多発性骨髄腫 (MM) 自家造血幹細胞移植の実際と有害事象対策

2020-01-21

大量メルファラン 自家造血幹細胞移植 白血球数推移

 

多発性骨髄腫(MM)の初回化学療法を行い造血幹細胞採取が無事にできたら自家造血幹細胞移植です。

多発性骨髄腫の化学療法と自家造血幹細胞を併用すると奏効率、無増悪生存期間、全生存期間のいずれも改善がみられます。

特に多発性骨髄腫の完治を目指すのであれば、自家造血幹細胞移植を行うことを強く推奨します。

しかしながら、自家造血幹細胞移植は有効であるかわりに有害事象も結構きついので、十分に効果と有害事象についてご理解いただいて移植に進んでいきましょう。致命的な合併症は数%以下です。

本項では、自家造血幹細胞移植の実際、有害事象とその対策について解説します。本項でも文献やガイドラインを参照しています。できるかぎり有害事象を減らして負担のないようにやっていきましょう。

 

多発性骨髄腫の自家造血幹細胞移植 大量メルファラン投与と移植まで

初回化学療法を行い造血幹細胞採取を終えたら自家造血幹細胞移植に進んでいきます。

VRd療法D-VTd療法であったとしても、この時の奏効は約90%で部分奏効以上を達成していますが、完全奏効まで到達しているのは10%~20%です。部分奏効最良部分奏効が最も多いです(J Clin Oncol. 2019 Mar 1;37(7):589-597, Lancet. 2019 Jul 6;394(10192):29-38.)。移植後には完全奏効率は約40%~50%に上昇します。

 

自家造血幹細胞移植のスケジュールはシンプルです。

大量メルファラン(商品名:アルケラン)を投与し、その2日後に自家造血幹細胞移植を行うだけです(下図).

大量メルファラン 自家造血幹細胞移植 スケジュール

腎機能が悪い場合はメルファランの減量を行います。

アメリカでは約半数は1回も入院せずに自家移植を行います。残りの約半数も発熱してから入院です。自家移植の期間は毎日通院することになります。すぐそばのホテルから通院です。

日本では、ほとんどの場合は大量メルファラン投与の前から入院しています中心静脈カテーテルを挿入することも多いでしょう。

 

有害事象を減らすために、大量メルファランの前にいろいろ行います。

あまり頻度は高くありませんが、大量メルファランにより肝臓に障害がおこることがあります。肝類洞閉塞症候群といいます。

予防するためにヘパリンの持続点滴もしくはウルソデオキシコール酸の内服を行います。

自家移植ではヘパリンを、同種移植ではウルソデオキシコール酸を用いることが多いですが、どちらが良いかははっきりしていません(Blood. 1992 Jun 1;79(11):2834-40)。

肝類洞閉塞症候群は一度起きてしまうと生命に関わりますので、大量メルファランを開始する前から予防投薬を開始する必要があります。

 

大量メルファランの投与前に、予防の吐き気止めを使用します。

大量メルファランは吐き気や嘔吐をかなり起こしやすいので、十分に吐き気止めを使用します。MP療法などを行っていたときのメルファランはほとんど吐き気をおこすことはありませんでしたが、大量投与になると吐き気や嘔吐を高頻度で起こしやすくなります。高リスクに相当します。

パロノセトロン(商品名:アロキシ)の点滴投与、アプレピタント(商品名:イメンド)デキサメタゾンを用いることを推奨します(J Clin Oncol. 2014 Oct 20;32(30):3413-20)。これに加えてオランザピン(商品名:ジプレキサ)の内服も必須ではありませんがしばしば行います。

吐き気や嘔吐は一度起きてしまうとメトクロプラミドなどの吐き気止めを使用してもほとんど効果はありません。かなりつらいです。大量メルファランを開始する前から十分に予防することが大切です。

 

大量メルファランの投与を開始する30分くらい前から「氷」をなめてもらいます。

これは何のために行うのかというと口内炎などの消化管粘膜障害を軽減させるためです。

大量メルファランは消化管粘膜障害を引き起こします。口腔粘膜障害は特に痛みが強く、重症化すると食事もできなくなります。

氷をなめることによって口腔内の血管が収縮し大量メルファランが行き渡りにくくなります。

2006年にランダム化臨床試験の結果がでています(Bone Marrow Transplant. 2006 Jun;37(11):1031-5).

この臨床試験では大量メルファラン投与30分前から投与終了後6時間まで「氷」をなめる群と「生理食塩水」で漱ぐ群にランダム化しています。

結果は圧倒的で、生理食塩水では重症口腔粘膜障害は74%にも発生しましたが、氷では14%統計学的にも明らかに低くなりました(p=0.0005).

