原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の初回治療 放射線治療とR-MPV療法の登場

2020-12-02

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL R-MPV療法

 

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)は症状緩和のみでは予後は数か月程度です。放射線照射により生存期間は延長するようになりましたが、それでも再発率はかなり高い状況でした。

通常の抗がん剤治療もあまり奏効しません。大量メソトレキセート療法などの大量化学療法が有効とされます。

本項では、放射線治療から大量メソトレキセート療法を中心とした化学療法であるR-MPV療法の登場まで解説します。

疾患頻度が低いためランダム化臨床試験もあまり多くはありません。しかしながらそれでも大量メソトレキセート療法を中心とした治療は現在でも広く行われる重要な治療方法です。過去の医学文献を参照に解説していきます。

 

原発性中枢神経系リンパ腫 放射線治療と化学療法の試み

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)中枢神経系原発悪性リンパ腫とも呼ばれます。多くはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が中枢神経系にだけ病変を認めるため、原発性中枢神経系びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Primary DLBCL of the central nervous system)とも呼ばれることがあります(実際にはDLBCLばかりではありません)。

 

原発性中枢神経系リンパ腫は昔はかなり予後不良の疾患でした。手術による病変摘出はあまり意味がないこと、脳に対する放射線治療により生存期間が延長することが指摘されていました。

 

1974年のアメリカからの後ろ向き研究の報告があります(Cancer. 1974 Oct;34(4):1293-302)。

症状緩和のみの治療では平均生存期間は3.3か月でした。開頭腫瘍摘出術を行っても平均生存期間は4.6か月とあまり変わりありませんでした。

全脳放射線照射を行った症例の平均生存期間は15.2か月であり、放射線治療が有効とされました。ただしほぼ全例で2年以内に再発していました。

 

そこで抗がん剤による化学療法が試みられることとなります。

1995年に前向きの臨床試験が行われました。

原発性中枢神経系リンパ腫に対して、放射線治療+CHOP療法+大量シタラビン療法を行いました。

この治療による全奏効率は63%, 完全奏効率は33%でした。生存期間の中央値は45.3週間と、1年にも満たない結果でした。

抗がん剤化学療法の追加は生存率を改善しない可能性が指摘されます。

 

同時期に別の前向き臨床試験の結果が出版されました(J Clin Oncol. 1996 Feb;14(2):556-64)。

この臨床試験では原発性中枢神経系リンパ腫に対して、CHOD療法+抗がん剤髄腔内投与を終えた後に放射線治療を行いました。CHOD療法はCHOPのプレドニゾンをデキサメサゾンに変更した治療です。

CHOD療法と髄腔内投与による完全奏効率は19%でした。放射線治療後の完全奏効率は38%と上昇しました。

生存期間の中央値は16.1か月でした。

この臨床試験でもCHOD療法と髄腔内投与の追加は生存率を改善しない可能性が指摘されます。

 

 

CHOP療法などの治療はそもそも中枢神経系の病変には効かない可能性が考えられていました。血液脳関門という血液と脳の間の壁を一般の薬剤は通過することができないためです。

 

メソトレキセートは血液脳関門をある程度通過することができます。

メソトレキセートを大量に投与し中枢神経系へ届くようにする治療が考案されました。「大量メソトレキセート療法」です。

 

1996年に小規模な前向き臨床試験の結果が出版されました(J Neurooncol. 1996 Dec;30(3):257-65)。

CHOD療法大量メソトレキセート療法を併用しその後放射線治療を行う臨床試験でした。

結果、完全奏効率は61.1%、生存期間の中央値は25.5か月となりました。

よさそうな治療成績ですが比較試験ではないので、本当にこの治療が良いかどうかははっきりしません。

 

1999年には日本から前向き臨床試験の結果が出版されています(J Neurooncol. 1999 Apr;42(2):161-7)。

原発性中枢神経系リンパ腫に対して、放射線治療後にVEPA療法というCHOP療法のような治療を行う臨床試験でした。

生存期間の中央値は25.5か月という成績でした。

よさそうな治療成績ですが比較試験ではないので、本当にこの治療が良いかどうかははっきりしないのです。

 

