原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL) 再発・難治性の新薬の臨床試験

2021-01-15

再発・難治性 原発性中枢神経系悪性リンパ腫 PCNSL イブルチニブ OS PFS

 

原発性中枢神経系リンパ腫(中枢神経系原発悪性リンパ腫, PCNSL)の再発もしくは難治性の症例に対する新しい治療の試みは次々と行われています。

テモゾロミド、ペメトレキセド、レナリドミド、イブルチニブ、チラブルチニブなどの薬剤の臨床試験結果について本項では解説します。

いろいろな新薬の臨床試験が行われていますが、既存の治療を大きく上回るような薬剤はまだありません。以下、これらの臨床試験結果の医学文献を参照にしつつ解説していきます。

 

再発・難治性の原発性中枢神経系リンパ腫の治療については、「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL) 再発・難治性の治療」をご覧ください。

 

テモゾロミドの再発・難治性原発性中枢神経系悪性リンパ腫への有効性

原発性中枢神経系リンパ腫(中枢神経系原発悪性リンパ腫, PCNSL)の再発もしくは難治性の症例に対する新薬の臨床試験はいくつも行われています。

その中の一つにテモゾロミドがあります。日本での商品名はテモダールで、脳腫瘍などの治療に用いられる抗がん剤です。アルキル化剤の一種です。

 

再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫の症例に対して、テモゾロミドを用いた単群の前向き臨床試験の結果が2007年に出版されています(Br J Cancer. 2007 Mar 26;96(6):864-7)

投与方法は他の脳腫瘍と同様に、150mg/m2を1日1回5日間投与し23日間休薬する、を1サイクルとして長期間継続するというものでした。

結果、部分奏効以上を達成した症例は31%, 完全奏効に到達した症例は25%でした。

無増悪生存期間の中央値は2.8か月、全生存期間の中央値は3.9か月でした。

この結果からは、テモゾロミドは一部の症例には有効であるものの、全体としての効果は限定的であると言わざるを得ません。

 

2013年にリツキシマブとテモゾロミドを組み合わせた単群の前向き臨床試験の結果が出版されました(Leuk Lymphoma. 2013 Jan;54(1):58-61)。

再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫の症例を対象とし、1サイクル目のみテモゾロミドを150mg/m2を1日1回7日間内服し21日間休薬する、と増量しリツキシマブを毎週(計4回)投与しました。

2サイクル目以降はテモゾロミドのみで、150mg/m2を1日1回5日間内服し23日間休薬でした。

結果、完全奏効に到達した症例は14%でした。

無増悪生存期間の中央値はわずか7週間でした(下図)。

再発・難治性 原発性中枢神経系悪性リンパ腫 PCNSL リツキシマブ テモゾロミド OS PFS

この臨床試験は、効果が乏しいことから早期中止となりました。

 

これらの結果から、テモゾロミドは一部の症例には有効かもしれませんが、全体としての効果はかなり限定的と考えられます。

単群の前向き臨床試験は比較試験ではないため、比較的条件の良い症例が選択されます。

それにもかかわらず奏効率・無増悪生存率があまりよくないことを考慮すると、テモゾロミドが治療の選択肢にあがることは少ないでしょう。

 

ペメトレキセドの再発・難治性原発性中枢神経系リンパ腫への有効性

ペメトレキセドを再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫に対して用いた臨床試験の結果も出ています。

ペメトレキセドの商品名はアリムタで、肺がんなどの治療に用いられる抗がん剤の一種です。

葉酸代謝酵素阻害剤の一種です。メソトレキセートと同系統の薬剤になりますが、メソトレキセートよりも広範囲の葉酸代謝酵素を阻害します。

ただしペメトレキセドはメソトレキセートと比較して血液脳関門の通過が少ないとされています。

 

2012年に再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫の症例に対するペメトレキセドの単群前向き臨床試験の結果が出版されました(Cancer. 2012 Aug 1;118(15):3743-8).

ペメトレキセドは3週間に1回900 mg/m²を点滴投与しました。

結果、部分奏効以上を達成した症例は55%, 完全奏効に到達した症例は36%でした。

無増悪生存期間の中央値は5.7か月、全生存期間の中央値は10.1か月でした(下図).

