原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の予後と予後指標 新しい治療方法により予後も改善

2020-11-30

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 2004-2012 治療別全生存率

 

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)は昔はかなり予後不良でした。治療方法がない時代は生存期間の中央値はおよそ数か月でした。

その後の新規治療の登場により原発性中枢神経系リンパ腫の予後は年々改善しています。

本項では、予後に影響する因子は何か、原発性中枢神経系リンパ腫の予後指標、原発性中枢神経系リンパ腫の予後は以前と比べてどのくらい改善しているのか、などについて医学文献を参照に解説していきます。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の予後指標 IELSG予後スコアリングシステム

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)予後は診断時の年齢や全身状態などによってかわってくることが指摘されています。

そのような予後に影響する因子の研究が行われてきました。その中でよく使用されるのがIELSG予後スコアリングシステムMemorial Sloan-Ketteringがんセンター予後モデルです。

 

2003年に比較的大規模な後ろ向き国際研究の結果が出版されました(J Clin Oncol. 2003 Jan 15;21(2):266-72).

International Extranodal Lymphoma Study Group (IELSG)によるこの研究から、予後指標が提唱されました。

この研究では予後に影響していた因子を後ろ向きに解析しています。

単変量解析で予後に影響していた因子は、年齢全身状態血中乳酸脱水素酵素(LDH)、そして治療方法(大量メソトレキセート療法、大量シタラビン療法)でした。

さらに多変量解析を行い、予後に影響していた因子は、年齢、全身状態、LDH、治療方法でしたが、単変量解析で有意差がみられなかった脳脊髄液蛋白濃度深部脳病変も多変量解析では有意差がみられました。

全身状態はECOGのパフォーマンスステータスを使用します(下表, https://ecog-acrin.org/resources/ecog-performance-status).

  • 0点 病気になる前と同様の日常生活が制限なく可能である
  • 1点 激しい活動は制限されるが、歩行可能かつ軽い家事や事務作業などの軽度な仕事は可能である
  • 2点 歩行可能かつ自分自身の身の回りのことはできるが、軽度の仕事であっても困難である。起きている時間のうち半分以上はベッドやいすから離れることができる
  • 3点 自分の身の回りのこともある程度しかできない。起きている時間のうち半分以上はベッドやいすで過ごしている
  • 4点 自分自身のことも全くできない。一日中ベッドやいすで過ごしている。

IELSGでは診断時の予後に影響した5つ因子で予後スコアをつけることとしました(下表、各1点)。

  • 年齢が61歳以上である
  • ECOGのパフォーマンスステータスが2点以上である
  • 血中の乳酸脱水素酵素(LDH)が正常上限を超えている
  • 脳脊髄液中の蛋白濃度が正常上限を超えている
  • 深部脳病変(脳室周囲・基底核・脳幹・小脳)がある

これらの総得点が高いほど全生存率は有意に低下していました(下図, p=0.00001, J Clin Oncol. 2003 Jan 15;21(2):266-72).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL IELSG予後スコア 全生存

IELSG予後点数別の2年全生存率は以下のようになりました。

0~1点では80%

2~3点では48%

4~5点では15%

 

ただしこの生存率は当時の治療によるものなので、現在の治療方法では生存率はこんなに低くありません。

IELSG点数が低いほうが高いよりも予後が良いということまでは言えるでしょう。

注意点として、脳脊髄液中の蛋白濃度や深部脳病変については単変量解析では予後に有意には影響していませんでしたので、これらの項目の信頼性は低いと考えられます。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の予後指標 Memorial Sloan-Ketteringがんセンター予後モデル

その後2006年にアメリカのMemorial Sloan-Ketteringがんセンターから比較的大規模な後ろ向き研究の結果が出版されました(J Clin Oncol. 2006 Dec 20;24(36):5711-5).

年齢と全身状態だけで見るシンプルな予後指標が提唱されました。

全身状態はKarnofskyパフォーマンスステータスを使用しました(下表, https://ecog-acrin.org/resources/ecog-performance-status).

  • 100 正常で症状はない
  • 90 通常の生活は可能だがわずかな症状がある
  • 80 通常の生活は努力すれば可能 ある程度の症状がある
  • 70 自分の身の回りのことはできるが、普段通りにできていた活動や仕事はできない
  • 60 たいていの自分の身の回りのことはできるが、時々介助が必要である
  • 50 かなりの介助が必要である 頻回の医療ケアが必要である
  • 40 動けない 特別な医療ケアや介助が必要である
  • 30 全く動けない 入院の適応ではあるが重篤ではない
  • 20 非常に重症 入院と積極的な支持療法が必要である
  • 10 危篤状態

Memorial Sloan-Ketteringがんセンターの研究では、50歳以上でKarnofskyパフォーマンスステータスが診断時に70未満だと予後は悪くなりました。

Memorial Sloan-Ketteringがんセンター予後モデルは以下のように提唱されました。

  • Class 1 50歳以下
  • Class 2 51歳以上でKarnofskyパフォーマンスステータスが70以上
  • Class 3 51歳以上でKarnofskyパフォーマンスステータスが70未満

Class 1の症例は全体の約30%、Class 2は約44%、Class 3は約26%でした。

この予後モデルによる全生存率は統計学的にも明らかにClassごとに異なりました(下図, p <0.001, J Clin Oncol. 2006 Dec 20;24(36):5711-5).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL MSKCC予後モデル 全生存

