原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の治療効果判定と定期検査

2021-01-04

原発性中枢神経系悪性リンパ腫 治療別T2異常

 

原発性中枢神経系リンパ腫(中枢神経系原発悪性リンパ腫, PCNSL)の治療を開始したら必ず効いているかどうか確認します。

完全奏効に到達する場合もあれば全く効かないこともありますので、効果を確認することが重要です。

本項では原発性中枢神経系リンパ腫の治療効果判定の基準と、奏効後の定期検査について医学文献を参照しながら解説します。

治療効果判定には国際基準(IPCG基準)があります。定期検査では再発の有無だけでなく長期的な神経毒性も確認していきます。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の治療については「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の初回治療 放射線治療とR-MPV療法の登場」「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の初回治療 R-MPV療法をこえて」「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)のMATRix療法・R-MA療法の実際の注意点」をご覧ください。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の治療効果判定の基準

原発性中枢神経系リンパ腫(中枢神経系原発悪性リンパ腫, PCNSL)の治療を開始したら、奏効しているかどうか定期的に確認していきます。

治療効果判定の国際基準がIPCG (International Primary CNS Lymphoma Collaborative Group)という国際的専門家グループより2005年に提唱されています(J Clin Oncol. 2005 Aug 1;23(22):5034-43).

2020年12月時点でもこの基準が用いられています。

最初の効果判定は治療開始後およそ2か月後です。治療終了後効果判定は、最終治療からおよそ2か月後に行います。

例えば、MATRix療法などでは1サイクルが3週間ですので、4サイクル目前に初回治療効果判定を行います。そして4サイクル目投与終了から2か月以内にも治療効果判定を行います。

 

治療効果判定のためには頭部の造影MRI検査が必須です。

治療効果判定の基準は以下のようになります(下表 J Clin Oncol. 2005 Aug 1;23(22):5034-43).

原発性中枢神経系悪性リンパ腫 (中枢神経系原発悪性リンパ腫) PCNSL 治療効果判定基準

完全奏効(CR, Complete response)は以下の基準をすべて満たす必要があります。

  • 頭部造影MRI検査で造影される病変を認めない
  • 副腎皮質ステロイドの投与が2週間以上不要な状態である
  • (診断時に眼病変が陽性の場合)眼の検査で異常がない
  • (診断時に脳脊髄液病変が陽性の場合)脳脊髄液細胞診で異常がない

 

非確定完全奏効(CRu, CR/unconfirmed)という基準があります。あと一歩で完全奏効(CR)という状態です。CRuは以下の基準のどちらかを満たす必要があります。

  • 頭部造影MRI検査で造影される病変を認めない
  • (診断時に眼病変が陽性の場合)眼の検査で異常がない
  • (診断時に脳脊髄液病変が陽性の場合)脳脊髄液細胞診で異常がない
  • 副腎皮質ステロイドの投与が2週間以上不要な状態とまではなっていない

または

  • 頭部造影MRI検査で造影される病変がごくわずかである
  • (診断時に眼病変が陽性の場合)眼の検査で異常がわずかである
  • (診断時に脳脊髄液病変が陽性の場合)脳脊髄液細胞診で異常がない
  • 副腎皮質ステロイドの投与については問わない

 

部分奏効(PR, Partial response)は以下の基準のどちらかを満たす場合を言います。

  • 頭部造影MRI検査で造影される病変が50%以上縮小しているが明らかに残存している
  • (診断時に眼病変が陽性の場合)眼の検査で異常がない、もしくは異常がわずかである
  • (診断時に脳脊髄液病変が陽性の場合)脳脊髄液細胞診で異常がない
  • 副腎皮質ステロイドの投与については問わない

または

  • 頭部造影MRI検査で造影される病変を認めない
  • (診断時に眼病変が陽性の場合)眼の検査で病変は減少しているがまだ残存している
  • (診断時に脳脊髄液病変が陽性の場合)脳脊髄液細胞診で異常細胞が検出される
  • 副腎皮質ステロイドの投与については問わない

 

原発性中枢神経系リンパ腫の初回治療の最初の目標は、治療終了2か月以内の時点でCRもしくはCRuに到達することです。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の治療後の経過観察・定期検査

MATRix療法などの最新の化学療法では、放射線治療や自家造血幹細胞移植を行わなくても完全奏効(CR, CRu)に約50%で到達し、部分奏効以上には約90%で到達します(Lancet Haematol. 2016 May;3(5):e217-27)。

完全奏効に到達しない場合でも放射線治療や自家造血幹細胞移植を追加することで、完全奏効率はさらに上昇します。

 

治療効果がでてくると、症状認知機能の改善がみられます。

化学療法の各サイクルで認知機能検査(MMSEなど)を行い、認知機能の改善を確認することを推奨します。

また、治療効果判定の際にも認知機能検査(MMSEなど)を行うことを推奨します(Ann Oncol. 2007 Jul;18(7):1145-51)。

 

既定の治療が終了し完全奏効に到達した症例では、再発しないかどうか定期的に確認していくことが、治療効果判定の国際基準では提唱されています(J Clin Oncol. 2005 Aug 1;23(22):5034-43).

