原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の治療前検査 二次性中枢神経系浸潤の除外が必要

2020-11-28

二次性中枢神経系リンパ腫 FDG-PET

 

中枢神経系の悪性リンパ腫の症例では、治療開始前に必ず行っておかなければならない重要な検査があります。全身のリンパ腫病変の有無を確認する検査です。

本項では原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)が疑われる症例の治療前検査について解説します。

中枢神経系ではない場所にリンパ腫病変が確認されれば、リンパ腫の「二次性中枢神経系浸潤」となり、治療方法が変わる可能性があります。この区別はとても重要です。

PET-CT検査(あるいは全身造影CT検査)や骨髄検査などを行う必要があります。

その他、心臓超音波検査認知機能検査などの必須の検査についても解説します。これらの検査も治療開始前に早めに行う必要があります。

本項でも医学文献やガイドラインを参照にしつつ解説していきます。

 

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の症状や頻度については「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の症状と疫学」をご覧ください。

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の画像所見などについては「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の頭部MRI画像、脳脊髄液検査、眼内検査」を、病理所見などについては「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の診断 生検と病理診断」をご覧ください。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の全身精査 PET-CT 全身性リンパ腫の検索

中枢神経系の悪性リンパ腫の症例では、それが中枢神経系だけの病変(原発性中枢神経系リンパ腫, PCNSL)なのか他の部位にも病変がある(二次性中枢神経系リンパ腫)のか区別することが極めて重要です。

治療方法が変わる可能性があるからです。

 

全身の病変を調べるにはPET-CTを用いることを推奨します。時間的猶予、全身状態、設備などの理由からPET-CT検査が施行困難な場合は全身の造影CT検査を行います。

PET-CT検査は病変の広がりを通常のCT検査よりも正確に行うことができますので、可能であればPET-CT検査を行うことを推奨します

 

PET検査では18F-FDGという糖とよく似た放射性物質を使用します。一般にリンパ腫細胞は糖を強く取り込みますので、18F-FDGがリンパ腫の病変部位に集積します。

PET-CTはPETとCTの結果を融合させたもので、通常のCT単独あるいはPET単独よりも病変の部位が正確にわかります(Clin Nucl Med. 2017 Aug;42(8):595-602)。

 

2008年に報告されたアメリカの施設の後ろ向き研究の結果が出版されています(Neuro Oncol. 2008 Apr;10(2):223-8)。

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)疑いの症例に対して、PET検査を行ったところ15%の症例で悪性腫瘍による集積が確認されました。11%は悪性リンパ腫でした。

脚など意外なところにも病変はあり得ます(下図, Neuro Oncol. 2008 Apr;10(2):223-8)。

二次性中枢神経系リンパ腫 FDG-PET

 

病変は小さい場合もあります。PET検査だけでしかリンパ腫病変の集積がわからなかった症例が8%みられました。

一方でこの研究では偽陽性も8%にみられました。

 

PET-CT検査により全身のリンパ腫病変をCT検査よりも正確に検出できると考えられます。可能であればPET-CT検査を行うことを推奨します。

ただし疑わしい異常集積があれば、生検を行いリンパ腫病変であることを確認することが重要です。

このときも生検は副腎皮質ステロイドを投与する前に行うことが望ましいです。

中枢神経系リンパ腫は状態悪化がはやいため、PET-CT検査(あるいは造影CT検査)も早めに行うことを推奨します。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の治療前検査 骨髄検査によるリンパ腫の検索

中枢神経系の悪性リンパ腫の症例では、上記のPET-CT検査だけでなく、骨髄検査も行うことを推奨します。

 

骨髄というのは、骨の中の血液を造っている場所です。悪性リンパ腫細胞はしばしば骨髄中に浸潤することがあります。

骨髄検査は、骨に針を刺してその中にある骨髄中の液体や組織を採取する検査です。

骨髄検査を行うときは、うつ伏せになって骨盤の骨である「腸骨」に針を刺します。

検査自体は10分から15分程度で終了しますが、その後の安静時間が10分から30分程度あります。

骨髄液を採取する検査を「骨髄穿刺吸引」、骨髄組織を採取する検査を「骨髄生検」といいます。

リンパ腫細胞の有無を確認する場合は、骨髄液も骨髄組織も両方とも調べる必要がありますので、「骨髄穿刺吸引」と「骨髄生検」を行います。両方合わせて検査自体は10分から15分程度で終了します。

「骨髄穿刺吸引」だけでは両方とも行うよりも病変を見落とす可能性が高くなります(特にリンパ腫の場合には)。

骨髄検査についての詳細は、「骨髄検査(骨髄穿刺吸引・骨髄生検)の手技の実際 痛みや安全性は?」をご覧ください。

 

PET-CT検査で異常集積があろうとなかろうと、骨髄検査を行うことも推奨します。

特に緩徐進行型のリンパ腫がもともとある場合は骨髄のみに病変が確認されることがときどきあります。緩徐進行型のリンパ腫はPETでの集積が弱いことが多いです。

 

