多発性骨髄腫(MM) 治療前検査、くすぶり型多発性骨髄腫、緊急処置

2020-01-02

多発性骨髄腫 Multiple myeloma Smear Giemsa

 

多発性骨髄腫(MM)の診断と並行して全身状態の精査を行います。明らかな適応外でない限り自家造血幹細胞移植の可能性を考慮して治療を開始します。

このときくすぶり型多発性骨髄腫であったり、あるいは緊急で透析などの処置が必要な状態であったりと重症度は同じ多発性骨髄腫でも様々です。

本項では、治療開始前にやるべき検査などについて解説し、その後にくすぶり型多発性骨髄腫の治療の必要性や多発性骨髄腫で緊急処置が必要な場合とその処置について解説します。

急にいろいろなことも起こり得るのがこの疾患です。前もってどのようなことが必要になるのかわかっていれば、急激に変化する状況にも対応もしやすくなるかもしれません。

本項でも国外の文献やガイドラインを参照しつつ解説します。

 

多発性骨髄腫の治療開始前検査

多発性骨髄腫(MM)の診断と並行して全身状態の評価も行います。

多発性骨髄腫の重要な治療の一つに自家造血幹細胞移植というものがあります。大量化学療法後に自分の造血幹細胞を戻すという治療方法なのですが、全身状態が悪いと自家造血幹細胞移植はできません。

自家造血幹細胞移植の適応は施設や担当医師によって異なります。

 

多発性骨髄腫の診断時には、痛みによってあまり動けない症例などもありますが、治療によって徐々に全身状態は改善しますので、痛くて動けないだけで最初から自家造血幹細胞移植ができないと決めつけないほうが良いです。

同様に高齢というだけで自家造血幹細胞移植ができないと決めつけてはいけません。日本の血液学会による2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、自家造血幹細胞移植は65歳までとなっていますが、2020年12月時点でのアメリカのNCCNガイドライン(NCCN Guidelines)では、自家造血幹細胞移植を行うのに年齢の上限はありません。

このことは2000年ごろにはすでに報告されていました。2016年には比較的大規模な報告がでています(Bone Marrow Transplant. 2016 Nov;51(11):1449-1455).

この論文では1998年から2015年までに行った70歳以上の多発性骨髄腫症例207名の自家造血幹細胞移植の結果を記載しています。

結果は、100日以内の移植関連死亡率は1%、入院が必要となった症例は64%、生着までの日数は14日、全奏効率は93%であり、70歳未満の場合と比較してもあまりかわりないというものでした。

無増悪生存期間や全生存期間についても、70歳未満に劣るというわけではありませんでした(下図、左:無増悪生存率 右:全生存率)。

多発性骨髄腫 高齢者の移植 PFS OS

後ろ向き研究の報告なので信頼性はやや乏しくなりますが、多発性骨髄腫に限らず他の疾患でも、自家造血幹細胞移植でも同種造血幹細胞移植でも、年齢だけで移植適応外とする必要はないということがわかってきています。

年齢が高いというだけで自家造血幹細胞移植の適応外とすることは推奨しません。

 

多発性骨髄腫の場合は、腎機能が低下していても自家造血幹細胞移植は可能です。透析症例でも移植適応外とはなりません。また、腎機能障害は治療により改善することもよくあります。

 

自家造血幹細胞移植の適応は施設や担当医師によって異なります。

一般的には、多発性骨髄腫の場合は心機能が悪すぎる肺機能が悪すぎる肝機能がわるすぎる移植までに歩行可能になっていない、というときには自家造血幹細胞移植の適応とはなりません。

心機能の評価は心臓超音波検査で行います。心臓超音波検査は10分~20分くらいで終了する検査です。治療前の心臓の機能を確認します。左心室の収縮が悪すぎると移植適応外となります。

肝臓の評価は主に採血で行います。肺機能については「酸素投与」が不要であれば移植には問題ありません。

診断時によほど悪いという状況でなければ、自家造血幹細胞移植を前提として治療を開始しておくことを推奨します。

 

