免疫性血小板減少症(ITP)の診断と治療の概要

2020-03-16

骨髄生検 HE400 巨核球

 

「免疫性血小板減少症 (Immune thrombocytopenia, ITP)」は、「特発性血小板減少性紫斑病」とも呼ばれる、厚生労働省の指定難病の一つです。

しかし頻度は決して低くはなく、血液内科ではよくみる疾患の一つとなります。

予後も一般の人と大きくは変わりません。その差も治療の進歩により縮まっていると考えられます。

 

本項は免疫性血小板減少症の診断と治療の概要について記載しています。さらに詳細な内容については各項目のリンク先のページをご覧ください。

免疫性血小板減少症も診断や治療の発展が進んでおり、10年前とは診断も治療もかなり異なります。可能な限り最新の治療について解説します。

免疫性血小板減少症の発症は突然です。急に診断・治療と進んでいきます。再発も突然起こることがあります。各項は文献やガイドラインを参照に記載しています。参考にしてください。

 

免疫性血小板減少症の症状と疫学

免疫性血小板減少症の症状は出血です。

診断時に何らかの出血がみられるのは約50~60%です。口腔粘膜の出血など自覚症状としては気が付くことがむずかしい場合も含まれます。

重症な出血は約5~10%脳などの中枢神経系に出血するのは約1%とまれです。

 

もともと特に血小板数が低下する病気があるわけでもなく、突然血小板数が100000未満になるような場合は「免疫性血小板減少症」が疑われます。

採血検査で他に原因がはっきりせず大きな異常は血小板数だけという場合は、「免疫性血小板減少症」である可能性がとても高いと言えます

 

先進国各国で免疫性血小板減少症の発症頻度などの疫学調査が行われています。結果はばらつきが大きいですが、おおよそ年間発症率は10万人あたり2~9人です。

各国の調査で共通して、女性のほうが男性よりも少し(約2~3割)発症頻度が高いです。発症年齢のピークは、4歳未満65歳以上であり、小児と高齢者に多く発症すると言えます。

それでも高齢者の発症頻度が高いため発症年齢の中央値は約65歳となります。

 

C型肝炎、HIV感染症、自己免疫疾患、悪性リンパ腫などの疾患や特定の薬剤などは免疫性血小板減少症の発症率を上昇させます。

こういった基礎疾患や薬剤が関連している免疫性血小板減少症は「二次性免疫性血小板減少症」といい、疾患や薬剤の関連が不明な「一次性免疫性血小板減少症」と区別します。

 

免疫性血小板減少症の予後は一般的に悪くありません。

一次性免疫性血小板減少症の方は一般の方よりも生存率がやや下がりますが、その原因は出血感染症によります。現在は治療が当時よりもかなり改善しているため生存率の差はさらに小さいものとなっていると考えられます。

一次性免疫性血小板減少症 年間発症頻度
免疫性血小板減少症 (ITP) の症状と疫学

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免疫性血小板減少症 診断と治療適応

免疫性血小板減少症が疑われたら診断へと進んでいきます。診断するためにはいくつかの確認や検査が必要になります。

免疫性血小板減少症が疑われたら、二次性免疫性血小板減少症である可能性も考え、C型肝炎ウイルスやHIVの検査を行います。自己免疫疾患や血液疾患の既往、サプリメントを含めた薬剤の使用について詳細に確認します。

採血の塗抹標本で血小板の凝集や赤血球・白血球の異常がないかどうか確認します。免疫性血小板減少症により血小板数だけが少ない場合は、塗抹標本では大きな異常はみられません。

ヘリコバクター・ピロリは免疫性血小板減少症を引き起こすことがあるため診断時点で検査をしておくことを推奨します。尿素呼気試験もしくは便中のヘリコバクター・ピロリ抗原検査を行います。

 

免疫性血小板減少症ではない疾患を疑う所見がなければ、免疫性血小板減少症の診断が濃厚になります。このときは骨髄検査を行う必要はありません。この場合の骨髄検査は診断に寄与しません。

 

免疫性血小板減少症は全例がすぐに治療が必要になるというわけではありません。治療が必要な人もいればそうではない人もいます。

出血リスクの高い症例が治療適応となります。血小板数が20000/μL以下になると出血リスクが上昇することがわかっていますので、一般的には血小板数が20000~30000/μL未満で治療適応となります。

 

抗凝固薬抗血小板薬を内服していると出血しやすくなります。鎮痛薬(非ステロイド)も出血のリスクとなります。これらの薬剤は血小板数が少なくなっている場合は中止を検討する必要があります。

最近新しく始めた薬剤があれば可能な限り中止することです。血小板減少をおこす薬剤は非常に多く、事実上すべての薬剤・サプリメントが原因となりえると言えます。

飲み合わせも影響することがありますので、不必要な薬剤・サプリメントは極力中止することを推奨します。

骨髄生検 HE 400, 巨核球
免疫性血小板減少症 (ITP) 診断と治療適応

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免疫性血小板減少症の初回治療と効果判定

治療が必要な免疫性血小板減少症であれば、以下のような初回治療を行います。

血小板数が10000/μL未満あるいは重症な出血がある場合は血小板輸血を行います。

免疫性血小板減少症では輸血した血小板の減少も早いため、通常の血小板輸血ほどの効果はありません。免疫性血小板減少症の治療も必要です。

免疫性血小板減少症の場合はその他の血小板減少症と異なり、血小板輸血による血栓症リスクの上昇はありません。

 

ヘリコバクター・ピロリという細菌は免疫性血小板減少症を起こす可能性があります。

除菌することで血小板数が上昇する可能性が高くなるため、ヘリコバクター・ピロリが陽性の免疫性血小板減少症の場合は、ヘリコバクター・ピロリの除菌を行うことを推奨します。

