急性リンパ芽球性白血病に対するGRAAPH-2005療法の実際と注意点(後半)

2020-06-14

GRAAPH-2005 Response

急性リンパ芽球性白血病(ALL)・リンパ芽球性リンパ腫(LBL)の診断が確定したら治療を行います。フィラデルフィア染色体異常が陽性の症例では、イマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬と化学療法を併用します。

本項ではイマチニブと減弱化学療法を併用した治療であるGRAAPH-20052サイクル目以降の実際の投与スケジュールとその注意点について解説しています

1サイクル目の治療などについては、「急性リンパ芽球性白血病に対するGRAAPH-2005療法の実際と注意点(前半)」をご覧ください。

 

GRAAPH-2005 初回化学療法2サイクル目

GRAAPH-2005の初回化学療法2サイクル目は以下のようなスケジュールになります(下図)。

GRAAPH-2005 cycle 2

2サイクル目の化学療法は減弱ではありません。中枢神経系に移行がよい薬剤を使用します。

大量メソトレキセートを初日に投与します。24時間の持続投与です。

大量シタラビンを2日目と3日目に、1日2回投与します。計4回の投与になります。

イマチニブを初日から2週間内服します。1日2回です。1日計800mgと高用量です。治療期間中はグレープフルーツジュースの摂取は不可です。

最初に中枢神経系浸潤がなかった場合は9日目に予防の髄腔内抗がん剤投与があります。

 

腎機能が低下している場合は、メソトレキセートとシタラビンの投与量の減量が必要です。重篤な腎機能障害ではシタラビンは使用できません。

肝機能が低下している場合はメソトレキセートの減量が必要です。重篤な肝障害ではメソトレキセートは使用できません。

 

治療薬自体に加えて、2サイクル目でも有害事象を軽減させるための「支持療法」が加わります。

ロイコボリンは活性型葉酸で、メソトレキセートによる葉酸代謝拮抗をなくしてしまいます。

GRAAPH-2005の化学療法2サイクル目の大量メソトレキセート投与のときは、メソトレキセート投与終了の12時間後に十分な量のロイコボリンを血中に投与を開始します。しばらく1日4回投与します。

ロイコボリンは中枢神経系に移行しにくいため、一度高濃度で中枢神経系などに入ったメソトレキセートの効果は減弱させず、それ以外の体内に残ったメソトレキセートの効果をなくします。

ロイコボリン投与がなければメソトレキセートの副作用が強くなります。

大量メソトレキセートは中枢神経系などへの効果を目標に行います。それ以外の部位への効果は多少ありますが目標ではありません。

 

それにくわえて「大量輸液」を行います。

今回の「大量輸液」は腫瘍崩壊症候群に対してではなくメソトレキセートの排泄にあります。

輸液の種類もアルカリ性の輸液になります。アルカリ性の輸液によりメソトレキセートの排泄を促進させます。

メソトレキセートは採血で血中濃度を測定することができます。血中濃度が0.1μmol/L未満になるまで、大量輸液とロイコボリン投与は続きます。3~4日間くらい続きます。

この間は連日の採血になります。メソトレキセートの投与時間に合わせての採血です。

 

抗がん剤化学療法と副腎皮質ステロイドのため胃炎を起こしやすくなりますが、予防のためのプロトンポンプ阻害薬の使用は2サイクル目には推奨しません

プロトンポンプ阻害薬はメソトレキセートの排泄を明らかに遅らせることがわかっています(Br J Clin Pharmacol. 2009 Jan;67(1):44-9, Anticancer Res. 2010 Sep;30(9):3807-10)。

メソトレキセートの排泄の遅れは不要な大量輸液・ロイコボリン投与だけでなく、不要な副作用を発生させる可能性があります。

もし胃薬を使用する場合はH2阻害薬(ファモチジンなど)を用います。プロトンポンプ阻害薬の使用は推奨しません。

またNSAIDsと呼ばれる種類の鎮痛薬(ロキソプロフェンなど)やST合剤の使用も推奨しません。メソトレキセートとの相性が悪く不要な副作用を起こす可能性があります。

 

制吐剤の予防投薬も行います。大量シタラビンは悪心・嘔吐を起こしやすいため、パロノセトロン(商品名:アロキシ)などの予防用の制吐剤を使用します。

アプレピタントなどはイマチニブとの相性が悪いため使用しません。ドンペリドンも同様です。

 

GRAAPH-2005の化学療法2サイクル目は強力な抗がん剤化学療法ですので、7日後くらいから血球が低下します。

1サイクル目の減弱化学療法と比較して、2サイクル目では最初の正常血球数は多いにもかかわらず、重症感染症を起こす割合は44%と1サイクル目より多いです(下図Arm A)。

GRAAPH-2005 毒性

2サイクル目もG-CSF製剤を使用します。GRAAPH-2005では6日目にペグフィルグラスチム(商品名:ジーラスタ)を投与します。ペグフィルグラチスムであれば1回投与ですみます。

