原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)のMATRix療法・R-MA療法の実際の注意点

2020-12-10

PCNSL, MATRix療法 スケジュール

 

原発性中枢神経系リンパ腫中枢神経系原発リンパ腫あるいは中枢神経系原発悪性リンパ腫とも呼ばれます。英語ではPrimary central nervous system lymphoma (PCNSL)です。

 

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の初回治療はメソトレキセートを含む化学療法が推奨されています。その中でも特に有用と考えられるのは「MATRix療法」という、メソトレキセートにリツキシマブ・シタラビン・チオテパを併用する化学療法です。

 

本項ではこのMATRix療法の実際のスケジュールや注意点について臨床試験の結果を参照にしながら解説します。チオテパを使用しない場合のR-MA療法についても解説しています。

MATRix療法はとても有効ですので日本でもMATRix療法が拡大することを期待します。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の初回治療にはどのような治療方法がよいのかについては「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の初回治療 放射線治療とR-MPV療法の登場」「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の初回治療 R-MPV療法をこえて」をご覧ください。

 

原発性中枢神経系リンパ腫のMATRix療法・R-MA療法のスケジュール

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)に対してMATRix療法は初回治療の中では最も有効な多剤併用化学療法と考えられます。

リツキシマブ+大量メソトレキセート+大量シタラビンによる治療(R-MA療法)よりも治療効果が高いです(Lancet Haematol. 2016 May;3(5):e217-27)。

またR-MPV療法は単群の臨床試験のみの成績であり比較試験ではありません。自家造血幹細胞移植まで行うR-MPV療法が数字だけでは効果はたかそうですが、同じ条件で比較しないと本当に良いかどうかはわかりません。

当サイトでは、可能であれば初回治療にはMATRix療法を用いることを推奨します。チオテパが使用できない場合はR-MA療法を推奨します。

 

MATRix療法は下図のようなスケジュールで行います。

PCNSL, MATRix療法 スケジュール

 

リツキシマブは本格的な抗がん剤化学療法開始前に2回投与することが本来の臨床試験での投与方法ですが、メソトレキセート投与を遅らせる理由はあまりないので、メソトレキセート前日に1回投与でもよいでしょう。

大量メソトレキセートは3.5 g/m²です。3時間15分かけて投与します。

大量シタラビンはメソトレキセート投与の翌日から2日間、1日2回の投与です。1回の投与は1時間です。

チオテパ(商品名:リサイオ)は大量シタラビン最終日の翌日に30分かけて投与します。チオテパはアルキル化剤の一種ですが、血液脳関門を通過することができる薬剤です。中枢神経系腫瘍に対する重要な薬剤の一つです。

 

これらの薬剤を併用することで各薬剤の抗腫瘍効果が合わさり、より高い奏効がより早く得られます。

R-MA療法になる場合は上記からチオテパだけ抜けます。

チオテパの追加による重症な有害事象で悪化するのは血球減少のみです。治療効果は明らかに改善しますので可能であればチオテパも使用したほうがよいでしょう。

 

MATRix療法もR-MA療法も1サイクルは21日間です。途中で明らかな病勢の悪化がなければ4サイクルまで行います。

 

最初に投与するリツキシマブは、CD20に対する抗体薬です。

CD20はB細胞に発現している蛋白ですが、原発性中枢神経系リンパ腫はほとんどB細胞由来の腫瘍なので効果が期待されるとしています。

ただし実際の効果は限定的で、奏効率は上がる可能性がありますが、生存率改善についてはあまりはっきりしていません。

リツキシマブ初回投与のときは、何時間もかけて投与します。

「輸注反応」と呼ばれる有害事象が発生する可能性があります。リツキシマブの投与により発熱や悪寒などが発生することがあります。

多くは大きな問題にはならず一時中断するだけで落ち着きます。

2回目以降のリツキシマブ投与による輸注反応はまれです。

 

MATRix療法やR-MA療法ではメソトレキセート投与の前日から大量輸液を開始します。通常の輸液と異なりアルカリを多く含みます。メソトレキセートの排泄を促すためです。

大量輸液はメソトレキセートの血中濃度が十分に低下するまで持続します。メソトレキセートが終了してから72時間以上は続きます。

大量メソトレキセートは一気に血中濃度を上昇させて治療量のメソトレキセートが血液脳関門を通過してしまえば、残りのメソトレキセートは有害でしかありませんのですみやかに排泄させます。

またメソトレキセート投与の翌日からロイコボリンという、メソトレキセートの効果をなくしてしまう薬剤を投与します。ロイコボリンは血液脳関門を通過しません。

メソトレキセートの血中濃度が十分に低下するまでロイコボリンは1日4回投与されます。

腎機能肝機能が低下している場合、メソトレキセートの投与量を減らすことがあります。

腎機能や肝機能が著しく低下していると、MATRix療法やR-MA療法そのものができません。

大量輸液が続いている間に、大量シタラビンとチオテパの投与が行われます。このときに点眼液を用いてシタラビンによる結膜炎を予防することがあります。

 