 

一次性免疫性血小板減少症に対して、大量免疫グロブリン静脈投与を行うことがあります。

免疫グロブリン製剤というのは、人間の血液中に含まれる「抗体」を濃縮した血液製剤の一種です。

免疫性血小板減少症の臨床試験では、経過中に命を落とす症例はほとんどありません。長期的な生存に差がみらないのであれば、有害事象が少ない治療のほうがよいです。短期的な血小板数の違いはあまり意味がありません。

長期的な血小板数は免疫グロブリンでも副腎皮質ステロイドでも統計学的な差はありません。有害事象の発生頻度もあまり変わりありません。コストは免疫グロブリン製剤のほうが高いです。

 

同じ副腎皮質ステロイドでもデキサメタゾンプレドニゾンでは長期的な血小板数の統計学的な差はありませんが、有害事象はプレドニゾンのほうが多く、特に体重増加・顔面や体幹の肥満の可能性が増えます。

長期的にはデキサメタゾンでもプレドニゾンでもよいのですが、有害事象の点からデキサメタゾンのほうがよいと考えられます。

ただしいずれも長期的な奏効を維持できる確率は約40%です。

 

リツキシマブという悪性リンパ腫で使用される薬剤があります。

デキサメタゾン+リツキシマブのほうがデキサメタゾン単独よりも長期的な奏効を維持している割合は高いのですが、有害事象はデキサメタゾン+リツキシマブのほうが2倍くらい多くみられます。

初回治療でリツキシマブを追加することは有害事象が増えることから推奨しません。

 

一次性免疫性血小板減少症の治療としては、デキサメタゾン4日間投与を推奨します。14日くらいで奏効が落ちる場合がありますが、その時点でデキサメタゾン4日間2サイクル目を開始します。

 

免疫性血小板減少症の治療目標は、血小板数が正常化することではなく、20000~30000/μL以上を維持することです。

治療反応の国際基準では、血小板数が治療前の2倍になり, かつ血小板数が30000/μL以上となれば、奏効(R)と判断します。血小板数が100000/μL以上となれば、完全奏効(CR)と判断します

初回治療で奏効を維持できればそれでよいのですが、再発する可能性は半分以上です。血小板数や出血症状に注意しながら定期的に外来に通院します。

20000~30000/μL未満となれば次の治療へ進んだほうが良いでしょう。

骨髄生検 HE 400 巨核球
免疫性血小板減少症(ITP)の初回治療と効果判定

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再発・難治性の免疫性血小板減少症の治療

一次性免疫性血小板減少症の半数以上はやがて再発もしくは難治性になります。

血小板数が20000~30000/μL未満になってしまう場合は次の治療へ進みます

 

トロンボポエチン受容体作動薬は血小板の産生を増加させることができます。有害事象は偽薬と同程度です。

トロンボポエチン受容体作動薬の一つであるエルトロンボパグ(商品名:レボレード)により血小板数の上昇がみられます。内服一週間後の時点で血小板数が上昇し始めます。エルトロンボパグの内服を終了したら、通常は血小板数は急激に減少します。

ロミプロスチム(商品名:ロミプレート)という皮下注射製剤のトロンボポエチン受容体作動薬も免疫性血小板減少症に有効です。

リツキシマブも短期的奏効であればある程度期待できると言えます。

 

脾臓摘出術はかなり昔から行われていました。副腎皮質ステロイド治療後に再発・難治となった症例に対して世界中で行われていました。

自己抗体の結合した血小板は主に脾臓で破壊されます。脾臓を摘出することにより血小板を減少しないようにする治療法です。奏効はおよそ80%にみられます。現在は腹腔鏡下で行うことができます。

ただし脾臓摘出術については前向き研究やランダム化試験はほとんどありません。

 

新薬として、アバトロンボパグホスタマチニブなどがあります。免疫性血小板減少症に対して使用すると血小板数は偽薬よりも明らかに上昇しますが、有害事象も多くみられます。

 

再発・難治性の一次性免疫性血小板減少症に対する治療はトロンボポエチン受容体作動薬、リツキシマブ、脾臓摘出術など複数ありますが、これらを比較したランダム化臨床試験はありません。どのように選択するべきかについての医学的根拠は乏しいと言えます。

 

血小板数50000/μLでも積極的に減量すれば約30%でトロンボポエチン受容体作動薬を終了でき、またそうでなくても約10%で終了できる可能性があり、2019年のガイドラインでは脾臓摘出術は診断から1年以上経過した症例でのみ行うことを推奨しています。

脾臓摘出術の他では、効果の高さからトロンボポエチン受容体作動薬をリツキシマブよりも推奨しています。

ただしどのような治療選択が本当に良いのかについては比較試験が乏しく、はっきりしているというわけではありません。

再発・難治性の一次性免疫性血小板減少症に対しては、まれですが終了できる可能性を考慮してトロンボポエチン受容体作動薬から開始することを推奨します。

長期内服を避ける場合は脾臓摘出術リツキシマブが選択肢です。

巨核球 Giemsa
免疫性血小板減少症(ITP) 再発・難治性の症例に対する治療

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リツキシマブ weekly スケジュール
免疫性血小板減少症(ITP) 再発・難治性の治療選択と治療の注意点

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免疫性血小板減少症は治療後も血小板数が低めで推移することがあります。何らかの理由で手術を行うときは出血リスクを下げるために術前に血小板数を増加させてから手術を行います。

慣習的には大量免疫グロブリンの点滴投与を行っていました。トロンボポエチン受容体作動薬であるエルトロンボパグも大量免疫グロブリンと同等の効果があります。

 

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