害薬化学療法を併用します。

しかしながら、どの施設がどのようなチロシンキナーゼ阻害薬と化学療法を用いているかについては公開された情報は乏しく、実際にセカンドオピニオンで受診するまではその施設の治療についてはわからないでしょう。

日本ではJALSG Ph+ALL202のようにイマチニブ+強力化学療法が多いかもしれませんが、当サイトではGRAAPH-2005などのイマチニブ+減弱化学療法を推奨します。

チロシンキナーゼ阻害薬はイマチニブではなくダサチニブなどを用いる施設もあるでしょう。

 

フィラデルフィア染色体異常のある急性リンパ芽球性白血病では、可能であれば同種造血幹細胞移植を検討しますので細胞の型(HLA)の検査を兄弟姉妹も含めて進めていくことになります。

減弱化学療法を用いて治療を行う場合、中心静脈カテーテルの挿入は特に必要ありません。

 

以下、GRAAPH-2005の治療へすすみます(Blood. 2015 Jun 11;125(24):3711-9)。

 

GRAAPH-2005 副腎皮質ステロイドによるプレフェイズ

GRAAPH-2005を開始するときは、最初に1週間の副腎皮質ステロイドによるプレフェイズがあります。

プレドニゾンという副腎皮質ステロイドを1週間内服します。およそ100 mgという多めの量の内服になります。

日本ではプレドニゾンは承認されていませんので代謝産物であるプレドニゾロンで代用します。どちらもほとんど変わりありません。

 

また最初の4日間のうちのどこかでメソトレキセートの髄腔内投与を行います。メソトレキセートは葉酸代謝拮抗薬です。髄腔内投与によく用います。

髄腔内投与というのは、腰椎穿刺という背骨である腰椎と腰椎の間を細い針で刺して、その中を流れる脳脊髄液へ薬剤を投与することです。この際に脳脊髄液を採取し、中枢神経系に急性リンパ芽球性白血病細胞が浸潤しているかどうかを確認します。

確認には「細胞診」という脳脊髄液を顕微鏡で見る検査と、「フローサイトメトリ」という細胞に発現している蛋白を見る検査を少なくとも行います。PCR検査も行われることがあります。

この時点で急性リンパ芽球性白血病細胞が検出されたら、今後の髄腔内投与の回数がかわります。

腰椎穿刺・髄腔内投与では痛みはそれほどでもありませんが、時間がかかります。検査後によく頭痛が起こります。

どのようにして行うのかについては、こちらも映像を見たほうがわかりやすいです。下のYoutube動画をご確認ください(この動画では脳脊髄液採取までで終了しています)。

 

この副腎皮質ステロイドだけでも急性リンパ芽球性白血病細胞が大きく減少することがよくあります。

悪性細胞の崩壊がすさまじく、悪性細胞内の物質が血中に大量に放出される「腫瘍崩壊症候群」を起こすことがしばしばあります。

腫瘍崩壊症候群を起こしてしまうと、腎不全、けいれん、不整脈などの重篤な有害事象が発生し、生命に関わります。

このプレフェイズの段階で腫瘍崩壊症候群予防は必須です。

腫瘍崩壊症候群は「大量輸液」「尿酸を低下させる薬剤」を用いて予防します。適切に予防することで腫瘍崩壊症候群による重篤な症状が発生する可能性はほぼゼロになります。

「大量輸液」は1日におよそ4.5Lです(3 L/m²)。大量輸液は腫瘍崩壊症候群の予防に最も有効な手段です。

投与量が少ないと腫瘍崩壊症候群を起こしてしまいますので、適切な量を投与する必要があります。副腎皮質ステロイド内服開始数時間前から開始しておきます。

大量輸液により腫瘍崩壊で生じた物質を希釈・排泄させます。

腫瘍崩壊により「尿酸」が上昇します。尿酸が急激に増えると臓器障害を起こしますので、尿酸に対する薬剤を使用します。

アロプリノールの内服で尿酸が増えないようにしますが、急性リンパ芽球性白血病の場合は、ラスブリカーゼ(商品名:ラスリテック)を点滴投与して尿酸を低下させることが多いです。アロプリノールとの併用です。

アロプリノールのかわりにフェブキソスタット(商品名:フェブリク)を内服することもあります。

腫瘍崩壊症候群の可能性があるうちは連日の採血が必要です。腫瘍細胞が十分に減少するまでは「大量輸液」と毎日の採血は続きます。

 

GRAAPH-2005では血糖値の上昇がよくあります。感染症を起こしやすくなります(Cancer. 2004 Mar 15;100(6):1179-85)。

血糖コントロールが必要な時は2型糖尿病と同じように内服薬から開始します。それでもコントロール不良であればインスリン投与を検討します。

ただしインスリンを投与して厳密な血糖コントロールを行っても、予後は改善しないどころか逆に悪化する可能性がありますのでインスリンを使用するときは血糖値の上昇が重度の場合です(Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2012 Oct;12(5):355-62)。

 

副腎皮質ステロイドの投与のため胃炎を起こしやすくなります。予防のためにプロトンポンプ阻害薬をあらかじめ併用することが多いです。

もしダサチニブをチロシンキナーゼ阻害薬として用いる予定の場合は、胃薬との相性が悪いため、内服時間をずらしておく必要があります。

 

多くの場合はプレフェイズ開始前から正常な白血球が少なく感染症を起こしやすい、あるいはすでに起こしています。

一般細菌による感染だけでなく真菌(カビ)やヘルペスウイルスによる感染症も起こります。これらの感染症は生命に関わる可能性もあるため予防内服をおこないます。

抗菌薬としてはシプロフロキサシンもしくはレボフロキサシンを用います。

抗真菌薬はフルコナゾールなどを用います。

抗ウイルス薬はアシクロビルもしくはバラシクロビルを用います。

 

