原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の初回治療 R-MPV療法をこえて

2020-12-07

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MA vs R-MA vs MATRix, 全生存率

 

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)に対する初回治療は次々と臨床試験が続いています。

R-MPV療法は単群試験であり比較試験ではありませんでした。本当に良い治療かどうか確認するはランダム化臨床試験が必要です。

その後の臨床試験はどんなものが行われ、どのような結果となり、そしてどのような治療が推奨されることになるのか?

本項ではそれらについてランダム化臨床試験の医学文献を中心に解説していきます。

当サイトではMATRix療法というものを推奨します。ただし国によってチオテパの使用が困難な場合もあります。

 

R-MPV療法までの治療については「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の初回治療 放射線治療とR-MPV療法の登場」をご覧ください。

 

原発性中枢神経系リンパ腫 メソトレキセート・シタラビン併用療法や放射線治療のランダム化臨床試験

大量メソトレキセート療法を中心とした化学療法放射線治療原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の主な治療方法として普及していたころに、次のランダム化臨床試験の結果が2009年に出版されます。

 

International Extranodal Lymphoma Study Group (IELSG)によるランダム化臨床試験(IELSG 20試験)です(Lancet. 2009 Oct 31;374(9700):1512-20).

この臨床試験では18歳から75歳までの原発性中枢神経系リンパ腫症例を対象に、大量メソトレキセート療法大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用を比較しました。両群とも4サイクルの治療後に放射線治療も行う試験でした。

大量メソトレキセート療法は3.5 g/m²です。

結果、全奏効率は大量メソトレキセート療法単独群では40%、大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用群では69%と、統計学的にも明らかに大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用群のほうが良好でした(p=0.009).

完全奏効率は大量メソトレキセート療法単独群では18%、大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用群では46%と、こちらも明らかに大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用群のほうが良好でした(p=0.006).

再発や増悪なく生存している割合は3年時点で、大量メソトレキセート療法単独群では21%、大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用群では38%と、統計学的にも明らかに大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用群のほうが良好でした(下図, HR 0.54, 95%CI 0.31-0.92, p=0.01).

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MTX vs MTX + AraC, FFS

全生存率は3年時点で、大量メソトレキセート療法単独群では32%、大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用群では46%でした。大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用群のほうが良好な傾向にありましたが、統計学的な差はまではありませんでした(下図, HR 0.65, 0.38-1.13, p=0.07)。

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MTX vs MTX + AraC, 全生存率

治療中の致命的な合併症は、メソトレキセート群で3%, メソトレキセート・シタラビン併用群で8%でした。有意な差はありません(p=0.35)。

重症な血球減少、感染症、肝障害は、メソトレキセート・シタラビン併用群のほうが有意に多い結果でした。重症な血栓症はメソトレキセート単独のほうが有意に多い結果でした(下表)。

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MTX vs MTX + AraC, 治療毒性

上記の結果から、大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用のほうが大量メソトレキセート療法単独よりも、再発や増悪なく生存している割合が明らかに良好である、全生存率も良い傾向にあるとして、IELSGは併用療法を推奨しました。

大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法が欧州で普及していきます。

 

 

2010年には放射線治療についてのランダム化臨床試験(G-PCNSL-SG-1)の結果が出版されました(Lancet Oncol. 2010 Nov;11(11):1036-47)。

大量メソトレキセート療法を行った症例に本当に放射線治療が必要なのか検証する試験です。

背景には放射線治療により正常な脳も障害を受けて認知機能が低下することがわかっていたことがあります。大量メソトレキセート療法が有効であれば放射線治療を行わなくてもよいのではないかと期待されました。

この臨床試験(G-PCNSL-SG-1)では、4 g/m²大量メソトレキセート療法単独かもしくはその後に放射線治療(45 Gy)を追加するかで比較しました。放射線治療がなくても治療効果が同等であること(非劣性)を検証するための臨床試験でした。

一部の期間は大量メソトレキセート療法とイホスファミドが併用されていますが、これはのちに試験結果の解釈に大きな問題が生じます。

結果、無増悪生存期間の中央値は実際に治療を行った症例でみると(Per-protocol解析)、放射線治療なしの群で11.9か月、放射線治療ありの群でみると18.3か月でした。

この結果からは放射線治療を行わなくても同等の効果であるとは言えませんでした(HR 0.82, 0.64-1.07, p=0.14)。

割り付け後の臨床試験参加者全体でみると(Intention-to-treat解析)、放射線治療を行った症例のほうが行わなかった症例よりも有意に無増悪生存期間は良好でした(下図, HR 0.79, 95%CI 0.63-0.99, p=0.041).