再発・難治性 原発性中枢神経系悪性リンパ腫 PCNSL ペメトレキセド OS PFS

この結果からは、ペメトレキセドはある程度の効果がありそうです。

 

2020年に再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫の症例に対するペメトレキセドの単群前向き臨床試験の結果が出版されました(Oncologist. 2020 Jun 10;25(9):747-e1273).

この臨床試験ではペメトレキセドは2週間に1回投与しました。安全性と投与量の確認を目的としていました。

結果、部分奏効以上を達成した症例は57%、完全奏効に到達した症例は21.4%でした。

安全性と有害事象から、ペメトレキセドは2週間に1回900 mg/m²の投与が可能と判断されました。

無増悪生存期間の中央値は4.2か月、全生存期間の中央値は44.5か月でした。

しかしながら、この臨床試験は症例が集まらなかったため予定よりも早く終了しました。

 

ペメトレキセドはある程度の効果がありそうですが、いまだ研究段階の治療です。本当に効果が有害事象を上回るかどうかはまだわかりません。

無増悪生存期間が短いのに全生存期間が比較的長いというのは、一般にこの後に行った別の治療が奏効していると考えられます。

 

レナリドミド・BTK阻害薬の再発・難治性原発性中枢神経系リンパ腫への有効性

レナリドミドは多発性骨髄腫や濾胞性リンパ腫などの血液疾患の治療に用いられる薬剤です。商品名はレブラミドです。

免疫調節薬というカテゴリーに分類される薬剤ですが、作用機序は様々でありサイトカインの抑制、免疫細胞の活性、血管新生の抑制などがあるとされています。

リツキシマブと併用するとリツキシマブの効果を高めるともされています。

 

レナリドミドとリツキシマブの併用を再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫に対して用いた単群の前向き臨床試験の結果が2019年に出版されています(Ann Oncol. 2019 Apr 1;30(4):621-628).

8サイクル後の奏効では、部分奏効以上を達成した症例は32%、完全奏効に到達した症例は29%でした。

無増悪生存期間の中央値は7.8か月でした(下図).

再発・難治性 原発性中枢神経系悪性リンパ腫 PCNSL レナリドミド リツキシマブ PFS

全生存期間の中央値は17.7か月でした(下図).

再発・難治性 原発性中枢神経系悪性リンパ腫 PCNSL レナリドミド リツキシマブ OS

この臨床試験の結果からは、レナリドミドとリツキシマブの併用は一部の症例には有効であるものの、全体としての効果はやはり限定的です。

テモゾロミドやペメトレキセドよりは有効かもしれませんが、この臨床試験も比較試験ではありません。

 

レナリドミドとリツキシマブによる治療も研究段階です。本当に効果が有害事象を上回るかどうかはまだわかりません。

 

 

イブルチニブは慢性リンパ性白血病などに用いられる薬剤です。ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤というカテゴリーに分類されます。

ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)という、B細胞受容体やサイトカイン受容体のシグナル伝達の重要な因子がありますが、イブルチニブはこれを阻害することで腫瘍性B細胞の増殖を抑えます。

商品名はイムブルビカです。

 

イブルチニブを再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫に対して用いた単群の前向き臨床試験の結果が2019年に出版されています(Eur J Cancer. 2019 Aug;117:121-130).

イブルチニブは560mgを毎日内服し、1サイクルは28日間としていました。

結果、4サイクル終了時点で部分奏効以上を達成した症例は39%, 完全奏効に到達した症例は20%でした。

12サイクル終了時点で部分奏効以上を達成していた症例は25%でしたが、それらはすべて完全奏効でした.

無増悪生存期間の中央値は4.8か月、全生存期間の中央値は19.2か月でした(下図).