1週間のプレフェイズが終了したら、そのまま初回化学療法にうつります。

 

GRAAPH-2005 初回化学療法1サイクル目

GRAAPH-2005の初回減弱化学療法は以下のようなスケジュールになります(下図)。

GRAAPH-2005 cycle 1

減弱化学療法1サイクル目は、28日間の投与になります。

ビンクリスチンは毎週投与し計4回です。

デキサメタゾンは副腎皮質ステロイドの一種です。ビンクリスチン投与日とその翌日に内服します。

イマチニブはチロシンキナーゼ阻害薬です。GRAAPH-2005ではイマチニブを用います。28日間連日の内服です。1日2回内服します。1日計800mgと高用量です。治療期間中はグレープフルーツジュースの摂取は不可です。

 

GRAAPH-2005の髄腔内投与はメソトレキセート・シタラビン・プレドニゾンの3剤同時投与です。中枢神経系に浸潤がない場合は予防投与として、初日と8日目と15日目に行います。

プレフェイズの腰椎穿刺の時に、中枢神経系浸潤があった場合には21日目までに7回髄腔内投与を行い、その後毎週あと12回髄腔内投与を行うか、移植まで継続します。

プレドニゾンは日本ではプレドニゾロンで代用します。

 

腎機能が低下している場合はイマチニブを減量します。

肝機能が低下している場合はビンクリスチンを減量します。

ビンクリスチンは点滴漏れを起こすとその部位に壊死を起こす可能性がありますので投与の際には点滴漏れがないかどうか注意が必要です。

 

イマチニブの場合はプロトンポンプ阻害薬の併用は可能です。

減弱化学療法ではあまり悪心や嘔吐はありません。イマチニブ中はアプレピタント(商品名:イメンド)やドンペリドン(商品名:ナウゼリン)の内服は相性が悪いため推奨しません。

 

もともと正常な血球が少ない状態で開始しますがG-CSF製剤という正常な白血球を上昇させる薬剤の投与を15日目から開始します。

G-CSF製剤は複数ありますが、持続効果のあるペグフィルグラチスム(商品名:ジーラスタ)はGRAAPH-2005の1サイクル目では用いません。持続効果期間がその後の治療開始に重なってしまいます。

持続型でないG-CSF製剤を用います。GRAAPH-2005ではフィルグラスチムを5μg/kgで投与します。およそ300μgです。

好中球数が十分に上昇するまで連日の皮下注射を行うことになります。

 

感染症は正常な白血球が上昇するまではまだ起こしやすいです。感染症の予防内服を継続します。

予防していても発熱する場合があります。正常な白血球(特に好中球)が少ないときの発熱は「発熱性好中球減少症」といい、直ちに点滴の抗生剤投与の適応となります。できれば発熱して30分以内、遅くとも60分以内の点滴抗生剤開始です。発熱したらすぐに伝えてください。

正常な白血球が少ない上に副腎皮質ステロイドなどを使用しているため点滴抗生剤開始が遅れると重症化・重篤化します。

GRAAPH-2005では重症な感染症は1サイクル目だけで約37%にみられます。

 

赤血球や血小板が低値となり輸血が必要になる場合もあります。

血糖値の上昇には引き続き注意が必要です。採血の時に血糖値も確認します。

減弱化学療法では脱毛は通常はありませんが、この後の治療で脱毛します。

 

1サイクル目の化学療法を開始して28日目ごろには血球は回復しています。

GRAAPH-2005では、このころに効果判定のための骨髄検査を行います。骨髄穿刺吸引と骨髄生検の両方です。

フィラデルフィア染色体異常は、BCR-ABLPCRも含めてこの時点でどのくらい減少したか確認します。

フィラデルフィア染色体異常のある急性リンパ芽球性白血病ではこのPCRが測定可能残存病変(Measurable residual disease, MRD)の指標となります。

 

GRAAPH-2005の減弱化学療法では、この1サイクルだけでおよそ97%の症例で完全寛解に到達します

到達していてもしていなくても、次の化学療法(2サイクル目)にすすんでいきます。

 

2サイクル目以降については次項で解説します。

GRAAPH-2005 Response
急性リンパ芽球性白血病に対するGRAAPH-2005療法の実際と注意点(後半)

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まとめ 急性リンパ芽球性白血病に対するGRAAPH-2005療法の実際と注意点(前半)

急性リンパ芽球性白血病・リンパ芽球性リンパ腫の治療を開始する前に診断が濃厚な時点で治療前検査などを行います。

GRAAPH-2005では、最初に1週間の副腎皮質ステロイドによるプレフェイズがあります。メソトレキセートの髄腔内投与もこのときに行います。

● GRAAPH-2005の初回減弱化学療法では感染症や腫瘍崩壊症候群などに注意しながら行います。この1サイクルだけでおよそ97%の症例で完全寛解に到達します

参考文献

Chalandon Y, Thomas X, Hayette S, et al.
Randomized study of reduced-intensity chemotherapy combined with imatinib in adults with Ph-positive acute lymphoblastic leukemia.
Blood. 2015 Jun 11;125(24):3711-9.

Weiser MA, Cabanillas ME, Konopleva M, et al.
Relation between the duration of remission and hyperglycemia during induction chemotherapy for acute lymphocytic leukemia with a hyperfractionated cyclophosphamide, vincristine, doxorubicin, and dexamethasone/methotrexate-cytarabine regimen.
Cancer. 2004 Mar 15;100(6):1179-85.

Vu K, Busaidy N, Cabanillas ME, et al.
A randomized controlled trial of an intensive insulin regimen in patients with hyperglycemic acute lymphoblastic leukemia.
Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2012 Oct;12(5):355-62.

 

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