しかしながらどのようなタイミングで確認するのが良いかについては臨床試験で検証されたわけではありません。

提唱された定期的な確認のタイミングは以下のようになります。

  • 最初の2年間は、少なくとも3か月ごとに検査
  • その後3年間は、6か月ごとに検査
  • その後5年間は、1年ごとに検査

このときの検査は、頭部造影MRI検査だけではなく、認知機能検査(MMSE)も行うことが提唱されています。

治療後しばらくして治療の毒性によって認知機能が低下することがわかっているからです。

この認知機能が遅れて低下するという現象は、放射線治療を行うと発生しやすくなることが知られています。

 

そのほか再発を疑う症状が発生した時は、はやめに検査を行います。

完全奏効後の再発の基準は以下のようになります (J Clin Oncol. 2005 Aug 1;23(22):5034-43)

  • 新規病変が脳、眼、その他の部位に発生した(中枢神経系に限らない)

 

原発性中枢神経系リンパ腫は5年以上経過してから再発することはまれだとされています(J Clin Oncol. 2005 Aug 1;23(22):5034-43)。

長期に再発なく経過している症例では、認知機能障害などの問題のほうが大きくなります。

再発だけでなく遅れて発生する有害事象の経過も定期の通院で確認していくことが大切です。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の治療による遅発性の認知機能障害

認知機能については治療開始前と比べれば大半の症例で改善あるいは保たれている状態となります。

例えば2005年に原発性中枢神経系リンパ腫に対して、大量メソトレキセートを含む化学療法後の完全奏効に到達し1年以上維持できた症例を対象とした研究の結果がでています(Neurology. 2005 Apr 12;64(7):1184-8)。

診断時と比べて認知機能が保たれていたあるいは改善した症例は95%でした。

 

その一方で5年くらい経過を見ていくと、遅れて認知機能障害や神経毒性がみられることもわかっています。

2005年にアメリカの大規模病院(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)の後ろ向き研究の結果が出版されています(Arch Neurol. 2005 Oct;62(10):1595-600).

5年間経過した症例では24%に神経毒性(認知機能障害、行動障害、ふらつき)が発生しました。治療による影響です。そのような症例では頭部の検査では白質のびまん性障害と脳皮質の萎縮が確認されます。

 

この遅発性の神経障害は放射線治療を行った症例に明らかに多く発生することもわかっています。

2013年に完全奏効に到達し2年以上生存した症例を対象とした研究の結果が出版されています(Neurology. 2013 Jul 2;81(1):84-92).

放射線治療を行った症例は注意力や運動遂行能力が有意に低下しました(下図)。

原発性中枢神経系悪性リンパ腫 治療別神経症状

一番右(赤)が放射線治療を行った症例ですが、明らかに注意力、運動能力の低下が他の治療方法と比べて多くみられます。

 

頭部の画像検査でも放射線治療を行った症例は明らかに異常が多くみられました(下図).

原発性中枢神経系悪性リンパ腫 治療別T2異常

一番右(赤)が放射線治療を行った症例ですが、明らかに異常のある領域が他の治療方法と比べて多くみられます。

 

そして、放射線治療を行った症例では、他の治療と比べて明らかに生活の質が低い結果となりました(下図).

原発性中枢神経系悪性リンパ腫 治療別 QoL

一番右(赤)が放射線治療を行った症例ですが、明らかに生活の質の全般が他の治療方法と比べて低い結果でした。

 

晩期の神経毒性のため、最近は初回治療で放射線治療を避けるようになってきています。

初回化学療法の奏効に応じて必要な時に放射線治療、自家造血幹細胞移植、追加化学療法を検討することが望ましいです。

少なくとも全例で奏効に関係なく放射線治療を行う、ということは必ずしもあまり望ましくはありません。

 

まとめ 原発性中枢神経系リンパ腫の治療効果判定

原発性中枢神経系リンパ腫治療効果判定は国際基準に基づいて行います。治療効果判定のためには頭部造影MRI検査が必須です。初回治療の最初の目標は治療終了2か月以内の時点でCRもしくはCRuに到達することです。

● 既定の治療が終了し完全奏効に到達した症例では、再発しないかどうか定期的に確認していくことが提唱されています。このとき頭部造影MRI検査認知機能検査(MMSE)も行います。原発性中枢神経系リンパ腫は5年以上経過してから再発することはまれです。

● 認知機能については治療開始前と比べれば大半の症例で改善あるいは保たれている状態となります。その一方で遅れて認知機能障害や神経毒性がみられることもわかっています。この遅発性の神経障害は放射線治療を行った症例に発生しやすいです。

参考文献

Lauren E Abrey, Tracy T Batchelor, Andrés J M Ferreri, et al.
Report of an international workshop to standardize baseline evaluation and response criteria for primary CNS lymphoma
J Clin Oncol. 2005 Aug 1;23(22):5034-43.

Andrés J M Ferreri, Kate Cwynarski, Elisa Pulczynski, et al.
Chemoimmunotherapy with methotrexate, cytarabine, thiotepa, and rituximab (MATRix regimen) in patients with primary CNS lymphoma: results of the first randomisation of the International Extranodal Lymphoma Study Group-32 (IELSG32) phase 2 trial
Lancet Haematol. 2016 May;3(5):e217-27.

D D Correa, L Maron, H Harder, et al.
Cognitive functions in primary central nervous system lymphoma: literature review and assessment guidelines
Ann Oncol. 2007 Jul;18(7):1145-51.

K Fliessbach, C Helmstaedter, H Urbach, et al.
Neuropsychological outcome after chemotherapy for primary CNS lymphoma: a prospective study
Neurology. 2005 Apr 12;64(7):1184-8.

Antonio M P Omuro, Leah S Ben-Porat, Katherine S Panageas, et al.
Delayed neurotoxicity in primary central nervous system lymphoma
Arch Neurol. 2005 Oct;62(10):1595-600.

Nancy D Doolittle, Agnieszka Korfel, Meredith A Lubow, et al.
Long-term cognitive function, neuroimaging, and quality of life in primary CNS lymphoma
Neurology. 2013 Jul 2;81(1):84-92.

 

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