免疫性血小板減少症(ITP)の初回治療と効果判定

2020-03-06

骨髄生検 HE 400 巨核球

 

治療が必要な免疫性血小板減少症(ITP)であれば、初回治療が必要になります。どのような場合に治療が必要かについては「免疫性血小板減少症 (ITP) 診断と治療適応」をご確認ください。

治療が必要な免疫性血小板減少症に対して、いままで様々な治療法が研究されてきました。本項では免疫性血小板減少症の治療について過去の治療も振り返りながら解説していきます。

国外・国内の文献やガイドラインなどを参照しつつ、最新の免疫性血小板減少症の初回治療、およびその効果判定の基準について記載していきます。

 

免疫性血小板減少症の治療 血小板輸血 ピロリ菌の除菌

血小板数が10000/μL未満あるいは重症な出血がある場合は血小板輸血を行います。

免疫性血小板減少症では輸血した血小板の減少も早いため、通常の血小板輸血ほどの効果はありません。免疫性血小板減少症の治療が同時に必要です。血小板輸血は一時的な緊急処置と考えてください。

 

1986年に報告された後ろ向き研究では、免疫性血小板減少症に対して血小板輸血を行った結果、翌日まで血小板の値が増加していたのは約40%でした(Am J Med. 1986 Jun;80(6):1051-4)。

 

免疫性血小板減少症の場合はその他の血小板減少症と異なり、血小板輸血による血栓症リスクの上昇はありません。

2015年に報告されたアメリカ全土の症例を対象とした研究では、血栓性血小板減少症などでは血小板輸血により血栓症発生率および死亡率の上昇が確認できましたが、免疫性血小板減少症ではそのようなリスクの上昇はみられませんでした(Blood. 2015 Feb 26;125(9):1470-6)。

 

血小板数が10000/μL未満あるいは重症な出血がある場合は血小板輸血を直ちに行うことを推奨します。同時にできるだけ早く免疫性血小板減少症の治療も開始することを推奨します。

 

国際的にも日本でも、血小板数が10000/μL未満あるいは重症な出血がある場合は血小板輸血を行うことを推奨しています。ただし前向き研究が乏しいことから弱い推奨となっています(Blood Adv. 2019 Nov 26;3(22):3780-3817, Int J Hematol. 2020 Mar;111(3):329-351)。

 

トラネキサム酸などの止血薬は、免疫性血小板減少症に用いても出血リスクを減少させるという前向きの研究結果はありません。トラネキサム酸は血栓症の発生率を上昇させます(Blood Adv. 2019 Nov 26;3(22):3780-3817)。

止血薬の使用は推奨しません。

 

ヘリコバクター・ピロリという細菌は免疫性血小板減少症を起こす可能性があります。

免疫性血小板減少症が疑われたら、ヘリコバクター・ピロリの検査を行います。

その結果、ヘリコバクター・ピロリに感染していることが確認できた場合は、ヘリコバクター・ピロリを除菌することがあります。

ヘリコバクター・ピロリの除菌の効果について、2005年に日本で行われた小規模なランダム化臨床試験の結果が発表されています(Am J Gastroenterol. 2005 Jun;100(6):1265-70)。

除菌する群と除菌しない群でランダム化しました。除菌する群では約85%で除菌に成功しています。

結果、血小板数が50000/μLを超えた症例は、除菌する群で46.2%, 除菌しない群で0%と明らかに除菌により血小板数が上昇しました。

 

ヘリコバクター・ピロリが陽性の免疫性血小板減少症の場合は、ヘリコバクター・ピロリの除菌を行うことを推奨します。

血小板減少が著しく、血小板数が20000~30000/μL未満の場合は、以下に記載するような一次性免疫性血小板減少症の治療も行うことを推奨します。

 

アメリカ血液学会の2019年ガイドラインではヘリコバクター・ピロリの除菌を推奨しています(Blood Adv. 2019 Dec 10;3(23):3829-3866)。

日本の2019年参照ガイドでもヘリコバクター・ピロリの除菌を推奨しています(Int J Hematol. 2020 Mar;111(3):329-351)。

 

一次性免疫性血小板減少症の初回治療 副腎皮質ステロイド 免疫グロブリン

一次性免疫性血小板減少症に対して、大量免疫グロブリン静脈投与を行うことがあります。

免疫グロブリン製剤というのは、人間の血液中に含まれる「抗体」を濃縮した血液製剤の一種です。

免疫性血小板減少症に有効ということが昔からわかっています。

 