骨髄検査でもフローサイトメトリや遺伝子検査などを行います。

このときも骨髄検査は副腎皮質ステロイドを投与する前に行うことが望ましいです。

PET-CT検査と同様に骨髄検査も早めに行います。

 

2020年12月時点でのアメリカのNCCNガイドラインでは、中枢神経系の悪性リンパ腫症例に対しては、PET-CT検査もしくは造影CT検査を推奨しています。骨髄検査も推奨しています。

日本脳腫瘍学会による2019年度版脳腫瘍診療ガイドラインでも全身性悪性リンパ腫の有無を精査することが必要であるとしています。

 

原発性中枢神経系リンパ腫のその他の治療前検査および治療前に行うこと

中枢神経系の悪性リンパ腫の症例では感染症の検査が必要です。

HIV感染は原発性中枢神経系リンパ腫のリスクになります。中枢神経系の悪性リンパ腫の症例ではHIV感染症の確認を必ず行います。HIVの感染があればHIVの治療も必要になるためです。

リンパ腫の治療によりB型肝炎が再活性化することがあります。B型肝炎は気が付かないうちに感染していることもありますので、以前にB型肝炎にかかったことがあるかどうか採血検査で確認します。

その他、C型肝炎HTLV-1感染についても確認することがあります。

 

副腎皮質ステロイドは血糖値を上昇させます。糖尿病があると治療開始とともに急激に血糖値が上昇する可能性があります。副腎皮質ステロイドの投与を検討している場合は、糖尿病の確認も行います。

その他、血液検査では肝・腎の機能の確認や乳酸脱水素酵素(LDH)の値の確認も行います。

治療に伴い大量の輸液も行うことが想定されます。大量輸液は心臓に負担がかかりますので、治療前に心臓超音波検査で心機能を必ず確認します。

 

治療開始前の全身状態や認知機能の確認を行います。

認知機能の確認はMini Mental Status Examination (MMSE)という簡単な認知機能検査を少なくとも行います。長谷川式スケールで代替することもありますが、国際基準ではMMSEが推奨されています

 

眼科検査を行っていなければ、眼科検査も行うことを推奨します。

眼の検査の詳細については「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の頭部MRI画像、脳脊髄液検査、眼内検査」をご覧ください。

 

抗がん剤治療を開始すると生殖能力に影響が出ます。治療により男女ともに不妊になる可能性が十分にあります。

不妊対策が必要な症例では、男性の場合には精子の凍結保存を行います。すぐに可能なので状態が不良でなければ問題なく行えます。状態が不良の場合は困難かもしれません。

女性の場合は適切な相手がいれば受精卵の凍結保存を選択できます。ただし原発性中枢神経系リンパ腫の症例では状態が悪いことが多く、受精卵の凍結保存が現実的には困難かもしれません。

適切な相手がいない場合は、卵巣凍結保存・卵子凍結保存が選択肢となりますが、いまだ研究段階であることと、時間的猶予がないことから、現実的ではないでしょう。

 

セカンドオピニオンを希望される場合は、状態が安定してから行うことが現実的です。

原発性中枢神経系リンパ腫は状態悪化が早いため、治療開始前のセカンドオピニオンが現実的に困難でしょう。

もしも状態がよければセカンドオピニオンは可能ですが、それでも時間をかけていると想定外の悪化をきたすことがあります。もし治療前にセカンドオピニオンを希望する場合は、直ちに行ってください。

セカンドオピニオンの時間が治療前になかった場合は、治療開始し全身状態が改善した時点でセカンドオピニオンを行うことが現実的です。

 

次項では原発性中枢神経系リンパ腫の予後と予後指標について解説します。

 

まとめ 原発性中枢神経系リンパ腫の治療前検査 二次性中枢神経系浸潤の除外が必要

● 中枢神経系の悪性リンパ腫の症例では原発性中枢神経系リンパ腫なのか二次性中枢神経系リンパ腫か区別することが極めて重要です。

● 全身の病変を調べるにはPET-CTを用いることを推奨します。時間的猶予、全身状態、設備などの理由からPET-CT検査が施行困難な場合は全身の造影CT検査を行います。

● 中枢神経系の悪性リンパ腫の症例では骨髄検査も行うことを推奨します。「骨髄穿刺吸引」「骨髄生検」を行います。

● 中枢神経系の悪性リンパ腫の症例では感染症の検査(HIVやB型肝炎など)を行います。心臓超音波検査で心機能を必ず確認します。Mini Mental Status Examination (MMSE)による認知機能の検査も行います。

 

参考文献

Nieves Gómez León, Roberto C Delgado-Bolton, Lourdes Del Campo Del Val, et al.
Multicenter Comparison of Contrast-Enhanced FDG PET/CT and 64-Slice Multi-Detector-Row CT for Initial Staging and Response Evaluation at the End of Treatment in Patients With Lymphoma
Clin Nucl Med. 2017 Aug;42(8):595-602.

Nimish A Mohile, Lisa M Deangelis, Lauren E Abrey.
The utility of body FDG PET in staging primary central nervous system lymphoma
Neuro Oncol. 2008 Apr;10(2):223-8.

NCCNガイドライン

2019年度版脳腫瘍診療ガイドライン

 

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