多発性骨髄腫 (MM) の自家造血幹細胞採取

2020-01-18

造血幹細胞採取スケジュール プレリキサホル先制使用

 

自家造血幹細胞移植を行うためには、あらかじめ自分の造血幹細胞を採取して、凍結保存しておく必要があります。この凍結保存した造血幹細胞を、移植の時に解凍して投与します。

本項では多発性骨髄腫(MM)自家造血幹細胞採取について解説します。

自家造血幹細胞移植は非常に重要な治療の一つですが、それを行うためには幹細胞を十分に採取することが必須です。

造血幹細胞採取も年々改善してきています。安全かつ十分に幹細胞採取を行うにはどのような方法がよいのか、ということについてランダム化臨床試験などを参照しつつ解説していきます。

 

自家造血幹細胞採取の方法 自家移植2回分の幹細胞採取

多発性骨髄腫(MM)の幹細胞採取では自家造血幹細胞移植が2回できる量の造血幹細胞を採取することが目標になります。

移植2回分をここで採取する理由は、再発時にも自家造血幹細胞移植が有効であることがわかっていることと、一度自家造血幹細胞移植をおこなってから再度幹細胞採取を行っても採取できない可能性が高くなることによります。

2回分の採取を少ない有害事象で可能にするための幹細胞採取のやり方が研究されてきました。

 

多発性骨髄腫に対する自家造血幹細胞移植が行われるようになったころはフィルグラスチムなどのG-CSF製剤だけを使用して採取を行っていました。

しかしG-CSF製剤だけでは移植1回分を採取できる症例が約70%でした(Br J Haematol. 1998 Feb;100(2):338-47).

 

新たな試みとして、抗がん剤化学療法を行って10日~14日ごろの白血球数の回復するときに幹細胞を採取する方法が考案されました。G-CSF製剤を併用して採取します。

この方法を用いたランダム化臨床試験の結果が2000年ごろに複数報告されています(J Clin Oncol. 2000 May;18(9):1824-30, Blood. 2001 Oct 1;98(7):2059-64)。

シクロホスファミドという抗がん剤を投与して採取すると、G-CSF製剤単独で採取するよりも3倍くらい多い造血幹細胞を採取できるようになり、移植1回分については約90%の症例で採取可能になりました。

 

しかしここで問題が発生します。

レナリドミド(商品名:レブラミド)が多発性骨髄腫に対する初回化学療法で用いられるようになると、幹細胞採取に失敗する確率がおよそ6倍に増加してしまったのです(Biol Blood Marrow Transplant. 2009 Jun;15(6):718-23)。

レナリドミドを使用していなければ90%以上の症例で移植1回可能な量の造血幹細胞を採取できていたのですが、レナリドミドを使用すると移植1回可能な量の幹細胞を採取できなかった症例が20%以上にもなってしまいました(下図 採取失敗率)。

レナリドミド使用 幹細胞採取失敗率

シクロホスファミドを用いても自家造血幹細胞移植2回分の採取の成功率は以前よりかなり低下しました。

 

エトポシドという抗がん剤を投与して採取すると、シクロホスファミドを用いた場合よりも多く造血幹細胞を採取することができることもわかっていました。

しかしエトポシドで採取すると、移植後に骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病になる確率が大きく上昇し、移植後6年で約8.6%の症例で骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病を発症してしまうということも2000年には明らかになってしまいました(Blood. 2000 Mar 1;95(5):1588-93). 

 

そのような状況の中、画期的な薬剤が登場します。プレリキサホル(商品名:モゾビル)です。

プレリキサホルは造血幹細胞を骨髄から末梢血に移動させる薬剤です。幹細胞採取前に投与すると採取できる造血幹細胞の量が増えます。

2009年にプレリキサホルの有効性を明らかにした大規模ランダム化臨床試験の結果が報告されました(Blood. 2009 Jun 4;113(23):5720-6)。

この臨床試験では多発性骨髄腫症例で幹細胞採取を行う際にG-CSF製剤に加えて、プレリキサホルを使用する群と偽薬群にランダムに割り付けを行いました。

1~2日間で造血幹細胞を移植2回分採取できた割合は、偽薬群で34.4%であったのに対して、プレリキサホル群では71.6%と明らかに高い結果でした(p<0.001).