多発性骨髄腫の診断時にはB型肝炎の検査も行います。採血で可能です。

これは現在B型肝炎になっているかどうかだけでなく、昔B型肝炎にかかったかどうかについても検査します。B型肝炎というのは気が付かないうちに感染していたということもあります。

多発性骨髄腫の治療により、このB型肝炎が再活性化して重篤な肝不全を起こすことがあります。再活性化の初期段階でB型肝炎の治療薬を開始すれば、大抵は無症状のまま改善していきます。

ワクチンを投与していることも増えてきていますので、再活性化のリスクは減ってきてはいますが、再活性化で重篤な肝不全を起こしてしまうと生命に関わりますので、必ず診断時に確認します。

昔B型肝炎にかかっていると判明した場合は、定期的に再活性化の有無を調べる採血検査を行います。診断時は免疫グロブリンが多すぎて偽陽性だったというときもあります。

 

多発性骨髄腫の治療により生殖能力の低下が起こりえます。治療薬によっては胎児の奇形を起こすものもあります。

男性の場合は、精液の凍結保存がすぐにできますので、よほど緊急でなければ治療開始前に凍結保存をするかどうか検討します。治療開始してから凍結保存することも可能ですが、治療薬に制限がかかります。

女性の場合は、しかるべきパートナーがいる場合は受精卵凍結保存が行われますが、時間がかかることから、状況によって治療開始前にはできない可能性があります。治療開始してから凍結保存することも可能ですが、治療薬に制限がかかります。少なくとも移植前までには行ってください。

卵巣凍結保存、卵子凍結保存も可能ですが、例数はそれほど多くなくいまだ研究段階です。不可能ではありません。

 

セカンドオピニオン病院の変更を行う場合は、理想的には治療を行う前を推奨します。

自家造血幹細胞移植の適応だけでなく、多発性骨髄腫の治療は施設や担当医師によって異なります。

特に自家造血幹細胞移植適応の場合は、造血幹細胞を凍結してから転院すると幹細胞を輸送する必要が出てきます。造血幹細胞は液体窒素に入れて保管しているため、輸送が簡単ではありません。

再発後など、あとから病院の変更を行うとそれだけで治療に制限が出ます。そもそも再発を繰り返してからセカンドオピニオンや病院の変更を行っても、できる治療は限られてしまい、予後がよくなる可能性はさがります。

もし治療が緊急で必要だった場合にセカンドオピニオンや病院の変更を希望するときは、全身状態が安定してから早めに行うことを推奨します。

 

くすぶり型多発性骨髄腫(無症候性多発性骨髄腫)の治療?

くすぶり型多発性骨髄腫(無症候性多発性骨髄腫)は、無治療の場合、最初の5年は年間10%くらいの症例が本格的な多発性骨髄腫もしくはALアミロイドーシスに移行します。以降は年間約1%~3%と徐々に低下していきます(下図、N Engl J Med. 2007 Jun 21;356(25):2582-90)。

くすぶり型多発性骨髄腫とMGUSの多発性骨髄腫もしくはALアミロイドーシスへの累積移行率

MP療法という治療を行っていた時代は、ここで治療介入してもしなくても生存に大きな変化はありませんでした(Br J Cancer. 1994 Dec;70(6):1203-10, Br J Cancer. 2000 Apr;82(7):1254-60).

さらにくすぶり型多発性骨髄腫の段階でゾレドロン酸(商品名:ゾメタ)という骨を折れにくくする薬を始めても、骨折率や生存率には大きな変化はありませんでした(Cancer. 2008 Oct 1;113(7):1588-95)。

くすぶり型多発性骨髄腫の段階で治療を開始する必要はないと考えられていました。

 

しかしながら2013年に早期治療のほうが良い可能性が指摘されました(N Engl J Med. 2013 Aug 1;369(5):438-47)。

その当時のよく使われていた初回治療であるRd療法くすぶり型多発性骨髄腫の中でも進行リスクが高そうな症例限定でランダム化して投与しました。対象群は経過観察のみです。

QuiRedex試験と名付けられたこの臨床研究では、Rd療法を行った群のほうが進行率を下げるだけでなく、全生存率までも統計学的に明らかに改善するという結果に長期報告でもなりました(下図、Lancet Oncol. 2016 Aug;17(8):1127-1136)。