 

GRAAPH-2005の化学療法2サイクル目も感染予防の内服を行います。1サイクル目と同様です。

 

大量シタラビンにより結膜炎を起こすことがありますので、シタラビン投与開始から終了後数日間は点眼を継続します。点眼液を十分に使用し洗い流していくようにします。

大量シタラビンはそれだけでよく発熱や皮疹を生じやすいです。投与期間中および終了後数日間は発熱や皮疹がありえると思っていてください。

副腎皮質ステロイドの併用はGRAAPH-2005の2サイクル目には髄腔内投与でしか含まれません。

 

GRAAPH-2005の2サイクル目は16日目ごろから血球は回復してきます。このころから脱毛もします。ばっさり抜けます。

好中球数と血小板数が十分に回復したら効果判定のための骨髄検査を行います。骨髄穿刺吸引と骨髄生検の両方です。ここでは完全寛解の確認BCR-ABLのPCR検査で測定可能残存病変(MRD)を確認します。

フィラデルフィア染色体異常はBCR-ABLのPCRも含めてこの時点でどのくらい減少したか確認します。

フィラデルフィア染色体異常のある急性リンパ芽球性白血病ではこのPCRが測定可能残存病変(Measurable residual disease, MRD)の指標となります。

 

GRAAPH-2005の減弱化学療法では、この2サイクル目終了時点で98.5%の症例で完全寛解に到達しています

測定可能残存病変(MRD)がPCRでも検出できないくらいに奏効しているのは約30%です(下図 Arm A)。

GRAAPH-2005 Response

 

GRAAPH-2005 2サイクル目以降 移植までのインターフェイズ

上記の2サイクルが終了した時点で準備ができていたらそのまま同種造血幹細胞移植へ移行します

もし同種造血幹細胞移植の準備に時間がかかっている場合はインターフェイズ化学療法を行い準備を進めます(下図)。

GRAAPH-2005 Interphase

メソトレキセートは内服で初日と8日目に投与します。

メルカプトプリンは初日から2週間内服です。寝る前などの空腹時内服です。乳製品と一緒に内服してはいけません。フェブキソスタット(商品名:フェブリク)との併用は避けます。

イマチニブは1日2回、2週間内服します。

予防の髄腔内投与は初日にメソトレキセート・シタラビン・プレドニゾンで行います。

このインターフェイズは2回までです。

 

GRAAPH-2005では、HLA一致血縁や非血縁がいなかった場合は、同種造血幹細胞移植ではなく、奏効が良好だった場合は自家造血幹細胞移植を、奏効が不十分だった場合は強力抗がん剤化学療法を行うようになっていました。

しかしながら、全体では同種造血幹細胞移植を行った群のほうが、同種造血幹細胞移植を行わなかった群よりも全生存率が良好でした(下図)。

GRAAPH-2005 Allo vs no Allo, OS

そしてこの差は、PCRで残存病変が検出される症例でとくに明らかでした(下図)。

GRAAPH-2005 MRD +-, Allo vs no Allo, OS

HLA一致血縁やアリルレベルで8/8一致の非血縁がいなかった場合でも、測定可能残存病変がPCRで検出される場合は、HLA半合致移植臍帯血移植などを検討してもよいでしょう。

測定可能残存病変が陰性の場合は、同種移植、自家移植、化学療法のみのいずれが良いかははっきりしていません。いままでの臨床試験からはHLA一致血縁やアリルレベルで8/8一致の非血縁がいれば同種移植がよいと考えられます。

 

このときに自家移植を行った場合は、GRAAPH-2005では自家移植後維持療法が2年間あります。

1か月目はイマチニブを毎日内服します。

2か月目はメソトレキセートを毎週内服し、メルカプトプリンを毎日内服します。

これを交互に2年間継続します。

 

GRAAPH-2005 2サイクル目以降 移植しない場合の化学療法

フィラデルフィア染色体異常のある急性リンパ芽球性白血病に対して、同種造血幹細胞移植を行わない場合、自家造血幹細胞移植と強力抗がん剤化学療法継続のどちらが良いかははっきりしていません

GRAAPH-2005では最初の2サイクルで奏効が不十分だった症例(測定可能残存病変が10-3以上)に対して、強力抗がん剤化学療法で以降の治療を行っています。

3サイクル目は以下のスケジュールになります(下図).