Class別の全生存期間の中央値は以下のようになりました。

Class 1では8.5年

Class 2では3.2年

Class 3では1.1年

 

ただしこの生存期間も当時の治療によるものなので、現在の治療方法では全く異なる期間になります。

Memorial Sloan-Ketteringがんセンターの予後モデルも低いほうが高いよりも予後が良いということまでは言えるでしょう。

 

なおこの研究ではIELSG予後スコアリングシステムの検証も行いました。

やはりIELSG点数が少ないほうが予後は良好でした。生存期間の中央値は以下のようになりました。

0~1点では7.9年

2~3点では2.9年

4~5点では1.1年

 

IELSG予後指標では脳脊髄液中の蛋白濃度測定が必須でしたが、状況によってはできないこともありますので、Memorial Sloan-Ketteringがんセンターの予後モデルのほうが実臨床では使いやすいでしょう。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の予後 新しい治療方法により年々改善している

原発性中枢神経系リンパ腫の予後は年々改善していると言えます。

 

1994年にデンマークから国民を対象とした疫学研究の結果がでています(Ann Oncol. 1994 Apr;5(4):349-54)。

HIV感染症例を除く原発性中枢神経系リンパ腫症例を対象としましたが、生存期間の中央値は1年もありませんでした。1年生存率は43.9%でした。

 

2016年にアメリカのデータベースの後ろ向き研究の結果が出版されました(Br J Haematol. 2016 Aug;174(3):417-24).

HIV感染症例を除く原発性中枢神経系リンパ腫の1992-1994年の症例の5年生存率は19.1%だったのに対して、2004-2006年の症例の5年生存率は30.1%と大きく上昇しています(下図, Br J Haematol. 2016 Aug;174(3):417-24).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL SEER 年代別5年全生存率

生存率の改善には大量メソトレキセート療法が普及したことが影響していると考えられます。

 

生存率の改善は治療方法の改善によるものです。

2016年にアメリカの別のデータベースの後ろ向き研究の結果が出版されています(Blood Adv. 2016 Nov 30;1(2):112-121).

HIV感染症例を除く原発性中枢神経系リンパ腫の2004年以降に診断された症例を対象としました。

2004-2006年診断の症例は2007-2009年診断の症例と全生存率はほとんど変わりませんでしたが、2010-2012年診断の症例は統計学的にも明らかに予後が改善していました(下図, p=0.0002, Blood Adv. 2016 Nov 30;1(2):112-121).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 2004-2012 年代別5年全生存率

この間は、大量メソトレキセート療法に加えてリツキシマブ大量シタラビン療法を併用する治療が普及しています。

実際にこの研究では単剤治療よりも多剤併用化学療法のほうが明らかに予後は良好でした(下図, p<0.0001, Blood Adv. 2016 Nov 30;1(2):112-121).

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 2004-2012 治療別全生存率

 

治療方法が改善しなければ予後は改善しません。

より良い治療方法が登場すれば予後は改善します。

多剤併用化学療法により5年生存率は40%を超えるようになっています。現在の治療方法ではさらに改善しているでしょう。

 

医学的根拠のあるより良い治療を行うことにより、長期生存率は全く変わってきます

原発性中枢神経系リンパ腫に限らないことですが、最も良い治療をきちんと行うことが長期生存には重要です。

 

次項以降では、原発性中枢神経系リンパ腫の初回治療について解説します。

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まとめ 原発性中枢神経系リンパ腫の予後と予後指標 新しい治療方法により予後も改善

● 原発性中枢神経系リンパ腫の予後には、年齢全身状態と血中のLDHおよび治療方法などが影響します。

● 原発性中枢神経系リンパ腫の予後指標としてよく使用されるのがIELSG予後スコアリングシステムMemorial Sloan-Ketteringがんセンター予後モデルです。

● 原発性中枢神経系リンパ腫の予後は年々改善しています。生存率の改善は治療方法の改善によるものです。

参考文献

Andrés J M Ferreri, Jean-Yves Blay, Michele Reni, et al.
Prognostic scoring system for primary CNS lymphomas: the International Extranodal Lymphoma Study Group experience
J Clin Oncol. 2003 Jan 15;21(2):266-72.

Lauren E Abrey, Leah Ben-Porat, Katherine S Panageas, et al.
Primary central nervous system lymphoma: the Memorial Sloan-Kettering Cancer Center prognostic model
J Clin Oncol. 2006 Dec 20;24(36):5711-5.

M Krogh-Jensen, F d'Amore, M K Jensen, et al.
Incidence, clinicopathological features and outcome of primary central nervous system lymphomas. Population-based data from a Danish lymphoma registry. Danish Lymphoma Study Group, LYFO
Ann Oncol. 1994 Apr;5(4):349-54.

Meredith S Shiels, Ruth M Pfeiffer, Caroline Besson, et al.
Trends in primary central nervous system lymphoma incidence and survival in the U.S
Br J Haematol. 2016 Aug;174(3):417-24.

Jaleh Fallah, Lindor Qunaj, Adam J Olszewski.
Therapy and outcomes of primary central nervous system lymphoma in the United States: analysis of the National Cancer Database
Blood Adv. 2016 Nov 30;1(2):112-121.

 

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