原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の症状と疫学

2020-11-17

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL), 病理 HEx40

 

「原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL, Primary central nervous system lymphoma)」は脳などの中枢神経系だけに生じた悪性リンパ腫です。「中枢神経系原発悪性リンパ腫」「中枢神経系原発リンパ腫」とも呼ばれます。

典型的なリンパ腫と異なり、どこかに「しこり」ができるわけでもありません。脳などで発生して徐々に大きくなり症状を呈するようになります。

症状がでてから診断まで意外と時間がかかり、症状が悪化してから診断されることが多いです。

本項では原発性中枢神経系リンパ腫がどのような症状を引き起こすのか、その頻度はどのくらいかについて解説します。

運動障害や精神症状が比較的多いです。早期の診断のためには症状がでてからの早めの受診と画像検査が必要になります。

本項後半では、原発性中枢神経系リンパ腫の年間発病頻度(罹患率)について解説します。原発性中枢神経系リンパ腫はまれな疾患で全悪性リンパ腫の2%未満です。各国の医学文献を参照に解説します。

 

原発性中枢神経系リンパ腫とは 脳などの中枢神経系だけの悪性リンパ腫

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL, Primary central nervous system lymphoma)は、脳などの中枢神経系だけ悪性リンパ腫が生じた場合の病名です。中枢神経系にはだけでなく脊髄も含まれます。

中枢神経系ではない体の部位にもリンパ腫病変が存在すれば原発性中枢神経系リンパ腫ではなく、悪性リンパ腫の二次性の中枢神経系浸潤になります。

 

中枢神経系だけに病変があるのか、それとも全身にも病変があるのかを区別することは治療の上で極めて重要です。

通常の抗がん剤治療(R-CHOP療法など)は中枢神経系の病変にはあまり奏効しません。その一方で中枢神経系に移行の良い薬剤はそれ以外の部位への効果は通常の抗がん剤治療(R-CHOP療法など)に劣ります。

原発性中枢神経系リンパ腫であれば、病変は中枢神経系だけなので中枢神経系に移行の良い薬剤のみで治療し、通常の抗がん剤治療(R-CHOP療法など)は行う必要はありません。

治療戦略が全く異なるため、病変が中枢神経系だけなのかそうでないのかについて必ず区別します。

 

原発性中枢神経系リンパ腫では病変が脳内に多発していることもあります。脳と眼の両方に病変があることもあります。病変が一か所とは限らず、中枢神経系で多発することがしばしばあります。

 

悪性リンパ腫というのは体のどこにでも発生する可能性があります。リンパ節で発生することが多いのですが、皮膚だけ、血管内だけ、中枢神経系だけに発生することもあります。

どうしてリンパ系の組織ではない特定の部位だけに発生することがあるのかについてはあまり詳しくわかっていません。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の症状 運動障害や精神症状が徐々に悪化する

原発性中枢神経系リンパ腫の症状は病変のできた中枢神経系の部位に対応したものになります。

病変は脳内にできることが多いので、手足が動かしにくい、幻覚がみえる、顔の筋肉がうごかしにくいといった、部分的な神経の症状(局所症状)がおこることが比較的多いです(約7割)。

脳の病変のより、人格が明らかにおかしくなった、重度のうつ病になった、全くやる気がおこらなくなった、錯乱する、といった精神症状もみられます(約3~4割)。

発症から診断までの間にけいれん発作を起こすのは約1割です。

頭痛、集中力低下、悪心・嘔吐なども起こります(約1~3割)が、これらの症状は中枢神経系の疾患が原因ではないことが多いので、これだけで中枢神経系疾患を積極的には考えません。

 

眼や視神経に悪性リンパ腫が発生しているときの症状としては視野がぼやける、視野が欠損している、見えないなどですが、原発性中枢神経系リンパ腫全体としてはあまり多くなく数%程度です。

その他、下肢の脱力、ふらつき、失禁、便失禁なども起こり得ます。

まれですが神経浸潤が著しいとその神経領域にかなり強い痛みが発生します。

 

上記のような症状がでたら、中枢神経系の画像検査(頭部MRIなど)を行う必要があります。必ずしも原発性中枢神経系リンパ腫とは限りません。他の脳腫瘍もありえます。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の症状について報告された医学文献の中で比較的規模が大きなものは先進国からが多いです。

1995年にアメリカのメイヨークリニックから報告された89例の原発性中枢神経系リンパ腫症例(HIV除く)の後ろ向き研究があります(J Neurosurg. 1995 Apr;82(4):558-66)。

症状が出てから診断までの期間については、約半数の症例が8週間以内で診断されていました。

症状としては体の一部が動かしにくいなどの部分的な神経の症状が73%, 精神書状が28%, けいれんが9%にみられました。

 

2000年にはフランスやベルギーの多施設からの原発性中枢神経系リンパ腫症例(HIV除く)248例の報告がありました(J Neurosurg. 2000 Feb;92(2):261-6).