一般に臨床試験では若年者や全身状態の良い症例を集めると治療成績が良くなる傾向にあります。

比較試験ではない単群の臨床試験の成績が良い場合、その理由は治療方法が良いのかそれとも良い症例だけを集めているのかわかりません。ランダム化比較試験が重要になります。

 

そこでランダム化臨床試験が行われました。

原発性中枢神経系リンパ腫に対する大量メソトレキセート療法の推奨

最初のランダム化臨床試験はイギリスから報告されました(Cancer. 2000 Sep 15;89(6):1359-70).

放射線治療のみで治療する群と放射線治療後にCHOP療法を6サイクル行う群の比較です。

結果、無増悪生存期間の中央値は放射線治療のみでは22か月であったのに対して放射線治療+CHOP療法では12か月でした。ただし有意な差はありませんでした(下図, HR 1.12, 95%CI 0.59-2.14, p=0.72).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL RT vs RT-CHOP, FFS

全生存期間の中央値は放射線治療のみでは26か月であったのに対して放射線治療+CHOP療法では14か月でした。有意な差ではありませんでした(下図, HR 1.45, 95%CI 0.72-2.89, p=0.29).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL RT vs RT-CHOP, OS

どちらの治療が良いとも悪いとも言えない結果でした。

そもそもこの臨床試験は疾患頻度が低いこともあり試験参加者が集まらないため、途中で参加中止となりました。

しかしながら、この臨床試験の結果などから通常化学療法を放射線治療に追加する治療方法は効果が得られないと考えられるようになりました。

 

 

その一方で大量メソトレキセート療法などの大量化学療法による治療の試みが広がっていきます。

2002年に大量メソトレキセート療法の8 g/m²という量の臨床試験の結果が出版されました(Ann Neurol. 2002 Feb;51(2):247-52)。2005年には長期追跡の結果も出版されています(Ann Neurol. 2005 Jun;57(6):843-7).

この試験(NOA-03試験)の8 g/m²のメソトレキセートはかなりの大量になります。

この治療による完全奏効率は29.7%でしたが、生存期間の中央値は25か月と当時としては悪くない結果でした。

ただし1年以上生存している症例の58%に白質脳症を起こしてしまっています。

この臨床試験は早期に中止となりました。

 

別の前向き臨床試験でも8 g/m²のメソトレキセートで治療しました(J Clin Oncol. 2003 Mar 15;21(6):1044-9).

この臨床試験(NABTT 96-07試験)では完全奏効率は52%でした。生存期間の中央値は22.8か月を超える(未到達)結果でした。

 

しかしながら、8 g/m²のメソトレキセートは毒性が強いと考えられました。

 

2003年に大量メソトレキセートを含む化学療法と大量シタラビン療法を含む化学療法を繰り返し行う臨床試験の結果が出版されました(J Clin Oncol. 2003 Dec 15;21(24):4489-95)。

この臨床試験ではメソトレキセートは5 g/m²でしたが、途中で65歳をこえる症例には3 g/m²となりました。

シタラビンは3 g/m²とこちらもかなり大量になります。

さらにOmmayaリザーバーという脳室内と頭皮をつなぐ管を留置して脳室内にも抗がん剤を投与しています。

結果は、完全奏効率61%, 生存期間の中央値は50か月という成績でした。

しかしながらOmmayaリザーバーの感染約20%にみられました。

 

Ommayaリザーバーの感染は脳室内も感染する可能性があり髄膜炎・脳炎に発展する可能性があり危険です。脳室内抗がん剤投与でも脳症を起こす可能性が高くなります。

このころからOmmayaリザーバーを留置して抗がん剤投与を全例必須で行うことは減っていくことになります。

 

2003年には原発性中枢神経系リンパ腫の治療などに関する国際提言が出版されました(J Clin Oncol. 2003 Jun 15;21(12):2407-14).