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl G-PCNSL-SG-1 RT vs no RT, PFS

全生存率については、Per-protocol解析でもIntention-to-treat解析でも有意な差はありませんでした(下図).

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl G-PCNSL-SG-1 RT vs no RT, 全生存率

この結果は長期追跡を行ってもほとんど変わりありませんでした(Neurology. 2015 Mar 24;84(12):1242-8)。

ただし放射線治療を受けた症例は明らかにその後の生活の質認知機能の低下が認められました(J Cancer Res Clin Oncol. 2017 Sep;143(9):1815-1821)。MMSE点数も放射線治療を行った群のほうが有意に低い結果でした(p=0.002)。

以上から、放射線治療なしでも放射線治療ありと同等の効果ということはできませんでした。放射線治療ありのほうが無増悪生存期間は良好でしたが、全生存期間に有意な差はありません。放射線治療のほうが認知機能への毒性は高いです。

しかしながら、非劣性試験にもかかわらず途中で治療方法を変更するなどの大きな問題があったことから、このランダム化臨床試験の信頼性はかなり低いものとなりました。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の初回治療で全脳放射線照射を避けることは可能?

とはいえ全脳放射線治療が認知機能や生活の質に悪影響を与える可能性が高いことから、放射線治療を避ける試みは続いていきます。

 

R-MPV療法をさらに進歩させた治療の前向き臨床試験が行われました(Blood. 2015 Feb 26;125(9):1403-10)。

当初のR-MPV療法ではR-MPV療法を5~7サイクル後に放射線治療と大量シタラビン療法2サイクルを行いました。

この臨床試験では、R-MPV療法5~7サイクル後自家造血幹細胞移植を行いました。

自家造血幹細胞移植というのは、通常投与できない量の大量化学療法を投与しその後にあらかじめ採取しておいた自家造血幹細胞を戻して血球数を回復させる治療です。

通常投与できない量の大量化学療法が治療の本質的な部分となります。移植前処置(いしょくぜんしょち)とよびます。

この臨床試験では移植前処置にチオテパ・ブスルファン・シクロホスファミドを用いました。「TBC」とよばれる移植前処置です(下図)。

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl R-MPV + TBC ASCT

結果、R-MPV療法5サイクル後の全奏効率は約95%、完全奏効率(CR/CRu)は約45%でしたが、これは当初のR-MPV療法とほとんど変わりありません。

自家造血幹細胞移植後には、完全奏効率は81%となりました。これも当初のR-MPV療法の大量シタラビン療法後の完全奏効率(79%)とほとんど変わりありません。

しかしながら、5年時点での無増悪生存期率は79%5年全生存率は81%とかなり良好な治療成績となりました(下図, 左 無増悪生存、右 全生存)。

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl R-MPV + TBC ASCT PFS OS

当初のR-MPV療法では、無増悪生存期間の中央値は3.3年、生存期間の中央値は6.6年と良好でしたが、それをさらに上回る治療成績放射線治療なしで達成しました。

ただし比較試験ではありませんので他の治療方法よりも本当に良いかどうかは不明です。ランダム化臨床試験による検証が必要です。

 

 

高齢者に対する全脳放射線治療はとくに認知機能の障害が発生しやすいため、高齢者でも放射線治療を行わない治療が検討されます。

2015年に60歳以上の原発性中枢神経系リンパ腫症例を対象としたランダム化臨床試験の結果が出版されました(Lancet Haematol. 2015 Jun;2(6):e251-9)。

MPV療法後に大量シタラビン療法を行う群大量メソトレキセート療法とテモゾロミドを併用する群で比較しました。

結果、完全奏効率(CR/CRu)はMPV+大量シタラビン療法群で62%, 大量メソトレキセート療法・テモゾロミド群で45%でした。

無増悪生存期間の中央値はMPV+大量シタラビン療法群で9.5か月, 大量メソトレキセート療法・テモゾロミド群で6.1か月でした (下図).

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MPV-A vs MTX + temozolomide, PFS

全生存期間の中央値はMPV+大量シタラビン療法群で31か月, 大量メソトレキセート療法・テモゾロミド群で14か月でした (下図).

