免疫性血小板減少症 (ITP) の症状と疫学

2020-03-02

一次性免疫性血小板減少症 年間発症頻度

 

免疫性血小板減少症 (ITP)は、「特発性血小板減少性紫斑病」とも呼ばれますが、病気の性質から「免疫性血小板減少症 (Immune thrombocytopenia)」と最近は呼ばれることが多くなっています。

免疫性血小板減少症は厚生労働省の指定難病の一つです。しかし頻度は決して低くはなく、血液内科ではよくみる疾患の一つとなります。

本項では、免疫性血小板減少症の症状、発症頻度、予後について解説します。難病と言っても予後が悪いというわけではありません。発症初期の重篤な出血がまれにおこりますので、早めに診断し適切な治療を行うことが重要になります。

どのような症状がでて、どのようなときに免疫性血小板減少症が疑われるのか以下に解説しています。本項では国際ガイドラインにも基づいて記載しています。

 

免疫性血小板減少症の症状 出血率と重症度

免疫性血小板減少症の症状は出血です。

疫学調査はフランスなどの先進国で進んでおり、診断時の出血の頻度もわかってきています。

 

診断時に何らかの出血がみられるのは約50~60%です(Am J Hematol. 2017 Jun;92(6):493-500, J Thromb Haemost. 2018 Sep;16(9):1830-1842)。口腔粘膜の出血は約30%です。

これらの症例には診察するまで気が付かなかった症例が含まれているため、診断時に自覚症状があるのは少数と考えられ、多くは別の理由で採血を行いそれでたまたま発見されると考えられます。

重症な出血がおこるのは約5~10%です(J Thromb Haemost. 2015 Mar;13(3):457-64).

脳などの中枢神経系に出血するのは約1%とまれです。

出血を起こしやすい症例は、血小板数が20000/μL未満抗凝固薬・鎮痛薬(非ステロイド)を使用している場合です。

およそ20%で6週間以内に風邪などの感染症にかかった自覚があるとされています。感染症のあとに免疫によって免疫性血小板減少症を発症してしまうことがあります。

 

免疫性血小板減少症では、採血検査で血小板数が100000/μL未満になります。正常範囲はおよそ150000~400000/μLです。

もともと特に血小板数が低下する病気があるわけでもなく、突然血小板数が100000未満になるような場合は「免疫性血小板減少症」が疑われ、採血検査で他に原因がはっきりせず大きな異常は血小板数だけという場合は、「免疫性血小板減少症」である可能性がとても高いと言えます(Blood Adv. 2019 Nov 26;3(22):3780-3817)。

 

免疫性血小板減少症が疑われたら、すぐに血液内科のある病院を受診するように言われます。頻度は少ないとはいえ重篤な出血を起こしてしまった場合は生命に直結するからです。

重篤な出血を起こす前に診断し、そして必要に応じて治療することが重要になります。あまりにも低い値(例えば1000/μL)だった場合は直ちに入院したほうがいいです。

 

免疫性血小板減少症の疫学 発症頻度とリスク因子

先進国各国で免疫性血小板減少症の発症頻度などの疫学調査が行われていますが、結果はばらつきが大きいです。同じ国でも調査によって頻度が変わりますが、おおよそ年間発症率は10万人あたり2~9人です。

各国の調査で共通して、女性のほうが男性よりも少し(約2~3割)発症頻度が高いです。また、発症年齢のピークは、4歳未満65歳以上です。小児と高齢者に多く発症すると言えます(J Med Econ. 2020 Feb;23(2):184-192, Blood. 2014 Nov 20;124(22):3308-15)。

それでも高齢者のほうが発症頻度が高いため、発症年齢の中央値は約65歳となります(Am J Hematol. 2017 Jun;92(6):493-500)。下図(J Med Econ. 2020 Feb;23(2):184-192).

一次性免疫性血小板減少症 年間発症頻度

 

特定の疾患が免疫性血小板減少症の発症率を上昇させることもわかっています(Arch Intern Med. 2009 Feb 23;169(4):357-63)。

C型肝炎にかかっていると、年間発症率は10万人あたり30人と大きく上昇します。

HIVに感染していると、年間発症率は10万人あたり18.5人と上昇します。

そのほか、自己免疫性疾患やB細胞性の悪性リンパ腫も免疫性血小板減少症の発症率を上昇させます。

多くの薬剤・サプリメントにより血小板が減少することもわかってきています。

こういった基礎疾患や薬剤が関連している免疫性血小板減少症は「二次性免疫性血小板減少症」といい、疾患や薬剤の関連が不明な「一次性免疫性血小板減少症」と区別します(Blood Adv. 2019 Nov 26;3(22):3780-3817, Blood Adv. 2019 Dec 10;3(23):3829-3866)。

二次性免疫性血小板減少症の割合は、年齢とともに上昇します(下図, Blood. 2014 Nov 20;124(22):3308-15).

二次性免疫性血小板減少症 割合

 

免疫性血小板減少症は血液内科の疾患としては頻度は高い部類になります。経験豊富な血液内科の医師であれば、何例も経験しています。

 

免疫性血小板減少症の予後

免疫性血小板減少症の予後は一般的に悪くありません。免疫性血小板減少症により生命を落とす確率は一般人口と比べて同等かもしくは少し高いです(Blood. 2001 May 1;97(9):2549-54)。

無治療でも自然に改善することが約10%でみられます(Am J Med. 1995 May;98(5):436-42)。

 

2014年に20年にわたる長期の国民を対象とした研究の結果がデンマークから報告されています(Br J Haematol. 2014 Jul;166(2):260-7). この研究では一次性免疫性血小板減少症の症例を対象としました。

結果、一次性免疫性血小板減少症の方は一般の方よりも生存率がやや下がることがわかりました(下図)。

免疫性血小板減少症の全生存

さらに生存率が下がる原因が、出血感染症であることがわかりました。

出血は血小板減少によるものですが、感染症は糖質コルチコイドなどの治療による合併症と考えられます。

ただし現在は治療が当時よりもかなり改善しているため生存率の差はさらに小さいものとなっていると考えられます

とくに発症初期の出血は早めの診断と治療介入により重篤になる確率を大きく下げることができます。難病に指定されていますが、適切に対応すれば一般の人と比べても生存率はあまりかわらないようにできます

 

次項では免疫性血小板減少症の診断について解説していきます。

骨髄生検 HE 400, 巨核球
免疫性血小板減少症 (ITP) 診断と治療適応

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まとめ 免疫性血小板減少症の症状と疫学

免疫性血小板減少症(ITP)の診断時に何らかの出血がみられるのは約50~60%、重症な出血は約5~10%です。採血検査で血小板数が100000/μL未満となりますが、20000未満は出血しやすくなります。

● 年間発症率は10万人あたり2~9人です。基礎疾患や薬剤が関連している免疫性血小板減少症は「二次性免疫性血小板減少症」、疾患や薬剤の関連が不明な場合は「一次性免疫性血小板減少症」と呼び区別します。

● 免疫性血小板減少症の予後は一般的に悪くありませんが、出血と感染症が生存率を下げる原因になり得ます。

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