原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の初回治療 化学療法は何がよいか?

2020-10-14

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 リツキシマブあり vs なし EFS

 

原発性縦隔(胸腺)大細胞型B細胞リンパ腫の治療には化学療法および放射線治療がしばしば行われますが、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫とは異なる治療を行ったほうがよいのでしょうか?

本項では、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の初回治療について解説します。

結論として治療にはR-CHOP療法もしくはDA-EPOCH-R療法を用います。放射線照射については必ずしも初回治療に含まなくてもよいでしょう。基本的には通常のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と同様の治療となります。

以下、前向き臨床試験や後ろ向き研究の結果を参照しつつ解説していきます。

 

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の初回治療については「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療 限局期の場合」「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療 進行期の場合」をご覧ください。

 

リツキシマブ以前の原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の治療 化学療法+放射線照射

原発性縦隔(胸腺)大細胞型B細胞リンパ腫に対して、リツキシマブが登場するよりも前は抗がん剤化学療法と放射線療法を行っていました。

巨大病変のあるアグレッシブリンパ腫と同じように治療していました。

ただしこれらの治療は原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫に対して前向きに検証していたわけではありません。

化学療法はCHOP療法第三世代化学療法(MACOP-B療法など)を行っていました(J Clin Oncol. 2001 Mar 15;19(6):1855-64)。

第三世代化学療法というのは当時の流行のようなものでした。

 

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫についての比較的規模の大きな後ろ向き研究の結果が、2002年に出版されています(Haematologica. 2002 Dec;87(12):1258-64).

この研究ではCHOP療法よりもMACOP-B療法で治療したほうが、完全奏効率は高い結果でした。CHOP療法では完全奏効率は61%, MACOP-B療法では79%でした。

 

複数の後ろ向き研究で、CHOP療法よりもMACOP-B療法で治療したほうが、完全奏効率が有意に高いことが報告されています。

2004年に報告された後ろ向き研究では、完全奏効率はCHOP療法で51.1%, MACOP-B療法(もしくはVACOP-B療法)で80%でした(p<0.001, Br J Cancer. 2004 Jan 26;90(2):372-6).

 

これらの後ろ向き研究では放射線治療も慣習的に行っていましたが、効果についてははっきりしていませんでした。

2006年にカナダのブリティッシュコロンビアからの後ろ向き研究では、放射線療法を行っても予後が改善するわけではないことが報告されています(下図、Ann Oncol. 2006 Jan;17(1):123-30)。

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 放射線照射あり vs なし 無増悪生存率

 

ただし上記研究はすべて後ろ向き研究なので、あまり信頼性が高いとは言えませんが、CHOP療法よりも第三世代化学療法(MACOP-BやVACOP-B)のほうが良いと考えられました。

これは通常のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫で第三世代化学療法の効果がCHOP療法よりも良いとは言えないことがはっきりするまで続きます。

放射線照射については生存率への効果ははっきりしないまま行われ続けました。

 

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の治療 リツキシマブ+化学療法

リツキシマブが登場して、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療はリツキシマブ+化学療法に変わりました。

大規模ランダム化臨床試験で奏効率、無増悪生存率、全生存率の改善が確認されたためです。

 

そのうちのひとつであるMabThera試験では原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫も含めて臨床試験を行っていました。原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫は約12%含まれていました。

全体での結果は、無増悪生存率全生存率もリツキシマブの追加により改善が確認されました(Lancet Oncol. 2006 May;7(5):379-91, Lancet Oncol. 2011 Oct;12(11):1013-22).

この臨床試験では原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫についての事後解析が行われています(Ann Oncol. 2011 Mar;22(3):664-670).

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫限定となるため症例数は少なくなり統計学的な差がはっきりしないことがありますが、それでも完全奏効率はリツキシマブなしで54%だったのが、リツキシマブありでは80%と有意に改善がみられました(p=0.015).

完全奏効のまま再発なく生存している割合は3年時点で、リツキシマブなしで52%だったのが、リツキシマブありでは78%有意に改善がみられました(下図, p=0.012).

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 リツキシマブあり vs なし EFS

 

全生存率は3年時点で、リツキシマブなしで78%だったのが、リツキシマブありでは89%でしたが、有意な差ではありませんでした(下図, p=0.158).

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 リツキシマブあり vs なし 全生存率

 

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫に対してもリツキシマブの追加は有効といえるでしょう。

 

2013年に原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫を対象とした前向きの臨床試験の結果が出版されました(N Engl J Med. 2013 Apr 11;368(15):1408-16)。

DA-EPOCH-R療法の臨床試験です。比較試験ではありませんでした。

一般にDA-EPOCH-R療法はR-CHOP療法よりも毒性の強い化学療法です。

長期追跡の結果、増悪なく生存している割合は5年時点で90%以上と良好で、全生存率も95%以上でした(下図)。

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 DA-EPOCH-R, EFS, OS

この臨床試験では放射線照射は行いませんでした。DA-EPOCH-R療法のみでの治療結果です。

比較試験ではありませんので、R-CHOP療法やR-MACOP-B療法などよりもDA-EPOCH-R療法のほうが良いかどうかはわかりません。

比較試験ではないので、良好な治療成績は全身状態の良い症例が集まっているだけの可能性があります(選択バイアス)。

しかしながら、この臨床試験の結果から原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫に対してDA-EPOCH-R療法が広く行わるようになりました。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対してもDA-EPOCH-R療法のほうが有効なのではないかと考えられていた時でもありました。

 

実際に原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫に対してDA-EPOCH-R療法を行った後ろ向き研究の結果も2017年に出版されています(Br J Haematol. 2017 Dec;179(5):739-747)。

3年時点で増悪や二次発がんがなく生存している割合85.9%でした。

3年全生存率95.4%です。

上記の前向き臨床試験の結果よりは少し劣りますが、リツキシマブ登場前の結果よりはよさそうです。

 

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の治療 DA-EPOCH-R療法とR-CHOP療法 どちらがよい?