1999年には大量免疫グロブリン静脈投与の投与量に関するランダム化臨床試験の結果が出版されました(Br J Haematol. 1999 Dec;107(4):716-9)。

免疫性血小板減少症の症例に対する、大量免疫グロブリンの投与量を0.5 g/kgもしくは1.0 g/kgにランダム化しました。

免疫グロブリン投与から数日以内に血小板の上昇がみられるのですが、この臨床試験では投与4日目の血小板が2倍以上に増加し、かつ80000/μLをこえる割合を見ました。

結果、0.5 g/kgではこの割合が21%であったのに対して、1.0 g/kgでは67%と統計学的にもあきらかに血小板の上昇が多くみられました(下図, p=0.005)。

免疫性血小板減少症 大量免疫グロブリン 0.5 vs 1.0, 血小板数

1.0 g/kgの免疫グロブリン製剤はかなり大量です。何時間もかけて投与します。

 

2002年には免疫グロブリン製剤副腎皮質ステロイドの比較的大規模なランダム化臨床試験の結果が出版されました(Lancet. 2002 Jan 5;359(9300):23-9)。

この臨床試験では、血小板数20000/μL未満の免疫性血小板減少症の症例を対象としました。

免疫グロブリン0.7 g/kgを3日間、もしくはメチルプレドニゾロン15mg/kgを3日間にランダム化して比較しました。どちらも大量投与になります。

投与5日目に血小板数が50000/μLを超えた症例は、免疫グロブリン群で79%, メチルプレドニゾロン群で60%であり、免疫グロブリン大量投与のほうが統計学的にも明らかに血小板数上昇がみられる割合が高い結果でした(下図, p=0.04)。

免疫性血小板減少症 大量免疫グロブリン vs メチルプレドニゾロン, 血小板数

ところが21日目に血小板数が50000/μLを超えた症例は、免疫グロブリン群で62.5%, メチルプレドニゾロン群で55%となり、統計学的な差はなくなっていました(p=0.15)。

投与1年時点で血小板数が50000/μLを超えた症例は、免疫グロブリン群で36%, メチルプレドニゾロン群で40%となり、統計学的な差はありませんでした(p=0.80)。

有害事象の発生頻度は両群であまり変わりありませんでした。

 

この臨床試験では、上記治療の終了後にプレドニゾンを1 mg/kgを18日間内服する群偽薬群にランダム化して比較しています。

21日目の血小板数が50000/μLを超えた症例は、プレドニゾン群で82%、偽薬群で39%と、プレドニゾン投与により統計学的にもあきらかに血小板数が上昇する割合が高い結果でした(p=0.0005)。

ところが投与1年時点で血小板数が50000/μLを超えた症例は、プレドニゾン群で46%, 偽薬群で30%となり、統計学的な差はなくなっていました(p=0.41)。

 

数日間という短期的な血小板数の上昇は免疫グロブリンのほうがメチルプレドニゾロンよりも良好ですが、数週間の時点でその差はなくなります。

その後のプレドニゾン内服は偽薬よりも数週間の時点で良好ですが、1年時点では差はなくなります。

 

免疫性血小板減少症の臨床試験では、経過中に命を落とす症例はほとんどありません。長期的な生存に差がみらないのであれば、有害事象が少ない治療のほうがよいです。短期的な血小板数の違いはあまり意味がありません。

上記臨床試験からは、免疫グロブリン製剤でもメチルプレドニゾロンでもどちらでもよいと言えます。コストは免疫グロブリン製剤のほうが高いです。

 

2016年には副腎皮質ステロイド同士を比較した大規模ランダム化臨床試験の結果が出版されました。中国の臨床試験です。

血小板数30000/μL未満の一次性免疫性血小板減少症の症例に対して、デキサメタゾン4日間内服する群プレドニゾン1 mg/kgを28日間内服し漸減する群にランダム化しました。

結果、血小板数100000/μL以上になった症例はデキサメタゾン群で50.5%, プレドニゾン群で26.8%と、統計学的にも明らかにデキサメタゾン群のほうが高い割合でした(p=0.001)。

血小板数が上昇するまでの期間の中央値は、デキサメタゾン群で3日、プレドニゾン群で6日であり、統計学的にも明らかにデキサメタゾン群のほうが早い奏効でした(p<0.001)。

しかしながら、6か月以上血小板数30000/μL以上を維持した症例は、デキサメタゾン群で40.0%, プレドニゾン群で41.2%と、統計学的な差はなくなりました(下図)。