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MPV-A vs MTX + temozolomide, OS

重症な有害事象の割合もほぼ同程度でした。

このランダム化臨床試験はそもそも比較を目的としたものではないとされ、比較はなされませんでした。

ただしこの結果からは、テモゾロミドを用いても既存の治療よりも良い成績が出るわけでも毒性が軽減されるわけでもなさそうです。

 

原発性中枢神経系リンパ腫に対するMATRix療法と自家造血幹細胞移植の臨床試験

R-MPV療法が普及してからは当たり前のようにリツキシマブが原発性中枢神経系リンパ腫に使用されていましたが、そもそもリツキシマブも本当に有効なのかどうかはわかっていませんでした。

リツキシマブは通常は血液脳関門をこえることはできないとされていますが、原発性中枢神経系リンパ腫では血液脳関門が必ずしも正常に機能していないという推測がありました。

しかしながら、リツキシマブの効果についてランダム化臨床試験で検証はされていませんでした。

 

2016年にInternational Extranodal Lymphoma Study Group (IELSG)によるランダム化臨床試験の結果が出版されました(Lancet Haematol. 2016 May;3(5):e217-27).

この臨床試験(IELSG 32試験)では、ランダム化が2回ありました(初回治療と地固め治療).

初回治療では当時すでに広く行われていた大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法リツキシマブ+大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法リツキシマブ+大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法+チオテパの3群にランダム化しました。

結果、完全奏効率は大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法群で23%でしたが、リツキシマブが加わると30%、リツキシマブとチオテパが加わると49%となりました。

リツキシマブの追加では完全奏効率の上昇は有意ではありませんでした(p=0.29)が、リツキシマブ・チオテパが加わると統計学的にも明らかな改善がみられました(下表, p=0.0007)。

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MA vs R-MA vs MATRix, 奏効率

全奏効率は大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法群で53%でしたが、リツキシマブが加わると74%、リツキシマブとチオテパが加わると87%となりました。

全奏効率はリツキシマブ追加により有意に改善しています(p=0.10)。リツキシマブ・チオテパが加わるとさらに改善します(上表, p=0.00001).

2年無増悪生存率は、大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法群で36%でしたが、リツキシマブが加わると45%、リツキシマブとチオテパが加わると62%となりました。

リツキシマブ・チオテパが加わると統計学的にも明らかな改善がみられました(下図, p=0.0001)が、リツキシマブの追加だけではよくなる傾向はあるものの有意な差まではありませんでした(p=0.06, Lancet Haematol. 2017 Nov;4(11):e510-e523).

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MA vs R-MA vs MATRix, PFS

2年全生存率は、大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法群で42%でしたが、リツキシマブが加わると56%、リツキシマブとチオテパが加わると69%となりました。

リツキシマブ・チオテパが加わると統計学的にも明らかな改善がみられました(下図, p=0.0004)が、リツキシマブの追加だけでは有意な改善はありませんでした(p=0.14).

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MA vs R-MA vs MATRix, 全生存率

リツキシマブ・チオテパの追加による有害事象としては、血球減少が増加します。重症な感染症や臓器障害の割合はほとんど変わりありません。致命的な合併症もまれです。

 

大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法にリツキシマブを追加すると奏効率の改善および無増悪生存率上昇の傾向がみられます。全生存率の改善は明らかではありません。

大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法にリツキシマブとチオテパを追加すると、奏効率、無増悪生存率、全生存率のいずれも明らかに改善します。

この治療はそれぞれの薬剤名をとって「MATRix」と名付けられました。めいとりっくす、とよびます。

 

MATRix療法はIELSGの推奨にもなり、欧州を中心に大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法にとってかわってきています。

 

日本特有の注意点としてチオテパ(商品名:リサイオ)が自家移植前処置用での承認となっています(2020年12月時点)。MATRix療法としての使用が施設によっては困難な場合があります。

 

このIELSG 32試験では、地固め療法のランダム化もおこなっています。

放射線治療自家造血幹細胞移植の比較です。自家造血幹細胞移植の移植前処置はカルムスチンとチオテパの2剤で行われました。

2年無増悪生存率は放射線治療群で80%, 自家移植群で69%でした。有意な差はありませんでした(下図, HR 1.5, 95%CI 0.83-2.71, p=0.17)。

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl 放射線治療 vs 自家移植, PFS

 

2年全生存率は放射線治療群で85%, 自家移植群で71%でした。有意な差はありませんでした(下図, HR 1.67, 95%CI 0.86-3.23, p=0.12)。

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl 放射線治療 vs 自家移植, 生存率

重症な血球減少、感染症、消化管障害などは自家移植群のほうが明らかに多いです。

自家造血幹細胞移植による地固め療法は放射線治療よりも良い治療とは言えません

 

原発性中枢神経系リンパ腫 MATRix療法以降の初回治療の臨床試験

上記のMATRix療法の臨床試験の結果などをうけて、原発性中枢神経系リンパ腫の初回治療には、少なくとも大量メソトレキセートリツキシマブを含む化学療法が良いとされました(J Clin Oncol. 2017 Jul 20;35(21):2410-2418)。

