原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の診断 生検と病理診断

2020-11-26

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 病理 HE 400

 

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)が症状とMRIから疑われたら、すみやかに診断をすすめていきます。原発性中枢神経系リンパ腫は症状の悪化も早いためできるだけ急ぎます。

診断のために必要な検査は何か? どのような結果で確定診断となるのか? これらについて本項では医学文献や診療ガイドラインを参照にしつつ解説していきます。

脳病変の定位針生検術と血液内科医の連携、脳腫瘍専門の病理医による病理診断を当サイトでは推奨します。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の症状については「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の症状と疫学」を、原発性中枢神経系リンパ腫の画像検査・脳脊髄液検査・眼科検査については「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の頭部MRI画像、脳脊髄液検査、眼内検査」をご覧ください。

 

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の診断 早めの脳生検術

症状と画像から中枢神経系の悪性リンパ腫が疑われたら、病変の一部を採取して診断をつける必要があります。

この病変の一部を採取することを「生検」と言います。脳にある病変を生検するときは「脳生検」といいます。

中枢神経系の悪性リンパ腫の症例は状態悪化がはやいため、できるだけ早く生検を行うことが重要です。「緊急脳生検術」となることがしばしばあります。

 

この脳生検の際は、画像検査によるガイドのもと、頭蓋骨に小さい穴をあけて棒状の針を刺して正確に病変の一部を生検します。「定位針生検(Stereotactic needle biopsy)」といいます。

 

脳の悪性リンパ腫病変は手術で取り切れることは通常ありません。病変をたくさん切除しても予後が良くなるわけでもありません。

したがって頭蓋骨を大きく開く「開頭手術」は脳の悪性リンパ腫が疑われる症例に対しては通常行いません。必要のない侵襲を与えるだけとなることが多いです。

 

そして重要なことは脳生検が行われる時点で脳神経外科と血液内科が連携していることです。

生検した組織は通常の「病理」診断に提出するだけでなく、フローサイトメトリ遺伝子検査などにも提出する必要があります。しかも採取したらすぐにです。

フローサイトメトリや遺伝子検査などの結果の解釈も血液内科の医師が行うことになります。

針生検でも十分な量の組織が必要です。

もしもこの時点で血液内科が連携していないと誤診の可能性が高まります。悪性リンパ腫の場合はフローサイトメトリなどにより診断率が上昇すると考えられます。

生検した組織の病理標本を病理医が診断するとき、脳腫瘍専門の病理医であれば誤診は極めて少なくなります。

そうでないと悪性リンパ腫症例が「グリオーマ (神経膠腫)」と診断されてしまうことが現実にあり得ます。

生検した組織は血液内科とともにフローサイトメトリや遺伝子検査などにも提出し、同時に脳腫瘍専門の病理医による病理診断を依頼することを推奨します。

そもそも「グリオーマ (神経膠腫)」という診断名のままではいけません。

 

 

もう一つ重要なことは、生検が行われる前に副腎皮質ステロイドを投与してはいけないことです。

副腎皮質ステロイドを投与すると悪性腫瘍細胞の変性・縮小が始まります。生検したとしても細胞形態の変わってしまった組織では診断が難しくなり誤診につながる可能性があります。

これは悪性リンパ腫に限ったことではありません。他の脳腫瘍でも同じことが言えます。

 

2020年にフランスの施設から後ろ向き研究の結果が報告されています(J Clin Neurol. 2020 Oct;16(4):659-667).

1回目の生検で多くは診断がついていましたが、2回目の生検が必要になった症例を対象に研究がなされました。

2回目の生検での診断率は86.7%でした。

多変量解析の結果、1回目の生検前の副腎皮質ステロイドの投与が診断できない因子として有意に影響していました(OR 2.6, 95% CI 1.1-6.0, p=0.01).

生検前に副腎皮質ステロイドを投与すると診断ができなくなる可能性があるとしています。

 

 

当サイトでは、症状と画像から中枢神経系の悪性リンパ腫が疑われたらすみやかに生検を行うことを推奨します。小さい開頭生検よりも定位針生検が望ましいです。

広範囲の腫瘍切除を目的とした開頭術は推奨しません

脳生検が行われる時点で脳神経外科と血液内科が連携しており必要な検査を提出すること、および病理標本は脳腫瘍専門の病理医による病理診断を推奨します。

生検前の副腎皮質ステロイド投与は強く推奨しません。

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCNガイドラインでは、中枢神経系の悪性リンパ腫が疑われる症例に対しては定位針生検などの最も侵襲の少ない生検を推奨しています。可能な限り生検前に副腎皮質ステロイドを投与しないことを推奨しています。