症状が出てから入院するまでの期間は、平均して80日でした。

部分的な神経の症状が最も多く70%に、神経症状は43%にみられました。けいれんは14%です。眼に悪性リンパ腫病変があった症例は4%でした。

 

眼に悪性リンパ腫病変が確認された症例に限定した報告も各国から複数出ています。

眼に発症している場合でも発症してから診断までは3か月が平均でした(Neurology. 2008 Oct 21;71(17):1355-60)。

眼に悪性リンパ腫病変が確認された221例の中で眼の症状(ぼやけるなど)があった症例は62%でした。視野欠損は2%でした。

 

だけに悪性リンパ腫病変が確認された症例31例の報告では、発症から診断までの期間の中央値は13か月でした(Br J Haematol. 2004 Jul;126(2):202-8)。

浮遊物がみえる、視野がぼやけるといった症状が比較的多くみられました。

 

診断には時間がかかることが多いですが、症状がでたら早めに受診し画像検査などを行うと悪化がすすむ前に診断につなげることができます。

 

原発性中枢神経系リンパ腫の疫学 非ホジキンリンパ腫の1.5%のまれな疾患

原発性中枢神経系リンパ腫は比較的まれな疾患です。

先進国でHIV感染症などの疾患のない人が発症する割合は1年間で百万人あたり約2人です。

HIV感染症の症例も含めるとおおよそ1年間で百万人あたり5人です。

この割合は各国によって異なると考えられますが、疾患の発症頻度が低いためあまり正確な数字はわかりません。

発症頻度も徐々に増えてきている可能性が指摘されています。

 

原発性中枢神経系リンパ腫は全ての非ホジキンリンパ腫の1.5%程度です。

アメリカではすべての原発性脳腫瘍のうちおよそ4%が原発性中枢神経系リンパ腫です。

発症年齢の中央値は60歳代です。男女比はほぼ同じです。

 

欧州では各国の住民を対象とした疫学研究が行われています。

例えばデンマークでの研究では、HIV感染者でない原発性中枢神経系リンパ腫の症例は1年間で百万人当たり1.56人でした(Ann Oncol. 1994 Apr;5(4):349-54, Leuk Lymphoma. 1995 Oct;19(3-4):223-33)。

発症者の年齢の中央値は62歳、男女比は1でした。原発性脳腫瘍の1.6%でした。

 

ノルウェーの調査では、1990年ごろのHIV感染者でない原発性中枢神経系リンパ腫の症例は年間百万人あたり0.89人でしたが、2000年ごろは1.82人になっていました(下図, Cancer. 2007 Oct 15;110(8):1803-14).

PCNSL 年間発症数 ノルウェー

 

アメリカの統計データ (SEER, Surveillance Epidemiology and End Results)の結果では、HIV関連の症例も含むためか、1995年をピークに原発性中枢神経系リンパ腫の年間罹患率は低下し、2008年は百万人当たり年間約4人となっています(下図, Br J Cancer. 2011 Oct 25;105(9):1414-8)。

SEER annual incidence, PCNSL

 

HIV感染臓器移植は原発性中枢神経系リンパ腫の発症リスクになります(Br J Haematol. 2016 Aug;174(3):417-24)。

原発性中枢神経系リンパ腫が疑われる症例ではHIV検査も必須です

 

アメリカの後ろ向き研究では、1985年から1999年の間に診断された原発性脳腫瘍のうち4.12%が原発性中枢神経系リンパ腫でした(Neuro Oncol. 2006 Jan;8(1):27-37)。

原発性中枢神経系リンパ腫は脳腫瘍のなかでも頻度はそれほど高くありません。

 

原発性中枢神経系リンパ腫のほとんどは「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」とされていますが、実際には数%に「T細胞リンパ腫」、約10%に「低悪性度リンパ腫」を含みます(Ann Oncol. 1994 Apr;5(4):349-54, Cancer. 1994 Aug 15;74(4):1383-97)。

2016年WHO分類では原発性中枢神経系リンパ腫は「原発性中枢神経系びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Primary DLBCL of the central nervous system)」の名称となっていますが、

実際にT細胞リンパ腫なども含まれることから、「原発性中枢神経系リンパ腫(Primary central nervous system lymphoma, PCNSL)」を当サイトでも多くの医学文献と同様に使用しています。

 

次項では原発性中枢神経系リンパ腫のMRI画像所見などについて解説します。

原発性中枢神経系リンパ腫 PCNSL 造影MRI 2005
原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の頭部MRI画像、脳脊髄液検査、眼内検査

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まとめ 原発性中枢神経系リンパ腫の症状と疫学

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)とは、脳などの中枢神経系だけの悪性リンパ腫です。中枢神経系ではない部位にもリンパ腫病変が存在すれば原発性中枢神経系リンパ腫ではなく二次性の中枢神経系浸潤です。

● 原発性中枢神経系リンパ腫の症状で多いものは、部分的な神経の症状(局所症状)(約7割)、精神症状 (約3~4割)、けいれん発作(約1割)、頭痛、集中力低下、悪心・嘔吐など(約1~3割)です。

● 原発性中枢神経系リンパ腫はまれな疾患です。HIV感染症などの疾患のない人が発症する割合は1年間で百万人あたりおよそ2人です。全ての非ホジキンリンパ腫の1.5%、全ての原発性脳腫瘍の4%です。発症年齢の中央値は60歳代です。男女比はほぼ同じです。

参考文献

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Primary intracerebral malignant lymphoma: a clinicopathological study of 89 patients
J Neurosurg. 1995 Apr;82(4):558-66.

B Bataille, V Delwail, E Menet, et al.
Primary intracerebral malignant lymphoma: report of 248 cases
J Neurosurg. 2000 Feb;92(2):261-6.

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Primary CNS lymphoma with intraocular involvement: International PCNSL Collaborative Group Report
Neurology. 2008 Oct 21;71(17):1355-60.

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Br J Haematol. 2004 Jul;126(2):202-8.

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Ann Oncol. 1994 Apr;5(4):349-54.

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Clinicopathological features, survival and prognostic factors of primary central nervous system lymphomas: trends in incidence of primary central nervous system lymphomas and primary malignant brain tumors in a well-defined geographical area. Population-based data from the Danish Lymphoma Registry, LYFO, and the Danish Cancer Registry
Leuk Lymphoma. 1995 Oct;19(3-4):223-33.

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