再発・難治性 原発性中枢神経系悪性リンパ腫 PCNSL イブルチニブ OS PFS

この臨床試験の結果からは、イブルチニブは一部の症例には有効であるものの、全体としての効果は限定的であると考えられます。

イブルチニブによる治療も原発性中枢神経系リンパ腫では研究段階です。

 

 

チラブルチニブはブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤の一つです。日本の製薬会社の開発のため世界での臨床試験は乏しいです。イブルチニブと同系統の薬剤です。

日本で行われた再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫に対してチラブルチニブを用いた単群の前向き臨床試験の結果が2020年に出版されています(Neuro Oncol. 2020 Jun 25;noaa145).

結果、最良奏効で部分奏効以上を達成した症例は63.6%、完全奏効に到達した症例は34.1%でした。

無増悪生存期間の中央値は2.9か月でした。

 

イブルチニブと同様の薬剤のためか似たような結果となっています。無増悪生存期間はあまり良くありません。

この臨床試験の結果からは、チラブルチニブも一部の症例には有効であるものの、全体としての効果は限定的で、研究段階の治療方法と考えられます。

しかしながら、日本ではこの臨床試験をもとに再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫に対して承認されています。商品名はベレキシブルです。

日本の製薬会社の開発であることが背景にあると推測されます。

 

 

新規薬剤の臨床試験は次々と行われていますが、2020年12月時点では再発もしくは難治性の原発性中枢神経系リンパ腫に対してあまり有効な新薬があるとは言い難い状況です。根治的なものはおそらくありません。

可能であれば前項「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL) 再発・難治性の治療」のように自家造血幹細胞移植を検討することを推奨します。

 

まとめ 再発・難治性の原発性中枢神経系リンパ腫の新薬の臨床試験

● 再発・難治性の原発性中枢神経系リンパ腫に対するテモゾロミドによる治療は一部の症例には有効かもしれませんが、全体としての効果は限定的です。

● 再発・難治性の原発性中枢神経系リンパ腫に対するペメトレキセドもある程度の効果がありそうですが、いまだ研究段階の治療です。

レナリドミドとリツキシマブの併用も一部の症例には有効であるものの全体としての効果は限定的です。イブルチニブチラブルチニブによる治療も一部の症例には有効であるものの、全体としての効果は限定的で研究段階の治療です。

参考文献

M Reni, F Zaja, W Mason, et al.
Temozolomide as salvage treatment in primary brain lymphomas
Br J Cancer. 2007 Mar 26;96(6):864-7.

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Multicenter phase II study of rituximab and temozolomide in recurrent primary central nervous system lymphoma
Leuk Lymphoma. 2013 Jan;54(1):58-61.

Jeffrey J Raizer, Alfred Rademaker, Andrew M Evens, et al.
Pemetrexed in the treatment of relapsed/refractory primary central nervous system lymphoma
Cancer. 2012 Aug 1;118(15):3743-8.

Jorg Dietrich, Laura Versmee, Jan Drappatz, et al.
Pemetrexed in Recurrent or Progressive Central Nervous System Lymphoma: A Phase I Multicenter Clinical Trial
Oncologist. 2020 Jun 10;25(9):747-e1273.

H Ghesquieres, M Chevrier, M Laadhari, et al.
Lenalidomide in combination with intravenous rituximab (REVRI) in relapsed/refractory primary CNS lymphoma or primary intraocular lymphoma: a multicenter prospective 'proof of concept' phase II study of the French Oculo-Cerebral lymphoma (LOC) Network and the Lymphoma Study Association (LYSA)
Ann Oncol. 2019 Apr 1;30(4):621-628.

C Soussain, S Choquet, M Blonski, et al.
Ibrutinib monotherapy for relapse or refractory primary CNS lymphoma and primary vitreoretinal lymphoma: Final analysis of the phase II 'proof-of-concept' iLOC study by the Lymphoma study association (LYSA) and the French oculo-cerebral lymphoma (LOC) network
Eur J Cancer. 2019 Aug;117:121-130.

Yoshitaka Narita, Motoo Nagane, Kazuhiko Mishima, et al.
Phase 1/2 Study of Tirabrutinib, a Second-Generation Bruton's Tyrosine Kinase Inhibitor, in Relapsed/Refractory Primary Central Nervous System Lymphoma
Neuro Oncol. 2020 Jun 25;noaa145. doi: 10.1093/neuonc/noaa145.

 

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