この提言では、大量メソトレキセート療法を含まない抗がん剤治療を放射線治療に追加しても放射線治療単独よりも良い結果になるとは言えない、CHOP療法は原発性中枢神経系リンパ腫に有効ではないとしています。

大量メソトレキセートが原発性中枢神経系リンパ腫の化学療法には必須とされました。

 

ランダム化試験で比較したわけではありませんが、通常化学療法が行われることは減り以降大量メソトレキセート療法を中心とした化学療法が普及していきます。

 

原発性中枢神経系リンパ腫に対するR-MPV療法の登場

大量メソトレキセート療法を中心とした治療の前向き臨床試験で比較的成績がよいとされたR-MPV療法の結果が2007年に出版されています(J Clin Oncol. 2007 Oct 20;25(30):4730-5).

この臨床試験では大量メソトレキセートに、リツキシマブプロカルバジンビンクリスチンを加えたR-MPV療法を行いました。脳脊髄液中に腫瘍細胞が確認される症例ではOmmayaリザーバーからの脳室内メソトレキセート投与も併用しました。

R-MPV療法を5~7サイクル行った後は、放射線治療を行い、大量シタラビン療法を2サイクル行う試験でした(下図).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL R-MPV療法

R-MPV療法5サイクル終了後の完全奏効率は44%、大量シタラビン療法終了後の完全奏効率は78%となりました(下図)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL R-MPV療法 奏効率

長期追跡の結果も出版されています(J Clin Oncol. 2013 Nov 1;31(31):3971-9).

無増悪生存期間の中央値は3.3年全生存期間の中央値は6.6年でした(下図)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL R-MPV療法 生存率 無増悪生存率

良好な成績ですが、比較試験ではないので本当に他の大量メソトレキセート療法を中心とした治療方法より良いのかどうかは不明です。

特にプロカルバジンとビンクリスチンがどのくらい有効なのかわかっていません。

しかしながら、ランダム化試験がないのでR-MPV療法がアメリカを中心に普及していきます。

 

 

大量メソトレキセート療法を中心とした化学療法は高齢者でも比較的安全な治療です。

上記のR-MPV療法の臨床試験では79歳まで参加していました。

 

2009年にアメリカの施設の後ろ向き研究の結果が出版されています(Neuro Oncol. 2009 Apr;11(2):211-5)。

70歳から85歳の原発性中枢神経系リンパ腫の症例に大量メソトレキセート療法を行った結果、完全奏効率60%, 全生存期間の中央値は37か月でした。

重症な腎機能障害を起こした症例は認められませんでした。重症な消化管障害も3.2%でした。

 

大量メソトレキセート療法を中心とした化学療法は高齢でも十分に可能であると言えます。

全身の臓器機能がよければ年齢そのものは化学療法を避ける理由にはなりません。

 

そして、R-MPV療法につづく新しい治療方法が登場していくことになります。

次項では原発性中枢神経系リンパ腫に対するその後の治療の発展について解説します。

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MA vs R-MA vs MATRix, 全生存率
原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の初回治療 R-MPV療法をこえて

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まとめ 原発性中枢神経系リンパ腫の初回治療 放射線治療とR-MPV療法の登場

● 症状緩和のみの治療では原発性中枢神経系リンパ腫の平均生存期間は数か月でした。全脳放射線照射により平均生存期間は1年を超えるようになりましたが、それでもほぼ全例で2年以内に再発していました。

● ランダム化臨床試験の結果などからCHOP療法などの通常化学療法を放射線治療に追加しても放射線治療単独よりも良いとは言えませんでした。ランダム化試験で比較したわけではありませんが大量メソトレキセート療法を含む化学療法が良好な治療成績であったことから有効とされました。

● その中でもR-MPV療法がランダム化試験で比較したわけではありませんが良好な治療成績であったことから広く普及しました。

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