また口腔内の痛みについても、氷をなめていたほうが明らかに軽度でした(下図、痛みの強度)。

大量メルファラン Cryotherapy vs Nomal sailine, Mouth pain

上記のことをすべて行っておくだけで以降の辛い自覚症状はかなり減ります。

 

大量メルファラン投与の2日後にはいよいよ自家造血幹細胞移植です。

自家造血幹細胞移植は、凍結してある造血幹細胞をベッドサイドでとかして輸血のように投与するだけです。すぐ終わります。

投与している途中はのどがつまったような感じがありますが投与終了すればすぐ戻ります。磯のような匂いが部屋中に漂いますが、これは周りの人にしかわかりません。

造血幹細胞はとかして10分かからないうちに投与します。複数に分割して凍結している場合は、それぞれが10分以内の投与になります。あまり急速に投与すると徐脈や嘔吐などが発生します。

 

多発性骨髄腫の自家造血幹細胞移植 移植から生着まで

移植した直後はまだ白血球は低下していません。白血球や血小板などが下がり始めるのは移植後数日してからです。白血球数は移植後5~9日後が最も低下し100/μL未満となります(下図)。

大量メルファラン 自家造血幹細胞移植 白血球数推移

血小板数は白血球より少し遅れて、移植後9日前後が最も低下し、ほとんどの場合は血小板輸血が必要になります(下図)。

大量メルファラン 自家造血幹細胞移植 血小板数推移

白血球数を早く上昇させるためにフィルグラスチムなどのG-CSF製剤が使用されます。

このG-CSF製剤は使用すると白血球が早く上昇するため発熱抗菌薬点滴投与の期間が短くなります。通常は移植翌日から5日目までの間に開始します。

自家移植のG-CSF製剤についてはいろいろな臨床研究がありますが、2002年に報告されたものではG-CSF製剤を使用するほうが使用しない場合と比べて、白血球は早く上昇し、発熱の期間は3分の1以下になり、点滴抗生剤投与期間も半分になりました(Br J Haematol. 2002 Sep;118(4):1104-11)。

注意点として、G-CSF製剤は皮下注射のほうが点滴投与よりも明らかに効果が高いです(Am J Hematol. 2014 Mar;89(3):243-8)。G-CSF製剤は皮下注射で使用することを推奨します

 

白血球が低下するごろから感染率が高くなっていきます。白血球の少ないときにおこる発熱を「発熱性好中球減少症」といい、抗生剤投与開始が遅れると生命に関わることになる緊急性の高い状態です。自家造血幹細胞移植で最も危険な有害事象です。

白血球が低下し始めるころから、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬の予防内服を開始することを推奨します。

同時に感染を起こす確率を上昇させないためには、もし中心静脈カテーテルを挿入している場合は不要であれば白血球が低下する前に抜去してください。高カロリー輸液も不要であれば終了しておいたほうがいいです。どちらも感染率を大きく上昇させてしまいます。

手洗いもきちんとおこなってください。

食事に関しては「生もの禁止」にする必要は必ずしもありません。栄養をしっかり摂取していただくほうが重要です。

 

2008年に「生もの禁止」についての大規模ランダム化臨床試験の結果が報告されました(J Clin Oncol. 2008 Dec 10;26(35):5684-8)。この臨床試験では急性骨髄性白血病の寛解導入療法をおこなう症例を対象として、「生もの可」「生もの禁止」の2群にランダム化して結果を比較しました。

結果、感染症発症率や全生存率は「生もの禁止」にしても、明らかな改善はありませんでした

自家造血幹細胞移植では、白血球が低い期間は急性骨髄性白血病の寛解導入療法よりもはるかに短いため、「生もの禁止」は必須ではないでしょう。治療している施設の指示に従ってください

 

白血球が低下してくるくらいのタイミングで下痢が悪化してきます。1日10回をこえることもしばしばあります。大量メルファランにより消化管粘膜に障害がおこるため下痢になってしまいます。

ただし下痢止めの使用は推奨しません。感染率が上昇する懸念があるからです。

この時期におこる「発熱性好中球減少症」の熱源として最も多いのは消化管の感染です。およそ半分くらいは消化管の感染が原因と推定されます。十分な水分を摂取してください。

 

これらの予防策により「発熱性好中球減少症」が起こる確率は半分くらいの症例まで減少します。しかしそれでも残り半数では起こってしまいます。

もし発熱し始めたら直ちに医療スタッフに知らせてください。そしてすぐに血液培養検査を行い、できる限りすみやかに点滴抗生剤を開始します。

点滴抗生剤の投与が半日遅れるだけで生命への影響は大きなものとなってしまいます。

発熱してから点滴抗生剤の開始まで30~60分以内を目標にします。おかしいとおもったら頻回に体温を測定していてください。

 