くすぶり型多発性骨髄腫 Rd療法 経過観察 全生存

この試験の高リスクくすぶり型多発性骨髄腫の定義は以下でした(くすぶり型多発性骨髄腫の定義は「多発性骨髄腫(MM)の診断基準と鑑別診断」「多発性骨髄腫の診断 類似疾患の可能性の確認」をご覧ください)。

●骨髄中の形質細胞が10%以上、または血清M蛋白がIgG型だと3 g/dL, IgA型だと 2g/dL以上、または尿M蛋白が1 g/日を超える
かつ
●骨髄中の形質細胞の95%は腫瘍性形質細胞である
かつ
●M蛋白ではないIgGもしくはIgAが正常下限より25%を超えて低下している

 

似たような臨床試験の結果が2019年に出版されました(J Clin Oncol. 2019 Oct 25:JCO1901740)。

くすぶり型多発性骨髄腫症例のうち骨髄中形質細胞10%以上かつ遊離軽鎖比異常がある症例限定で、レナリドミド群と経過観察群にランダム化して比較しました。

予想通り結果は無増悪生存期間がレナリドミドにより延長しましたが、延長がみられたのは高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫症例で顕著でした。ただし全生存についてはまだ違いは見られていません。

 

高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫に対しては、多発性骨髄腫の治療を開始してもよいと考えられます。

高リスクでなければ、治療開始のほうが良いという根拠はないため、治療開始よりも経過観察のほうがよいと考えられます。

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCNガイドライン(NCCN Guidelines)ではくすぶり型多発性骨髄腫に対しては低リスクであれば経過観察を強く(カテゴリー1)推奨していますが、高リスクであれば可能なら臨床試験参加、そうでなければ経過観察もしくはレナリドミド投与のいずれかを推奨しています。

日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインではくすぶり型多発性骨髄腫に対しては経過観察を推奨しています。

 

多発性骨髄腫の緊急処置 緊急透析、高カルシウム血症、過粘稠症候群

多発性骨髄腫の症例では、緊急で治療介入が必要になる場合があります。以下、そのような場合について解説します。

 

多発性骨髄腫による急性腎機能障害ではM蛋白(特に異常軽鎖)が腎臓の尿細管に障害をおこします。高カルシウム血症が腎機能障害を引き起こすこともあります。

採血ではクレアチニンが大きく上昇し、場合によっては緊急透析が必要になることもあります。

痛み止めとしてよく使われるNSAID(エヌセイド)は、イブプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセンなどがありますが、腎臓に障害を与えることがあります

多発性骨髄腫の場合はNSAIDを使用すると思わぬ腎機能障害の悪化を起こしますので、極力避けましょう。

異常軽鎖は大量点滴(1日3Lくらい)により尿細管へ障害を与える前に尿として排泄することができます。もしそれでも透析が必要になった場合は緊急透析です。

緊急透析の時は血中の異常軽鎖を除去することも目的とします。高カットオフ透析器を使用してください。半年後の透析離脱率が上昇します(JAMA. 2017 Dec 5;318(21):2099-2110).

そして何よりも重要なのが早めに診断をつけて早めに治療を開始することです。軽鎖は半減期が数時間と非常に短いため治療を開始したら数日のうちに減少します。軽鎖が減ってしまえば腎機能障害は悪化が止まります。

多発性骨髄腫の急性腎機能障害はその後徐々に改善することが多いです。近いうちに透析も必要なくなるでしょう。

 

多発性骨髄腫による高カルシウム血症腎機能障害意識障害などを起こします。早急に治療介入が必要です。

高カルシウム血症も大量点滴によって希釈・排泄を行うことで軽減されます。

血清カルシウム値が14 mg/dLを超えるような症例はゾレドロン酸などのビスホスホネート製剤を使用しカルシウムを下げます。18 mg/dLくらいになると緊急透析でカルシウムを除去します。

