免疫性血小板減少症 (ITP) 診断と治療適応

2020-03-03

骨髄生検 HE 400, 巨核球

 

免疫性血小板減少症(ITP, 特発性血小板減少性紫斑病)が疑われたら、診断へと進んでいきます。診断するためにはいくつかの確認や検査が必要になります。

本項では、免疫性血小板減少症の診断の進み方について解説します。

免疫性血小板減少症については国際的な提言が定期的になされており、本項でもその提言を参考にしつつ解説しています。

免疫性血小板減少症は全員がすぐに治療が必要になるというわけではありません。治療が必要な人もいればそうではない人もいます。どのような時に治療する必要があるのかについても本項では解説します。

 

免疫性血小板減少症の診断のための検査

免疫性血小板減少症(ITP)が疑われたら、前項「免疫性血小板減少症 (ITP) の症状と疫学」で解説したように、二次性免疫性血小板減少症である可能性も考え、C型肝炎ウイルスHIVの検査を行います。自己免疫疾患血液疾患の既往、サプリメントを含めた薬剤の使用について詳細に確認します。

また採血の塗抹標本を確認し、血小板の凝集や赤血球・白血球の異常がないかどうか確認します。免疫性血小板減少症により血小板数だけが少ない場合は、塗抹標本では大きな異常はみられません。

自己免疫疾患の既往がもともとない場合でも、自己免疫疾患の検査を行います。抗核抗体というのはそのうちの一つです。ただし健常者でも抗核抗体が陽性となることがありますので、陽性というだけで自己免疫疾患であると言うことはできません。

 

ヘリコバクター・ピロリという細菌の検査も行います。ヘリコバクター・ピロリは免疫性血小板減少症を引き起こすことがあるため診断時点で検査をしておくことを推奨します。

検査方法は尿素呼気試験もしくは便中のヘリコバクター・ピロリ抗原検査です。

 

この時点で、免疫性血小板減少症ではない疾患を疑う所見がなければ、免疫性血小板減少症の診断が濃厚になります。このときは骨髄検査を行う必要はありません

骨髄検査というのは、骨盤の骨の一つである腸骨に針を刺して、液体(骨髄液)を吸引したり、組織を削り取ったりする検査です。

骨髄検査についての詳細は、「骨髄検査(骨髄穿刺吸引・骨髄生検)の手技の実際 痛みや安全性は?」をご覧ください。

 

2013年に骨髄検査が免疫性血小板減少症の診断にどのくらい有用かどうかについての研究結果が報告されました(Eur J Haematol. 2013 Feb;90(2):121-6)。

この研究では、重症な一次性免疫性血小板減少症の骨髄所見血小板減少症のない症例の骨髄所見を、3人の血液専門病理医がそれぞれ別々に臨床情報のない状態で病理診断を行いました。

結果、一次性免疫性血小板減少症の症例のうち、一次性免疫性血小板減少症と全員が一致して診断できたのはたった6.3%であった一方で血小板減少症のない症例を一次性免疫性血小板減少症と全員が一致して診断してしまったのは72.5%でした(下図)。

免疫性血小板減少症 ITP 骨髄検査 診断

骨髄検査は全く診断に寄与しないどころか、かえって誤診してしまう可能性があると言えます。

典型的な一次性免疫性血小板減少症が疑われる症例では、骨髄検査を行わないことを推奨します。

 

免疫性血小板減少症では、自分の抗体により血小板が減少しているとされています。しかしながら、血小板に対する抗体を検査してもあまり意味がありません

例えば、免疫性血小板減少症の症例とそうでない症例に対して血小板に対する抗体の検査の有用性を調べるための盲検化研究の結果が1997年にでています(Br J Haematol. 1997 Mar;96(3):477-83).

この試験ではどちらの症例も95%以上が陰性という結果でした。

 

比較的新しいものとして、2005年に報告された前向きの研究があります(Am J Hematol. 2005 Mar;78(3):193-7).

この研究では免疫性血小板減少症の症例と、そうではない血小板減少症の症例で比較しました。しかし陽性率は免疫性血小板減少症で53%, それ以外で28%という結果でした。検査の感度(53%)も特異度(72%)もあまり高くないため、診断目的に使用する価値が乏しいと言えます。

日本では血小板に対する抗体の検査としてPAIgGの検査をしばしば行いますが、残念ながら診断的価値は乏しいです(Br J Haematol. 1989 Jan;71(1):97-105)。

 

2019年の国際提言でも、アメリカの血液学会による2019年ガイドラインでも、上記のように典型的な免疫性血小板減少症の症例に対して、骨髄検査血小板に対する抗体の検査も推奨してはいません(Blood Adv. 2019 Nov 26;3(22):3780-3817, Blood Adv. 2019 Dec 10;3(23):3829-3866)。

日本の2019年参照ガイドでも同様に典型的な症例に対して、骨髄検査も血小板に対する抗体の検査も推奨してはいません(Int J Hematol. 2020 Mar;111(3):329-351)。

 

免疫性血小板減少症の診断

一次性免疫性血小板減少症には特異的な検査はありません。診断は除外診断といってその他の疾患の可能性が低いことをもって診断していきます。

白血球数や赤血球数に大きな異常がなく血小板数だけが100000/μL未満に低下し、血小板が低下する理由が他にはない場合は、典型的な一次性免疫性血小板減少症となります。

この時点で二次性免疫性血小板減少症でなければ、以下のような確認が必要です。

 