 

日本脳腫瘍学会による2019年度版脳腫瘍診療ガイドラインでは、中枢神経系の悪性リンパ腫が疑われる症例には「原則的に定位的もしくは開頭による生検術」を推奨してます。

「現在のところ,積極的な摘出術を推奨するエビデンスは不十分と考えられている」としています。

また「生検術前のステロイド使用は,ステロイドによる標的病変の縮小が高頻度に生じるため,手術時に生検的中率が低下するリスクがあり,可能な限り投与を控える」としています。

 

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の診断 病理所見 リンパ腫を疑うことが重要

原発性中枢神経系リンパ腫の病理標本の所見は、血管を中心としたリンパ腫細胞の増生です(下図)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 病理 HE 40

 

少し拡大すると血管の周囲に集まっているのは中型~大型の細胞であることがわかります(下図)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 病理 HE 100

 

さらに拡大すると、これらの細胞では核の中にある核小体が明瞭であることがわかります(下図)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 病理 HE 400

 

このような細胞が血管を中心として造成していることが原発性中枢神経系リンパ腫の病理所見として特徴的とされています(下図, Br J Haematol. 2014 Jun;165(5):640-8)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 病理 Br J Haematol 2014

 

細胞に発現している蛋白を染色する「免疫染色(免疫組織化学染色)」で細胞のタイプを調べていきます。

原発性中枢神経系リンパ腫はほとんどの症例でB細胞由来であるため、B細胞に特徴的なCD20で陽性になります。

CD20の免疫染色を行うと、血管の周囲の細胞だけでなく広範囲の細胞がCD20に染色されます(下図).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 病理 CD20染色 100

 

広範囲(びまん性)にCD20陽性の中型~大型の腫瘍細胞が確認されれば、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」となります。

「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」は原発性中枢神経系リンパ腫の中では最も多いタイプです。およそ90%を占めます。

残りの10%は低悪性度B細胞リンパ腫のいずれか、もしくはT細胞リンパ腫です(Br J Haematol. 2005 Mar;128(5):616-24)。ホジキンリンパ腫は極めてまれです。

 

全身性のリンパ腫による二次性の中枢神経系浸潤原発性中枢神経系リンパ腫病理標本だけで区別することはできません

原発性中枢神経系リンパ腫のほうがMUM1という蛋白の免疫染色で陽性になりやすいとされていますが、診断としてはあてになりません(Clin Cancer Res. 2006 Feb 15;12(4):1152-6)。

 

原発性中枢神経系リンパ腫もしくは全身性のリンパ腫による二次性の中枢神経系浸潤のどちらなのかは生検した組織では判断できないため、生検結果がリンパ腫であればPET-CTなどの全身の精査が行われることになります。

 

生検した組織が悪性リンパ腫かどうかは、疑うことができればそれほど診断は難しくありません。

生検時に提出しているフローサイトメトリの結果のほうが病理診断よりも早くわかるため、血液内科と連携していると診断率・診断速度が上がります。

フローサイトメトリでは通常の脳組織ではみられないくらい多くの中型~大型のB細胞が確認されます。もちろん異常細胞です。

FISHという染色体検査も行っていれば、異常な染色体転座が見つかることがあります。

比較的多いものはBCL6遺伝子部位の転座で、およそ12%にみられます(Ann Hematol. 2019 Jan;98(1):169-173)。

MYC遺伝子部位の転座は3.8%, BCL2遺伝子部位の転座は1.3%とされています。

 

生検後の時点あるいはフローサイトメトリ結果でリンパ腫が強く疑われた時点で、骨髄検査やCT(もしくはPET-CT)など全身の精査、および治療前検査へすみやかにうつります。

原発性中枢神経系リンパ腫は悪化がはやいため治療開始までの時間は短いほうが良いです。検査をしながら確定診断を待つことになります。

骨髄検査・画像検査が終了すれば、時間稼ぎとして副腎皮質ステロイドを使用することができます。

副腎皮質ステロイドはリンパ腫に有効ですが効果は通常一過性です。使用するとしても治療開始までの橋渡し目的となります。

 

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCNガイドラインでは、中枢神経系の生検で悪性リンパ腫の場合、全身精査や眼科検査、骨髄検査などを推奨しています。副腎皮質ステロイドの使用については臨床的適応がある場合に開始するとしています。