高カルシウム血症の場合も、何よりも重要なのが早めに診断をつけて早めに治療を開始することです。上記治療でも値は落ち着いていくのですが、いつまでも透析や輸液をしているわけにはいきません。早めの治療開始によりカルシウムをそもそも上昇させないようにすることが重要です。

 

多発性骨髄腫では血清M蛋白が多すぎると「過粘稠症候群(過粘稠度症候群)」という症状を起こすことがあります。視力障害、意識障害、鼻出血、心不全などの症状がおこります。

血液の粘稠度が高くなるために起こるとされていますが、血清粘稠度検査とはあまり相関しません(Blood. 2018 Sep 27;132(13):1379-1385)。

このような症状が出ている場合は、緊急血漿交換という透析のようなことを行い血清M蛋白を除去します。軽鎖ではなく免疫グロブリン型のM蛋白です。通常はすみやかに症状は改善します。

そして再び増えてくる前に早めに診断をつけて早めに治療を開始します。軽鎖と違ってIgGの半減期は約3週間IgAの半減期は約1週間です。ただしM蛋白は正常な免疫グロブリンではないので、この通りの半減期とは限りません。

 

次項では多発性骨髄腫の初回治療について解説を始めていきます。

多発性骨髄腫 VTd vs D-VTd CASSIOPEIA 奏効率
多発性骨髄腫(MM)の初回治療 新規薬剤を用いた化学療法

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まとめ 多発性骨髄腫 治療前検査、くすぶり型多発性骨髄腫、緊急処置

多発性骨髄腫に対する自家造血幹細胞移植の適応は施設や担当医師によって異なります。心機能が悪すぎる、肺機能が悪すぎる、肝機能がわるすぎる、移植までに歩行可能になっていない、というときは適応になりません。腎機能や高齢だけでは移植適応外となりません。

高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫に対しては、多発性骨髄腫の治療を開始してもよいと考えられます。高リスクでなければ、治療開始よりも経過観察のほうがよいと考えられます。

● 多発性骨髄腫による急性腎機能障害、高カルシウム血症、過粘稠症候群(過粘稠度症候群)に対しては緊急で治療介入が必要です。また、早めに診断をつけて早めに治療を開始することが重要です。

参考文献

Autologous stem cell transplant for multiple myeloma patients 70 years or older.
Bone Marrow Transplant. 2016 Nov;51(11):1449-1455.

Clinical course and prognosis of smoldering (asymptomatic) multiple myeloma.
N Engl J Med. 2007 Jun 21;356(25):2582-90.

Treatment of multiple myeloma according to the extension of the disease: a prospective, randomised study comparing a less with a more aggressive cystostatic policy. Cooperative Group of Study and Treatment of Multiple Myeloma.
Br J Cancer. 1994 Dec;70(6):1203-10.

Long-term survival of stage I multiple myeloma given chemotherapy just after diagnosis or at progression of the disease: a multicentre randomized study. Cooperative Group of Study and Treatment of Multiple Myeloma.
Br J Cancer. 2000 Apr;82(7):1254-60.

A multicenter, randomized clinical trial comparing zoledronic acid versus observation in patients with asymptomatic myeloma.
Cancer. 2008 Oct 1;113(7):1588-95.

Lenalidomide plus dexamethasone for high-risk smoldering multiple myeloma.
N Engl J Med. 2013 Aug 1;369(5):438-47.

Lenalidomide plus dexamethasone versus observation in patients with high-risk smouldering multiple myeloma (QuiRedex): long-term follow-up of a randomised, controlled, phase 3 trial.
Lancet Oncol. 2016 Aug;17(8):1127-1136.

Randomized Trial of Lenalidomide Versus Observation in Smoldering Multiple Myeloma.
J Clin Oncol. 2019 Oct 25:JCO1901740.

Effect of High-Cutoff Hemodialysis vs Conventional Hemodialysis on Hemodialysis Independence Among Patients With Myeloma Cast Nephropathy: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2017 Dec 5;318(21):2099-2110.

Acute hyperviscosity: syndromes and management.
Blood. 2018 Sep 27;132(13):1379-1385.

NCCNガイドライン(NCCN Guidelines)

2018年造血器腫瘍診療ガイドライン

 

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