免疫性血小板減少症 デキサメタゾン vs プレドニゾン, レスポンス期間

有害事象はプレドニゾン群のほうが多く、特に体重増加・顔面や体幹の肥満が10%くらいにみられました。

長期的にはデキサメタゾンでもプレドニゾンでもよいのですが、有害事象の点からデキサメタゾンのほうがよいと考えられます。奏効までの早さもデキサメタゾンのほうが良いです。

ただしいずれも長期的な奏効を維持できる確率は約40%です。奏効が維持できなくなる可能性に注意が必要です。

 

リツキシマブという悪性リンパ腫で使用される薬剤があります。リンパ球の中でもB細胞というものに対する抗体薬です。初回治療でのリツキシマブ投与は有効なのでしょうか?

上記の臨床試験から少しさかのぼった2013年にリツキシマブの有効性を比較した大規模ランダム化臨床試験の結果が出版されました(Blood. 2013 Mar 14;121(11):1976-81)。

一次性免疫性血小板減少症の症例を対象にデキサメタゾン単独投与群デキサメタゾン+リツキシマブ群にランダム化しました。

結果、投与1年で血小板数50000/μLを維持した割合は、デキサメタゾン単独投与群で33%, デキサメタゾン+リツキシマブ群で53%と、統計学的にも明らかにデキサメタゾン+リツキシマブ群のほうが長期的な奏効を維持している割合は高い結果でした(下図, p<0.05).

免疫性血小板減少症 デキサメタゾン vs デキサメタゾン+リツキシマブ, レスポンス期間

有害事象はデキサメタゾン+リツキシマブ群のほうが2倍くらい多くみられました。

 

一次性免疫性血小板減少症の治療としては、デキサメタゾン4日間投与を推奨します。14日くらいで奏効が落ちる場合がありますが、その時点でデキサメタゾン4日間2サイクル目を開始します。臨床試験では最大6サイクルまで行っています。それでもプレドニゾンより副作用が少ないと考えられます。

初回治療でリツキシマブを追加することは有害事象が増えることから推奨しません。

 

2019年の国際提言やアメリカのガイドラインではデキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイドを初回治療で推奨しています。

2019年の日本の参照ガイドでは、プレドニゾンを推奨しています。プレドニゾンは日本では使用できません。

2019年の国際提言、アメリカのガイドライン、日本の参照ガイドのいずれもリツキシマブの初回使用は推奨していません。

 

一次性免疫性血小板減少症の治療目標と治療効果判定

免疫性血小板減少症の治療目標は、血小板数が正常化することではありません。20000~30000/μL以上を維持することが治療目標です。

 

2009年に免疫性血小板減少症の治療反応の国際基準が出版されています(Blood. 2009 Mar 12;113(11):2386-93)。

血小板数が治療前の2倍になり, かつ血小板数が30000/μL以上となれば、奏効(R)と判断します。血小板数が100000/μL以上となれば、完全奏効(CR)と判断します(下図)。

2009IWG 免疫性血小板減少症 奏効基準

 

2019年のアメリカ血液学会のガイドラインでも奏効の基準を提示しています(Blood Adv. 2019 Dec 10;3(23):3829-3866)。

血小板数が治療前の2倍になり、かつ血小板数が30000/μL以上で、奏効(Response)と判断します。奏効を6か月維持できれば持続奏効(Durable Response)と判断します。

血小板数100000/μL以上を1年間維持できれば、寛解(Remission)となります(下図)。

2019 ASH 免疫性血小板減少症 奏効基準

2019年のアメリカ血液学会のガイドラインでは、30000/μL以上を治療目標としています。

初回治療で奏効を維持できればそれでよいのですが、再発する可能性は半分以上です。血小板数や出血症状に注意しながら定期的に外来に通院します。

20000~30000/μL未満となれば次の治療へ進んだほうが良いでしょう。

 

次項では一次性免疫性血小板減少症の2番目以降に行う治療について解説します。

巨核球 Giemsa
免疫性血小板減少症(ITP) 再発・難治性の症例に対する治療

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まとめ 免疫性血小板減少症の初回治療と効果判定

● 血小板数が10000/μL未満あるいは重症な出血がある場合は血小板輸血を行います。ヘリコバクター・ピロリが陽性の場合は除菌を行うことを推奨します。

● 一次性免疫性血小板減少症の初回治療はデキサメタゾン4日間投与を推奨します。

● 免疫性血小板減少症の治療目標は、20000~30000/μL以上を維持することです。

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