血液の塗抹標本で血小板が凝集してしまっていて、正常な血小板数の機械測定がうまくいかずに低い値を出してしまうことがあります。検査の過程で凝集してしまっているため、体内の血小板数は正常であっても低値になってしまいます。

塗抹標本を確認すれば簡単にわかるため、現在ではあまりみられなくなりましたが、この状態を「偽性血小板減少症」といいます。

 

生まれつき血小板が少ない方がいます。ずっと少ない場合は、免疫性血小板減少症にはなりません。

肝疾患・脾臓腫大などにより血小板減少を起こすことがあります。この場合は免疫による血小板減少ではありません。

塗抹標本で破砕赤血球と呼ばれるものがみられる場合は、血栓性血小板減少症や播種性血管内凝固症候群といった病態になります。臨床所見でも免疫性血小板減少症と異なる、全く別の疾患です。

かなりまれですが、輸血後やワクチン接種後に血小板が下がることがあります。

妊娠中に特に理由なく血小板が下がることがあります。

 

多くの血液疾患は免疫性血小板減少症との鑑別に困ることはありませんが、骨髄異形成症候群で血小板だけ低下することがあります。骨髄異形成症候群もまた除外診断であるため、鑑別が最終的にできないことがあります。

典型的な免疫性血小板減少症を呈していたにもかかわらず治療がほとんど奏効しない場合は鑑別困難です。骨髄異形成症候群では形態異常や染色体異常が特徴的とされますが、実際にはあまりあてにはなりません。

 

2019年の国際提言でも、日本の2019年参照ガイドでも、除外診断であること、その他の疾患の可能性を検討することが重要とされています(下図 Blood Adv. 2019 Nov 26;3(22):3780-3817)。

免疫性血小板減少症 鑑別診断

 

免疫性血小板減少症の治療適応

免疫性血小板減少症と診断されたとしても、全例に治療が必要というわけではありません

出血リスクの高い症例が治療適応となります。血小板数が20000/μL以下になると出血リスクが上昇することがわかっています。

 

2019年の国際提言では血小板数が20000未満の症例を治療の対象とすることを提唱しています。

一方で2019年のアメリカ血液学会のガイドラインでは、血小板数が30000未満の症例を治療の対象とすることを提唱しています。

治療適応となる血小板数については、臨床試験が乏しくどの値で治療介入することがよいのか全く分かっていません。20000か30000については、会議に参加した医師の一致度で決定しているため、提唱にもばらつきが生じます。

現時点ではどちらがよいのかわかりませんので、各医師による判断に基づくことになります。

なお、日本の2019年参照ガイドでは20000未満で治療介入することを提唱しています。

 

治療適応を検討すると同時に行っておくべきことがいくつかあります。

まずは出血のリスクとなる薬剤を使用しているかどうか確認することです。

抗凝固薬抗血小板薬を内服していると出血しやすくなります。鎮痛薬(非ステロイド)も出血のリスクとなります。これらの薬剤は血小板数が少なくなっている場合は中止を検討する必要があります。

次に最近新しく始めた薬剤があれば可能な限り中止することです。血小板減少をおこす薬剤は非常に多く、事実上すべての薬剤・サプリメントが原因となりえると言えます。

飲み合わせも影響することがありますので、不必要な薬剤・サプリメントは極力中止することを推奨します。

 

次項では一次性免疫性血小板減少症の初回治療について解説します。

骨髄生検 HE 400 巨核球
免疫性血小板減少症(ITP)の初回治療と効果判定

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まとめ 免疫性血小板減少症の診断と治療適応

● 免疫性血小板減少症(ITP)が疑われたら、二次性免疫性血小板減少症である可能性も考え、各種検査・既往の確認・薬剤やサプリメントの確認などを行います。典型的な一次性免疫性血小板減少症では骨髄検査は不要です。

● 一次性免疫性血小板減少症には特異的な検査はありません。診断は除外診断です。いろいろな疾患の可能性を検討して診断していきます。

● 免疫性血小板減少症と診断されたとしても、全例に治療が必要というわけではありません。血小板数が20000~30000/μL未満の症例が治療適応となります。

参考文献

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A blinded study of bone marrow examinations in patients with primary immune thrombocytopenia.
Eur J Haematol. 2013 Feb;90(2):121-6.

Berchtold P, Müller D, Beardsley D, et al.
International study to compare antigen-specific methods used for the measurement of antiplatelet autoantibodies.
Br J Haematol. 1997 Mar;96(3):477-83.

Davoren A, Bussel J, Curtis BR, et al.
Prospective evaluation of a new platelet glycoprotein (GP)-specific assay (PakAuto) in the diagnosis of autoimmune thrombocytopenia (AITP).
Am J Hematol. 2005 Mar;78(3):193-7.

Kelton JG, Murphy WG, Lucarelli A, et al.
A prospective comparison of four techniques for measuring platelet-associated IgG.
Br J Haematol. 1989 Jan;71(1):97-105.

Provan D, Arnold DM, Bussel JB, et al.
Updated international consensus report on the investigation and management of primary immune thrombocytopenia.
Blood Adv. 2019 Nov 26;3(22):3780-3817.

Neunert C, Terrell DR, Arnold DM, et al.
American Society of Hematology 2019 guidelines for immune thrombocytopenia.
Blood Adv. 2019 Dec 10;3(23):3829-3866.

Kashiwagi H, Kuwana M, Hato T, et al.
Reference guide for management of adult immune thrombocytopenia in Japan: 2019 Revision.
Int J Hematol. 2020 Mar;111(3):329-351.

 

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