DA-EPOCH-R療法はR-CHOP療法よりも良いのでしょうか?

 

2018年に原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の症例を対象としたR-CHOP療法DA-EPOCH-R療法を比較した後ろ向き研究の結果が出版されました(Br J Haematol. 2018 Feb;180(4):534-544)。

完全奏効率はR-CHOP療法では69.6%であったのに対して、DA-EPOCH-R療法では84.2%でした。DA-EPOCH-R療法のほうが有意に高い完全奏効率でした(p=0.046)。

無増悪生存率は2年時点で、R-CHOP療法では76%であったのに対して、DA-EPOCH-R療法では86%でした。有意な差はありませんでした(下図, p=0.28).

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 R-CHOP vs DA-EPOCH-R, PFS

 

全生存率は2年時点で、R-CHOP療法では89%であったのに対して、DA-EPOCH-R療法では91%でした。有意な差はありませんでした(下図, p=0.83).

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 R-CHOP vs DA-EPOCH-R, OS

 

有害事象DA-EPOCH-R療法のほうがR-CHOP療法よりも高い発生率となります。

発熱性好中球減少症の発生率はR-CHOP療法では13%であったのに対して、DA-EPOCH-R療法では33%と明らかに高い結果でした(p<0.01)。

 

この後ろ向き研究では、R-CHOP療法を行った症例に対して放射線照射を行ったか行っていないかで予後を解析しましたが、無増悪生存率・全生存率ともにあまり変わりはありませんでした(下図, 左 無増悪生存率, 右 全生存率).

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 R-CHOP vs R-CHOP +放射線照射, PFS, OS

ただし後ろ向き研究の結果なので信頼性はあまり高くはありません。R-CHOP療法とDA-EPOCH-R療法のどちらがよいかはまだわかりません。

 

2019年に原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫を含むびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する、R-CHOP療法とDA-EPOCH-R療法を比較した大規模ランダム化臨床試験の結果が出版されました(J Clin Oncol. 2019 Jul 20;37(21):1790-1799)。

この試験に原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の症例は全体のおよそ7%でした。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例全体では、R-CHOP療法とDA-EPOCH-R療法で完全奏効率・無増悪生存率・全生存率のいずれも有意な差はありませんでしたが、有害事象は明らかにDA-EPOCH-R療法のほうが多い結果でした。

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の症例でも無増悪生存率に有意な差はみられませんでした。症例数がそもそも少数でした。

 

この臨床試験の結果から、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療としてR-CHOP療法よりもDA-EPOCH-R療法を選択することはなくなりました。

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫についても、R-CHOP療法よりもDA-EPOCH-R療法を選択する根拠は乏しいと言えます。

 

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫に対する初回治療は、R-CHOP療法もしくはDA-EPOCH-R療法を推奨します。どちらが良いかははっきりしていませんが、毒性はDA-EPOCH-R療法のほうが強いです。

放射線照射については、効果がはっきりしていないことと照射による有害事象を考慮すると、初回治療から必要とは言えません(Br J Haematol. 2019 Apr;185(1):25-41)。

 

2020年9月時点でのアメリカのNCCNガイドライン(NCCN Guidelines)では、DA-EPOCH-R療法、もしくはR-CHOP療法+放射線照射を推奨しています。

日本血液学会の2018年造血器腫瘍診療ガイドラインでは、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫に対する特別な治療の推奨はありません。DA-EPOCH-R療法とR-CHOP療法のどちらが良いかははっきりしていないとしています。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療と同様にR-CHOP療法が推奨となり、より強度を高めた治療は推奨されないとしています。

 

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 治療効果判定 Deauville 1-5, EFS
原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の治療効果判定 偽陽性が多いことに注意

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まとめ 原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の初回治療 化学療法は何がよいか?

原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫に対して、リツキシマブが登場するよりも前はCHOP療法第三世代化学療法による抗がん剤化学療法放射線療法を行っていました。

リツキシマブが登場して原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫の治療もびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と同様にリツキシマブ+化学療法に変わりました。DA-EPOCH-R療法の臨床試験では5年全生存率95%以上と高い治療成績でした。

R-CHOP療法DA-EPOCH-R療法のどちらがよいかについては、複数の研究で無増悪生存率・全生存率のいずれも有意な差はありませんでした。有害事象は明らかにDA-EPOCH-R療法のほうが多い結果でした。本当にDA-EPOCH-R療法のほうがR-CHOP療法よりも良いかどうかは不明です。

● 原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫に対する初回治療は、R-CHOP療法もしくはDA-EPOCH-R療法を推奨します。毒性はDA-EPOCH-R療法のほうが強いです。放射線照射は初回治療から必要とは言えません。

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Biology and therapy of primary mediastinal B-cell lymphoma: current status and future directions
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造血器腫瘍診療ガイドライン

NCCN Guidelines


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