自家移植では白血球だけでなく赤血球や血小板も低下します。ほとんどの場合で輸血が必要になります。

白血球は移植後10日目前後から上昇し始めます。

白血球の中の好中球と呼ばれるものが、500/μLを超えたら「生着」と呼びます。正確には「好中球生着」といいますが、これは移植後11日前後になります。

好中球数は「白血球数 × (桿状核球の割合+分葉核球の割合)」で計算します。

例えば白血球数が800/μLで桿状核球が35%、分葉核球が45%であれば、好中球数は800×80%で、640/μLとなります。

好中球生着を確認してもしばらくG-CSF製剤は継続します。ここでやめるとまだすぐに下がってしまいます。好中球数が5000/μLもしくは白血球数が10000/μLくらいまで継続します。

このくらいまできてG-CSF製剤を終了しても白血球数は正常下限よりも下がることがよくあります。しばらくすると正常範囲に戻っていきます。

 

血小板数は白血球に遅れて上昇してきます。

血小板数は輸血をしなくても20000/μLを保つことができたら「血小板生着」となります。おおよそ移植後16日前後です。

 

そして「生着」とほぼ同時期に脱毛します。血球が上昇して熱も下がって一安心し忘れかけていたところで、ばっさりと抜けます。かなり激しく抜けますので覚悟しておいてください。

 

多発性骨髄腫の自家造血幹細胞移植 生着から次の化学療法、100日後まで

生着して体調がもどれば通常通りの生活になります。移植後30日くらいまでは調子がそれほど良くないと思います。移植後100日のころにはほとんどいつも通りに戻っているでしょう。

移植後100日までの間に致命的な合併症が起こる確率は0~数%です。

 

移植後30日以降で体調が戻っていれば、初回化学療法の続きを「地固め療法」として行う場合があります。

臨床試験が行われた時の治療方法がそのようになっていることからしばしばおこなわれますが、自家造血幹細胞移植後の「地固め療法」の効果はあるとはあまり言えません(J Clin Oncol. 2019 Mar 1;37(7):589-597)。

自家造血幹細胞移植後に「地固め療法」を行う群と行わない群で比較しても、無増悪生存期間と全生存期間の改善は明らかではありません。

2020年12月時点でのアメリカのNCCNガイドライン(NCCN Guidelines)でも、日本の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでも「地固め療法」は推奨されてはいません

 

自家造血幹細胞移植から100日後くらいに「治療効果判定」を行います。ここでの治療効果判定は極めて重要です。

移植30日後くらいから地固め療法を行った場合は、ちょうど2サイクル終了したくらいで効果判定になります。

最良部分奏効が見込まれる場合は、この時点で「測定可能残存病変(MRD)」の精査も行うことを推奨します。

 

無治療のまま100日を待つ場合は注意点があります。

血清蛋白電気泳動で「オリゴクローナル」な波形がみられることがあります。

移植後の免疫グロブリンの回復が早めにおきるために、M蛋白とは異なるけれどもκもしくはλにかたよった緩やかなピークを呈する波形がみられます。ほとんどの場合でIgGの免疫グロブリンです。

IgG型多発性骨髄腫の場合はIgGが上昇するため再発が頭をよぎるかもしれませんが、IgGだけで再発と判断することはできません。必ず波形を確認することが大切です。

オリゴクローナルな蛋白がみられる場合の多くは良好な奏効です。

 

「治療効果判定」の詳細は次項で解説します。

SPEP No M protein
多発性骨髄腫 (MM) 治療効果判定と測定可能残存病変(MRD)

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まとめ 多発性骨髄腫の自家造血幹細胞移植の実際と有害事象対策

自家造血幹細胞移植はさらに深い奏効を獲得するための重要な治療です。多発性骨髄腫では大量メルファランを投与し自家造血幹細胞移植を行います。肝類洞閉塞症候群予防、予防の吐き気止め、氷をなめるなどをも行います。

発熱性好中球減少症は自家造血幹細胞移植で最も危険な有害事象です。すぐに血液培養検査と点滴抗生剤を開始します。G-CSF製剤を用いると好中球生着は移植後11日前後です。血小板生着は移植後16日前後です。

● 移植後100日までに致命的な合併症が起こるのは数%以下です。自家造血幹細胞移植から100日後くらいに「治療効果判定」を行います。

参考文献

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Autologous Transplantation, Consolidation, and Maintenance Therapy in Multiple Myeloma: Results of the BMT CTN 0702 Trial.
J Clin Oncol. 2019 Mar 1;37(7):589-597.

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