具体的にはR-MPVMATRixなどです。

またこれらの化学療法後には、放射線治療自家造血幹細胞移植大量シタラビンなどの化学療法、もしくは経過観察のみのいずれかが選択になるとされました。

 

2019年にリツキシマブの追加について別のランダム化臨床試験の結果が出版されました(Lancet Oncol. 2019 Feb;20(2):216-228)。

この臨床試験(HOVON 105/ALLG NHL 24)では、大量メソトレキセート、カルムスチン、テニポシド、プレドニゾンによる多剤化学療法(MBVP療法)、およびそれらにリツキシマブを加えた化学療法(R-MBVP療法)を比較しました。両群ともその後に大量シタラビン療法放射線治療を行いました。

結果、地固め療法前の全奏効率は両群とも86%と有意な差はありませんでした。

1年無増悪生存率はリツキシマブなしで58%, リツキシマブありで65%でした。有意な差はありませんでした(下図, HR 0.77, 95%CI 0.52-1.13, p=0.18).

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MBVP vs R-MBVP, PFS

全生存期間についても有意な差はありませんでした(下図, HR 0.93, 95%CI 0.59-1.44, p=0.74).

原発性中枢神経系リンパ腫 pcnsl MBVP vs R-MBVP, 全生存率

この臨床試験からはリツキシマブの追加には意味がないと言えます。

MATRixの臨床試験のときもリツキシマブ追加の効果は限定的でした。

 

 

2019年に初回化学療法後の地固め療法として、放射線治療TBCによる自家造血幹細胞移植を比較するランダム化臨床試験の結果が出版されています(J Clin Oncol. 2019 Apr 1;37(10):823-833)。

この臨床試験(PRECIS)も比較を目的としないランダム化臨床試験でした。R-MBVP療法と大量シタラビン療法の後の地固め療法の試験です。

完全奏効率(CR/CRu)は放射線治療群で49%, 自家移植群で64%でした。

4年無増悪生存率は放射線治療群で40%, 自家移植群で65%でした。

4年全生存率は放射線治療群で64%, 自家移植群で66%でした。

この臨床試験からは、放射線治療と自家造血幹細胞移植のどちらがよいかはわかりません。

 

ここまでの結果からは、放射線治療の追加、自家造血幹細胞移植の追加、化学療法のみで追加治療なく経過観察、のいずれがよいかははっきりしていません。追加治療は有害事象が増えることははっきりしています。

残存病変があれば追加治療が必要になるでしょう。しかしながら、完全奏効に到達した場合の追加治療の必要性はわかっていません。

 

 

当サイトでは原発性中枢神経系リンパ腫に対しては、可能であればMATRix療法を推奨します。それができない場合はリツキシマブ・大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法(R-MA療法)を推奨します。

R-MPV療法はランダム化比較試験が行われていないことから当サイトでは推奨しません。プロカルバジンやビンクリスチンの追加効果も検証されていません。

MATRix療法やR-MA療法で完全奏効(CR/CRu)に到達した場合は、放射線治療や自家造血幹細胞移植による地固め療法を避けて経過観察が可能と考えられます。

MATRix療法やR-MA療法で完全奏効(CR/CRu)に到達しない場合は、難治性として追加の治療を推奨します。詳細は別の項で記載しますが、可能であれば自家造血幹細胞移植を行うことを推奨します。

そしてMATRixやR-MAによる治療は血球減少などを伴いますし、また自家造血幹細胞移植もいずれ行う可能性があることから、原発性中枢神経系リンパ腫の化学療法は脳神経外科で行うよりも血液内科で行ったほうが安全でしょう。

日本では脳神経外科でR-MPV療法(+放射線治療、大量シタラビン療法)が行われる場合もありますが、当サイトでは推奨しません。

 

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCNガイドラインでは、原発性中枢神経系リンパ腫の初回治療として、大量メソトレキセートを含む化学療法を推奨しています。完全奏効例には自家造血幹細胞移植・大量シタラビン(+エトポシド)療法、少量放射線治療、大量メソトレキセートを含む化学療法の継続を検討するとしています。

 

日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、「原発性中枢神経系DLBCLに対してはメトトレキサート大量療法を基盤とする化学療法を先行し,引き続き全脳照射を行う治療が推奨される。ただし高齢者では全脳照射による遅発性中枢神経障害のリスクに注意を要する」としています。

 

