原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の頭部MRI画像、脳脊髄液検査、眼内検査

2020-11-21

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 造影MRI 2005

 

神経症状や精神症状があったとしても、頭部の画像検査を行ってはじめて原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)を疑うことができます。

本項では原発性中枢神経系リンパ腫の頭部造影MRI画像の所見についてまずは解説します。MRI所見が比較的特徴的なので、画像所見から原発性中枢神経系リンパ腫を疑うことができます。

また本項では原発性中枢神経系リンパ腫症例に対する、脳脊髄液検査眼の検査についても解説します。診断への有用性や予後への影響はどのくらいあるのでしょうか?

本項でも医学文献を参照に解説していきます。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の頭部造影MRI画像の所見

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の脳病変は頭部MRI検査で確認します。ガドリニウム造影剤を用いると病変がはっきりとわかります。

診断時治療効果判定時にも造影MRIを用いることを推奨します。

 

原発性中枢神経系リンパ腫病変は、MRI上は一か所であることが多いです(約7割)。多発している場合も約3割にみられます。

大脳半球に病変があることが最も多く(35%~55%)、脳梁、基底核、小脳の病変がそれぞれ約25%です。眼の病変は5%くらいです。

1990年ごろまではCT検査で病変などを確認していましたが、原発性中枢神経系リンパ腫の病変はMRIのほうがはっきりとわかります。

 

2001年に原発性中枢神経系リンパ腫の病変のMRI上の特徴についてドイツの後ろ向き研究の結果が出版されました(Neurology. 2001 Aug 14;57(3):393-6).

病変が一か所だけだったのは62.5%でした。

大脳半球は55%、脳梁は27.5%、基底核は27.5%、小脳は25%でした。

ほとんどすべての病変は脳脊髄液腔に接していました(97.5%)。

病変の周囲に脳浮腫を起こしている症例は60%でした。

壊死を伴う病変はまれでした(5%)。

全ての病変で造影剤により増強されました。

脳脊髄液腔に接していて、造影剤により増強される、壊死のない病変が原発性中枢神経系リンパ腫病変の特徴とされました。

 

2005年にドイツの後ろ向き研究の結果がさらに出版されます(J Neurooncol. 2005 Apr;72(2):169-77)。症例数を倍くらいに増やした100例のMRIの報告です。

病変が一か所だけだったのは65%でした。大脳半球の病変は38.2%でした。

ほぼすべての病変で造影剤により増強されました(99%)。

 

典型的な造影MRIの画像は以下のようになります(J Neurooncol. 2005 Apr;72(2):169-77)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 造影MRI 2005

 

眼内に病変があると、以下のように見えます。わかりにくいですが右眼の背部にもやもやとした病変が確認できます(J Neurooncol. 2005 Apr;72(2):169-77)。左右の眼を比較するとわかりやすいです。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 眼内病変 造影MRI

 

眼周囲の病変が大きいとわかりやすくなります(下図, Br J Radiol. 2014 Apr;87(1036):20130684)。下図は左眼の病変です。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 眼病変 MRI 2014

 

アメリカのMemorial Sloan-Kettering Cancer Centerから原発性中枢神経系リンパ腫病変のレビューが2014年に報告されています(Br J Radiol. 2014 Apr;87(1036):20130684)。多数の画像が確認できます。

 

脳脊髄液腔に接していて、造影剤により増強される、壊死のない病変があれば、この時点で原発性中枢神経系リンパ腫を疑います。診断のためにはこの病変の一部を採取することが必要です。「生検」と言います。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の脳脊髄液検査による診断の有用性と予後への影響

原発性中枢神経系リンパ腫が疑われているときに脳脊髄液検査が行われることがあります。

リンパ腫細胞が脳脊髄液中にも広がっていることがあります。脳脊髄液を採取することで脳脊髄液中の病変を確認できます。

脳脊髄液検査は生検前に行うことが推奨されます(もしくは現実的ではありませんが生検後未治療のまま1週間経過してから)。

生検により脳脊髄液中にリンパ腫病変が混入し「偽陽性」となってしまう可能性があるためです。

 

「腰椎穿刺」を行い、脳脊髄液を採取し、脳脊髄液検査を行います。

腰椎穿刺というのは、背骨と背骨の隙間を通して脊髄くも膜下腔に針を刺してその中にある脳脊髄液を採取する検査です。

側臥位で背中から腰椎に向けて細い針を刺していきます。痛みはそれほどでもありませんが脳脊髄液の採取自体に時間がかかります。検査後によく頭痛が起こります。

腰椎穿刺をどのようにして行うのかについては、下の動画を見たほうがわかりやすいです。

 

脳脊髄液検査では以下の検査を行います。

「細胞診」 顕微鏡で細胞形態を確認する検査

「フローサイトメトリ」 細胞に発現している蛋白の発現率を確認する検査

「PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)」 特定の遺伝子再構成の有無を確認する検査

細胞数が少ないときは上記検査のすべてを行うことはできません。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の症例に対する脳脊髄液検査により診断できる可能性は、実はあまり高くありません

脳脊髄液中にもリンパ腫病変が広がっている割合がそもそも15%程度です。脳などの病変を生検したほうが診断価値は高いです。

また脳脊髄液中にもリンパ腫病変が広がっていたとしても、その後の生存率にはあまり影響ありません

 

2008年に報告された大規模前向き研究があります(Neurology. 2008 Sep 30;71(14):1102-8)。

282例の原発性中枢神経系リンパ腫症例のうち、髄膜に病変が認められたのは17.4%でした。多くは脳脊髄液の細胞診で病変が確認できていますが、PCRで陽性だったのは6割くらいでした。