プレリキサホル群の半分以上で採取は1日のみで終了しています。

G-CSF製剤のみでは4日間の幹細胞採取でやっと55.9%で移植2回分が採取できていますが、最終的に約45%で2回分に到達していません。プレリキサホル群で移植2回分採取できなかったのは約13%です(下図、2回分採取成功率)。

造血幹細胞採取成功率 プレリキサホル vs 偽薬

重篤な有害事象の発生率は両群ともあまり変わりありませんが、プレリキサホル群では下痢嘔吐が約15%~20%でみられました。

多発性骨髄腫症例でも多くの症例でプレリキサホルを使用することにより、自家造血幹細胞移植2回分の造血幹細胞を採取することができるようになりました。

 

自家造血幹細胞採取 プレリキサホルとシクロホスファミドの比較

幹細胞採取で、シクロホスファミドとプレリキサホルのどちらがよいのか比較する大規模ランダム化臨床試験の結果はありません。いくつかの後ろ向き研究があります。

 

まずは2013年に報告されたアメリカの後ろ向き研究の結果です(Bone Marrow Transplant. 2013 Oct;48(10):1279-1284)。約45%の症例でレナリドミドを使用していました。

シクロホスファミドでもプレリキサホルでも、約95%の症例で移植2回分の採取が可能でした。

しかしながら、シクロホスファミド群では約16%で血球低下時に感染症を起こし抗菌薬の点滴投与が必要になりました。また約30%の症例で赤血球輸血が、約20%の症例で血小板輸血が必要になりました。プレリキサホル群ではいずれもまれでした。

プレリキサホル群での総費用はシクロホスファミド群よりも約30%高値でした。

 

2016年にも同様の後ろ向き研究の結果が報告されました(Bone Marrow Transplant. 2016 Apr;51(4):546-52). 約80%の症例でレナリドミドを使用していました。採取の日程は以下のように行っていました。

幹細胞採取日程 プレリキサホル シクロホスファミド

この研究では、移植2回分の採取が可能だったのは、シクロホスファミドで83%, プレリキサホルで94%であり、プレリキサホルのほうが成功率は高い結果でした(p=0.013).

発熱などの合併症はシクロホスファミド群で多くみられました。

この研究ではシクロホスファミド群の総費用のほうが高く、プレリキサホル群よりも約30%高値でした。

 

多発性骨髄腫の初回治療でレナリドミドを使用することが近年ではかなり多くなっています。

プレリキサホルのほうがシクロホスファミドで採取するよりも移植2回分採取の成功率が高い、発熱などの有害事象は少ない、輸血が必要になる確率が低い、といえます。総費用も必ずしも高くなるというわけではありません。

また、シクロホスファミドを使用するとほぼ全例で脱毛がおこります。

造血幹細胞採取のときは、シクロホスファミドを用いるよりもプレリキサホルを使用することを推奨します。

 

プレリキサホルの先制使用という方法があります。

プレリキサホルは幹細胞採取前日の夜に投与しますが、採取前日の採血で「末梢血中の造血幹細胞」が十分に上昇していれば、プレリキサホルを使用する必要なく幹細胞採取できます。このときはプレリキサホルによる有害事象も費用もありません。

採取前日の採血で「末梢血中の造血幹細胞」が低ければ、夜にプレリキサホルを投与して採取すればよいです。

造血幹細胞採取では、プレリキサホルの先制使用を推奨します。

 

自家造血幹細胞採取の実際 プレリキサホルの先制使用

プレリキサホルの先制使用を行うときのスケジュールは以下のようになります。

造血幹細胞採取スケジュール プレリキサホル先制使用

4日間G-CSF製剤を投与し、4日目に「末梢血の造血幹細胞」の数を採血で確認します。

このころまでにG-CSF製剤により白血球は大きく上昇します。50000 /μLくらいまで上昇することもしばしばあります。このとき腰や背中が痛くなってくることがありますが、十分量採取できそうなときに多くみられます。

「末梢血の造血幹細胞」が20 /μL以上あれば、プレリキサホルを使用せずに移植2回分の採取が数日間の採取により可能です。

20 /μL未満であればプレリキサホルを使用し翌日造血幹細胞採取を行います。1回の採取で終了できることも多いです。

 

造血幹細胞採取の当日はG-CSF製剤を注射し幹細胞採取のためのカテーテルを挿入します。通常は両腕の静脈にカテーテルを挿入し幹細胞採取の機械に接続します。3時間くらい循環させて、造血幹細胞を採取します。