日本脳腫瘍学会による2019年度版脳腫瘍診療ガイドラインでは、「PCNSLに対するステロイド療法は,一過性の腫瘍縮小効果が認められることが多く,また,症状緩和目的に使用されることも多い」としています。ただし「ステロイドは治癒的効果に乏しいため,治癒目的の単独使用は推奨されない」ともしています。

 

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の鑑別診断、BCL6の発現率

上記までで中枢神経系の悪性リンパ腫の診断は可能です。

原発性中枢神経系リンパ腫で「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」であれば、診断は2016年WHO分類に基づいて「原発性中枢神経系びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (Primary DLBCL of the central nervous system)」となります(Blood. 2016 May 19;127(20):2375-90)。

ほとんどがこのタイプです。

 

病理診断の時点でいくつかの注意点があります。

まずは鑑別診断です。他の腫瘍の可能性、感染症の可能性も考える必要があります。

悪性リンパ腫のタイプが「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」であれば鑑別診断も容易ですが、低悪性度B細胞リンパ腫やT細胞リンパ腫の場合は慎重に確認します。

 

つぎにBCL6の免疫染色です。原発性中枢神経系リンパ腫ではBCL6の発現率が予後に影響する可能性が指摘されています。

BCL6蛋白は細胞核に発現するため、フローサイトメトリ検査では発現しているかどうかわかりません。免疫染色の結果で発現の有無を確認します(下図)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 病理 BCL6染色 200

 

BCL6は遺伝子の転写を調整します。BCL6が過剰発現することでDNA障害にともなう細胞死を免れることができるとされます。

過去の後ろ向き研究ではBCL6の発現が免疫染色で確認できる症例は予後が良好であることが指摘されていました(Clin Cancer Res. 2003 Mar;9(3):1063-9, Cancer. 2008 Jan 1;112(1):151-6)。

 

その後の前向き臨床試験の際にBCL6の発現と予後について解析が行われました。

2013年に出版された解析結果では、BCL6の発現率が60%以下の症例と60%を超える症例で比較しました(J Clin Oncol. 2013 Sep 1;31(25):3061-8)。

BCL6の発現率が高いと下図のようになります(J Clin Oncol. 2013 Sep 1;31(25):3061-8)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 病理 BCL6染色 JCO2013

 

結果、BCL6発現率が60%以下だった症例のほうが全生存率は良好でした(下図, p<0.009).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL BCL6発現別全生存率 JCO2013

BCL6の発現率が高いほうが予後不良という結果は、過去の後ろ向き研究と真逆となってしまいました。

 

2015年には別の前向き試験での解析の結果が出版されました(Neuro Oncol. 2015 Jul;17(7):1016-21)。

このときのBCL6の発現は30%を超えたら陽性と判定されました。

結果、BLC6の発現が30%を超える症例は30%以下の症例と比べて、統計学的に有意に無増悪生存期間も全生存期間も不良でした(下図, 左 無増悪生存、右 全生存)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL BCL6発現別 PFS, OS Neuro Oncol 2015

 

前向き試験の解析結果から考えるとBCL6の発現率が高いと予後に悪い影響を与える可能性が高いと言えます。

BCL6の免疫染色も可能であれば行ったほうがよいでしょう。

通常はBCL6の免疫染色を脳腫瘍専門の病理医は行わないと考えられますので、血液内科による依頼で行うことになります。

BCL6の発現の判定は割合(%)で結果を出すことが望ましいです。陽性・陰性の判定結果は何%を基準にしているのか不明確なことがほとんどです。

免疫染色による割合(%)の結果は判定者によって10~20%くらいはしばしば異なります。

 

次項では原発性中枢神経系リンパ腫の治療前検査、二次性中枢神経系浸潤の精査について解説します。

 

まとめ 原発性中枢神経系リンパ腫の診断 生検と病理診断

● 中枢神経系の悪性リンパ腫の症例は状態悪化がはやいため、できるだけ早く生検を行うことが重要です。広範囲の腫瘍切除を目的とした開頭術は推奨しません。小さい開頭生検よりも定位針生検が望ましいです。生検前の副腎皮質ステロイド投与は強く推奨しません。

● 脳腫瘍専門の病理医による病理診断を推奨します。生検した組織が悪性リンパ腫かどうかは疑うことができれば診断は難しくありません。

● 原発性中枢神経系リンパ腫ではほとんどの場合リンパ腫のタイプは「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」です。低悪性度B細胞リンパ腫やT細胞リンパ腫の場合もあります。BCL6の発現率が高いと予後に影響する可能性あります。BCL6の免疫染色も可能であればおこないます。

参考文献

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