MATRix療法・R-MA療法のときの予防併用薬と併用注意薬

MATRix療法とR-MA療法は吐き気嘔吐がおこりやすいので、あらかじめ制吐剤を使用します。

MATRix療法とR-MA療法では、血球数が減少してきます。

開始して10日~16日ごろが最も血球数が低くなります。白血球数が低下する期間を短くして感染症を防ぐために、G-CSF製剤という白血球数を上昇させる薬剤を使用します。

G-CSF製剤の中ではペグフィルグラスチム(商品名:ジーラスタ)という効果が長時間つづく製剤であれば、他の製剤のような毎日の皮下注射を行う必要はなくなります。

状況によっては抗生剤の予防内服も併用します。

赤血球や血小板も低下します。輸血が必要になる可能性が十分にあります。

白血球数が低下した時期は感染症にかかりやすくなります。この時期の発熱は「発熱性好中球減少症」といい、早めに抗生剤投与を行う必要があります。

 

MATRix療法やR-MA療法では、髄腔内抗がん剤投与はありません。Ommayaリザーバーを留置する必要もありません。これらに関連する感染症などの発生リスクはゼロになります。

 

MATRix療法やR-MA療法では、プロトンポンプ阻害薬(ネキシウムなど)の使用には注意が必要です。メソトレキセートの排泄が遅延して重篤な有害事象につながる可能性があります。

またMATRix療法やR-MA療法では、ST合剤NSAID(ロキソニンなど)の併用も注意が必要です。同様に重篤な有害事象につながる可能性があります。

1サイクル目を終えて血球が上昇し始めるころに、バッサリと脱毛します。急に抜けます。

 

MATRix療法・R-MA療法の重症な有害事象の発生頻度 臨床試験から

MATRix療法やR-MA療法では、治療による副作用が原因で治療継続できなくなることは極めてまれです(1%未満)。ほとんどの場合で4サイクルまで行うことが可能です(下図)。

PCNSL, MATRix, 有害事象

MATRix療法やR-MA療法では、強い血球減少が高頻度にみられます。

半数以上の症例で好中球数500/μLを下回ります。

血小板・赤血球の輸血も半数程度で必要になります。

しかしながら、血球減少を除く重症の有害事象はR-MA療法にチオテパを追加してもほとんど変わりありません

重症な発熱性好中球減少症約15%にみられ、最も問題になる有害事象と考えられます。

発熱時は直ちに知らせてください。すみやかに対応すれば発熱性好中球減少症が原因で命を落とすことは極めてまれ(1%未満)です。

 

大量輸液やアルカリ化、ロイコボリン投与をきちんと行えば、大量メソトレキセートを含む治療により重症な腎機能障害をおこすことはまれです。2%未満です。

急性腎機能障害を心配するよりも、重症な肝障害のほうが頻度が高いです(8%未満)。

重症な消化管障害(4%未満)や口腔粘膜障害(1%未満)もまれです。

ただしこれらは大量輸液やアルカリ化、ロイコボリン投与などをきちんと行っている場合です。併用注意薬を使用しているときや輸液やアルカリの量が少ないときは、大量メソトレキセートによる有害事象の頻度と重症度が上昇してしまいます。

その他大量シタラビンなども行うこともあり、重症な神経毒性がまれにみられます(3%未満)。

 

ただし、MATRix療法やR-MA療法4サイクルが終了する前に有害事象で命を落とすのは臨床試験では4%にみられています。

決して油断せず感染症や臓器障害に慎重に注意しながら治療を継続していくことが重要です。

一般的にランダム化臨床試験よりも実際の治療のほうが有害事象が発生しやすい傾向にあります。

 

治療を完遂したら、治療効果判定へすすみます。

次項では原発性中枢神経系リンパ腫の治療効果判定などについて解説します。

原発性中枢神経系悪性リンパ腫 治療別T2異常
原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の治療効果判定と定期検査

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まとめ 原発性中枢神経系リンパ腫のMATRix療法・R-MA療法の実際の注意点

● 原発性中枢神経系リンパ腫に対するMATRix療法は初回治療の中では最も有効な多剤併用化学療法と考えられます。リツキシマブ、大量メソトレキセート、大量シタラビン、チオテパを用います。1サイクルは21日間で4サイクルまで行います。

● MATRix療法やR-MA療法では血球数が減少します発熱性好中球減少症に注意が必要です。

● 血球減少の他の重症の有害事象はR-MA療法もMATRix療法もあまり変わりありません。肝障害などの臓器障害に注意しながら治療を続けていきます。

参考文献

Andrés J M Ferreri, Kate Cwynarski, Elisa Pulczynski, et al.
Chemoimmunotherapy with methotrexate, cytarabine, thiotepa, and rituximab (MATRix regimen) in patients with primary CNS lymphoma: results of the first randomisation of the International Extranodal Lymphoma Study Group-32 (IELSG32) phase 2 trial
Lancet Haematol. 2016 May;3(5):e217-27.

 

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