動画のほうがわかりやすいと思います。下の動画をご参照ください(シンガポールの施設です)。一度カテーテルを挿入してしまえば、あとはずっと横になっているだけです。

入院せずに行うこともできますが、日本では入院して幹細胞採取になることが多いです。

 

幹細胞採取当日にはいくつかの注意点があります。

幹細胞採取するときは静脈にカテーテルを挿入して、採取用の機械に循環させます。このとき両腕にカテーテルを挿入することを推奨します

中心静脈カテーテルという緊急透析などに用いるカテーテルがありますが、この中心静脈カテーテルを用いることは推奨しません。

幹細胞採取で採取用の機械に循環させるときに血液を固まりにくくする薬剤を使用します。中心静脈カテーテルを挿入するときに血管を傷つけることがまれにあり、そのまま血液を固まりにくくする薬剤をすると、重篤な出血を起こす場合があります。日本国内での死亡例も複数でています。

自己末梢血造血幹細胞採取時における死亡事例 https://www.jmdp.or.jp/medical/notice_w/post_263.html

自己末梢血造血幹細胞移植採取時における死亡事例に関する学会の見解 https://www.jshct.com/uploads/files/news/20180702.pdf

幹細胞採取時は両腕にカテーテルを挿入することを推奨します。習熟した医師による穿刺であれば、挿入できないという状況はあまり多くありません。

 

採取にもちいる薬剤の影響などで幹細胞採取中にしびれがおこることがあります。そのままだと採取が終わるまで徐々に悪化しますので、しびれが出始めたら伝えてください。点滴や採取速度の調整により軽減します。採取が終了すればしびれは改善します。

 

幹細胞採取後、どのくらいの量の造血幹細胞が採取できたか確認します。この採取できた量によって翌日も採取が必要かどうか判断します。

造血幹細胞数はCD34という細胞表面の蛋白が陽性になっている細胞を測定することで分かります。体重当たり3百万個の造血幹細胞で移植1回分です。体重あたり6百万個採取できていれば移植2回分となります。

体重当たり2百万個でも移植は可能ですが、下限ぎりぎりです。

これを下回ると移植した時の血小板の生着が大きく遅れますし、最終的な血球も低めになります。

移植後も治療が必要になることがしばしばありますが、その時に血球数が低いと投与量の減量や治療の延期・中止などが起こりえることから、十分な量の造血幹細胞を採取し移植することが重要です(Blood. 1995 Jan 15;85(2):588-96)。

 

採取できた造血幹細胞はそのまま凍結保存し自家造血幹細胞の直前で解凍します。

「プレリキサホルの先制使用」により、90%以上の症例で移植2回分の造血幹細胞が採取できます。

採取した造血幹細胞は5年以上も長期保存可能です。

多発性骨髄腫の治療成績は年々改善しており生存期間もかなり延びています。再発したとしても何年もたってからの再発であるということがあり得ます。その時に造血幹細胞が使用できる状態にしておくことを推奨します。

 

次項では、自家造血幹細胞移植のスケジュールや注意点について解説します。

大量メルファラン 自家造血幹細胞移植 白血球数推移
多発性骨髄腫 (MM) 自家造血幹細胞移植の実際と有害事象対策

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まとめ 多発性骨髄腫の自家造血幹細胞採取

● 多発性骨髄腫では自家造血幹細胞移植2回分の造血幹細胞の採取を目標とします。G-CSF製剤プレリキサホルを使用することにより、高確率で移植2回分の造血幹細胞を採取することができます。

● プレリキサホルのほうがシクロホスファミドよりも高い成功率と低い有害事象の発生率といえます。シクロホスファミドを用いるよりもプレリキサホルを使用することを推奨します。造血幹細胞採取ではプレリキサホルの先制使用を推奨します。

● 4日間G-CSF製剤を投与し4日目に「末梢血の造血幹細胞」の数を確認します。造血幹細胞採取の当日はG-CSF製剤を注射し両腕の静脈にカテーテルを挿入し、幹細胞採取の機械に接続し3時間くらい循環させて造血幹細胞を採取します。体重あたり6百万個採取できていれば移植2回分となります。

参考文献

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Peripheral blood stem cell transplants for multiple myeloma: identification of favorable variables for rapid engraftment in 225 patients.
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