 

2012年には大規模前向き臨床試験の事後解析の結果が報告されました(Ann Oncol. 2012 Sep;23(9):2374-2380)。

原発性中枢神経系リンパ腫の415症例中、髄膜に病変が確認されたのは15.7%でした。

多くは脳脊髄液の細胞診で病変が確認できていますが、PCRで陽性だったのは6割くらいでした。脊髄のMRIで確認できた症例もありますがあまり多くはありませんでした。

髄膜に病変があっても、無増悪生存期間と全生存期間は悪化するわけではありませんでした(下図, 左 無増悪生存、右 全生存、MD:髄膜播種)。

原発性中枢神経系リンパ腫 髄膜播種 PFS OS

 

脳脊髄液のフローサイトメトリによる病変の検出率もあまり高くないことが後ろ向き研究で指摘されています(Neuro Oncol. 2010 Apr;12(4):409-17).

細胞診の三分の一くらいの病変検出率でした。

 

脳脊髄液中の蛋白(ATIIIなど)の質量分析により病変を検出しようという試みがありますが、まだ研究段階です(J Clin Oncol. 2008 Jan 1;26(1):96-105)。

 

原発性中枢神経系リンパ腫症例に脳脊髄液検査を行う場合は、生検前の時点で行うことになります。診断できる確率はあまり高くありませんので、結果を待たずに病変の「生検」を実際には行うことになります。

診断というよりも、脳脊髄液中の蛋白質の濃度が予後に影響する可能性があるため、可能であれば脳脊髄液検査を生検前に行います。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の眼内浸潤の検査 細隙灯顕微鏡検査と生検

眼のリンパ腫病変の確認には細隙灯顕微鏡検査をまずは行います。

細隙灯顕微鏡検査は眼科の通常診療でも行われる検査です。眼科の基本検査の一つです。硝子体や眼底も確認します。

眼にリンパ腫病変がある場合は、黄色~白色の病変がみられることがあります(下図, Blood. 2013 Oct 3;122(14):2318-30)。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 細隙灯顕微鏡

 

ただし眼内病変がリンパ腫病変であることを確定させるためには生検が必要です。硝子体や網膜の生検ですが、あまり感度は高くありません。

 

2005年に後ろ向き研究の結果が出版されています(Cancer. 2005 Aug 1;104(3):591-7)。

眼内リンパ腫症例と慢性の硝子体炎症例の研究でした。

診断感度は硝子体細胞診で24%, フローサイトメトリで36%, IgH遺伝子再構成検査で64%でした。

 

2015年の後ろ向き研究では眼内リンパ腫が疑われた症例に対して生検を行った結果が報告されています(Am J Ophthalmol. 2015 Dec;160(6):1127-1132.e1)

眼内リンパ腫が疑われたとしても生検で確定診断になる症例は59%でした。

 

 

原発性中枢神経系リンパ腫症例に眼科検査を行う場合、たとえ細隙灯顕微鏡検査などで異常があったとしても診断のためには生検が必要です。

硝子体や網膜を生検しても診断まで至るのは約6割です。

脳などに病変がある場合は、眼科検査を行うとしても診断できる確率はあまり高くありませんので、結果を待たずに脳などの病変の「生検」を行うほうが良いでしょう。

眼だけのリンパ腫がまれにありますが、その場合も生検でしか診断はできません。症状がでてから診断までおそらくかなりの時間がかかります。

 

診断というよりも、眼内浸潤が予後に影響する可能性から眼科検査を行うこともあります。

大規模前向き臨床試験の事後解析の結果が2015年に出版されています(Ann Hematol. 2015 Mar;94(3):409-14)。

原発性中枢神経系リンパ腫症例で眼内浸潤もあったのは6.4%でしたが、眼内浸潤のある症例は無増悪生存期間が有意に短い結果でした(p=0.004)。

ただし全生存期間については有意な差はありませんでした(p=0.155、下図 左 無増悪生存, 右 全生存, IOL:眼内浸潤).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 眼内浸潤 PFS OS

 

可能であれば細隙灯顕微鏡検査・生検を治療開始前に行います。

原発性中枢神経系リンパ腫の診断が確定していたとしても、細隙灯顕微鏡検査だけで眼内浸潤と診断することはできません。

生検も行う場合は治療開始前に行うことが重要です(治療には副腎皮質ステロイド投与も含まれます)。

 

次項では原発性中枢神経系リンパ腫の診断のために必要な検査、病理診断などについて解説します。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 病理 HE 400
原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の診断 生検と病理診断

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まとめ 原発性中枢神経系リンパ腫の頭部MRI画像、脳脊髄液検査、眼内検査

原発性中枢神経系リンパ腫の脳病変は頭部造影MRI検査で確認します。脳脊髄液腔に接していて、造影剤により増強される、壊死のない病変があれば、原発性中枢神経系リンパ腫を疑います。

● 原発性中枢神経系リンパ腫が疑われているときに脳脊髄液検査が行われることがあります. 生検前に行うことが推奨されます。脳脊髄液検査により原発性中枢神経系リンパ腫の診断ができる可能性はあまり高くありません。

● 眼内リンパ腫の検査で細隙灯顕微鏡検査をまず行います。眼にリンパ腫病変がある場合は黄色~白色の病変がみられることがあります。眼内病変がリンパ腫病変であることを確定させるためには生検が必要ですが、あまり感度は高くありません。眼内浸潤が予後に影響する可能性があります。

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