GRAAPH-2005 cycle 3

シクロホスファミドは1日に2回、およそ12時間おきに、最初の3日間投与します

ビンクリスチンは4日目と11日目に投与します。

ドキソルビシンは4日目に投与します。

デキサメタゾンは1~4日目と11~14日目に内服します。

イマチニブは1日2回、初日から2週間内服します。

予防の髄腔内投与はありません。

イマチニブにHyper-CVAD療法を併用したような治療です。

重篤な心不全があるとドキソルビシンは使用できません。

肝機能が低下しているとドキソルビシンとビンクリスチンの投与量の減量が必要です。

 

有害事象を軽減させるための「支持療法」がこれにさらに加わります。

メスナ(商品名:ウロミテキサン)はシクロホスファミドの膀胱障害が起こらないようにします。シクロホスファミドは出血性膀胱炎などを起こす可能性がありますので、メスナは必須です。

加えて制吐剤を予防投薬します。シクロホスファミドやドキソルビシンは悪心・嘔吐を起こしやすいため、パロノセトロン(商品名:アロキシ)などの予防用の制吐剤を使用します。

胃炎予防のプロトンポンプ阻害薬の使用も可能です。感染予防の内服も引き続き行います。血糖値の上昇もありえるため採血で確認します。

 

3サイクル目も強力抗がん剤化学療法なので、血球数は7日目ごろから低下します。

G-CSF製剤は6日目にペグフィルグラスチム(商品名:ジーラスタ)を投与します。ジーラスタは1サイクルにつき1回投与するだけでよいです。

持続型でないG-CSF製剤(フィルグラスチムなど)を用いると好中球数が上昇するまで連日の皮下注射を行うことになります。

20日目ごろには好中球数は十分に上昇します。感染症と心毒性が最も問題になる有害事象です。心毒性の蓄積に注意して、定期的に心臓超音波検査などを行っていきます。

 

4サイクル目はGRAAPH-2005の2サイクル目と同様ですが、予防の髄腔内投与はありません。イマチニブの投与量もかわります。

注意点はGRAAPH-2005の2サイクル目と同様です。

 

5サイクル目と7サイクル目は3サイクル目と同じです。心毒性の蓄積に注意していきます。

6サイクル目と8サイクル目は4サイクル目と同じです。

 

 

8サイクルまで完遂したら、以降は維持療法に移行します。

GRAAPH-2005の維持療法は2年間です。途中で強力抗がん剤化学療法が入るので髪の毛は少なくとも1年間は長くなりません。

維持療法中の再発が多いので各サイクル注意しながら継続します。

 

維持療法の1サイクルは1ヶ月です。

プレドニゾン 200 mgを初日から5日間内服します。

ビンクリスチンは初日に投与します。

イマチニブは毎日内服です。

これを5サイクル行います。感染予防としてST合剤の内服をすることがあります。

その後6サイクル目に、上記強力抗がん剤化学療法の3サイクル目と同じ治療を行います。

 

そしてさきほどの維持療法を5サイクルさらに行います。

その後12サイクル目に、上記強力抗がん剤化学療法の4サイクル目と同じ治療を行います。

 

維持療法12サイクルを終えたところで1年になります。この時点で心機能骨密度は再検査しておいたほうが良いでしょう。

13~24サイクルは、イマチニブを毎日飲み続けるだけです。髪の毛も徐々に戻ってきます。

24サイクルを完遂したら、以降は経過観察です。

 

急性リンパ芽球性白血病(ALL)の治療効果判定や測定可能残存病変(MRD)については以下の項をご覧ください。

 

まとめ 急性リンパ芽球性白血病に対するGRAAPH-2005療法の実際と注意点(後半)

● GRAAPH-2005の2サイクル目の化学療法は減弱ではありません。大量メソトレキセート大量シタラビンなどの中枢神経系に移行がよい薬剤を使用します。2サイクル目終了時点で98.5%の症例で完全寛解に到達しています。測定可能残存病変(MRD)が検出できないくらいに奏効しているのは約30%です。

● 2サイクルが終了した時点で準備ができていたらそのまま同種造血幹細胞移植へ移行します。同種造血幹細胞移植の準備に時間がかかっている場合はインターフェイズ化学療法を行います。

● フィラデルフィア染色体異常のある急性リンパ芽球性白血病に対して、同種造血幹細胞移植を行わない場合、自家造血幹細胞移植強力抗がん剤化学療法継続のどちらが良いかははっきりしていません。治療を完遂したら以降は経過観察です。

参考文献

Chalandon Y, Thomas X, Hayette S, et al.
Randomized study of reduced-intensity chemotherapy combined with imatinib in adults with Ph-positive acute lymphoblastic leukemia.
Blood. 2015 Jun 11;125(24):3711-9.

Kunihiro Suzuki, Kosuke Doki, Masato Homma, et al.
Co-administration of Proton Pump Inhibitors Delays Elimination of Plasma Methotrexate in High-Dose Methotrexate Therapy
Br J Clin Pharmacol. 2009 Jan;67(1):44-9.

R Santucci, D Levêque, A Lescoute, et al.
Delayed Elimination of Methotrexate Associated With Co-Administration of Proton Pump Inhibitors
Anticancer Res. 2010 Sep;30(9):3807-10.

 

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