2019年度版脳腫瘍診療ガイドラインでは、「PCNSLに対する治療では,HD-MTX療法を基盤とする薬物療法を先行し,引き続き全脳照射による放射線治療を行うことが望ましい」、「CD20に対するキメラモノクローナル抗体リツキシマブは,MTX基盤化学療法に併用してもよい」としています。

「初発PCNSLに対してHD-MTXを基盤とする寛解導入化学療法の後の地固め療法として,自家幹細胞移植併用大量化学療法は一般臨床として推奨される段階ではない」としています。

 

次項ではMATRix療法やR-MA療法の実際の投与の注意点などについて解説します。

PCNSL, MATRix療法 スケジュール
原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)のMATRix療法・R-MA療法の実際の注意点

続きを見る

 

まとめ 原発性中枢神経系リンパ腫の初回治療 R-MPV療法をこえて

原発性中枢神経系リンパ腫のランダム化臨床試験がその後続きます。大量メソトレキセート療法・大量シタラビン療法併用のほうが大量メソトレキセート療法単独よりも、再発や増悪なく生存している割合が明らかに良好である、全生存率も良い傾向にあるとしてIELSGは推奨し、大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法が欧州で普及していきます。

● 放射線治療なしでも放射線治療ありと同等の効果ということはできませんでした。放射線治療ありのほうが無増悪生存期間は良好でしたが、全生存期間に有意な差はありません。放射線治療のほうが認知機能への毒性は高いです。

大量メソトレキセート・大量シタラビン併用療法にリツキシマブとチオテパを追加すると、奏効率、無増悪生存率、全生存率のいずれも改善します(MATRix療法)。放射線治療の追加、自家造血幹細胞移植の追加、化学療法のみで追加治療なく経過観察、のいずれがよいかははっきりしていません。

参考文献

Eckhard Thiel, Agnieszka Korfel, Peter Martus, et al.
High-dose methotrexate with or without whole brain radiotherapy for primary CNS lymphoma (G-PCNSL-SG-1): a phase 3, randomised, non-inferiority trial
Lancet Oncol. 2010 Nov;11(11):1036-47.

Agnieszka Korfel, Eckhard Thiel, Peter Martus, et al.
Randomized phase III study of whole-brain radiotherapy for primary CNS lymphoma
Neurology. 2015 Mar 24;84(12):1242-8.

Ulrich Herrlinger, Niklas Schäfer, Rolf Fimmers, et al.
Early whole brain radiotherapy in primary CNS lymphoma: negative impact on quality of life in the randomized G-PCNSL-SG1 trial
J Cancer Res Clin Oncol. 2017 Sep;143(9):1815-1821.

Antonio Omuro, Denise D Correa, Lisa M DeAngelis, et al.
R-MPV followed by high-dose chemotherapy with TBC and autologous stem-cell transplant for newly diagnosed primary CNS lymphoma
Blood. 2015 Feb 26;125(9):1403-10.

Antonio Omuro, Olivier Chinot, Luc Taillandier, et al.
Methotrexate and temozolomide versus methotrexate, procarbazine, vincristine, and cytarabine for primary CNS lymphoma in an elderly population: an intergroup ANOCEF-GOELAMS randomised phase 2 trial
Lancet Haematol. 2015 Jun;2(6):e251-9.

Andrés J M Ferreri, Kate Cwynarski, Elisa Pulczynski, et al.
Whole-brain radiotherapy or autologous stem-cell transplantation as consolidation strategies after high-dose methotrexate-based chemoimmunotherapy in patients with primary CNS lymphoma: results of the second randomisation of the International Extranodal Lymphoma Study Group-32 phase 2 trial
Lancet Haematol. 2017 Nov;4(11):e510-e523.

Christian Grommes, Lisa M DeAngelis.
Primary CNS Lymphoma
J Clin Oncol. 2017 Jul 20;35(21):2410-2418.

Jacoline E C Bromberg, Samar Issa, Katerina Bakunina, et al.
Rituximab in patients with primary CNS lymphoma (HOVON 105/ALLG NHL 24): a randomised, open-label, phase 3 intergroup study
Lancet Oncol. 2019 Feb;20(2):216-228.

Caroline Houillier, Luc Taillandier, Sylvain Dureau, et al.
Radiotherapy or Autologous Stem-Cell Transplantation for Primary CNS Lymphoma in Patients 60 Years of Age and Younger: Results of the Intergroup ANOCEF-GOELAMS Randomized Phase II PRECIS Study
J Clin Oncol. 2019 Apr 1;37(10):823-833.

NCCNガイドライン

造血器腫瘍診療ガイドライン

2019年度版脳腫瘍診療ガイドライン

 

「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL) 診断と治療の概要」に戻る

 

© 2021 Cwiz Hematology